デジタルハーツは、主にコンシューマゲーム・モバイルコンテンツ・アミューズメント機器を対象に、ユーザー目線による動作テストを通じて不具合を検出・報告するデバッグサービスを提供することで、顧客企業における高品質な製品開発を支援している。
VR元年と呼ばれる2016年、HTC ViveやOculus Riftをはじめ、10月にはソニー・インタラクティブエンタテインメントよりPlayStationVR(PSVR)の発売も予定されるなど、次々とヘッドマウントディスプレイ(HMD)の製品化が進んでいる。この流れを受け、ゲーム配信プラットフォームでは、企業、個人を問わず連日、様々なVRコンテンツがリリースされている状況だ。
そんな中、同社が今年の8月に、「酔いやすさ」の定量化を実現する「VR酔いスコアリングサービス」の提供を開始したことを発表した。
Social VR Infoでは、このサービス開始に合わせてデジタルハーツの業務統括本部副部長・山科 真ニ氏にインタビューを実施。サービス開発の経緯や、テスト方法、実際の運用状況などを聞いてきた。
VR元年と呼ばれる2016年、HTC ViveやOculus Riftをはじめ、10月にはソニー・インタラクティブエンタテインメントよりPlayStationVR(PSVR)の発売も予定されるなど、次々とヘッドマウントディスプレイ(HMD)の製品化が進んでいる。この流れを受け、ゲーム配信プラットフォームでは、企業、個人を問わず連日、様々なVRコンテンツがリリースされている状況だ。
そんな中、同社が今年の8月に、「酔いやすさ」の定量化を実現する「VR酔いスコアリングサービス」の提供を開始したことを発表した。
Social VR Infoでは、このサービス開始に合わせてデジタルハーツの業務統括本部副部長・山科 真ニ氏にインタビューを実施。サービス開発の経緯や、テスト方法、実際の運用状況などを聞いてきた。
株式会社デジタルハーツ
業務統括本部 業務部 副部長
山科 真ニ 氏
■輪郭のない酔いというものに対しての定量化という形作り
――:本日はよろしくお願いします。まず今回のサービス開発の経緯や概要を教えてもらえますか。
ゲーム会社の方であっても、デバッグに関連する部署ではない方にとって、デジタルハーツの知名度はまだまだ低いかもしれませんが、当社はデバッグの専門企業として、多くのゲームタイトルの開発に関わらせていただいております。みなさんご存じの有名なゲームタイトルについても、実は当社がデバッグを担当している、なんてことが結構あるんです。
そんな当社が、VRのデバッグを事業社からご依頼いただくようになったのは2016年に入ってすぐのことでした。ゲームもありましたし、それ以外のコンテンツも何本か立て続けにお話をいただいたのです。「VR元年」という言葉は耳にしていたものの、当時の正直な気持ちで言えば「ずっと先の話だと思っていたけど案外早いな」という所感でした。
このような状況下で、VRはスマホに次ぐ新たな成長分野になると考え、2016年4月に「VRコンテンツ専属デバッグチーム」という研究チームをいち早く立上げ、VRのデバッグ手法の確立に取り組むことになりました。
その研究で、真っ先に課題になったのがVR酔いでした。HMDを着用してのゲーム体験はこれまでのデバイスでは比較にならないほど映像酔いを感じさせることが分かり、その解消に向けて何らかの回答を持つことがVRの普及に一役買うことが出来ると判断しました。
――:せっかくの新しい経験が酔ったという悪印象を持つだけで終わるのは非常にもったいないですね。
そうなんです。初めてHMDを装着した、あのドキドキ感やVR体験をした時の感動は忘れられず、いちユーザーとしてVRに流行ってほしいという想いがあります。
「VR酔い」に対し当社が研究を進めた結果、VR品質保証サービス「VR酔いスコアリングサービス」が誕生しました。これはVRの酔いやすさをスコア化する評価サービスになります。酔う理由は諸説ありますし、多くの機関や研究などでも検証を重ねていますが、仮説の域を出ておらず、この条件を満たしているから酔うというものでもありません。
フレームレートを各デバイスメーカーが出している通りに作ったからといって、本当に酔わないのかというとそれは別の話になります。特に他社も含めてどうしたら酔わないのかという点を注視しがちですが、当社ではそれを踏まえた上で、どれくらい酔うのかを定量化する点にフォーカスを当てています。
当社の「VR酔いスコアリングサービス」をご理解いただく際に最も分かりやすい例えとして、車でいうスピードメーターと法定速度を持ち込んで説明させていただいています。もし運転している車にスピードメーターがついていないとしたら、運転手は今自分が走っている速度が速いのか、遅いのか、安全なのか、危険なのか、それらが全て本人の主観によって判断されるため、その基準はまさに人それぞれになってしまいます。同じ速度で走っていたとしても運転手と同乗者によっても異なるであろうことは想像に容易いです。
法定速度とはその目安になるものです。一般道であれば時速60km、高速であれば80kmが多いでしょうか。その道を走行する際にこの速度より速いのか、それは基準であると同時に前述の通りスピードメーターが設置されていない限り判断はできないはずです。 当社のVR酔いスコアリングサービスはまさにこの例えでいうスピードメーターに当たります。多くのコンテンツを計測したことで「このスコアであれば酔いによるコンテンツ離脱が起きない」と想定されるスコアラインも導き出しており、これが法定速度に当たるものになります。
各メーカー様がVRコンテンツを開発されている中で、酔いを低減するための開発手法や施策を実施していると思いますが、基準がない限り、純粋にどの程度「酔い」を低減することができたのかを厳密に判断することはできません。「VR酔いスコアリングサービス」では、「酔い」を項目別に数値化しているので、その改善施策が本当に正しいかったかということを明確にすることができます。
――:サービス開始を発表して各メーカーの反応はどうでしょうか。
8月17日にサービスをリリースしました。各メーカー様にご案内を始めておりますが、みなさん興味をもっていただき、実際にいつやろうといった具体的な話も多くあります。特にメーカー様の中で問題になっているのが、VR酔いは、“慣れる”ということです。
これはユーザーにとってはいいニュースなのですが、メーカーにとってはバッドニュースです。なぜなら、テストチームも含め開発チーム全体がそのゲームの酔いに耐性を持ち、どんどん酔わなくなっていく。これは、どんどん酔い易いコンテンツを作るサイクルに入っていくと同時に、現状のコンテンツの客観的な評価が事実上不可能になっていきます。そのため、いつでも酔いにフレッシュな人材を準備できる我々に、酔いの評価をお任せいただくことで、本当に必要とされるデータ、想定されるユーザーの反応を確認することができます。
■酔いマニアですよ、私たちは(笑)
――:テスト方法に関して教えてください。
映像酔いの研究で使われている、SSQ(Simulator Sickness Questionnaire)という計測方法を使用します。酔いを16種の症状にわけ、各項目を4段階で評価するシステムです。一見簡単なアンケートなのですが、計測環境の構築やデータの物量、取り扱いなど、かなり気を配らなければいけないことも多く、なかなか手間がかかり、且つ独特の集計方法についてのノウハウも必要です。
このSSQを活用することで、酔いを数値化することが可能となります。現在既に、24コンテンツ、合計720名のSSQ数値を取得しており、VRコンテンツにおける酔いのボーダーラインは、かなりの精度で出せると確信しております。当社では具体的に何ポイントまでのスコアが安全で、ユーザーが酔いに影響されずコンテンツへの継続意欲を保つことができるかという安全基準を、科学的にお伝えすることができるのです。
更にこの計測方法の特徴としまして、ダメージを3種にわけ計測できます。吐き気を催す酔い、眼球運動にダメージを与えている酔い、平衡感覚を狂わす酔いといった具合です。この分類を活用することで、ある程度酔いを誘発させているコンテンツの要素を分解することができると考えています。
「酔い」というのはある意味個人の生理的な症状ですが、これを外在化された症状からスコアリングを行うことで、得体の知れない「酔い」から、より捕らえ易い「酔い」へ変化させることが重要なことであり、そのための手法として最適な方法でサービス提供に取り組んでおります。
――:実際にサービス開始を行った上でどのような傾向がありましたか。
トータルスコアが高ければ高いほど、ゲームの離脱率が高くなる傾向にあります。またトータルスコアが一定水準を切った時に離脱率が0%になり、当社の中ではセーフティラインとなります。TitleのCとFはスコアが低いものの離脱率が高く、これはコンテンツの魅力によるものだと考えます。
▲実際にVRコンテンツでテストを行った結果だ。
スコアが高ければ高いほど離脱率が高いことがわかる
スコアが高ければ高いほど離脱率が高いことがわかる
静止状態に近いようなコンテンツであってもスコアの高い人がいることもわかりました。つまりHMDをつけただけである種の気持ち悪さを感じる人がいたという状況です。乗り物酔いをしやすい人は、やはり酔いやすく、スコアでは倍近い数値になるという結果もありました。年齢差は出にくいということや、同じコンテンツであっても機器の差で酔いやすいといった結果もあります。ただし理由はわかっていません。ただ結果としてそういう事実があるということです。
――:今後の展望や意気込みに関してお願いします。
当初は試行錯誤の連続で、人員の選定方法など、何をしていったらいいかもわかりませんでした。SSQにしてもベースの資料の入手ルートが困難であったり、取り扱い方法が英語でしかなかったり。それを正確に運用する難しさも感じています。ですが今はそういったことを乗り越えサービスを開始し、セーフティラインを設けるところまできました。酔いという生体への不安から、開発者の皆様が作りたいコンテンツの魅力が損なわれるのは本末転倒です。ユーザーとしてはVR体験による感動を広く伝えたい、VRチームとしては、さらなる技術発展によりこれまで以上にワクワクすることを実現したいという想いをメーカー様と協力し、良質なVRコンテンツ提供に役に立っていきたいと思います。
――:ありがとうございました。
(取材・文:編集部 和田和也)
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