ドリコム<3793>は、去る2月3日、2017年3月期の第3四半期累計(4~12月)の連結決算を発表、売上高56億7600万円(前年同期比16.1%増)、営業利益5億1400万円(前年同期3億1900万円の赤字)、経常利益4億5000万円(同3億2200万円の赤字)、四半期純利益4億1700万円(同6億8900万円の赤字)と大幅な黒字転換となった(関連記事)。
また、同社は2018年3月までに7~8本のIP(知的財産権)タイトルをリリース予定だ。直近では、2016年11月にリリースした『ダービースタリオン マスターズ(以下、ダビマス)』の第3四半期の売上が7億4000万円と、垂直立ち上がりを見せ、年明け1月の月次売上速報は4億5000万円となり、好調に推移している。
その一方で、広告・メディア分野においても様々な新規事業を立ち上げており、「with entertainment」というキーワードの下に、「人々の期待を超える」もの作りを続けている注目の企業だ。
そこで本稿では、『ダビマス』のサービスを支える2名のエンジニアから話を伺い、同作の開発秘話を皮切りに、ドリコムの開発環境、業務で大切にしていること、求めている人物像などについてインタビューを実施した。
株式会社ドリコム
Webアーキテクト部長
神谷 健 氏(写真右)
プロダクト本部
ゲームプロダクト部
西村 拓也 氏(写真左)
――:本日はよろしくお願いします。おふたりは先日開催されたドリコム主催のエンジニア向け勉強会「Drecom Tech Espresso」でもご登壇されていましたが、改めて現在のご担当から教えてください。
神谷健氏(以下、神谷):現在は『ダビマス』チームでプロジェクトマネージャー兼エンジニアリーダーを担当しています。実作業としては、サーバサイドのメインエンジニアなど業務は多岐にわたります。
西村拓也氏(以下、西村):私も同じく『ダビマス』チームでクライアントサイドのエンジニアリーダーを担っています。いわゆるゲームプログラマーとしてベースのロジックを組んだり、UI(ユーザインターフェース)を構築したりしています。
――: IP戦略を掲げて以降、その第一弾としてリリースされた『ダビマス』。“名作競馬ゲームを手軽にスマホで遊べる”をコンセプトとして、プロジェクトが発足されたと思いますが、具体的に開発当初の頃からお聞かせください。
神谷:私は開発当初からジョインしました。プロデューサーの金山(『ダビマス』プロデューサー・金山圭輔氏)とは、これまでIPタイトル含めて複数のプロジェクトを長く一緒にやっており、チームの構成も信頼できるメンバーを集めました。そうしたなか、今回クライアントサイドのエンジニアリーダーとして西村を起用しました。
西村:ドリコムに入社してからは2年ぐらいになりますが、これまではオリジナルタイトルを手掛けていました。新規プロジェクトかつリーダーを任された際に、「どういうタイトルをやるのだろう」と思っていましたが、『ダビスタ』(『ダービースタリオン』シリーズ)のスマホゲーム化と聞かされたとき、小さい頃から遊んでいたタイトルだったので素直に嬉しかったのを覚えています。
神谷:そうですね。あの『ダビスタ』を我々が手掛けるということに、もちろんプレッシャーはありましたが、同時に『ダビスタ』をもう一度盛り上げようという想いも強く感じました。
――:スマホゲームに落とし込む際に、ゲームサイクル、デザイン、UIなどプランナー側のほうで考慮すると思いますが、エンジニアのおふたりが特段気を配ったところはありますか。
神谷:気を配ったのは、“つねに『ダビスタ』であることを担保する”ということです。頑張って開発しても、いざリリースしたら「他の競馬ゲームと同じだよね」と思われたらダメなので、そこはコンシューマゲームとしての『ダビスタ』を、どうスマホゲームに落とし込むかと気を付けていきました。
ソーシャルゲームとしてのサイクルも大事ですが、それ以上に『ダビスタ』であることが重要です。そのため、チーム内のキックオフ・ミーティングやシステムの話し合いの際には、「これは本当に『ダビスタ』なのか」ということを、職種問わず必ずみんなに対して問いかけていました。
――:プランナーが中心に仕様を決めていく流れもありますが、『ダビマス』チームでは職種の垣根を越えて根幹の部分の話し合いも行われたのですね。
神谷:そうですね。たとえば、新要素を入れる際にも当然気を配ります。「この新機能が入ることで、『ダビスタ』であることは変わらないか」などチーム内でのその確認がとても大事でした。チーム内でも『ダビスタ』好きが多いのですが、ミーティングで彼らが「これは『ダビスタ』じゃない!」と言ったら、客観的な意見を考慮してもやっぱり『ダビスタ』ではないんですよ(笑)。
――:版権を持つパリティビット社ともミーティングを重ねたと思います。原作のゲームデータやアルゴリズムも共有されたのでしょうか。
神谷:いえ、ゲームデータやロジックをそのままいただくというよりかは、「どういう理由でそれが起きているか」など意図の本質を聞いて、それに対して我々がどう表現していくべきかを考えていきました。
たとえば、レースのロジックやパラメータの使われ方を聞いて、実際にどう落としこむかは西村のなかで別途消化していく形になります。
――:具体的に西村さんはどのように承ってアウトプットしたのでしょうか。
西村:じつはアドバイスをいただいた言葉をもとに作ったら、本当に『ダビスタ』っぽくなりました。ですので、ゲーム内容については忠実に再現したところではあります。あとは細かいところでゲームバランスも考慮しながら、今回の『ダビマス』に落としこんでいった流れになります。
――:これまでの話を聞いてみると、開発はわりかしスムーズだったのでしょうか。
神谷:スムーズと言われると語弊はあるかもしれませんが、チーム内で喧嘩はしなかったですね(笑)。つねにベロシティ(作業の進捗速度)が高い状態で、最初から最後まで走り切ったという印象を持っています。
本来プロジェクトというと、山あり谷あり、良い時もあれば悪い時もある、そして悪い時には良くしていくためにチーム内で話し合いが持たれますが、そういうところは特にありませんでした。『ダビマス』チームには、長いことドリコムでコンテンツを手掛けてきた強力なメンバーが揃っているので、阿吽の呼吸で開発を進められたのは強みでしたね。
――:プロジェクト、とくにゲーム開発においては内容が二転三転することもあります。そういう意味では、『ダビマス』に関しては当初のコンセプトからブレが無かったのかなと思います。
神谷:細かいところは多少変わりましたが、基本コンセプトは変更ありませんでした。バランスなどの調整はもちろんありましたが、途中から急遽取り入れた要素はとくになかったです。
まず“『ダビスタ』であること”がしっかりしていたので、我々が実現したい価値を方法論に落とし込むことが中心になりました。一番はプロデューサーの表現したいことがブレなかったのが大きいと思います。
西村:やはりオリジナルタイトルを手掛けていたときの差は、IPタイトルはベースとなるゲームがあることが大きいですね。
――:なるほど。これまで御社は漫画IPのタイトルも手掛けていましたが、思えば漫画IPには決まったゲームシステムはありません。対してゲームIPには、当然その作品ならではの世界観や遊び方、システムがすでに出来上がっていますよね。
西村:ええ。そこがブレないひとつの要因だったと思います。あくまでも「『ダビスタ』ファンに向けて作ろう」というのがチームみんなでの認識でしたので、それは大切に守れたのかなと思います。
――:実際にユーザーからの反響はいかがでしたか。
神谷:かつて『ダビスタ』を遊んでいたファンから受け入れられたのは嬉しかったですね。自分の周囲でも遊んでいる人がいるなど、まさに『ダビスタ』のIP力を感じました。当初予定していたターゲット層には刺さりましたが、今後別のユーザー層にもアプローチできればと思っています。
――:思えば『ダビスタ』らしさは世界観の大切さも考慮しているのかもしれません。たとえば、「100万DL記念 ベストオブ調教師」なんかもまさにそうですね。人気投票があえてのおじさんばかりの調教師ですからね。
神谷:じつは調教師については、性格を大事にしているんですよ。
▲100万DLを記念したキャンペーン
――:性格ですか。馬の育成にも関わるキャラクターたちのため、本来プランナーがパラメータなどロジックを決めて、おふたりに落ちてくるものではないのでしょうか。
神谷:基本ロジックについてはダビスタを踏襲しているので、ロジックの話をするより、我々がどのようなことを実現したいかの会話をするところから始めました。
――:あ、そうなんですね。
神谷:仕組みを作りこむ前に、まずはプランナーが中心になってキャラクターの性格から決めていきました。実際にデータ設定する部分でも、彼らが何を大事にするかを設定するような項目があったりもします。
――:調教師の性格がゲームに反映されているんですね。
神谷:例えば、桐島調教師という身体の弱い馬の育成が上手い調教師がいます。未公開の設定なんですが、彼の幼少期には彼自身の身体が弱かった過去があり、その経験が調教にも影響しているんです。キャラクターの性格・世界観ありきでパラメータや特徴も決まっていきました。
――:プランナーがレベルデザインを考えたり、バランスを調整したり、ましてや「この調教師はこういうパラメータ」で決めていくのかと思いましたが。
神谷:プランナーと一緒に「こういう性格だったら、こういうふうに動くはず」と相談しながら作っていました。プランナーに全てを任せるのではなく、エンジニア側も一緒になってバランスを考えて行きました。
――:だからこそ、あのキャンペーンにも愛着がわいたのですね。
神谷:そうですね。なぜ千石調教師は勝率に執着するのだろうとか。実際には千石厩舎は重賞レースに出ない確率が一番高いのですが、内部的に重賞レースに出ないというプログラムを組んでいるわけではありません。結果的に出ないのです。彼が大事にしているものを実装したら本当に出ないのだと、自分も作っていて面白味を感じました。
――:何やらシステムで作られたキャラクターというより、ほのかに人情味があふれ出ていますね。
神谷:実在する人間のような作りにしたかったので、今作の調教師に対してはチームみんなで思い入れを持っています。これまでの『ダビスタ』シリーズのなかでも、調教師が一味違うと思います。
西村:この調教師の性格付けは、実際にシナリオまでにも発展しています。今後もこうした取り組みや、新しい調教師なども増えていけば面白いと思います。
――:ここからは少し話題を変えて、おふたりがドリコムに入社した経緯について教えてください。
神谷:私の前の職場は金融系でした。そのため、ドリコムがゲーム業界初となります。正直言うと、ゲームの軸で希望したというよりかは、Rubyに強いエンジニアたちと一緒に仕事をしたいという思いから、ドリコムを選びました。
以前の会社にいるときから、ドリコムはサーバサイドのエンジニアリングが強いと意識していました。自分が使っている技術も、ドリコムは早い段階から導入しており、若干のライバル視もしていました(笑)。そうした技術力の高さと、優秀なエンジニアたちと仕事ができる期待感もあり、ドリコムを志望しました。
――:西村さんはいかがですか。
西村:私は前の会社でもソーシャルゲーム事業に携わっていました。いざ転職を考える際に、当時専門学校の講師を務めていた繋がりにより、ドリコムにエントリーしたのが始まりです。実際に面接などで話を聞いていくと、当時はネイティブシフトの流れもあって、コンシューマゲーム開発の経験者を募集しており、自分も力になれるのではないかと思いドリコムに決めました。
――:金融出身、コンシューマゲーム開発の経験者。御社ならではのスタッフの特徴などはありますか。
神谷:個人的な印象としては、有名なタイトルを手掛けたレジェンド級のクリエイターたちがいるのが特徴です。ほかのゲームのことを話していると「あ、それ昔作っていました」という人がたくさんいますので、ドリコムではほかのゲームを批判するのはやめましょう(笑)。
西村:そうですね(笑)。コンシューマ経験者は多いです。今後3Dのゲームも手掛けていかなければならないので、当時のハイエンド開発に携わった方たちも加入しています。そういう意味では、クライアントサイドのエンジニアから見ると、開発体制も強固なものになってきたという印象を持っています。
――:ドリコムの開発環境としてはいかがですか。
西村:コンシューマゲームの開発から見比べると、ドリコムはウォーターフォール開発ではなく、アジャイルのスクラム開発が中心ですね。どうしてもプログラマーは作業者になりやすい部分がありますが、ドリコムの開発環境は職種間問わずみんなで意見を出し合ったり、確認したりと、チームメンバーで手掛けているコンテンツの価値をしっかり理解し、共有しあえるのが大きいと思います。
神谷:西村が言ったように、アジャイルのスクラム開発に関しては、ドリコムはノウハウがあると思っています。私はウォーターフォール開発に対して辛い思い出しかなく、失敗したときに取り戻すのが大変なのが多々あります。一方でドリコムでは1週間単位でスプリントを組むことが多く、何らかの問題が発生してもすぐに軌道修正することが可能で、無駄のない開発サイクルがあるのが特徴です。
――:それでは、おふたりが一緒に働きたいと思える人物像について教えてください。
西村:スクラム開発のため、どうしてもほかの職種の方とのコミュニケーションは多くなってきます。そのときに、しっかりとキャッチボールしながら業務を進められるのかは重要です。どうしてもプログラマーは作業者になりがちですが、他職種の目線やユーザーサイドからの目線を持ちながら、口頭ベースのコミュニケーションをしたうえで内容を擦り合わしていくのが大事だと思っています。
神谷:私は基本的なことがきちんとできる方を募集しています。ここでいう“基本的な”というのは、大前提として「自分が作りたいものを作っておしまい」というのではなくて、ユーザーさんのほうを向いて何を求められているのかを考えるということです。
コードを書くうえでも、本質を理解しながら書くのと、ただ「動くからいいや」と書くのでは全く違います。CPUやメモリがどう使われているのかなど、きちんと意識してコードを書けることはとても大事です。ユーザーさんのことを第一に考えれば、ただ動かすのではなく、快適に遊んでもらうために、レスポンスタイムをどれだけ削れるかをこだわるなど、自然にこうした考えに行き着くと思います。スキルも大事ですが、ユーザーさんに楽しんでもらうための思想・本質のところも重要だと思っています。
――:それでは、最後に今後の展望について教えてください。
西村:『ダビマス』を通じて、実際の競馬にも貢献できるよう、ゲーム内を盛り上げていきたいと思います。『ダビマス』をきっかけに実際の競馬場に訪れたり、競馬から『ダビマス』を遊び始めてくれたりと、相互の盛り上がりに努めていき、すでに遊んでくれている方たちには、少しでも長く遊んでもらうためのタイトルにしていきます。
神谷:そうですね。まだリーチ出来ていないターゲット層のユーザーさんもいらっしゃいますので、そこに今後どうアプローチしていくのかがとてもやりたいことではあります。
そしてサーバサイドのエンジニアとしては、とにかくサクサク遊べることを大事にしています。もっと追及して、どのアプリにも負けないほどのゲーム体験を構築していきたいと思います。より利便性に長けたサービスを提供してまいります。
――:本日はありがとうございました。
■エンジニア向け勉強会「Drecom Tech Espresso」
レポート記事(前編):http://gamebiz.jp/?p=180540
レポート記事(後編):http://gamebiz.jp/?p=180543
また、同社は2018年3月までに7~8本のIP(知的財産権)タイトルをリリース予定だ。直近では、2016年11月にリリースした『ダービースタリオン マスターズ(以下、ダビマス)』の第3四半期の売上が7億4000万円と、垂直立ち上がりを見せ、年明け1月の月次売上速報は4億5000万円となり、好調に推移している。
その一方で、広告・メディア分野においても様々な新規事業を立ち上げており、「with entertainment」というキーワードの下に、「人々の期待を超える」もの作りを続けている注目の企業だ。
そこで本稿では、『ダビマス』のサービスを支える2名のエンジニアから話を伺い、同作の開発秘話を皮切りに、ドリコムの開発環境、業務で大切にしていること、求めている人物像などについてインタビューを実施した。
株式会社ドリコム
Webアーキテクト部長
神谷 健 氏(写真右)
プロダクト本部
ゲームプロダクト部
西村 拓也 氏(写真左)
――:本日はよろしくお願いします。おふたりは先日開催されたドリコム主催のエンジニア向け勉強会「Drecom Tech Espresso」でもご登壇されていましたが、改めて現在のご担当から教えてください。
神谷健氏(以下、神谷):現在は『ダビマス』チームでプロジェクトマネージャー兼エンジニアリーダーを担当しています。実作業としては、サーバサイドのメインエンジニアなど業務は多岐にわたります。
西村拓也氏(以下、西村):私も同じく『ダビマス』チームでクライアントサイドのエンジニアリーダーを担っています。いわゆるゲームプログラマーとしてベースのロジックを組んだり、UI(ユーザインターフェース)を構築したりしています。
――: IP戦略を掲げて以降、その第一弾としてリリースされた『ダビマス』。“名作競馬ゲームを手軽にスマホで遊べる”をコンセプトとして、プロジェクトが発足されたと思いますが、具体的に開発当初の頃からお聞かせください。
神谷:私は開発当初からジョインしました。プロデューサーの金山(『ダビマス』プロデューサー・金山圭輔氏)とは、これまでIPタイトル含めて複数のプロジェクトを長く一緒にやっており、チームの構成も信頼できるメンバーを集めました。そうしたなか、今回クライアントサイドのエンジニアリーダーとして西村を起用しました。
西村:ドリコムに入社してからは2年ぐらいになりますが、これまではオリジナルタイトルを手掛けていました。新規プロジェクトかつリーダーを任された際に、「どういうタイトルをやるのだろう」と思っていましたが、『ダビスタ』(『ダービースタリオン』シリーズ)のスマホゲーム化と聞かされたとき、小さい頃から遊んでいたタイトルだったので素直に嬉しかったのを覚えています。
神谷:そうですね。あの『ダビスタ』を我々が手掛けるということに、もちろんプレッシャーはありましたが、同時に『ダビスタ』をもう一度盛り上げようという想いも強く感じました。
――:スマホゲームに落とし込む際に、ゲームサイクル、デザイン、UIなどプランナー側のほうで考慮すると思いますが、エンジニアのおふたりが特段気を配ったところはありますか。
神谷:気を配ったのは、“つねに『ダビスタ』であることを担保する”ということです。頑張って開発しても、いざリリースしたら「他の競馬ゲームと同じだよね」と思われたらダメなので、そこはコンシューマゲームとしての『ダビスタ』を、どうスマホゲームに落とし込むかと気を付けていきました。
ソーシャルゲームとしてのサイクルも大事ですが、それ以上に『ダビスタ』であることが重要です。そのため、チーム内のキックオフ・ミーティングやシステムの話し合いの際には、「これは本当に『ダビスタ』なのか」ということを、職種問わず必ずみんなに対して問いかけていました。
――:プランナーが中心に仕様を決めていく流れもありますが、『ダビマス』チームでは職種の垣根を越えて根幹の部分の話し合いも行われたのですね。
神谷:そうですね。たとえば、新要素を入れる際にも当然気を配ります。「この新機能が入ることで、『ダビスタ』であることは変わらないか」などチーム内でのその確認がとても大事でした。チーム内でも『ダビスタ』好きが多いのですが、ミーティングで彼らが「これは『ダビスタ』じゃない!」と言ったら、客観的な意見を考慮してもやっぱり『ダビスタ』ではないんですよ(笑)。
――:版権を持つパリティビット社ともミーティングを重ねたと思います。原作のゲームデータやアルゴリズムも共有されたのでしょうか。
神谷:いえ、ゲームデータやロジックをそのままいただくというよりかは、「どういう理由でそれが起きているか」など意図の本質を聞いて、それに対して我々がどう表現していくべきかを考えていきました。
たとえば、レースのロジックやパラメータの使われ方を聞いて、実際にどう落としこむかは西村のなかで別途消化していく形になります。
――:具体的に西村さんはどのように承ってアウトプットしたのでしょうか。
西村:じつはアドバイスをいただいた言葉をもとに作ったら、本当に『ダビスタ』っぽくなりました。ですので、ゲーム内容については忠実に再現したところではあります。あとは細かいところでゲームバランスも考慮しながら、今回の『ダビマス』に落としこんでいった流れになります。
――:これまでの話を聞いてみると、開発はわりかしスムーズだったのでしょうか。
神谷:スムーズと言われると語弊はあるかもしれませんが、チーム内で喧嘩はしなかったですね(笑)。つねにベロシティ(作業の進捗速度)が高い状態で、最初から最後まで走り切ったという印象を持っています。
本来プロジェクトというと、山あり谷あり、良い時もあれば悪い時もある、そして悪い時には良くしていくためにチーム内で話し合いが持たれますが、そういうところは特にありませんでした。『ダビマス』チームには、長いことドリコムでコンテンツを手掛けてきた強力なメンバーが揃っているので、阿吽の呼吸で開発を進められたのは強みでしたね。
――:プロジェクト、とくにゲーム開発においては内容が二転三転することもあります。そういう意味では、『ダビマス』に関しては当初のコンセプトからブレが無かったのかなと思います。
神谷:細かいところは多少変わりましたが、基本コンセプトは変更ありませんでした。バランスなどの調整はもちろんありましたが、途中から急遽取り入れた要素はとくになかったです。
まず“『ダビスタ』であること”がしっかりしていたので、我々が実現したい価値を方法論に落とし込むことが中心になりました。一番はプロデューサーの表現したいことがブレなかったのが大きいと思います。
西村:やはりオリジナルタイトルを手掛けていたときの差は、IPタイトルはベースとなるゲームがあることが大きいですね。
――:なるほど。これまで御社は漫画IPのタイトルも手掛けていましたが、思えば漫画IPには決まったゲームシステムはありません。対してゲームIPには、当然その作品ならではの世界観や遊び方、システムがすでに出来上がっていますよね。
西村:ええ。そこがブレないひとつの要因だったと思います。あくまでも「『ダビスタ』ファンに向けて作ろう」というのがチームみんなでの認識でしたので、それは大切に守れたのかなと思います。
――:実際にユーザーからの反響はいかがでしたか。
神谷:かつて『ダビスタ』を遊んでいたファンから受け入れられたのは嬉しかったですね。自分の周囲でも遊んでいる人がいるなど、まさに『ダビスタ』のIP力を感じました。当初予定していたターゲット層には刺さりましたが、今後別のユーザー層にもアプローチできればと思っています。
――:思えば『ダビスタ』らしさは世界観の大切さも考慮しているのかもしれません。たとえば、「100万DL記念 ベストオブ調教師」なんかもまさにそうですね。人気投票があえてのおじさんばかりの調教師ですからね。
神谷:じつは調教師については、性格を大事にしているんですよ。
▲100万DLを記念したキャンペーン
――:性格ですか。馬の育成にも関わるキャラクターたちのため、本来プランナーがパラメータなどロジックを決めて、おふたりに落ちてくるものではないのでしょうか。
神谷:基本ロジックについてはダビスタを踏襲しているので、ロジックの話をするより、我々がどのようなことを実現したいかの会話をするところから始めました。
――:あ、そうなんですね。
神谷:仕組みを作りこむ前に、まずはプランナーが中心になってキャラクターの性格から決めていきました。実際にデータ設定する部分でも、彼らが何を大事にするかを設定するような項目があったりもします。
――:調教師の性格がゲームに反映されているんですね。
神谷:例えば、桐島調教師という身体の弱い馬の育成が上手い調教師がいます。未公開の設定なんですが、彼の幼少期には彼自身の身体が弱かった過去があり、その経験が調教にも影響しているんです。キャラクターの性格・世界観ありきでパラメータや特徴も決まっていきました。
――:プランナーがレベルデザインを考えたり、バランスを調整したり、ましてや「この調教師はこういうパラメータ」で決めていくのかと思いましたが。
神谷:プランナーと一緒に「こういう性格だったら、こういうふうに動くはず」と相談しながら作っていました。プランナーに全てを任せるのではなく、エンジニア側も一緒になってバランスを考えて行きました。
――:だからこそ、あのキャンペーンにも愛着がわいたのですね。
神谷:そうですね。なぜ千石調教師は勝率に執着するのだろうとか。実際には千石厩舎は重賞レースに出ない確率が一番高いのですが、内部的に重賞レースに出ないというプログラムを組んでいるわけではありません。結果的に出ないのです。彼が大事にしているものを実装したら本当に出ないのだと、自分も作っていて面白味を感じました。
――:何やらシステムで作られたキャラクターというより、ほのかに人情味があふれ出ていますね。
神谷:実在する人間のような作りにしたかったので、今作の調教師に対してはチームみんなで思い入れを持っています。これまでの『ダビスタ』シリーズのなかでも、調教師が一味違うと思います。
西村:この調教師の性格付けは、実際にシナリオまでにも発展しています。今後もこうした取り組みや、新しい調教師なども増えていけば面白いと思います。
――:ここからは少し話題を変えて、おふたりがドリコムに入社した経緯について教えてください。
神谷:私の前の職場は金融系でした。そのため、ドリコムがゲーム業界初となります。正直言うと、ゲームの軸で希望したというよりかは、Rubyに強いエンジニアたちと一緒に仕事をしたいという思いから、ドリコムを選びました。
以前の会社にいるときから、ドリコムはサーバサイドのエンジニアリングが強いと意識していました。自分が使っている技術も、ドリコムは早い段階から導入しており、若干のライバル視もしていました(笑)。そうした技術力の高さと、優秀なエンジニアたちと仕事ができる期待感もあり、ドリコムを志望しました。
――:西村さんはいかがですか。
西村:私は前の会社でもソーシャルゲーム事業に携わっていました。いざ転職を考える際に、当時専門学校の講師を務めていた繋がりにより、ドリコムにエントリーしたのが始まりです。実際に面接などで話を聞いていくと、当時はネイティブシフトの流れもあって、コンシューマゲーム開発の経験者を募集しており、自分も力になれるのではないかと思いドリコムに決めました。
――:金融出身、コンシューマゲーム開発の経験者。御社ならではのスタッフの特徴などはありますか。
神谷:個人的な印象としては、有名なタイトルを手掛けたレジェンド級のクリエイターたちがいるのが特徴です。ほかのゲームのことを話していると「あ、それ昔作っていました」という人がたくさんいますので、ドリコムではほかのゲームを批判するのはやめましょう(笑)。
西村:そうですね(笑)。コンシューマ経験者は多いです。今後3Dのゲームも手掛けていかなければならないので、当時のハイエンド開発に携わった方たちも加入しています。そういう意味では、クライアントサイドのエンジニアから見ると、開発体制も強固なものになってきたという印象を持っています。
――:ドリコムの開発環境としてはいかがですか。
西村:コンシューマゲームの開発から見比べると、ドリコムはウォーターフォール開発ではなく、アジャイルのスクラム開発が中心ですね。どうしてもプログラマーは作業者になりやすい部分がありますが、ドリコムの開発環境は職種間問わずみんなで意見を出し合ったり、確認したりと、チームメンバーで手掛けているコンテンツの価値をしっかり理解し、共有しあえるのが大きいと思います。
神谷:西村が言ったように、アジャイルのスクラム開発に関しては、ドリコムはノウハウがあると思っています。私はウォーターフォール開発に対して辛い思い出しかなく、失敗したときに取り戻すのが大変なのが多々あります。一方でドリコムでは1週間単位でスプリントを組むことが多く、何らかの問題が発生してもすぐに軌道修正することが可能で、無駄のない開発サイクルがあるのが特徴です。
――:それでは、おふたりが一緒に働きたいと思える人物像について教えてください。
西村:スクラム開発のため、どうしてもほかの職種の方とのコミュニケーションは多くなってきます。そのときに、しっかりとキャッチボールしながら業務を進められるのかは重要です。どうしてもプログラマーは作業者になりがちですが、他職種の目線やユーザーサイドからの目線を持ちながら、口頭ベースのコミュニケーションをしたうえで内容を擦り合わしていくのが大事だと思っています。
神谷:私は基本的なことがきちんとできる方を募集しています。ここでいう“基本的な”というのは、大前提として「自分が作りたいものを作っておしまい」というのではなくて、ユーザーさんのほうを向いて何を求められているのかを考えるということです。
コードを書くうえでも、本質を理解しながら書くのと、ただ「動くからいいや」と書くのでは全く違います。CPUやメモリがどう使われているのかなど、きちんと意識してコードを書けることはとても大事です。ユーザーさんのことを第一に考えれば、ただ動かすのではなく、快適に遊んでもらうために、レスポンスタイムをどれだけ削れるかをこだわるなど、自然にこうした考えに行き着くと思います。スキルも大事ですが、ユーザーさんに楽しんでもらうための思想・本質のところも重要だと思っています。
――:それでは、最後に今後の展望について教えてください。
西村:『ダビマス』を通じて、実際の競馬にも貢献できるよう、ゲーム内を盛り上げていきたいと思います。『ダビマス』をきっかけに実際の競馬場に訪れたり、競馬から『ダビマス』を遊び始めてくれたりと、相互の盛り上がりに努めていき、すでに遊んでくれている方たちには、少しでも長く遊んでもらうためのタイトルにしていきます。
神谷:そうですね。まだリーチ出来ていないターゲット層のユーザーさんもいらっしゃいますので、そこに今後どうアプローチしていくのかがとてもやりたいことではあります。
そしてサーバサイドのエンジニアとしては、とにかくサクサク遊べることを大事にしています。もっと追及して、どのアプリにも負けないほどのゲーム体験を構築していきたいと思います。より利便性に長けたサービスを提供してまいります。
――:本日はありがとうございました。
(取材・文:Pick UPs! 原孝則<Twitter>)
(撮影:TAESOO KANG)
(撮影:TAESOO KANG)
■エンジニア向け勉強会「Drecom Tech Espresso」
レポート記事(前編):http://gamebiz.jp/?p=180540
レポート記事(後編):http://gamebiz.jp/?p=180543
会社情報
- 会社名
- 株式会社ドリコム
- 設立
- 2001年11月
- 代表者
- 代表取締役社長 内藤 裕紀
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高97億7900万円、営業利益9億300万円、経常利益7億9300万円、最終利益1億400万円(2024年3月期)
- 上場区分
- 東証グロース
- 証券コード
- 3793