メタップス<6172>からゲーム実況動画を活用したマーケティング支援サービス「BUZZCAST(バズキャスト)」がMBO(Management Buyout、経営陣による買収)を行うことがこの日(10月11日)、明らかになった。今回、同サービスの運営責任者で、株式会社BUZZCAST代表取締役に就任する山田雄介氏にインタビューを行い、足元の状況や、今回のMBOに至った経緯、今後の事業展開について話を聞いた。
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――:よろしくお願いいたします。最初に自己紹介をお願いします。
私はもともとゲームを作る側にいました。きっかけは高校を1年で退学して数年アルバイト生活を送った後、周りの友達が進学していくのを見て、危機意識持ち、当時ガラケーi-mode端末で「専門学校」と検索して出てきた、バンタンというゲームの専門学校でゲーム作りを学んだ後、当時ガラケーの月額サイトをやっていたオープンドアに入社しました。オープンドアでは、インターンから入りましたが、ゲーム会社やフリーランスの方にゲーム制作を依頼するディレクターのような仕事やマーケティングをやっていました。
その後、コナミデジタルエンタテインメントに入社して、プランナー兼ディレクション担当として、セガサターンのゲームをJavaアプリに移植したり、Panasonicさん等のメーカー端末のプリインストールアプリを作ったりする仕事に携わりました。次にオープンドアでの上司が立ち上げたイントロムという会社に合流しました。イントロムでは4年ほどみっちり修行させていただきまして、マーケティング全般にも携わるようになりました。
その後仕事のご縁で何度か一緒に話をする機会があった当時ライブドアに所属していた久野が、2012年4月に執行役員としてメタップスに入社したのをきっかけに、一緒に働かないかと声をかけていただきました。まだiPhone全盛期のAndroidが未成熟な市場のなか、Androidで、グローバルで面白いことをやっていると感じ、メタップスでの挑戦が始まりました。
ゲームを作る側にいたので自分のなかには根幹はゲームという軸がある
――:メタップスではどのような業務をされていたのでしょうか?
メタップスでは、多くの業務に携わらせていただきました。Androidリワードのプラットフォームをやっていた頃はゲーム会社向けのコンサルタントを担当させていただきました。その後、Androidアプリ向け相互送客ネットワーク「Exchanger」、スマホ向けクリック課金型アドネットワーク「DirectTAP」など新規事業の立ち上げを経て、アプリ解析ツール「Metaps Analytics」がリリースされた後はゲーム領域の責任者を務めさせていただきました。今年の2月にはメタップス子会社であるAppStair(アップステア)の代表に就任し、組織構築や事業推進そして新規事業立ち上げ行いました。もしかしたら外からみると広告業界の人間に見えるかもしれませんが、私は元々はゲームを作る側に、そして今はゲームを作る方々を支援する側にいます。ずっとゲームを軸に事業に携わってきました。
――:BUZZCASTに関わるまではどのような経緯があったのでしょうか?
メタップスは、昨年上場したこともあり、新規事業を立ち上げていこうということで、その中のひとつに動画があり、「山田、何かやってみるか」という話をいただきました。もともと私はゲームという根幹があるので、「ゲーム×動画」が良いと思っていました。「ゲーム×動画」には課題がいくつかあり、特にゲーム実況と呼ばれる領域は課題だと思っていました。
その頃のゲーム実況は、YouTuberさんに数百万円で動画を作ってもらって想定再生数がいくらという、昔ながらの純広告のような印象がありました。アドテクノロジーの流れを考えると、最初は記事広告や純広告、その後にアドネットワークなどの枠毎の最適化、次にDSPによる枠毎のROAS最適化となり、今後もアドテクノロジーの部分は進化していていくと思います。
ゲーム実況の領域に取り組んでみようと思い、昔からお付き合いのあるゲーム会社さんとご一緒させていただく機会をいただきました。実際にやってみるといずれも良い反応で、これはチャレンジする価値があると確信しました。そして、1社が使えるものよりもいろいろな会社が使える方がより価値が高まると思い、今年4月にBUZZCASTというプロダクトをリリースしました。準備期間も含めるともう1年弱くらいになりますが、順調に伸びています。
BUZZCASTは今まで効果の可視化の難しかったゲーム実況者の動画の効果を可視化する
――:BUZZCASTはどのようなサービスになるのでしょうか?改めて詳細を教えてください。
BUZZCASTは、今まで効果の可視化の難しかったゲーム実況者の動画の効果を可視化するツールです。例えば10人のゲーム実況者に動画を作ってもらい100万回再生されたとします。その時に全体のパフォーマンスはわかりますが、実況者毎のパフォーマンスはわかりづらいです。動画にURLを張ってあるので実況者毎のインストールやその後の課金までわかるのですが、動画を見たほとんどのユーザは自然流入から入っています。自然流入が1万件伸びたときに、その1万件は10人のゲーム実況者の誰がどのくらいの割合なのかを分析するのは難しいのですが、この分析を行えるのがBUZZCASTです。
例えば、YouTuberの場合、動画を見た人のデータは、Googleしか持っていないため技術的なマッチングはできません。そこで弊社は動画の拡散された数やURL経由のパフォーマンスをもとに独自のスコアを作成いたしました。例えば、そのスコアが全体で100、あるゲーム実況者のスコアが20だった場合、自然流入が1万件伸びたうちの20%の2000件はその人の評価として分析しています。このスコアにより実況者さん毎の評価が可能となります。誰が良くて誰が悪かったのかのという短期的な分析だけでなく、普段どういうゲームの実況を行っている実況者との相性が良いのかなどもわかるようになります。
また、弊社は実況者のチャンネル登録数やフォローしているユーザの年齢や性別などのデータも持っています。例えば、35歳以上の男性の割合が50%以上であれば相性が良さそうなど傾向がわかれば、「このタイトルに合うユーザはこういうところにいるのではないか」という仮説に基づいた運用もできます。今までのゲーム実況動画を企画としてやることから、ロジカルに分析していって運用型にしていこうと提案できるのがBUZZCASTの特徴です。
BUZZCASTが将来的に目指す形は「動画のDSP」化
――:収益はどうやってあげるのでしょうか。
弊社はゲーム会社から広告費という形で予算をいただき、実況者には動画制作費という形でお支払いしています。いわば両者の間に介在するプラットフォームとしてビジネスモデルを構築しております。
――:現在の対象とする動画のプラットフォームはYouTuberだけなのでしょうか?
過去に他のプラットフォームでもやってみたのですが、YouTuberのパフォーマンスが最も高いことがわかりました。立ち上げ期ということもあるのですが、今は一番パフォーマンスも出やすく分析もしやすいYouTuberに集中しています。
将来的にはもちろんYouTuberだけに限らずニコニコ動画、Twitch、LINE LIVEなど他の動画のプラットフォームに関しても、統合で分析ができるプロダクトにしていきたいと思っています。YouTuberのこの人の動画の一再生はどれくらいの価値があって、LINE LIVEのこの人の動画の一再生の価値があるという分析ができるようにしたいですね。いわゆる「動画のDSP」化というのでしょうか。
メタップスからのMBOはBUZZCASTというプロダクトをより大きな成功にするため
――:今回なぜ独立をされたのでしょうか?
理由は二つあり、個人としての観点と事業としての観点があります。最初に個人の観点ですが、私がメタップスに入社して今年で5年目になります。入社から昨年上場するところまでを事業を通し経験することができ、とても刺激的な5年間でした。今もメタップスは成長し続けていて、先日のニチガスさんとの提携などエネルギー分野との連携も始まり、今後もさらに拡大していくことは間違いないと感じています。
反面、気づきもありました。昨年から動画事業を始めるために準備を行っていたのですが、その中でスタートアップの方々にお会いました。24時間寝ずに働く、がむしゃらにやっているという熱量がすごかったです。5年前に自分がメタップスにきたときは同じくらいの熱量だったのですが、ふと今の自分は同じだけの熱量でやっているのか、と考えるようになりました。昔は人数が少なかったこともあり、自分がやらないといけませんでしたが、どうしても会社や組織が大きくなると自分ができる範囲の小さなところで満足していないかと気づく瞬間があり、自らの力で挑戦し続けたいという思いから独立の道を進み始めました。
次に事業としての観点ですが、BUZZCASTも無事リリースして順調に伸びていますが、このままだと小さく成功するプロダクトで終ってしまうのではないかと思い始めました。世の中の動きがものすごく速く進む中、今のプロダクトをもっと進化させて、短期でもっと突き抜けないと遅れを取ると危機感を覚えるようになりました。このままメタップスに残ってメタップスのなかのプロダクトのひとつのBUZZCASTではなく、「株式会社BUZZCAST」にして外に出たほうが良いのではないかと思い、すべてにおいてプロダクトを最優先して事業展開するために、代表の佐藤と相談し、今回の判断に至りました。
――:なるほど。そのような経緯があったのですね。
なので、今回メタップスから完全にでるわけではなく、引き続き一部の株式も保有していただきます。メタップスから外に出るというよりはプロダクトが独立採算でやりやすいように外に出させてもらって、引き続きメタップスとはシナジーをもってやっていく、という考えです。動画は、日本だけでなくグローバルでも伸びている市場です。海外への展開・取り組みはメタップスがとても強いということを自ら体験しているからこそ、共に進めていくことを選択しました。
少数精鋭の体制となり、すでに事業の数値もある。あとはやりきるだけ
――:オフィスはメタップスとは別の場所になるでしょうか?
しばらくはメタップスのオフィスを使わせてもらいますが、独立採算でやりたくてMBOを決めたので、年内には出たいと思っています。今は5人で年内にはもう少し増える予定です。スタートアップのため人数の増減が激しそうな気がするので、10人を超えるまではオフィスを構えるのではなく間借りさせていただくかたちが理想かなと思っています。もし12月くらいから間借りさせても良いよという会社さんがいらっしゃればぜひご連絡をいただきたいです(笑)。
――:新しい会社はどのような体制になるのでしょうか?
社名は株式会社BUZZCASTとなり、私が代表を務めます。取締役CTOに元々メタップスのメンバーの新田晃央、社外取締役にメタップス代表の佐藤航陽、今回出資を受けているグロービス・キャピタル・パートナーズの福島智史氏、また顧問として「にゃんこ大戦争」のポノス取締役の永谷朋行氏が経営陣として並びます。
永谷さんは元々DeNAでグローバルを担当されていて、ポノスでもグローバルを含めてマーケティング全般や東京の開発舞台の立ち上げもされています。実はMBOの話もずっと相談をしていて、動画についてもすごく詳しい方なので、MBOを報告しに行った際に引き続き顧問という形でご参画いただきたいとお願いしました。特にBUZZCASTを海外展開するにあたりアクセルを踏むために、今の自分の知識量だけでは足りないところをサポートいただきたいと考えています。
すでに事業があり、数字もあがってきていて、少数精鋭の経営陣体制として組織の準備はできたので、あとはやりきるだけという状況になったのかなと思います。
ゲーム実況の市場は成熟していないからこそ課題もある
――:今のゲーム実況の市場をどうみられていますか?
YouTuberやインフルエンサー市場も含めて広義で考えると多くの会社があると思いますが、今のゲーム実況の市場でいうとすごく伸びている会社は現状そんなにないと感じています。ゲーム実況をどこまでの広さでみるかにもよりますが、国内で今のゲーム実況のトップはやはりUUUMさんだと思います。UUUMさんに所属するYouTuberのHIKAKINさんはゲーム実況者ではなくてYouTuberさんという枠になると思いますが、ゲーム実況として一番再生数があり影響力があります。
著名な実況者さんはすでにある程度決まってきていますが、BUZZCASTに登録しているようなもう少しニッチなところで活動されている方々、例えば、毎日モンストのやりこみ動画や、PCオンラインゲームの動画を大量にアップロードしているところにチャンネル登録するユーザさんを活用したプロダクトやサービスはまだ未発展な市場、まだまだ成熟しきってない、それがゲーム実況の市場だと考えています。
またひと昔前と比べるとゲーム会社さんも動画に寛容になってきたと思います。昔は勝手に動画をあげるなということもありましたが、HIKAKINさんの功績も大きく、また大手ゲーム会社の任天堂さんも一部許容されていることからも時代の変化を感じています。動画を通じて効果があることをゲーム会社さんが理解し始め、去年の夏秋頃からゲーム実況を利用するゲーム会社さんが多くなってきました。
――:今後の御社の方向性についてお聞かせください。
ゲーム実況動画の分析を通じて、その精度をあげていくという価値を作ることができました。いま数十案件のゲームタイトルと取り組ませていただく中で、どういうゲームだとどういう実況者と相性が良いなど、色々なデータも見え始めています。攻略要素のあるゲームだと面白い動画よりも攻略系動画の方がパフォーマンスは高いこともわかってきています。今後は、事例を通じてもっといろいろなタイトルでノウハウを蓄積したいと考えています。
将来的にやりたいのは、YouTuber以外の動画プラットフォーム、そして、国内だけでなく海外、ゲームだけでなく非ゲームの領域においても広げていきたいと思っています。今はサービスの立ち上げ期ということもあり、「Yotube×国内×ゲーム」とで成果を出していかないといけません。そこでプロダクトを磨いて分析力を高めていきたいと考えています。
また、広義で見るとテレビも、動画の一つといえます。TV番組やCM、デジタルサイネージなどもあります。GRPの指標ではなくTVの露出量を通じて実際にサービスにどれくらいの影響があるのか追うことができると新しい形のマーケティングが可能となります。将来的にはこれらのマーケティングを見据えてプロダクトを進めていく考えです。
誰もやったことがない領域なので、何度転んでも前進していけば新しい価値は作れる
――:BUZZCASTで競合と考えているサービスはあるのでしょうか。
完全に100%被っているところはないですが、例えばゲーム実況者にインフルエンサーやYouTuberを含めたり、ゲーム実況を動画という領域でみると、多くの会社さんも取り組まれていると思います。
しかし、その取り組みを通じてどの実況者とどのゲームと相性が良いのか分析までやっているところは、私が知っている限りだと海外でもほとんどないと思います。海外ではインフルエンサーにもっと仕事を提供しようという思想でビジネスを展開している企業が多くあります。私自身がゲーム会社にいた背景もあるので、BUZZCASTは実況者よりもゲーム会社さんのほうに思想としては近いと考えています。
もちろん、実況者にも価値をもっと還元したいと思っています。例えば、再生数対比のコンバージョンが低い実況者に、コンバージョンを上げるために「動画の最後にダウンロードは概要欄のリンクからと一言入れましょう」、「動画をこういう構成にしましょう」など、ノウハウを提供することも可能ですので、実況社のコンサルティングの部分も取り組んでいきたいと考えています。
――:これが確立するといろいろな領域で展開できますね。
もともと私がゲームという背景があったので今はゲーム向けにやっていますが、将来的には非ゲーム向けも考えていきたいですね。動画領域は誰もやったことがない領域なので、何度も転ぶと思いますが、何とか前進していけば新しい価値は作れると思っています。世の中の流れも早いと思うので、数年で垂直に立ち上げていきたいと考えています。結果論になりますが、今の市場環境でMBOできたのはすごく幸せなことだと思っています。メタップスにはすごく感謝しています。またBUZZCAST1社だけで作れる市場ではないと思っていますので、他の会社さんとも一緒に市場をつくり、市場をどこまで大きくできるかにも注力していきたいと思います。
――:ありがとうございました。
(取材・構成 木村英彦)
(編集 森山晃義)
(編集 森山晃義)
■関連サイト
会社情報
- 会社名
- 株式会社メタップス
- 設立
- 2007年9月
- 代表者
- 代表取締役社長 山﨑 祐一郎
- 決算期
- 12月
- 上場区分
- 東証グロース
- 証券コード
- 6172