【連載】ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- 第二十回「100%の力を発揮するために……」
■第二十回「100%の力を発揮するために……」
この連載も、対談などを含めて早くも20回になります。
いろいろなところで、読んでますよ、とお声がけいただいたり、率直なご意見をいただいたりと学びの多い経験をさせていただいています。誠にありがとうございます。
さて、今回は、プロアマ問わずの話になります。
新卒に限らず、ゲーム業界は技術やトレンドのうつりかわりも激しく、3、4年もすれば「今は昔」の状態になるということは、往々にして起きます。なので、今やっていることをプロとしてやりきることは当然のごとく大事ですが、そこを安住の地としてしまわず、新たな技術や知識を求めて、努力研鑽していかないといけない業界です。そして、それを目的もって、且つ楽しみながら継続できる人が、いきていけるのだと思います。
なので、新卒で「内定でました!」と報告をくれる学生さんにも、「おめでとう、嬉しいのはよくわかる。だからこそ、いったん、冷静になって考える必要があるよ。完璧な会社なんてないのだから」と伝えます。(少なくとも今よくても、5年後がどうか?は誰にも予測がつかないので)
なので、できれば、複数の会社から内定をもらうくらいに頑張って、良きところ、課題に感じるところを洗い出し、比較し、それらの会社にぶつけてみるというのが良いかと思います。もちろん、本命が受かったのならば、内定を承諾したほうが良いですけどね! ただ、その「本命に思っていた理由」がなんであるか? だけは振り返ったほうがいいです。
・昔からファンだった
・給料がいい
・面接で、お会いした方がすごく好感もてた
・成長できると感じた
などなど
本命も、就職活動を始める前と始めてからでは変わることも、ままあると思います。特に、「出会った人が魅力的、一緒に働きたい」などは、活動して、その会社の門をくくってみないとわからないことです。
ゲーム業界の場合、人事の方からお話をきくのと、開発現場の方から話をきくのとでは、ものづくりに対する熱意が違うところがあるのは、否めないと思います。ゲーム開発が比較的特殊で他では経験できないことが多いから、ですね。
経験の有無で、でてくる言葉がだいぶ違う、前回の「伝える」にもかかわることですが、説得力を持つからでしょう。やはり「経験者」の言葉は重い、と(笑)。なので、各社選考の途中で現場の方が出てこられて面接されるのだと思います。企業側が自分たちの魅力を最大限に「伝えたい」と思っておられるからですね。
そうなんです、就職活動は、ともすれば、「選別」、「落とすための試験」と思っておられる学生さん、多くいらっしゃるんじゃないでしょうか? 必ずしもそんなことはありません。
基本、企業は「いいところ」「長所」を探しにいっていると思います。
特に、ゲームのような確実性の低いといいますか、定まった形の1つの正解をつくるわけではない仕事では、意思やエネルギーの力も非常に大切です。
ゲームじゃないですが、その人のパラメータ、能力を六角形のレーダーチャートにプロットしてみたときに、10点満点で、きれいな六角形を5点平均で描いている人と、3点のところもあるが、10点をこえるところも1つはある、みたいな人の方が魅力に感じる企業さんもあるということです。もちろん、3点のところが致命的な欠点や、将来的にも伸びる余地がないとなると二の足を踏む企業さんもあるとはおもいますけどね!
つくるものに対する「唯一解」がない
また、
業界のトレンドや技術も移り変わる
以上は、そこで必要とされる人間も多様性が必要であり、且つ、1人ですべてをまかなおうとすること自体に無理があるのです。
なので、企業側も、新卒、中途をあわせて、現状の人材マップをつくり、そこを現在、3年後、5年後どうしていくのか? を想定を加えた上で計画して採用、育成をしているわけです。いない人材を採用するだけでは解決しません。どれだけ能力のある方でも、企業カルチャーにアジャストしなくてはいけないですし、逆に成長しない人間なんていないので、どれだけ採用と育成の比率を考えて人材戦略を練るのか? が大切になってくるというわけです。
さて、今回のテーマ「力を発揮するには?」にかかわることとして、転職したときの話をしましょう。
わたしも、セガからDeNAに転職した経験があります。
もちろん2社ともゲームをつくる仕事をしていますが、企業カルチャーも異なれば、開発対象のデバイスの範囲も異なります。また、構成人員の年齢もかなり違いがありました。(2012年当時)わたし自身、10年以上勤めて成長させていただいたセガを出て、DeNAに河岸をかえた時は、
新たなチャレンジ
しか、頭にありませんでした。どれだけチャレンジできる環境にあるのか? ただ、わたしは、実はセガに在籍していた時から、多くの協力会社さんと仕事をする経験に恵まれていました。ですので、異なる環境の企業と接することが多く、新たな文化、環境に出会っても、面食らって、立ち止まってしまうということが、おかげさまでありませんでした。
数多くの苦しい、厳しい経験もさせていただき、セガ時代には多くの方々に助けていただきました。
ですので、力を発揮するための経験は十二分に積めていたわけです。それでも、運用の経験などはなく、且つ、より感覚的なところよりも、論理的で目的志向に行動することが必要となり、単なる面白いものを開発するだけなく事業感覚が求められることも、肌で感じました。
チャレンジを是とするDeNAと肌が合ったともいえるかもしれません。ですが、それも結局は転職活動中にお会いした多くの方々の中で、DeNAの面接で出てきた人間と話した1時間半がご縁を感じさせ、わたしに決断をさせました。彼と働きたい、こんな人がいるなら、自分もチャレンジできるかもしれないなど、やはり出会いはすごく大きな影響をもつのだ、というのを身をもって経験しました。
転職を考える方は、自分の仕事のスタンスとして、何を優先にしたいか? を考えることで、自分が納得できるまで、それを求めましょう。わたしであれば、
1、誰と働くか?
2、なにをするか?
3、どんな環境なのか?
4、いくらもらえるのか?
の優先順位でした。そうです、「ひと」つまりは、誰と仕事をするのか? が第一プライオリティだったのです。
なので、転職活動中も、内定云々ではなく、自身の力を発揮できる環境を、やりがいをさがすためにも、この優先度をしっかりと自分のなかで設定することが大切だと思います。
また、企業の方は、やはり新卒採用、中途採用問わず、変にへりくだる必要はないと思いますが、最大限に候補者に対して誠実に、全力で向き合うこと、つまりは、入社前どころか、採用前から、その人が力を発揮できるような環境を提供できるか? というところが、実は採用に大きくつながるのではないかと思います。
人間誰しもが意識して、努力するだけで実践できることが「誠意をもって行動する」ことです。そして、人は人に活かされているところがあるので、誠意に響かない人も少ないと思います。ぜひ、心がけてください!
逆に、学生の皆さんは仕事をする前に、就職活動で自分の力を発揮しなくてはいけません。
10社くらい面接うけて、ようやく慣れてきた頃には、本命の会社は終わっていて、季節も夏が終わろうとしている…のようになるのは、時間的にももったいないでしょう。
では、どうすればいいのか?
やはり、力を発揮するためには、「慣れ」が大事です。なにごとも、初めて経験することばかりがかぶる状況では人間、100%の力を発揮するのは、なかなか難しいと思います。
・慣れないスーツを着る(最近、減ってきましたけどね。ゲーム業界では)
・地方の学生は、慣れない東京、大阪に移動する
・企業の建物に入る
・企業の人と、大人と、話をする
などなど
ざっとあげただけでも、これくらいあります。
たかだかスーツと思うかもしれませんが、着慣れない服装で1日過ごすのはストレスです。でも、だからといってその訓練に、毎日の生活をスーツで過ごすのは止めませんが、あまりお奨めはしません(笑)。
移動も大変です。初めてですと、そもそも目的地に着くことすら大変かもしれません。まして、企業の建物にはいってビジネスのやりとりをしている大人たちの間で、緊張して待つのもくたびれます。そして、面接で舞い上がるなというほうが難しいでしょう。
では、これをどう解消すれば良いのか?
スーツを毎日着るではないですが、やはり、同じことを本番の前に体験しておくことが一番効果的だと思います。そのためにも、
①1つ前の学年の夏休みなどに、企業のインターンシップに精力的に行こう!
②東京や大阪などで開催される、勉強会などに精力的に参加しよう!
③Global Game Jam(GGJ) などで社会人と一緒にハッカソンで開発してみよう!
などが効果があると思います。
①は、5月末~7月にかけて各企業が募集をかけていると思います。WEBで検索したり、学校の掲示板やイントラネットの情報、もしくは先生や就職課の方にききにいってみましょう!
②は、プランナーであれば、わたしが毎月「座・芸夢」を開催しているように勉強会は各所で行われています。これも探せば見つかると思います。毎月行けないにしても、3、4度行ければかなり企業に立ち入ることも慣れてくると思います。
そして、③です。GGJやCEDECなどに参加すれば、いやでもプロと話すことができます。また相手も関心持っていろいろ教えてもくださることでしょう。プロの大人の指摘はどんなものがあるのか? を経験することも、本番に至っての緊張を減らすことができるでしょう。
つまり、ゲームをつくるから、といってインドアに閉じこもっているだけではダメだということです。
ともすれば、クリエイターはアマチュアもプロも、内向きのベクトルの方が多いです。これは恥ずかしいことでもなんでもなく、だからこそ、内に溜め込んだエネルギーを「ひとを喜ばせる」という方向に発信できるわけです。
ただ、採用段階では、じっくり作品を作ったり、何度もやり直して作りこむことが難しいわけです。だからこそ、自分で「100%の力を発揮するために」練習をしたほうがいいということですね。
当たり前のように思われるかもしれませんし、地方の方は、移動の交通費も難しいと思う方もいらっしゃるかもしれません。深夜バスや宿泊先は泊めてくれる友人や先輩をつくることで、カバーできることもあります。また、計画的にアルバイトなどをすれば、つくれない金額でもありません。
人生に大きく影響をあたえることですので、なにを優先に考えるか? というところを間違えないでほしいと思います。
それでは、今回はこれまで!
■著者 : 馬場保仁
DeNA プロデューサー 兼 採用担当。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。DeNA入社後は、スマホアプリの開発にプロデューサーとして従事。現在は、プロデューサーとしてゲーム開発を行うと同時に、人事も兼任し、ゲーム業界の人材育成のためにも尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。
■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー
■第十九回「まずは、”伝える”ことから始めよう!」
■第十八回「カード少なく勝負に挑まない」
■第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【後編】(第十七回)
■第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【前編】(第十七回)
■第十六回「新人事始」
■第十五回「就職活動にみられる地方格差」
■第十四回「【思いやり】の向こう側」
■第十三回「仕事選び 〜成長・夢・時間〜」
■第十二回「本当にそれは、ゲームに必要か?」
■第十一回「ハッカソンの功罪」
■第十回「会社選びと成長(プロ、アマ問わず)」
■「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【後編】(第九回)
■「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【前編】(第八回)
■第七回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」
■第六回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」
■「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【後編】(第五回)
■「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【前編】(第四回)
■第三回「若手のチャンスとキャリアパス」
■第二回「企業×学校×学生」
■第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」