【連載】ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- 第二十四回「出て行く勇気」
■第二十四回「出て行く勇気」
ゲーム業界の抱える、大きな問題の1つに、
ゲーム会社の大半は、東京と大阪に固まって存在している
というものがあります。これは、問題というか、いたしかたのない現実です。
ただ、これに対して、全国各地に、
・ゲームを学べる大学
・ゲームを学べる専門学校
は、あります。(大学はそれほど、多くないですけどね)
つまり、学校をチョイスする段階では「家から近いから」という理由で選ぶことができても、いざ、プロとして就職するとなったときには、東京か大阪にでていかないといけない人が多くいるということです。たしかに、いま開発は距離が離れていて、直で顔をつきあわせていなくても、できる時代がきています。わたしも、東京の会社にいながら、札幌や大阪の会社さんと一緒にゲームの開発をした経験は、数多くあります。
ですが、やはり、顔をつきあわせて、同じ場所で仕事をしているよりは、どうしても効率が落ちる、抜けが発生するなど、問題が多発します。全員が真にプロフェッショナル集団であったとしても、わずかな情報の共有や交換が、同じ空間にいれば自然と行われるのに、距離が離れているといまひとつ難しい、自然には行われず問題が発生する、というのがあります。
プロが仕事をするだけでもなかなか難しい、という事実はさておき、厳然たる事実としてゲーム業界に就職するためには、東京や大阪にでていかないとなかなか難しいということです。もちろん、東京大阪以外の都市、札幌や名古屋、福岡、沖縄などなど、全国各地で頑張っておられるデベロッパーの皆さんや、スタートアップを地元ではじめている方々もいらっしゃいます。ただ、新卒の採用数トータルで考えると、やはり、東京大阪が大半を占めていることは事実なのです、残念ながら・・・
そうなったときに、
・地理的な不利が経済的な理由で就活をままならなくする
→何度も東京、大阪を往復する交通費や宿泊費がたいへん。
・地理的な不利が情報の収集をさまたげる
→このインターネット時代にそんな馬鹿な?と思われる方もいらっしゃることでしょう。
ネットのみの情報であれば、おっしゃるとおりなのですが、就活に関わる情報は、
企業に直でいかないと教えてもらえないこともあれば、それこそわたしが主宰して
おりました『座・芸夢』のようなイベントも、そこにいかないと参加できません。
情報というよりはプロから得られる体験や、同じ道を志すライバルと出会って
切磋琢磨ができないのが大きいとおもいます。
・地理的不利が、プロとの出会いをさまたげる
→これは、上記のものと近いところもありますね。
この3つの不利があります。
でも、わたしがここで言いたいのは「不利だから、諦めろ」とか「不利だから、うかんなくてもしょうがないよね」ということではありません。実際に、毎年のように、地方の学生さんが東京や大阪のゲーム企業に入社し、活躍をされています。難しい中も、必死に頑張って乗り越えてきた先輩たちがいるのも、また間違いのない事実なのです。
経済的な理由はたしかにあると思いますし、なかなかそれを乗り越えることは容易ではないでしょう。なぜなら、いまの学生さんの半数以上が、奨学金という名のローンを組んで勉学に励んでおられるからです。この奨学金は、有利子で返済しないといけない学生さんが大半です。なので、無駄に使いたくないでしょうし、より有効なことに使わないといけません。
もちろん、借金までして学校にいっておられる皆さんなので、安易にわたしも「アルバイトしようよ」とも言えません。ただ、奨学金だけに頼らず、アルバイトで稼いで、一部にあて、未来の自分に負担をかけないという選択肢もあります。
また、学業に関わるものは、すべていったん奨学金でまかなって、その他、就活やイベントに参加するための交通費や宿泊費、エントリー費用にあてるためのお金を捻出するためにアルバイトをする、というのも1つの選択肢だとおもいます。
いずれにせよ、「自分に対する投資」なのです。
先日、東京五輪をめざすボクサーの学生さんの話をTVで拝見しました。
子供の頃からお父様に英才教育を受け、そもその階級では、敵なし、高校に進んでもインターハイなどで常に上位の結果を残してきていた方でした。ですが、その学生さんが、お父様の教えはこれまでどおりに実践するものの、より広い世界をみるために、高校でボクシング部に入って仲間を増やしたり、所属しているボクシングジム以外のジムに出稽古に出かけるようになったそうです。
理由は、
「自分が戦っているフィールドを知るため」
「ライバルを知るため」
ということでした。新たな刺激を受け、目的である東京五輪で日本代表として活躍するためには、更なる努力をして、体験しなくては、見なくてはいけない世界があると、実感することがあり、意識が高まったのだと思います。オリンピックを目指す方の考え=ゲーム業界を目指す学生さん全員が持つべき考え、とは言いません。(笑)
ですが、この「外に出て、もっと自分の位置を知らないといけない」という意識は、ゲーム業界を目指す学生さん1人1人にとっても、共通の課題ですし、非常に勉強になることです。
ともすれば、その学校の中で「できる」学生さんが、その学校の中しか見ずに、本来あったポテンシャルを伸ばしきれずに、頭打ちになっていったという子を何人も見たことがあります。
逆に、こういうと失礼ですが、1年生の夏くらいにお会いした時は、「うーん、この子先々大丈夫かな?ゲームが大好きなのはわかるけど、いまのままではどこにも就職できないかも・・・」みたいな学生さんでも、1つの出会いやきっかけから、
・日々、地道に繰り返すこと を プロからきいて実践し続けた
・と、同時に、外部の勉強会や、セミナー、インターンシップなどに精力的に出かけた
ことで、2年間で飛躍的に伸びて、3年で学校を卒業する際には、大手パブリッシャーに入社していった学生さんもいました。もちろん、
外のイベントにたくさん参加しているだけ
では、大きな成長は望めません。外部のイベントも、ハッカソン同様に役目を果たす時と、終える時がありますので。(第11回「ハッカソンの功罪」)
ただ、
・参加することでしかえられない知識を得る
→逆に参加しないで、ネットでみて、知った気になっているのも厳しい
・参加することで、プロと話すことで「大人と話すことに慣れる」
→これ、実は地味に大きな効果だと思います。就活の面接の時に初めて大人と話す、
だと、どんなハート強い人でもやはり緊張しまして、本来の力を発揮しづらいですからね
・ライバルとの差を知る
→これも大きいです。また、友達になることで、刺激を与え合うこともできます
理想は、東京や大阪で「泊めてくれる友達」をつくることです!(笑)
といったメリットがあります。
この3つは、いずれも、イベントに参加後に「反省、ふりかえり」をして、ノートなどに課題を可視化することで、価値を生み出します。
「俺は、いろんな企業にインターンに行ってるんだぜ」
「わたしは、企業にたくさん知ってる人いるよ」
という表層的なことではありません。あくまでも、自分の血肉となるものを見つけ、現在の自分と照らしあわせて反省し、NEXT ACTIONでなにをするのか?を導き出す! ということが大事なのです。
相撲でいえば、場所前の稽古では、横綱ですら、出稽古に出向いて、他の部屋の力士を胸をつきあわせて稽古はもちろん、情報収集、自分の強さをアピールするなどなどやっておられます。プロのクリエイターの皆さんも、それこそ、
・企業主催の勉強会に参加
・CEDECのような、カンファレンスに参加
・GDC、E3 のような海外イベントや勉強家に参加
することで、先端の技術や知識を学んでいます。学生さんもまだまだ、やれることがありますし、表にでることで、把握できることもやまほどあるのです。
そもそもゲーム開発は、正解のない未開の海へ乗り出すようなものです。
その世界に足を踏み入れる学生さんたちならば、自身も地元や学校で学んだことを試す、活かすためにも、早いうちから、外に目を向けてチャレンジ!することを意識していきたいですね!!!
今週から、東京ゲームショウが始まります。遊びに行くのもいいですし、プロの作品や他校のライバルたちの作品が展示されているとおもうので、ぜひ視察にもいきましょう!!!
ゲーム会社の大半は、東京と大阪に固まって存在している
というものがあります。これは、問題というか、いたしかたのない現実です。
ただ、これに対して、全国各地に、
・ゲームを学べる大学
・ゲームを学べる専門学校
は、あります。(大学はそれほど、多くないですけどね)
つまり、学校をチョイスする段階では「家から近いから」という理由で選ぶことができても、いざ、プロとして就職するとなったときには、東京か大阪にでていかないといけない人が多くいるということです。たしかに、いま開発は距離が離れていて、直で顔をつきあわせていなくても、できる時代がきています。わたしも、東京の会社にいながら、札幌や大阪の会社さんと一緒にゲームの開発をした経験は、数多くあります。
ですが、やはり、顔をつきあわせて、同じ場所で仕事をしているよりは、どうしても効率が落ちる、抜けが発生するなど、問題が多発します。全員が真にプロフェッショナル集団であったとしても、わずかな情報の共有や交換が、同じ空間にいれば自然と行われるのに、距離が離れているといまひとつ難しい、自然には行われず問題が発生する、というのがあります。
プロが仕事をするだけでもなかなか難しい、という事実はさておき、厳然たる事実としてゲーム業界に就職するためには、東京や大阪にでていかないとなかなか難しいということです。もちろん、東京大阪以外の都市、札幌や名古屋、福岡、沖縄などなど、全国各地で頑張っておられるデベロッパーの皆さんや、スタートアップを地元ではじめている方々もいらっしゃいます。ただ、新卒の採用数トータルで考えると、やはり、東京大阪が大半を占めていることは事実なのです、残念ながら・・・
そうなったときに、
・地理的な不利が経済的な理由で就活をままならなくする
→何度も東京、大阪を往復する交通費や宿泊費がたいへん。
・地理的な不利が情報の収集をさまたげる
→このインターネット時代にそんな馬鹿な?と思われる方もいらっしゃることでしょう。
ネットのみの情報であれば、おっしゃるとおりなのですが、就活に関わる情報は、
企業に直でいかないと教えてもらえないこともあれば、それこそわたしが主宰して
おりました『座・芸夢』のようなイベントも、そこにいかないと参加できません。
情報というよりはプロから得られる体験や、同じ道を志すライバルと出会って
切磋琢磨ができないのが大きいとおもいます。
・地理的不利が、プロとの出会いをさまたげる
→これは、上記のものと近いところもありますね。
この3つの不利があります。
でも、わたしがここで言いたいのは「不利だから、諦めろ」とか「不利だから、うかんなくてもしょうがないよね」ということではありません。実際に、毎年のように、地方の学生さんが東京や大阪のゲーム企業に入社し、活躍をされています。難しい中も、必死に頑張って乗り越えてきた先輩たちがいるのも、また間違いのない事実なのです。
経済的な理由はたしかにあると思いますし、なかなかそれを乗り越えることは容易ではないでしょう。なぜなら、いまの学生さんの半数以上が、奨学金という名のローンを組んで勉学に励んでおられるからです。この奨学金は、有利子で返済しないといけない学生さんが大半です。なので、無駄に使いたくないでしょうし、より有効なことに使わないといけません。
もちろん、借金までして学校にいっておられる皆さんなので、安易にわたしも「アルバイトしようよ」とも言えません。ただ、奨学金だけに頼らず、アルバイトで稼いで、一部にあて、未来の自分に負担をかけないという選択肢もあります。
また、学業に関わるものは、すべていったん奨学金でまかなって、その他、就活やイベントに参加するための交通費や宿泊費、エントリー費用にあてるためのお金を捻出するためにアルバイトをする、というのも1つの選択肢だとおもいます。
いずれにせよ、「自分に対する投資」なのです。
先日、東京五輪をめざすボクサーの学生さんの話をTVで拝見しました。
子供の頃からお父様に英才教育を受け、そもその階級では、敵なし、高校に進んでもインターハイなどで常に上位の結果を残してきていた方でした。ですが、その学生さんが、お父様の教えはこれまでどおりに実践するものの、より広い世界をみるために、高校でボクシング部に入って仲間を増やしたり、所属しているボクシングジム以外のジムに出稽古に出かけるようになったそうです。
理由は、
「自分が戦っているフィールドを知るため」
「ライバルを知るため」
ということでした。新たな刺激を受け、目的である東京五輪で日本代表として活躍するためには、更なる努力をして、体験しなくては、見なくてはいけない世界があると、実感することがあり、意識が高まったのだと思います。オリンピックを目指す方の考え=ゲーム業界を目指す学生さん全員が持つべき考え、とは言いません。(笑)
ですが、この「外に出て、もっと自分の位置を知らないといけない」という意識は、ゲーム業界を目指す学生さん1人1人にとっても、共通の課題ですし、非常に勉強になることです。
ともすれば、その学校の中で「できる」学生さんが、その学校の中しか見ずに、本来あったポテンシャルを伸ばしきれずに、頭打ちになっていったという子を何人も見たことがあります。
逆に、こういうと失礼ですが、1年生の夏くらいにお会いした時は、「うーん、この子先々大丈夫かな?ゲームが大好きなのはわかるけど、いまのままではどこにも就職できないかも・・・」みたいな学生さんでも、1つの出会いやきっかけから、
・日々、地道に繰り返すこと を プロからきいて実践し続けた
・と、同時に、外部の勉強会や、セミナー、インターンシップなどに精力的に出かけた
ことで、2年間で飛躍的に伸びて、3年で学校を卒業する際には、大手パブリッシャーに入社していった学生さんもいました。もちろん、
外のイベントにたくさん参加しているだけ
では、大きな成長は望めません。外部のイベントも、ハッカソン同様に役目を果たす時と、終える時がありますので。(第11回「ハッカソンの功罪」)
ただ、
・参加することでしかえられない知識を得る
→逆に参加しないで、ネットでみて、知った気になっているのも厳しい
・参加することで、プロと話すことで「大人と話すことに慣れる」
→これ、実は地味に大きな効果だと思います。就活の面接の時に初めて大人と話す、
だと、どんなハート強い人でもやはり緊張しまして、本来の力を発揮しづらいですからね
・ライバルとの差を知る
→これも大きいです。また、友達になることで、刺激を与え合うこともできます
理想は、東京や大阪で「泊めてくれる友達」をつくることです!(笑)
といったメリットがあります。
この3つは、いずれも、イベントに参加後に「反省、ふりかえり」をして、ノートなどに課題を可視化することで、価値を生み出します。
「俺は、いろんな企業にインターンに行ってるんだぜ」
「わたしは、企業にたくさん知ってる人いるよ」
という表層的なことではありません。あくまでも、自分の血肉となるものを見つけ、現在の自分と照らしあわせて反省し、NEXT ACTIONでなにをするのか?を導き出す! ということが大事なのです。
相撲でいえば、場所前の稽古では、横綱ですら、出稽古に出向いて、他の部屋の力士を胸をつきあわせて稽古はもちろん、情報収集、自分の強さをアピールするなどなどやっておられます。プロのクリエイターの皆さんも、それこそ、
・企業主催の勉強会に参加
・CEDECのような、カンファレンスに参加
・GDC、E3 のような海外イベントや勉強家に参加
することで、先端の技術や知識を学んでいます。学生さんもまだまだ、やれることがありますし、表にでることで、把握できることもやまほどあるのです。
そもそもゲーム開発は、正解のない未開の海へ乗り出すようなものです。
その世界に足を踏み入れる学生さんたちならば、自身も地元や学校で学んだことを試す、活かすためにも、早いうちから、外に目を向けてチャレンジ!することを意識していきたいですね!!!
今週から、東京ゲームショウが始まります。遊びに行くのもいいですし、プロの作品や他校のライバルたちの作品が展示されているとおもうので、ぜひ視察にもいきましょう!!!
本日は、以上です!
■著者 : 馬場保仁
株式会社ファリアー 代表取締役社長。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。その後DeNAにてスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任。現在は、ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。
■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー
■第二十三回「個人でつくる・集団でつくる」
■第二十二回「指摘される勇気、指摘する気遣い」
■第二十一回「どこを見るか? どう採るか?」
■第二十回「100%の力を発揮するために……」
■第十九回「まずは、”伝える”ことから始めよう!」
■第十八回「カード少なく勝負に挑まない」
■第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【後編】(第十七回)
■第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【前編】(第十七回)
■第十六回「新人事始」
■第十五回「就職活動にみられる地方格差」
■第十四回「【思いやり】の向こう側」
■第十三回「仕事選び 〜成長・夢・時間〜」
■第十二回「本当にそれは、ゲームに必要か?」
■第十一回「ハッカソンの功罪」
■第十回「会社選びと成長(プロ、アマ問わず)」
■「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【後編】(第九回)
■「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【前編】(第八回)
■第七回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」
■第六回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」
■「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【後編】(第五回)
■「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【前編】(第四回)
■第三回「若手のチャンスとキャリアパス」
■第二回「企業×学校×学生」
■第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」