ゲームクリエイター向けイベントに飯田和敏氏、島田卓也氏、中村隆之氏、納口龍司氏が登壇 新作『水没都市』や「企画の心得」についても語る

 
ディー・エヌ・エー(DeNA)<2432>は、7月28日、ゲームクリエイター向けイベント「Game Developer’s Meeting」(GDM)を開催した。GDMでは毎回様々なテーマについて専門性の高いゲストを迎え、ゲームクリエイターの「見たい、知りたい、会いたい」が実現できる場を創出し、ゲーム業界の発展に貢献するための活動として定期的に開催している。
 
「GDM ゲームプランナー向け勉強会Vol.2」と題した今回は、『水没都市』の開発陣が実体験を元に講演する専門性の高いセミナーが展開。会場に集った多くのゲームプランナーを前に、企画・監督の飯田和敏氏、プログラミングの島田卓也氏、サウンドとマネジメントの中村隆之氏、アートディレクションとプロジェクトリーダーの納口龍司氏が登壇した。

 
 
 

■講演は飯田和敏氏の解説から



オープンデータ、ビッグデータを利用して生み出されたVRゲーム『水没都市』誕生までの流れは、日本科学未来館の職員であった島田氏が「空間情報科学の展示を作りたい」と、初対面の飯田氏に語った熱意に端を発する。

その熱意が結実した常設展示「アナグラのうた ~消えた博士と残された装置~」の開発メンバーが『水没都市』のメンバーであり、展示後、飯田氏に「空間情報科学をスマートフォンなどでもやりたい」という想いが沸き上がって今プロジェクトが誕生したそう。今でこそ『Ingress』や『ポケモンGO』で当たり前のように存在する「空間・地図・位置情報を用いた本格アプリ」だが、2011年にはまだ未登場であった。
 

続いては、『水没都市』の基礎技術となる「シマダシステム」について開発者の島田卓也氏が登壇。データを元にUnityでリアリティあふれるゲームフィールドを構築できる「シマダシステム」(命名飯田氏)は、建築物の構造や各属性、道路の車線数や舗装情報など、地球全体をカバーしているパブリックな地図サービス「Open Street Map(OSM)」を元に3Dのゲーム空間を生み出したい、ゲームエンジンを作り出したいという発想からスタートしている。

当時ビデオゲームで遊んだ経験がなかったという島田氏は、だからこそ「ゲームのような体験型の展示を作るのに知恵を貸して欲しい」と飯田氏を頼ったのだろう。その後、勧められた『グランド・セフト・オート』や『アサシンクリード』(全種類)をプレイして、ついにはプレイステーション4を購入。共通言語を得る事で、意思疎通もスムーズに進んだそうだ。

そんなオープンワールドのゲームをプレイする事で、「毎回世界を全部作るのは大変じゃないか? オープンデータを利用すればいいのでは?」という発想につながったのだから興味深い。また『水没都市』には「Global Multi-resolution Terrain Elevation Data 2010(GMTED2010)」の標高データも用いられており、「今後は気象情報をリアルタイムで入れたり、植物などの植生情報を入れたり、様々なオープンデータ、ビッグデータを取り込んでさらに拡張。リリースしていく」(飯田氏)との事だった。
 


 

■シマダシステムから『水没都市』へ



古くから『アクアノートの休日』『太陽のしっぽ』という、オープンワールド要素のあるゲーム世界を生み出してきた飯田氏は、かつてゲーマーだった時から「ゲームクリエイターの作ったダンジョンは、お釈迦様の掌で遊ばされているようでいやだ」という感覚を持っていた。その感覚は「大きな紙にコーヒーをこぼしてマップを作成した」というアナログ的な手法からも伺える。そんな同氏が『水没都市』と絡めて「企画の心得」を披露。次の三つがいいバランスで揃った時に、成功したゲームになったそうだ。
 
1:新奇性
2:普遍性
3:実現性

 
第一の「新奇性」は、「奇」が示すように、ただ新しさというよりキッチュ、ストレンジである事が重要。第二に挙げたのは、矛盾するようだが「普遍性」。第三は実現性で、「新奇でありながら普遍的で、絵に描いた餅ではなく実現性がある、そこをきちんとホールドするのがクリエイターの条件」と飯田氏。同種の問題意識を持ちながら、『Ingress』や『ポケモンGO』を成功させたNianticを賞賛しつつ例に挙げ、この三つの要素を備えていると指摘した。
 
常に海のゲームを作りたいと考えている飯田氏がシマダシステムの画面を見た時に感じたものは、「これはやっぱり海だな」という事。しかし海面はゆらぎがあるため、ダイナミックな地図には反映しにくい。であるならば沈めてしまえ、というのが『水没都市』であり、現在は解消されているシマダシステムの弱点を逆手に取った形でもあった。

 

■「空間」を作っているのは「音」



次に登壇したのは、『バーチャファイター』で知られるサウンド担当の中村隆之氏。まず全体の補足説明として、「VRにして上手くいったと考えている一つは、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)とシュノーケル」と語る。このHMDの視界の狭さとシュノーケル(マスク)の相性が実に良く、実際に『水没都市』をプレイしてみると「海に潜っている臨場感」はかなりのもの。

また、「方向レバーを用いず向いた方向に泳ぐ」という移動の方法も挙げ、浮遊感などがもたらす恩恵として「VR酔いがほとんどない」事を説明した。サウンドクリエイターとしての立場からは、「仮想空間の中で、人がどこにリアリティを感じるか? を考えた時に、真っ先に挙がるであろうグラフィックの精巧さ、本物と見紛うばかりの再現性。

そこにばかり注目されるが、実は、空間を作っているのは『音』だと思っている」「画面を飛び出す音は周りの空間を創り出す事ができる」と中村氏。真っ暗な部屋に入った際に音や声の反響で広さを感じる事を例に挙げて、環境音などの側面から演出を手がけていると語った。

 

■『水没都市』の課題とは?



代表作に『牧場物語 わくわくアニマルマーチ』『ディシプリン*帝国の誕生』などがある納口龍司氏は、「シマダシステムという自動生成の3Dデータに合わせたグラフィックをどうするか?」が現在の課題だという。グラフィック的リアリズムという側面において、メインストリームとなるハイパーリアルは今後も多く供給されるだろう。

しかし疲れるし、飽きる人も出てくる。ではその他のリアリズムは何か? と問うた時「体験者がリアルに感じる、没入できる体験、経験」にたどり着いた。「どんな経験を与えられるかはグラフィッカーにとって試される部分だが、幅の持てるところだとポジティブに捉えています」と納口氏。また同氏は、「バンド・デシネの表現を3Dの中でもやっていきたい」「コンソールゲームはハイパーリアルにいっているし、日本のスマホはコミックからの2Dライクな流れがある。

VRに関しては、そのどちらでもないものを狙っていけないかな?と考えている」とも語った。一方でプロジェクトリーダーとしての立場からは、グラフィックリソースのコスト面での低減やオープンデータを活用した軽いゲーム作りに触れ、「VRという大きな錯覚をさせる装置を味方につけているので、勝ち目がある。理想に近いのはポケモンGOですね」と締めくくった。
 
「Oculus Rift」「PlayStation VR」「HTC vive」以降今なお群雄割拠のVR業界において、デバイスの選択も含め「待つ」事を選んだ『水没都市』。目指すところはオープンデータを活用した「軽い」ゲームだ。そして展示会用のアトラクションタイプからボリュームを増やし、かつ過剰な視覚聴覚部分を避け「体験を豊かにする」方向性で開発を続けていくとの事だった。
 


 


 

■ゲストスピーカーに聞く、講演後インタビュー


島田卓也氏
――:オープンソース化の時期は、いつ頃になりそうですか?

様々な機能を乗せ始めているので、今後はそれを絞り込んだ後にみなさんへご提供できればと。そうですね、来年夏までには……できればもっと早く! 実のところみなさんに早く使って欲しいんです。ゲームの開発者に使ってもらって、そのフィードバックを得たいというのが本音です。また開発者だけではなく、多くのプレイヤーからもデータを得られればいいですし、それがビッグデータにもつながるでしょう。パブリックなビッグデータは共有の財産。堅い部分は他所様にお任せして、『シマダシステム』ではゲームという楽しみ方から共有財産に貢献したいと考えています。


中村隆之氏
――今後注力されるポイントを教えてください。

先ほど話したように、空間を創り出すために環境音のブラッシュアップをしていきます。3Dサウンドですね。Unityもそうですし、Oculus RiftにもSDK(Oculus Audio SDK)が用意されているので、物体の位置など立体的に聞こえるようにしたいなと。(音の発生源が)近いと表現しやすいんですが、「空間」を認識するのは離れた状態の方がいいと思うんです。今後は音だけで場所が分かるようなものも考えていますよ。空間認識については明確な学問がないので、もっと突き詰めたいですね。プレイに関しては、多人数プレイでスピードを競ったり邪魔をしたりというマルチプレイを考えています。ネットカフェのようなところで上手くできれば、一番実現性がありますね。

 
納口龍司氏
――今後プロジェクトを拡大するとして、収益モデルはどうされますか?

『水没都市』では、イノベーション的な部分を期待しているし、されてもいます。単純な課金というスタイルは違うと考えていますし、そこはユーザーも違うと感じるのではないでしょうか。現状の課金というシステムにも限界があるというのが実感です。ではどうするか? そこで『ポケモンGO』です。あれには今までゲームにお金を払っていなかった人も払っていると感じており、システム上「レアキャラのガチャ」みたいなところへいきにくい。いい方向ですよね。プロジェクト『水没都市』も、そんな「いい方向」へ進んでいきます。
 

飯田和敏氏
――『水没都市』には海の生き物は出されないんですか?

何回か出したんですが、生き物っぽくないんですよ。AIを組み込まないと嘘っぽくなってしまうんです。そのための人手も資金も必要になるので、現在は入っていません。デバイスの混乱についても話しましたが、VR元年の混乱に無理して巻き込まれなくてもいいと。OSMなどのオープンデータを使っている利点は待てるところですからね。

――ではまとめのコメントをお願いします!

僕らよりも一回りくらい若い世代のみなさん、若いクリエイターの参加が多かったですね。それぞれの現場での問題意識を持ちながら来られて、でも「頑張って面白いものを作っていこう」という方々と出逢えた事が嬉しかった。あまりこういう言い方は好きではないけれど、面白いビデオゲームを世界に向けて発信していくのは大切な事です。今回の勉強会で改めてちゃんと作って発信していこうと思いましたし、今後はみんなでアガっていきましょう!

※オープンソース化の情報などは『水没都市』のサイトにて告知予定
 

「Game Developer’s Meeting」(GDM)は、今後もエンジニア向け、デザイナー向けなど様々なテーマで開催予定。ゲームクリエイターの「見たい、知りたい、会いたい」が実現できる場に訪れて、知識や経験、人脈などを持ち帰って欲しい。
 
(取材・文:ライター  平工泰久)


 

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