​【年始企画】「コンテンツの総合力で戦う」…『あんスタ!』のHappy Elements新井氏に訊く女性向けコンテンツにおけるメディアミックスについて

それこそ毎日のように様々な新サービスが展開されている、スマートフォンアプリ業界。2016年も様々なアプリがリリースされた。たくさんのアプリがリリースされるということは、やはり明暗が別れるもので、リリースされつつも早々にクローズするアプリも多く見受けられた。

これは2015年から言われていたことではあるが、2016年は有名IPを使用したアプリが多数リリースされており、これらはトレンドとなっている。

そんなIPモノが強いアプリ業界で、少し違った展開を見せているのが女性向けアプリだと思われる。Social Game Infoにて毎日行っているApp Store、Google Play売り上げランキング調査にて、コンスタントにランキング上位に挙がる女性向けコンテンツだが、これらのほとんどはオリジナルのアプリとなっている。

これら女性向けアプリの共通点として、様々なメディアミックスやコラボレーションを行ってきたことがあげられる。アプリ自体が魅力的なのはもちろんではあるが、メディアミックスやコラボレーションに、人気の秘密が隠されているのではないか?

そんなわけで、2017年の年始企画として、人気女性向けアプリのキーマンにお話を伺い、メディアミックスやコラボレーションの展開を中心にお話を伺い、女性向けアプリの人気の秘密を探る。

第3回目となる本稿では、『あんさんぶるスターズ!』について、Happy Elementsの代表取締役CEO 兼 カカリアスタジオエグゼクティブプロデューサーの新井元基氏にお話を伺った。
 
『あんさんぶるスターズ!』とは



男子アイドルの育成に特化した、私立夢ノ咲学院。そんな学び舎に、今年度より新設された「プロデュース科」の第一号、そして初の「女子生徒」としてあなたは転校してくる。

この学院で様々な生徒たちと出会い、青春のアンサンブルを奏でる日々が始まる―



--本日はよろしくお願いいたします。はじめに、『あんさんぶるスターズ!』(『あんスタ!』)の開発当初のコンセプトやターゲットユーザーの属性を教えてください。

女性が楽しめるスマホゲームをつくりたい、というところから企画がスタートしました。当時、女性が楽しめるスマホゲームはほとんど無く、あったとしても恋愛シミュレーション、いわゆる乙女ゲームが主流でした。
 

我々は乙女ゲームではなく、できるだけ幅広い層の女性が楽しめるゲーム、どちらかというと少年マンガの様な展開を楽しめるゲームを作ろうと考えました。

弊社では、『あんさんぶるガールズ!』という女の子のキャラクターがたくさん出てきて、キャラクター同士の掛け合いを楽しむ、どちらかというと男性向けのゲームを運営していたのですが、その女性向け版という立て付けで『あんスタ!』の企画がスタートしました。

 

↑学園カードゲーム『あんさんぶるガールズ!』

『あんさんぶるガールズ!』と同じく『あんスタ!』では、人気作家である日日日さんにシナリオをお願いしています。日日日さんは、男性向けのゲームのシナリオは経験があったのですが、女性向けのゲームでシナリオを担当するのは『あんスタ!』が初めてです。ですが、我々としては日日日さんにシナリオをご担当いただければ、多くの女性に楽しんでもらえる物が出来るのではないかということで、『あんさんぶるガールズ!』に引き続きお願いした形になります。

--御社から見る2016年の女性向けコンテンツのトレンドについて、こちらはアプリやゲームに関わらず、何か特徴的なことはありましたでしょうか?

2016年では、例えばアニメ作品の「ユーリ on ICE」の盛り上がりに注目していました。

ゲームに関しては、乙女ゲーム以外の女性向けコンテンツが2016年に他社からもリリースされてきました。特に女性向けのアイドルをテーマにしたコンテンツが増えており、その流れを汲んで音ゲーが増えたという印象があります。そしてメディアミックスを豪華に最初から仕込まれているコンテンツが多くリリースされた印象を受けました。


--女性向けゲームではメディアミックスが当たり前という形になってきましたね。

そうですね。リリース当初からたくさんの会社さんが集まって、グッズ、コミック化、アニメ化と次々に素早く展開していくコンテンツが増えました。『あんスタ!』では、最初からメディアミックス展開を仕込めていた訳ではないのですが、幸いにも沢山の会社様に協力いただき様々な展開ができています。
 

--様々なメディアミックスが行われ、女性向けコンテンツが多くの人の目に触れる機会が増えたと思われます。このメディアミックスが盛んになった流れによって、女性向けコンテンツ市場が拡大され、『あんスタ!』においてもターゲットユーザーの母数が増えたと感じることはありますか?

当初『あんスタ!』におけるターゲットユーザーの母数がどれだけいるのかというのは未知数でした。ただ、女性向けコンテンツの増加、そしてメディアミックスが当たり前の流れの中で、女性向けコンテンツ市場が拡大されている印象はあります。

--以前はニッチなマーケットという印象であった女性向けコンテンツも、『あんスタ!』も含めた様々な女性向けのアプリが売り上げランキング上位の常連となり、盛り上がりをみせています。そんな昨今の状況の中、女性向けコンテンツ市場における『あんスタ!』の立ち位置についてお伺いしたいと思います。ゲームアプリに限らず『あんスタ!』に似ているコンテンツ、もしくは競合にあたるコンテンツ等はありますでしょうか。

スマホゲームでは、あまり『あんスタ!』に似ているコンテンツは無いという印象を持っています。

同じアイドルコンテンツということで、『うたのプリンスさま』は意識していますし、社内にも大好きな人が沢山いますが、女性向けのアイドルゲームのスマホアプリという点では、ベンチマークにできるタイトルはなく、市場を切り開き先頭を走れればという意識でいました。

アイドルコンテンツ以外では、DMM GAMESさんとニトロプラスさんのPCゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』について、同じ女性向け、そして様々なメディアミックスを積極的に展開されているという点で注目していました。

『あんスタ!』はアイドルを題材としたゲームではありますが、『あんスタ!』以外の女性向けのアイドルゲームは音ゲーが主流なので、それらとはゲーム性の部分で違ってきます。また、他の女性向けコンテンツ、例えば『夢100』はプレイヤーとキャラクターの関係性を扱ったコンテンツですので、コンセプトが違います。我々としては、あまり市場でのポジションを気にすること無く、弊社の強みである魅力的なキャラクターイラスト・世界観、奥の深いストーリーといった所を活かしてコンテンツ作りを行っています。




--そんな『あんスタ!』ですが、現在どのような女性がプレイをしているとお考えですか?

おかげさまで沢山の女性の方にプレイいただいていますが、自分自身とキャラクターとの恋愛を想像するいわゆる夢女子層や、キャラクター同士の関係性を想像して楽しむ腐女子層、そして二次創作を好む方々が多くいらっしゃる印象です。

『あんスタ!』はキャラクター数が多いということもあり、夢女子と腐女子、両方の性質を持つ方もおられます。夢女子と腐女子、両方の性質を持つユーザーがいるというのは、『あんスタ!』ならではの特徴的な部分なのではないかと考えています。

 

--確かに、夢女子と腐女子、両方の性質を持つユーザーさんがいる女性向けコンテンツというのは珍しいと思います。

このキャラクターは夢向き、このキャラクターはBL向きといった形に、キャラクターごと違った属性を持っているようです。

--キャラクター毎の属性が、それぞれターゲットユーザーが違った形になっているのですね。Happy Elementsさんとしては、『あんスタ!』のキャラクターが多いことが起因して、夢女子と腐女子、両方の性質を持つユーザーさんが存在していると認識しているわけですね。

そのようですね。


--続いて2016年を振り返り、『あんスタ!』においての特徴的な取り組みをお聞かせください。

グッズ化、ユニットソングCDの販売、舞台化、コミカライズ、ノベライズ、サンリオピューロランドとのコラボレーション等、様々な施策を実施しました。

サンリオピューロランドとのコラボレーションでは、ゲーム内にサンリオピューロランドを登場させ、「流星隊」のメンバーとハローキティがコラボしたストーリーを展開しました。さらに、現実世界のサンリオピューロランドで『あんさんぶるスターズ!-流星隊-inサンリオピューロランド』というリアルステージイベントを実施しました。このステージでは、サンリオのキャラクターと「流星隊」の声優陣によるトークイベントを行いました。

 

こういったイベントはサンリオさんの方でもあまり実施したことがないとお話されていました。キティちゃんと『あんスタ!』の流星隊のメンバーがゲーム内で掛け合いをするのですが、そういったアプリ内の施策ももちろん、アプリの中だけでなく、リアルイベントでもその光景を目の当たりにできるイベントは、多くの方々からご好評いただきました。


--サンリオピューロランドのコラボレーションは、Happy Elementsさんからご提案した形ですか?

そうですね。我々から提案させていただき、サンリオさんにご協力いただいた形になりました。

また、その他にも様々な施策を行いました。変わった所でお話ししますと、カプセルホテル「秋葉原BAY HOTEL」とのコラボレーションが挙げられます。こちらは、「秋葉原BAY HOTEL」内に『あんスタ!』のコラボルームを設置し、キャラクターが描かれたアメニティグッズの他、客室がコラボルーム仕様になったり、ファン同士が交流できる専用スペースを用意するというようなものです。

 

--かなり変わったコラボレーションかと思われますが、こちらはどういった意図で実施するに至ったのでしょうか?

先方からご提案をいただいたのがきっかけになります。カプセルホテルといっても、従来のサラリーマンが利用するようなものではなく、女性をターゲットにした綺麗なホテルです。ホテルコラボに関しては、エンターテイメントコンテンツにおいて様々な事例があると思いますが、高額な価格が設定されていることが多く、気軽に利用できないことが多い印象でした。『あんスタ!』でのホテルコラボでは、カプセルホテルでの実施ということで、比較的安い値段で泊まることができ、さらに昨今流行っている女性向けのカプセルホテルということで、新しい取り組みとして面白いのではないかと考えました。

先ほどお話ししたサンリオとのコラボレーションもそうですし、このカプセルホテルのコラボレーションも、リアルとバーチャルの世界がつながるようなコラボレーションは珍しいのではないかと思います。



--様々なコラボレーションやメディアミックスを行っていることをご紹介いただきましたが、そんな中でのメリットやデメリットをお聞かせいただけますか?

メリットは、やはりゲームだけでなく様々な場所、機会において『あんスタ!』というコンテンツを楽しんでいただける場を用意できたということがあげられます。スマホゲームだけで展開するのではなく、コンテンツの総合力を高めていきたいと考えています。ゲームが発祥ではありますが、様々な展開によって『あんスタ!』というコンテンツをより楽しんでいただけるようにしていきたいです。

デメリットという点では、コンテンツが大きくなるにつれて、不注意・認識不足でいわゆる”炎上”をしてしまうリスクがどんどん高まっていることです。例えば、グッズ販売の際には、沢山のユーザーさんが殺到してものすごい行列ができるようなことも多く、しっかりとした準備や対応する体制が必要になります。徹夜の行列に関するルールの考慮不足とか、列整備がしっかり出来なかったとか、商品が全然足らなかったということが起きてしまうと、もちろんユーザーさんに迷惑をかけてしまいますし、コンテンツの評価にも関わってしまいます。『あんスタ!』のメディアミックス展開は沢山の会社様の協力を得て行っているのですが、各社様としっかり連携して、不注意・認識不足が起こらないようにしないといけないという認識を強く持っています。



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--ゲーム以外で実施したコラボレーションやメディアミックスで、ゲームへの影響があったということは有りますか?例えばゲームの売り上げが上がったなど、ユーザー数が如実に増えた、などで。

売り上げやユーザー数といった数字で、直接的にコラボレーションやメディアミックスの効果を図ることは難しいですね。コラボレーションやメディアミックスで売り上げが上がったかどうか、ユーザー数が増えたかどうかというようなことはあまり考えず、世間での反響や既存ファンの満足度を重視して企画しています。そういうものはどうしても数値化が難しいのですが、ユーザーさんのSNS等での反響は非常に気にしています。

また、我々が運営している他の男性向けのタイトルと比較して、『あんスタ!』は継続率が非常に高い傾向にあります。女性向けのゲームがまだそれほど多くないということもあるかとは思うのですが、メディアミックスやコラボレーションも影響しているのではないかとは考えています。

--数々のコラボレーションやメディアミックスに関してゲーム内の数値におけるKPIは設定していないということですか?

そうですね。ただ、定期的に盛り上がりを作ろうと意識して様々な施策を計画しています。

--ゲームアプリにおいて、売り上げやユーザー数というのは継続するにあたり大事な数値だと個人的には思っているのですが、それらへの影響があまり考えられないコラボレーション、メディアミックスを実施するのはどのような意図があるのでしょうか。

先ほどもお話しした通りコンテンツの総合力を高め、他のスマホ競合コンテンツとの差別化を行っていきたいという狙いがあります。

『あんスタ!』の舞台版である『あんさんぶるスターズ! on Stage!』を昨年の6月に第1弾、そして現在第2弾を上演しております。これは実際に体験してみないとわからないと思いますが、私自身も観劇し「舞台上で『あんスタ!』のキャラクター達がアイドルしている」ことを感じることができました。


--確かに、ゲームの世界観に厚みが増し、ユーザーさんの『あんスタ!』に対する想像の余地も広がると思われます。

舞台に関しては『あんスタ!』のスタッフも多数観劇し、泣いている人もいました。ストーリーは『あんスタ!』のメインストーリーに沿ったものですので、スタッフにとってはすでによく知っている展開であるはずなのですが、やはり目の前で実際に体験する経験はコンテンツをより深いものにします。


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--では、これまで2016年のことを振り返っていただきましたが、今年の2017年、Happy Elementsさんからみた女性向けコンテンツはどのようになっていくのかという予想をお聞かせいただけますでしょうか?

やはり、女性向けのアイドルを題材にしたコンテンツの戦いが熾烈になっていくと思われます。ブロッコリー<2706>さんとKLab<3656>さんの『うたプリ』のアプリも発表されていますし、これからもリリース当初からアニメ化等の大型メディアミックスが決定しているといった、大きなプロジェクトのコンテンツが次々と発表されるのではないかと考えいます。沢山の新作が出てくることで、より女性向けアイドルコンテンツが賑やかになっていくのは確実でしょう。


--それを踏まえた上で、『あんスタ!』に関する2017年の展望をお聞かせください。

2017年も、引き続き様々なコラボレーションやメディアミックスを行う予定です。

2015年にすでに発表していますが、アニメ化も予定しています。アニメ化に関しては2015年の年末に発表した後、2016年には何も追加情報を発表できておらず、期待していただいている皆様には大変申し訳なく思っています。我々もこのアニメ化に関しては大きなプレッシャーを感じていて、沢山の方に喜んでいただけるようなものを提供するために試行錯誤を重ねているため、どうしても時間がかかっています。

 

また、『あんスタ!』はアイドルを題材にしたコンテンツということで、アイドルならではコラボレーション、メディアミックス、特に音楽の部分を強化していきたいと考えています。
 

音楽関連の取り組みの強化の一環として、先日アプリ2周年記念の企画として「MV化権利争奪 ユニットソング投票」を実施しました。こちらは、最初にミュージックビデオ(MV)を制作するユニットソングを決める投票で、1位に選ばれた楽曲のMVを2周年のタイミングで公開するというものでした。MVについても、公式として提供する以上は沢山の方に喜んでいただけるようなものにしたいと考えているため、1曲制作するのに非常に時間がかかってしまいます。そこで、まず一番最初にMVを制作するユニットソングを投票で決定させていただいたのですが、今回選ばれたTrickstarのRebellion Starだけでなく、時間はかかると思いますが順次全ユニットについてこういった展開をしていきたいと考えています。

他にも様々な取り組みによってより多くの新しいユーザーさんに『あんスタ!』を届けるとともに、『あんスタ!』を支えてくださっている既存のユーザーさんにも楽しんでいただけるような施策についても実施していければと思います。



--ありがとうございました。



■『あんさんぶるスターズ!』
 

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