【年始企画】ネクソン社長オーウェン・マホニー氏インタビュー「独創的かつ面白いゲームが増えれば市場はさらに成長できる」 17年は新作ラッシュの年に



スマートフォンアプリ業界に身を置く方々に話を伺い、2016年の市場動向と2017年のトレンドを読み解く年始恒例企画「ゲームアプリ市場のキーマンに訊く2016-2017」。今回は、株式会社ネクソン<3659>のオーウェン・マホニー社長(写真)にインタビューを行い、2016年のゲームアプリ市場と、ネクソンとしての取り組みを振り返ってもらいつつ、2017年の展望について語ってもらった。



――:2016年のアプリマーケットを振り返っての感想をお願いします。市場の成長は続いているとお考えでしょうか。

様々な動きがあったと思いますが、その中でも私が思う2016年の主要な動きは、市場全体が2つのグループに分離しはじめている、という現象です。

1つ目のグループ(以下、グループ1)は、高品質なゲームを提供することに全力を注いでいるゲーム会社や開発者のことを指しています。すなわち、自分たち自身が誇りに思え、プレイしたいと思うようなゲームの提供を目指しているグループですが、規模感としては、あまり大きくありません。一方で、課金を重視し、ゲームを芸術としてあまり捉えていない会社や開発者のグループ(以下、グループ2)の方が、規模が圧倒的に大きいのが現状です。

この2つのグループ分けは少し極端な例ですが、業界全体として、この2つの考え方が現れてきている、という印象を受けています。私は、グループ1が成功を収めると、業界全体はグループ2にとって厳しい状況となる、と長年考えており、この傾向が2017年にはさらに進行するのではないかと想定しています。そのため、2017年にゲーム市場はさらに変化していくでしょう。

 


――:グループが2つに分かれているというお話をされていましたが、グループ2にとっては今後厳しい業界になってくると思われます。そうなると、ゲーム市場は淘汰されると考えられますが、市場は縮小していくと見ていらっしゃいますか?それとも引き続き成長していくとお考えでしょうか?
 
ゲーム市場は、成長可能性がまだ多くあると見ています。特に、グループ1が成功を収めると、市場成長の可能性はさらに広がると考えています。その理由としては、グループ1の方が、よりユーザー目線でビジネスを行っており、ユーザーを幸せにする、という点に注力しているためです。

ゲームは品質が大事である、という強い信念がある会社や開発者が属するグループ1が成功を収めるということは、ユーザーにとって非常に良いニュースです。英語には、”Vote with one’s feet”という表現があり、「自ら意思表示を行う」という意味のことわざがあります。つまり、ユーザーにどちらのグループを支持するか?と問いかけて意思表示をしてもらうと、恐らくユーザーはグループ1を支持することでしょう。

グループ1に属するには、かなりの努力が必要ですが、グループ2が市場において成功を収めると、業界全体として非常に厳しい業界になると考えています。このゲーム会社あるいは開発者が、どちらのグループに属しているか、どれだけゲームの品質にこだわりを持っているか、より良いゲームを目指し本気で挑戦をしているか、失敗しても挑戦を続けているか、ということはユーザー側からも明確に分かることです。

グループ1に属している企業は、これまで誰も試したことのないようなことに挑戦し、時には失敗することもあるでしょう。もしこれまでに存在しなかった、非常に差別化されたオリジナルのアイディアをもとにしても全く失敗をしたことがない、というのであれば、まだ努力足りないということだと思います。しかし結局のところ、1つ目のグループこそが業界の発展に寄与しており、このことは業界にとっても非常に良いことだと思っています。こういった背景から、私は今後も業界は成長するだろうと考えています。



――:ゲーム業界において、継続的にチャレンジを続けていく、というのは非常に大事なことだと私も思っています。ネクソンさんもグループ1を目指して努力されていると思いますが、具体的にチャレンジしている内容を教えてください。

恐らくご存知かと思いますが、いくつか例を挙げて説明をしますと、当社は日本において、2016年の下半期以降、月1本という非常に速いペースで、新作ゲームを配信開始してきました。これまで過去2年間にわたり、新作ゲームの開発や配信に向けた様々な準備、優れた開発者との協業等、見えない裏方の部分も含めて努力を続けてきました。協業に関していうと、これまでの実績ベースでは、日本以外の国の方が多いですが、今後は日本の開発会社とも積極的に協業していきたいと考えています。

ここで、直近で配信を開始したゲームと、当社のラインナップに記載している今後配信開始予定のゲームから、いくつかご紹介をさせていただければと思います。1つ目は、2016年9月に日本で配信を開始した『HIDE AND FIRE』というモバイル向けTPSゲームです。読者の皆さんにも是非プレイいただきたいと思っていて、なぜかというと、私の知る限りでこれまで誰も達成していなかったこと、つまりモバイル向けに本当に面白くて差別化されたTPSゲームを提供する、ということを成し遂げたゲームだからです。モバイル向けの高品質なTPSゲームの提供は非常に難しいと思っていたのですが、『HIDE AND FIRE』はこの考えを覆したゲームだと思っています。

 


2つ目は、『HIT』という最高レベルのグラフィックを実現したアクション性の高いモバイルゲームです。12月の配信開始から2週間たたないうちに50万ダウンロードを突破し、年末年始にはCM放映を開始する等、好調なスタートを切っています。
 


今後配信予定のラインナップからも、2つご紹介させてください。1つ目が2017年に韓国で配信開始予定のモバイル向け3Dアクションパズルゲーム『After the End』です。立体的な空間の中で、道探しや地形移動などをモチーフにした多様なパズルを解き進めていく同作は、当社の連結子会社であるNEOPLEが開発を手掛けています。
 


もう一つが、開拓型オープンワールドMMORPG『野生の地:Durango』というモバイルゲームであり、事故により先史時代へワープしたプレイヤーが生き残りをかけて、探険、狩り、コミュニティの構築などを行うサバイバルゲームです。これらのゲームはまだ配信開始前ですので、成功するかどうかを断言すること難しいです。ただ、これらのタイトルが、モバイルゲームにおいて、クリエイティブ面で限界にチャレンジしている、ということは確実にお伝えできます。そのため、結果に関わらず、私たちはこれらのゲームを非常に誇りに思っていますし、皆さんにお届けするのを楽しみにしています。
 


――:2016年は、『ポケモンGO』が登場し、各国のマーケットを席巻しました。ヒットした要因はどういった点にあると見ていますか? またアプリ開発会社やユーザーに与えた影響についてのお考えをお聞かせください。

他社のゲームに関しては、コメントすることは難しく、かつあまりコメントすべきではないと思っています。そのため、もう少し大きな視点でお話できればと思います。つまり、「なぜ私を含め多くの人々が任天堂のことを好きなのか」や、「なぜ任天堂は長期に渡り我々のヒーローであり続けるのか」、という点です。

任天堂がコンソールや携帯型ゲーム、そして直近ではモバイルでやってきたようなことを、私たちは、皆が繋がって遊ぶオンラインゲームの領域で実践していきたいと思っています。『ポケモンGO』は差別化されたゲームの素晴らしい事例です。配信開始された当時、『ポケモンGO』のようなゲームは市場にはありませんでした。

任天堂の並々ならぬ努力のおかげで、『ポケモンGO』という本当に面白いゲームが完成したのです。同作に携わった多くの開発者の皆さんは、業界全体の発展に貢献し、さらにはモバイルゲームの可能性をさらに広げたと私は思っており、非常に強い感銘を受けました。



――:御社の2016年の事業展開を振り返っての感想をお願いします。円高の影響が出ていましたが、事業そのものは順調だったように見えます。どう評価していますか?

地域別に見ていくと、我々にとって最大の市場である中国でのパフォーマンスに関しては、非常に満足しています。『アラド戦記』が業績を牽引し、2016年は素晴らしい1年となりました。実は、ネクソンが上場した5年前と比較すると、面白いことが起きています。上場当時は、「中国の『アラド戦記』は時が経つにつれて勢いが弱まり、売上が減少していくのでは?」という質問をよく受けていました。しかし、中国の『アラド戦記』は5年前と比較して、売上が2倍近くに成長しています。この堅調な結果に、とても満足しております。

韓国も、年間を通じて非常に好調でした。いくつかチャレンジもありましたが、全体的に良い成果を収めた1年だったと感じています。多数の新作ゲームを配信開始し、また既存ゲームも我々の主力タイトルの1つである『メイプルストーリー』をはじめとして、非常に好調でした。

北米、欧州及びその他地域に関しては、年間を通じて多数の新作ゲームを配信開始致しました。

そして、日本においては、先ほどもお伝えしましたが、新作ゲームを、特に2016年後半は数多く配信開始し、初動が好調なタイトルもいくつかあります。私は、日本におけるこの成果を嬉しく思っていますが、その反面、日本法人の社員がこのハイペースでの新作配信準備や配信後の運用を頑張ってくれていて、非常に忙しいですね。

地域別にお話してきましたが、全体的に、2016年は我々にとって良い1年となりました。

 


――:2016年のG-STARで最大のブースで多数のタイトルを出展されていましたが、マホニー社長の一番おすすめのタイトルは何でしょうか?

これは回答が難しい質問ですね。「1番お気に入りの子どもを選んでください」、と言われているようです(笑)。ただ、1つ言えるのは、「G-STAR 2016で展示したゲーム全てを、誇りに思っている」、ということです。展示したゲームの中には、多くのリソースを投入した大規模なゲームがあれば、比較的小規模のゲームもいくつかありました。先ほどもお伝えしましたが、今後も様々なことに挑戦し、自分たちの限界に挑むべきだと考えています。

今回G-STAR 2016で出展した全てのゲームが、確実に成功するとは正直思っていません。ただ、これらのゲームに関して言えることは、どのゲームも限界にチャレンジし、努力を重ねてきた、ということです。この我々の取り組みが、業界の発展にも寄与することを願っています。



――:2017年の日本のゲーム市場についてのご意見や展望を教えてください。特に任天堂やソニー・インタラクティブエンターテインメント(こちらは子会社を経由して)がスマホゲームに本格的に参入してきます。ゲームの出来栄えによるでしょうが、マーケットにどういった影響を与えると見ていますか。

冒頭でもお伝えしましたが、2016年は、業界内に存在する2つのグループが、より明確化した1年でした。グループ1は、ゲームを芸術作品と捉え、品質にこだわり、かつ可能な限りクリエイティブ面の向上に向けて努力を続けるグループであり、ユーザーを喜ばせることを最重要視している、という点が特徴です。一方、グループ2は、短期間で利益を上げることに力を入れている印象があります。当社は、グループ1に属したいと思っています。

ゲーム業界だけでなく、もう少し広い視点で、一つ例を挙げさせてください。私は、10年前に、「BlackBerry(ブラックベリー)」という携帯電話を持っていました。これまでになかった斬新かつ素晴らしい端末でしたので、同僚も皆「BlackBerry」を持っていました。ただ、iPhoneやスマホといった、インターネットに接続可能な携帯電話の登場が急に全ての状況を変えてしまい、突然誰もBlackBerryを使わなくなりました。それまで、素晴らしいと思っていたBlackBerryよりも各段に素晴らしい製品が登場し、消費者に大きなインパクトを与えました。既存のサービスと比べて大幅に差別化されていて、かつより優れたサービスを提供しようとしている開発者やゲーム会社は、やるべきことをきちんと実行すれば、業界に良い変化をもたらすことができることができると信じています。これは消費者にとってもプラスなことだと思います。

 


――:2017年の事業展開の方針を教えて下さい。

2017年の我々の戦略は、2016年と基本的には同じですが、異なる点は、多数の新作ゲームを配信する予定である、というところです。先ほどもお伝えしましたが、多数のゲームの開発やグローバル規模でのゲームパブリッシングに向けた準備等、内部での準備にかなりの力を注いできました。2017年は、我々にとって、新作ゲームのラッシュとなる年です。この傾向は2016年の後半から既に始まってはいますが、2017年は、我々の戦略の「実行」の年になるでしょう。


――:御社の強みは、既存ゲームの運用にあると認識していますが、この点に関しても、引き続き注力される予定でしょうか?

少し昔の話に戻りますが、PCとコンソールゲームのみが、深みのあるゲーム体験を提供可能なゲームデバイスであった時代に、ネクソンはPCオンラインゲーム事業において、新たなビジネスモデルを確立し、事業を展開してきました。モバイルに関しては、直近まで、技術的な問題でPCオンラインゲームの特徴である深みのあるゲームを提供できませんでした。しかし、今では状況は大きく変化しました。最新のiPhoneやAndroidのスマートフォンは、グラフィックやネットワーク等において、PS3と同等の性能を持っています。

当社は、ゲーム内イベントの開催、ゲームに同時接続している何千ものユーザーの管理、さらにはカスタマーサポート等を担当する既存ゲーム運用のチームを有しているのですが、彼らのこういった努力がゲームを長年(時には10年以上)にわたり成長させることができる、我々の強みに結びついていると考えています。しかし、これまではその強みを、PCオンラインゲーム市場でしか活かしきれていませんでした。我々の持つこの強みは、習得にとても長い時間を要するため、市場においても非常にユニークな特徴であると感じています。

少し話が戻りますが、モバイル端末の性能向上により、昨今では、この強みをモバイルゲーム市場でも活用することができるようになりました。ほぼ全ての人が携帯電話を持っており、ゲームデバイスとして活用ができるというこの状況は、業界における我々のポジショニングにおいても有利だと考えています。我々のゲーム運用の強みと、ゲームを長年にわたり成長させることができるノウハウを掛け合わせることで、高品質なオンラインゲームの運用が実行可能な、特別な才能を有することが出来るのです。



――:最後に読者の皆さんにコメントをお願いします。

我々は、PCやモバイルといったプラットフォームに関わらず、非常に独創的で面白いオンラインゲームを作りたいと思っているゲーム開発者達の手助けをしたいと思っています。これこそが、私たちが注力している点です。規模に関わらずゲーム開発会社にとって、あるいは、素晴らしいアイディア活かしたゲームを市場に届けたいと思っているゲーム開発者の皆さんにとっての、「ホーム」のような存在になりたいと考えています。

さらに、日本だけではなく、当社は世界中にゲーム配信のネットワークを有しており、世界中に多数のゲームユーザーがいます。そのため、日本で生み出された素晴らしいゲームアイディアを、グローバル規模で多数のユーザーの皆様に届けることが可能です。

当社が長年かけて培ってきた強みを活かして、素晴らしいゲームを創り出すことができる才能溢れるゲーム開発者の皆さんと、将来一緒にお仕事ができるのを楽しみにしています。


 
株式会社ネクソン
http://www.nexon.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社ネクソン
設立
2002年12月
代表者
代表取締役社長 イ・ジョンホン(李 政憲)/代表取締役CFO 植村 士朗
決算期
12月
直近業績
売上収益4233億5600万円、営業利益1347億4500万円、最終利益706億0900万円(2023年12月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3659
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