【インタビュー】「参入企業にはビジネスになる環境を」「技術情報は惜しまず出す」 ドリコム内藤社長が語る新ブラウザPF「enza」の狙い
バンダイナムコエンターテインメントとドリコム<3793>の合弁会社、株式会社BXD(以下、BXD)が先に新プラットフォーム「enza(以下、エンザ)」のメディア向け体験会を開催した。体験会では、『ドラゴンボールZ ブッチギリマッチ』『アイドルマスター シャイニーカラーズ』『プロ野球 ファミスタ マスターオーナーズ』各タイトルの内容発表と併せて、各タイトルの試遊を実施した。
体験会を終えてメディアや業界関係者からの反響はどうだったのか。そして、プラットフォームで提供するサービスの内容や狙い、プラットフォームへのサードパーティの参入について、BXDの取締役であり、ドリコムの代表取締役社長でもある内藤裕紀氏(写真)にインタビューを行った。
――:まず、体験会を終えての感想は。
皆様にきちんと動く状態でお披露目できてよかったのですが、終えてみると、緊張感がより高まった、というのが本音です。使用する端末を比較的新しいOSを搭載した機種に絞って、Wi-Fi通信環境下のみでしたが、ストレスなく遊べる状態で提供できたことが良かったと思っています。
実は1、2カ月前だと、メモリが一杯でブラウザが落ちてしまうことがありましたが、開発チームの頑張りもあり、体験会に間に合わせることができました。いずれは古い端末でも同じくらいスムースに遊べるようにしたいですし、通信環境もWi-Fiだけでなく、4Gはもちろん、3Gでもできるようにしたいですね。
――:3タイトルとも試遊してみましたが、本当によくできていると感じました。
以前もお話しましたが、アドレスバーがなかったらネイティブのアプリと変わらないと感じられるくらいまで仕上がっていると思います。「ブラウザでここまで出来るんだ」という反応がいただけて嬉しいです。われわれの知る限り、グローバルでも、ブラウザでここまでスムースに動かしているサービスはないのではないかと思っています。
――:体験会ではブラウザゲームと思ってきてみたら、リッチなので驚いていた人も多かったですね。
そういう反応をお聞き出来て嬉しいです。「なんだ、以前のようなブラウザゲームの延長じゃないか」と思われることも少し心配していました。タップするだけのゲームと思っていた方もいらしたはずです。
■ゲームから離れてしまったユーザーを呼び戻したい
――:あらためてなぜ立ち上げようと思ったのでしょうか。
最初は社内で技術研究のプロジェクトが、私を含めた数人でスタートしました。目的としては、先日の記事でも触れていただきましたが、やはりゲーム人口の拡大です。ネイティブアプリで遊んでいて離れてしまった方が友だちを誘ってもう一度遊び始めてもらいたいと考えていました。ゲームで遊んでいただける方を増やしたいという考えです。SNSなどでURLを送って、リアルな友だちとすぐに一緒にゲームで遊べる環境を提供するための手段としてブラウザを選択しました。
――:ネイティブアプリの容量が大きくなり、ダウンロードがちょっとした負担となってきました。またゲームも複雑なものが増えてきて、手軽に遊べるものが減ってきたのではないかと感じています。「エンザ」ではこうした状況を打破してくれるのではないかと期待しています。
ゲーム産業の歴史を見ると、いつも同じ道をたどっています。新しいプラットフォームが出てくると、ユーザーさんが集まってきて、しばらくすると目新しさがなくなってきて新規ユーザーさんが減ってくる。そこで1本あたりの売れる本数が減ってきて、タイトルが徐々にコアになって客単価を引き上げるようになる。ゲームも難しくなってくるので、ライトなユーザーさんが離れてしまう。そして再びライトなユーザーさんも楽しめる新しいハードが出てきて……というサイクルを繰り返しています。
ネイティブアプリもそのフェーズに来ていると考えています。コアなゲームが増えてきて、ゲームの内容が難しくなり、1人あたりのLTV(顧客生涯価値)の高いモデルに移行してきました。アジア系のモデルが受けているのはそうした流れを受けてのものでだと考えますし、MMOやMOが増えているのもそうした背景からです。
そこでライトなユーザーさんが入ってくるにはどうしたらいいかと考えた時、URL一つで遊べる、実際に目の前の人とすぐに遊べるようにするのが良いのではないかという仮説を立てて動いています。ユーザーさんからすると、新しいプラットフォームというより、「ドラゴンボールやアイドルマスターの新作が出たので遊ぶ」となるのでは、と思っています。
――:バンダイナムコグループと組んだ意義はどういった点にあるのでしょうか。
当社と同じく、ちょうどバンダイナムコグループさんでもHTML5を使ったゲームの可能性を模索している状況にありました。
BXDを立ち上げた意義はとても大きいと思っています。新しいサービスといっても、全く新しいオリジナルキャラクターを使っているとユーザーさんにとって魅力は限定的になると思いますが、バンダイナムコグループさんの取り扱っている知名度のある人気IPが遊べるとなると、「少し遊んでみようかな」と考える方も多いはずです。
体験会でも触れましたが、バンダイナムコグループさんの充実した課金システムがあるのもかなり大きいことだと思っています。課金の手段が増えるほど課金率が上がる傾向はGREEやMobageでもみられました。
――:課金システムを一から作るのは大変ですよね。
はい。バンダイナムコグループさんの特徴としては、リアルとの連動が挙げられます。バンダイナムコグループさんはコンビニやスーパーなどにお菓子やグッズなどで提供しています。それらと連動することで、リアルに目に触れる機会が増え、話題になりやすいです。例えばコンビニでジュースを買ったら、そこに書いてあるコードを入れて一緒に対戦することなどが可能です。こういった点からも、このサービスを展開する上での最良の組み合わせだと思っています。
■サードパーティにはビジネスとして成功できる環境を
――:当サイトはゲーム業界の方が多くご覧になっていますが、気になるのはサードパーティの参入に関してです。サービス立ち上げ直後は提供本数をそんなに多くしない、というお話でしたが、その方針は変わらず、ですか。
サービス開始直後は、広くオープンに募集することはしません。月間の流通金額とユーザー数の伸びに合わせてサードパーティの作品を少しずつ増やしたいと考えています。提供本数を増やすことでユーザー数は増えるのでしょうが、1タイトルあたりの売上が絶対的に小さくなる可能性があります。
また、参入される会社さんにとって、ビジネスとして成功する形にしないと、入っていただく意味がないと思います。ですので、収益の分散を防ぐ観点から、いまお話している会社さんとは、エンザ上で提供するタイトルは他では出していないものであることを条件としています。ユーザーさんとの関係についても、このゲームは他にはないから「エンザ」にくる、という関係を作りたいのです。先日の体験会でもブラウザで出したゲームをネイティブに出すのかと聞かれましたが、そういう考えはありません。ネイティブからの移植はNGというのが基本的な方針です。
加えて、新規開発でそれだけ投資していただかないといけないので、それに見合ったリターンを出せるようにするためには、本数を絞る必要があります。
現状、想定しているサードパーティの参入にあたっての障壁としては、SDK(ソフトウェア開発キット)のレベルの向上が挙げられます。提供するSDKのレベルを上げなければ、独自に技術的にキャッチアップするのは少し難易度が高いなと思っています。
――:SDKも提供されるのですか。
はい。すでに一部の会社さんには触っていただいています。ネイティブアプリは60フレームレートで動いていますが、UnityやCocosで作ってもせいぜい30フレームレートほどしか出ませんでした。60フレームレートを出すにはSDKを独自で作って出す必要があると判断しました。
コンシューマーゲームでもみられたことですが、プラットフォーマーがハードウェアの性能を引き上げた時、ディベロッパーが技術的についていけないということが起こりました。ディベロッパー向けのツールがどれだけできているかによって、サードパーティの参入度合いが変わるわけです。当社でもそういった意味でツールの提供が必要不可欠かと思っています。
SDK以外には、課金環境や分析環境も用意しています。
――:たしかにネイティブともだいぶ違った技術を使いますよね。
違いますね。特にフロント側で必要とされる技術の難易度が高いかと思っています。『ドラゴンボールZ ブッチギリマッチ』ではリアルタイム対戦をやりますが、スマートフォンのブラウザでここまでリアルタイムでデータのやりとりをするサービスはないんです。技術的な部分でもサポートしていきたいと思っています。
コンテンツとしては3D以外のものはほぼやっています。3Dはいまの端末では難しいのと、あえて導入する必要もないと考えています。本当は自分たちだけで技術蓄積してもいいのですが、プラットフォームを発展させていくことを考えると、積極的に技術を外に出していきたいと考えています。
ブラウザゲームなのでソースはいつでもみられます。ですので、変に隠しても仕方がないと思っています。技術情報については、今後惜しみなく出していくつもりです。
――:『ドラゴンボールZ ブッチギリマッチ』のリアルタイム対戦は攻めるな~!と思っていました。
あれも正直やってみて、一日の対戦回数がどれくらいになるのかによって変わってきますし、裏側も結構大変なんです。世界的な人気を誇るIPですので、遊んでいただくユーザーさんも多いと思いますから、リリースしたものの遊べないという事態は避けなくてはなりません。
当面、リリースすることが一つの山ですが、次の山は海外展開と考えています。「エンザ」の役割については、一度ゲームから離れてしまったユーザーさんにゲームに戻ってきてもらうこと、そして、グローバルに出していける環境を作ることです。
海外展開も可能な限り早期にと思っていますが、各国で未成年の定義や資金決済に関する法律が大きく異なり、国によっては商標調査や登録も必要となります。着々と次の山であるグローバル展開に向けて、準備を進めていますが、グローバル展開の難しさを肌で感じています。
■技術説明会も開催
――:開発会社向けの技術説明会を開催されるとのことでしたが、どういった内容になるのでしょうか。
プラットフォームでどこまでできるのか、どういうものが開発できるのか、をお見せできるフェーズに入ったので、実際に触っていただきながら、技術的な部分や当社側のサポートをお話したいと思っています。幸い多数の会社さんからお問い合わせが来ており、想像以上に興味関心を持っていただいているなと感じています。
将来的に提供タイトルを増やしていくにあたり、開発リソースがボトルネックとなることを避ける点からも、プラットフォームが軌道に乗った後には、多くの開発会社さんに参入してもらいたいと思っています。技術説明会を通じて、現状リーチできていない開発会社さんともコミュニケーションが取れればと思っています。
――:説明会はどのくらいの頻度で開催される考えでしょうか?
その点は、一回やってみてから判断することになるでしょう。説明会を実施した後は、個別のコミュニケーションに切り替え、コミュニケーションの密度を上げていきたいと思っています。理由としては、広く100~200社集めるというよりも、丁寧なコミュニケーションを通じて、少数でもしっかりと一緒にやっていただけそうな開発会社様を見つけたいと考えているからです。先ほどお話したようにリリース本数はある程度絞っていく考えですので。
コンシューマーゲームのタイトルとは違い、あくまでF2Pタイトルですので、長く遊んでいただくという点を重要視すべきと考えています。先ほどお話したように、数多くリリースすることでユーザーさんが分散してしまいます。僕らがディベロッパーとしてGREEやMobageに出していた時、続々とタイトルが出ているのをみると、僕らが新しいタイトルをリリースした時に、ユーザーさんを獲得できるか、運用中のタイトルからユーザーさんを持っていかれるんじゃないか、などと心配したものでした。リリース本数を絞る理由はこういうところにもあります。
■App StoreやGoogle Playとは競合しないサービス
――:あと、AppleやGoogleと競合するようなことはあるんでしょうか。
いえ、それはありません。App StoreやGoogle Playと競合するサービスとは考えていません。一部メディアでAppleさんやGoogleさんへの対抗する形になる、と捉えている方もいらっしゃいましたが、そういう考えもありません。
また、われわれが提供しようとしているタイトルはいずれも新規で開発したもので、ネイティブアプリとして成功したタイトルを移植するものではありません。先ほど申しましたように、パートナーである開発会社さんにもエンザ上で提供するタイトルは、エンザのみで提供となる新規のタイトルで、とお願いしています。
――:リリースが春ということですが、具体的にはいつ頃でしょうか。
開発は最終的な詰めの段階に入っていますが、具体的な時期については申し上げづらく、様々なテストを通じて、安定して提供できることが確認できてから、と考えています。現在は、裏側で色々なテストをやっており、町中や電車中など場所、通信環境を変えたテストや、課金システムやコミュニケーション機能など複数の機能の連携テストなどを実施している状況です。版元様からは大切なIPを預けていただいているわけですので、完成度に不安を抱えた状態でサービスを開始するわけには行きません。
ただ、新規サービスという性格上、出してみなければわからないこともありますので、まずβテストの実施や利用可能端末を制限した形で、サービスをローンチしていくことも考えています。ローンチタイトルも一度に3本リリースするのではなく少しずつ出していきますし、各種機能もいきなりフルに使えるようにするのではなく、徐々に提供を開始していく形になると思います。サービス開始直後は、メンテナンスも定期的に実施し、走りながら改善プロセスを重ね、着実にサービスの質を高める形で運用していきたいと思っています。
比較的新しいOSとWiFiでの通信という環境下では、スムースに動くことは確認できています。機能的な部分もすでに開発が完了しており、これから念入りにテストを繰り返すフェーズに入ります。
――:これまでのメディア向けの説明会や体験会に参加した際に思ったのですが、BXDの手塚社長とも連携が取れている印象でした。
これは本当にそうですね。手塚社長とは5~6年前から様々な企画をご一緒にやらせてもらっています。エンザについても、当初は協業で始めようとしたのですが、バンダイナムコグループさんから会社を設立してはどうかというお話がきて、合弁でBXDを設立することになりました。
手塚社長は数多くのタイトルで成功を収められていますし、お互い感覚もわかっていて信頼関係があります。投資規模としては、直近のインターネット業界の新規事業立ち上げとして有数の規模になっているかと思いますが、手塚社長が陣頭指揮をとられているせいか、事業の大きさや複雑さにも関わらず、想定以上のスピードで事業が進んでいると感じています。
――:リリースを楽しみにしています。ありがとうございました。
会社情報
- 会社名
- 株式会社ドリコム
- 設立
- 2001年11月
- 代表者
- 代表取締役社長 内藤 裕紀
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高97億7900万円、営業利益9億300万円、経常利益7億9300万円、最終利益1億400万円(2024年3月期)
- 上場区分
- 東証グロース
- 証券コード
- 3793