【100回記念】3年間でインタビュー100本ノック、最前線を見つめてきたエンタメ社会学者 中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」

中山淳雄 エンタメ社会学者&Re entertainment社長
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2024年7月16日、本記事をもって「推しもオタクもグローバル」特集は全100回を数える。3年弱で約100本のインタビュー・分析記事を連載してきた中で、取材者・執筆者である中山淳雄氏に本特集の意義やそれを通して見えたことを振り返ってもらう。

 

■Re entertainment創業3年、「エンタメ社会学者」が週1で書き続けたインタビュー記事

――:100回おめでとうございます。

ありがとうございます。初めてインタビュー受ける側になりましたw。自分でも思いますが、ちょうど起業して3年間、まさかこんなハイペースで連載100回になるとは想像してなかったです。10日に1本ずつ仕上げたペースですからね。

――:GameBizとしてもすっかり人気連載になってきました。

声かけられることも増えてきましたね。特に直近やったクールジャパン特集(連載第94回) などは、クールジャパン機構の動きや意思決定方法、この10年で何が成功して何が失敗したのかを、経産省CJ課の担当者が直接答えていただいたのは「ジャーナリスト的な価値」の意味でも大きかった気がします。発信している情報が100あっても、官のメディア経由だと10も消化されておらず、全然正しく伝わっていないだな(というかXやYahooコメントなどがあまりに感情的なコメントが多くて逆に驚きました)、と。コンテンツ産業側どころか、政府関係者側からも賞賛いただいたり、新聞・メディアからもっと詳細をと聞かれることも増えて、「正しく解釈する立場」の必要性も実感しましたね。

――:今回は100回を記念して、中山さんご自身がやっていることから始まり、視聴ランキングが高い記事を振り返っていただこうという回になります。

機会を頂いてありがとうございます。改めてエンタメ社会学者の中山淳雄と申します。リクルートスタッフィング、DeNA、デロイト トーマツ コンサルティング、バンダイナムコスタジオ、ブシロードと転職していった15年の社会人経験/新規・海外事業経験、10年のエンタメ産業の経験を経て、3年前にエンタメ専門のコンサル会社Re entertainmentを立ち上げました。いまは企業コンサルをしながら、慶應大学で教えたり、経産省・内閣府・Licensing International Japan・ATP(全日本テレビ番組製作社連盟)などで理事・委員の仕事をしており、ほかにPlott・Fundomなどベンチャー企業の社外取締役もやっております。

このGameBizは前職ブシロードのグループ会社だったこともあり、執行役員での入社時記事 、実は前々職のバンダイナムコスタジオのバンクーバー拠点立ち上げの時 にも記事にしてもらったりしており、もうかれこれ10年のお付き合いですね笑。

2021年7月にRe entertainmentを起業したときに面白い人と出会うことが多く、そのインタビュー記事を書かせていただくところから連載がスタートしました。第一回が「中東で一番有名な大分県人」の鷹鳥屋明さん の2021年9月9日、この第百回が2024年7月9日なので、ちょうど1000日間くらいですね。

――:エンタメ社会学者というのはどういうところからつけた名称ですか?

たしか『オタク経済圏創世記』(2019年9月)のころだったと思うんですよね。一応会社の肩書もあるのですが、大学でも教えていたしNewsPicksでプロピッカーになったりと外で個人として活動することも増える中、自分はどこに向かっているのか一言で説明したかったんです。

もう20年以上前の話なんですが、僕自身は大学院のときに社会学で有名な上野千鶴子研究室の出身で2002~05年はどっぷりそういった教育を受けてきたんです。当時は論文を書いたり、がっつりとアカデミックな出版をしていたんですが、その後社会人になってからも「参与観察」しながらずっと産業アナリストのように社会的な価値感がどう変化していくかをモニタリングしてきたようなところもあり、実はエンタメとくっつけて「エンタメ社会学者」としてしまうのが一番自分の活動に合っている気がしたんです。ググっても同じ名称で活動している人もいなかったので、それで通称とするようにしました笑。

――:インタビュー以外も特集なども記事書かれてますよね。

確かに中国特集としてポケモンTCGの簡体字版の成功韓国ドラマ取材出張京都でのゲームジャム とかNFTカンファレンス などインタビューじゃないものもいれれば120以上の記事がありますね。そう考えると・・・3年間、週1ペースで書いてたことになりますね。我ながら恐ろしいハイペースです笑。

――:中山さんは筆が早いので編集としても助かっております。逆にそんなに仕事しながらどうやってこんなに記事を書いているのか僕も不思議です笑。

インタビュー対象者の発掘、取材、記事書き起こしにカメラに、と全部自分で完結してやってるので、ミーティングのはずがその場で取材になっちゃこともありますし、自己完結しているからの早さがありますね。カメラの腕は全然あがりませんが笑。

仕事上で出会う人も多いので、このインタビュー記事は「おまけ」みたいなところあります。せっかくだからヒアリングしている間にコレ、インタビューしちゃいましょうか?的な形で進めたものもありました。2時間インタビューして1-2週間で執筆して、2-3週間で校正のやりとりして1か月後にはリリース、というのを並行して3-4件抱えながら回し続けてきており、最近は10件近く先行きのインタビューを抱えているのでなかなかまわらなくなってきておりますが。

  

■視聴数1位「ベルセルク」、2位「VTuber:Brave」、3位「女性アニメライター」。創り手の最前線をフィーチャーした記事が平均10倍以上の視聴

――:それではトップ閲覧記事の上位30を公開し、中山さんに振り返っていただこうと思います。

僕もこれまで閲覧数とかランキングで見たことがなかったので、大変楽しみです。

 

――:1位はこちらです。「第80回 『ベルセルク』継承-高校時代以来の無二の親友三浦建太郎、その意思を継ぐ漫画家森恒二」、視聴数でいうと全体中央値の15倍程度の「バズ」のように視聴されました。

あ、いきなり1位からなんですね。いや~、これは本当に思い出深いです。ベルセルク三浦建太郎先生が亡くなられて、それを無二の親友だった森恒二先生が引き継がれるお話です。作品ってやはり1人のものではなく、それを一緒につくるチームや相談相手、そしてファンのものなんだということを改めて考えさせられました。突き動かされるように「このストーリーを完結まで導かなければ」と、周囲の方々が遺恨をかき集めるように再び筆をとって、まさに三浦先生が生きているがのごとく連載を再開する。

僕の中でもモノづくりの原点にもなっていて、“鷹の団"って実は三浦先生が親友の森先生と経験した学生時代の武勇伝から始まっていたんですよね。作家にとって自分自身が心から感動したり興味をもった身近な事象だからこそ読者の心を動かすんだな、とまざまざと感じました。逆に日々の小さな事例だとしても、そこで心動かされる経験をしていないと、どれだけファンタジーを脚色しても読者の心をつかむのは難しい。作家自身が色々な経験を体で味わい、そこに驚きやワクワクを感じ続けないと、作品って続いていかないんだ、ということを学び、僕自身もこのインタビューの後に動き方が変わりました。

――:2位は「第70回 VTuber炎上後の大復活:経営力×ポートフォリオで突き抜けた「第三のVTuber企業」です。こちらも中央値の10倍くらい読まれています。

これは経営者としての野口圭登さんの俊英ぶりが光るお話でしたね。それまでVTuberといえばにじさんじとホロライブ、と言われてきましたが、「第三のVTuber事務所」としてM&Aと戦略によってグングン成長していて、実は取材した当時(すでに1年前)と比べてすでに売上は倍になっているんですよね。日テレグループのVTuber事業でClaNの大井基行さん取材もありましたし(連載第74回)、別のメディアですがSTPRのななもりさんの取材や慶應大学の講義でもCOVERの谷郷元昭さんとの対談機会などもあったり、実際ニューヨークでCOVERが大バズリする瞬間にも立ち会ったりできて 、個人的には独立したのとVTuberの勃興が同じタイミングでいろいろ縁が深い業界です。

野口さんの経営者としての才覚がすごくて、こういうテックとかコンサル業界にいっていただろう人がど真ん中でエンタメ業界にはいって、こんな当たるかどうかわからない世界に戦略とM&Aでがっつり大規模化していく事例をみせてくれると、いま後に続くベンチャーにすごい刺激になると思います。最近でいうとGENDAかBraveかっていうくらい、貪欲に規模を追求されています。

――:3位は第33回「アニメ界はいつ「女性」を発見してきたのか:アニメライターが見つめてきた30年間の発展の軌跡」 です。こちらも中央値の10倍程度です。

アニメライター渡辺由美子さんの回ですね。彼女も女性オタク界の生き字引のような方で、1980年代のコミケ、90年代のアニメージュ勤務や岡田斗司夫さんとの仕事を経て、00~10年代を独立したライターとしてずっと現場に張り付いて渡り歩いてきた視点が本当に特徴的でした。歴史を丁寧にたどっていく大事さの気づきになりましたね。渡辺さんと話していると、000年の女子向けのあのアニメがはじめてVHSで1万本販売、最初にペンライトが始まったのは2002年水樹奈々さんのライブで、推しカラーを開発したのが2005年のアレで、とかとにかく“歴史の生き証人"としてのリアリティがスゴイ。やっぱりその場その場で市場がうつりかわるターニングポイントにほぼほぼ立ち会っている人なので、「ここがみんなで推し始めた分岐点だった」の解像度がすごいんですよね。

こういうものって古参オタクの口述伝承にしかならないものをきちんと文字にしておき、それが論文や本で引用されているうちに「事実になっていく」という過程を僕自身が経験し、まさに業界の一部に組み込まれるような重厚感を感じた記事でもあります。このあたりからスゴイスゴイと思って9位の佐藤辰雄さん や28位の吉田隆さんイシイジロウさん など、ラノベ・ゲーム・アニメ黎明期の話を収集する癖付けができたんですよね。 

 

■出版(講談社/小学館/KADOKAWA)記事が人気。推し活とプラモ・ドール・カフェとIP展開事例の最前線

――:ここまでトップ3位くらいのところまでは大きく数字が「突き抜けた」記事で、そのあとは高位安定なんですよ。トップ3~20位くらいは皆横並びで数字が高い結果です。

いやあ、結構読まれてますね。うれしいです。4位Oshicocoの多田夏帆さん(連載第7回) はまだ視聴者も少なかった本連載の第7回という、だいぶ初期に取材受けて頂きました。この3年間ずっと「推し活」ブームだったから、数字が詰まれ続けてこの順位まであがってきた記事ですね。多田さんは女性ファッション・美容メディアのMeryで有名なトップライターでしたが、新卒1年目でまさかの起業・社長となって、今も10名近くの感度高いZ世代女子だけのマーケティング会社を作って、色々な大手企業と提携したり、ついには「推し活」というテーマでIPもないのに日本全国でPopupショップまで開いています。

5位の小学館コロコロDXもよく読まれましたね。コロコロコミックス副編集長の小林浩一さん(連載第87回) に取材をして、9チャンネルですでに月1億回再生となったコロコロチャンネルを展開されていて、もう雑誌だけじゃなく動画も並行して運営するのが「次世代編集者のスタンダード」なんだなと実感した成功事例でもありました。僕も社外取締役をやっているPlott社がアニメYouTubeチャンネルを運営していて、そういうつながりも含めてよい記事が書けたなと思います。

6位の2.5次元舞台のウルトラロングテールはタレントとファンの1on1ミーティングという新しい“現象"を取材した記事ですね。これは俳優の植田圭輔さんファンが急激にポストして広げていたので、普通のGamebiz読者じゃない層が読んでいたんじゃないかと(連載第40回) 。その後、中国の東野圭吾小説や舞台化の話にまでつながってインタビューしています(連載第45回)。

――:7位が前述のクールジャパンですね。中山さんが経産省の方にゴリゴリに詰めまくっていて、こっちがもやもやしていたものを聞いてくれてスッキリしました笑。

はい、こちらはやはり産官学の関係者に広く多く読まれていますね。公共性の高いものはある意味「意見を吸い上げる」という意味でも定期的にやるべき話かもしれませんね。26位のアニメーター赤堀重雄さんのクールジャパン全体に対してのアニメ制作会社からみた視点などは、実際に経産省・内閣府の方も目を通されてますし(連載第85回) 、こうしたメディアがきちんと現場の意見を言語化・可視化することで中長期的に政策決定にも影響をしていくという地道な活動も必要だなと実感しました。

8位の講談社の岡田幸美さん・橋本脩さんとの『ハンドレッドノート』(連載62回) は出版社でありながらマンガを使わず動画発でコンテンツをつくっていくというプロジェクトで僕自身も関わったものだったので気持ちもひとしおでした。出版界からの注目度が高くて、やっぱりどの会社も動画にいかないといけないよねというタイミングの中でさすが講談社は手が早いと参考にされている会社も多かったように思います。9位はKADOKAWAグループで会長もされていた佐藤辰男さんのインタビューで(連載第72回) 、まさにライトノベルの開祖のようなお仕事された方だったので「KADOKAWAメディアミックス史」の源流をたどる意味でもこの時、関連書籍は10冊以上読みましたね。

――:やはり中山さんの取材で特徴的なのは、ホビーなどこのエンタメ業界で意外に知られていない縁の下の力持ちのような「企業取材」ですね。ちゃんと収益性やビジネスモデルまで分解されているので僕も勉強になっています。

11位のプラモデルの壽屋さんの「創彩少女庭園」も(連載第12回) 、12位のテーマカフェのLTRさんも(連載第26回) 、13位のキャラクタードール業界のアゾンインターナショナルさん(連載第37回) も、さらにいえば14位の日経BPさんも(連載第35回)  、「業界の裏方史」に近いんですよね。業界トップの人、会社社長・役員、というよりは現場たたき上げでのプロデューサーや最前線でやっている人のリアリティにまみれた話をお伝えしながら、実際のここでアライアンスが広がって違うビジネスに広がりましたという声もいただいたりして、単なる広報記事になっていないところが個人的にもだいぶやりがいになっています。

――:業界フィクサーですね!ここらへんは本当に重厚に調査されながらインタビューしながらどれだけ時間かけているんだろう、、、と心配になりました。同じ出版でも15位のKADOKAWAのN高校のお話も面白かったですね(連載第69回) 。N高校ってVRかけた怪しいイメージしかなかったですが、すでに「日本最大の生徒数の通信制高校」になっていて全く知らない一面のKADOKAWAだったな、と。川上量生さんとよくアポとれましたね。

いやー、ホントですよね。こうしてみると、やはりキャラクターの「原作」を多く持っている出版社のストーリーというのは業界問わず非常に視聴率が高いですよね。Gamebizって本当はゲームとアニメのはずなのに・・・皆、隣接業界だから出版社がいま考えていることに興味あるんでしょうね。このご縁もあって、講談社さんでは「さらなるグローバル成長のカギは、「デジタル棚」~日本のIPビジネスを、エンタメ社会学者・中山淳雄氏が語る」 という逆にインタビュー受ける記事にもしていただきました。

講談社/小学館/KADOKAWA/白泉社ときて、いまだに集英社さんにだけは取材していなかったなということが改めてちょっと浮き彫りになりましため。ちょっと個別で別途依頼してみようかな。

 

■VR/PC/メタバースのゲーム先端事例から女子プロまで。「世界で有名な日本人」シリーズ・「孫正義財団天才児」シリーズ

――:出版もそうですが、やっぱり“新しいコンテンツ"を伝える部分では僕も面白いなと思える記事がいくつもあります。

17位のSensor Towerのようなアプリデータ分析もありましたし(連載第93回) 、18位のU-NEXTさんでは韓国ドラマも含めてOTT業界がどうなるかという話をさせていただきました(連載第63回) 。わりとこのあたりは「実は皆知らないよね」というテーマ・起業・人を深堀りしたことで、その反響も大きかったですね。

16位で高校生がFortnite上でゲーム開発をするようなNeighborさんの事例とか(連載第56回) 、19位のMy Dearestさんが北米Z世代にVRゲームで大きく刺さっている、とか21位のPLAYISMさんが中国向けのSteam PCゲームでこんなに数字があがるようになっている(連載第75回) 、とかこのあたりは他メディアにも出していない速度で「最先端事例」を扱えたなという感触もあります。結構びっくりするような大手ゲーム会社のトップの人が「中山さんの記事で勉強してます」みたいなお話もいただいたり、個人的には自分の出自であるゲーム業界の先端事例はインタビュアーとしてもやりがいありますね。

――:あと、企業や市場とは違って、結構単体として面白い人たちも登場しますよね。

それこそ15位の人見眞代さんは「なんかすごい女性いましたよね?インドで一番有名な日本人YouTuber」って(連載第15回) 。彼女のケースも第14回というかなり初期に取材うけていただいたわりに広がっており、インパクトがとても強かったと思います。「~で一番有名な日本人シリーズ」はいったん、中東・インドや中国(連載第20回)で一回止まっちゃってるんで、今度ネシアとかフィリピンとかラオスとか色々やっていきたいですね。

面白い方でいうと22位の仁和寺でアイドルビジネスやっている大石哲玄さんも秀逸でした(連載第2回) 。来月はまさにこの仁和寺でNinja Pitchみたいな新規企画の審査員もさせていただくことになり、京都×寺社シリーズもいくつかやってみたいアイデアはありますね 。

――:天才児シリーズもありましたね。

20位の音声AIのCoeFontの早川尚吾さんと(連載第21回) 、セミ研究者でゲオにいた矢口太一さん(連載第52回) のシリーズですよね。リソースって集中すると若くしてこんな人間が生まれるんだな、と僕も目が開かれました。孫正義財団はほかも2-3人お会いしてますが、さすが“天才工場"と呼ばれだけあって尖った人材のびっくり箱みたいなところがありますね。30歳以上になると財団生続けられなという「年齢逆差別」も老害を防ぐためにはよい仕組みなんだろうなと思います。

――:何が面白いって、ついに女子プロレスのスターダムの岡田さんまで取材対象にしてしまうというところです。

23位の女子プロSTARDOMの岡田くんですよね(連載95回) 。いやいや、これは本人にいつかインタビューするねと話していた合意案件ですよ。一緒にアサルトリリイのようなプロジェクトをやっていた仲間なのでその出世は純粋にうれしいですね。アゾン早薗さんともそのつながりでしたし、こうやってインタビューを通して同じプロジェクトやっていた方々とつながれるのは僕にとってもご褒美のような時間ですよ。

それでいうとブシロードクリエイティブの成田耕祐さんも(連載第61回)< > 、ブシロードミュージックの森川浩さん(連載第30回) も同僚つながりですよ。一緒に隣で働いていてもしっかりこうやって話聞くと全然知らないことも多いんですよね。インタビューって本当に奥が深いなと思います。

 

■初音ミク・BLからNFT・スポーツ・アートまで広く網羅した唯一無二の「エンタメ特集」

――:あの、「第○回」というのは、どこまで意図的にやっているんですか?「第39回 『初音ミク』15年のキセキ:ネットとボカロとアニメを融合させた声の楽器」のときは、初音ミク(39)にかけていたり、よくそろえたなと思ったんですが。

これはもう第30回くらいのところから仕込んでいて「あ、もう来月クリプトンフューチャーさんの北海道取材だ!なんとかあと1カ月で3本インタビュー増やさないと!!」みたいな感じでもうラッシュかけて、なんとか初音ミクのタイミングで39回になるように頑張ったんですよ。あれは個人的にも芸術的にホームランが決まったような気分でしたし、初音ミク×ニコニコ動画の流れの奇跡的な“バタフライエフェクト"の歴史を追体験できたのは目が開かれました。当時もう僕は社会人1年目でリクルートでビル倒し営業ばっかりやっていたので、ニコニコ動画に全く触れていない世代なんですよね。

同じ感じで、あまり語呂ではないんですが、27位のアニメイトでの東洋BL取材をやったのが49回だったので(連載第49回)、次の99回では(連載第99回) では日本唯一のBLサイト「ちるちる」のサンディアスさんを、という形で展開しました。

――:BLイベントでは「男性2人のフラメンコが一番の出し物」あたりは、だいぶ面白かったです。まったく知らないこういう領域に、よく中山さん踏み込むなあと。

そうですね、29位のソルマーレのObey Me!なんて「米国女子向けコンテンツ」という一番僕から遠い事例ですからね(連載第34回) 。やっぱり仕事がら海外出張が結構多いので、そこでの気づきを取り上げること≒エンタメの最先端事例となることが多いですよね。個人的なつながりで誘っていただくことも多くて、なるべく自腹であっても面白い海外事例の現場には直接足を運ぶようにいています。

30位のブロックチェーンゲームのPlay Miningの山田耕三さん(連載第19回) もインタビューすることでその業界に興味をもつようになって、最近ではIVSで司会させていただいたりしているので、まさにこの記事を書くこと自体が僕自身の業界知見を高めて頂いていた好材料です。Mintoの水野さん(連載第18回) 、コインチェック役員からいまはAnimoca Brands副社長の天羽健介さん(連載第43回)、Web3特化のシンガポール弁護士の森和孝さん(連載第65回) 、鎌倉インテルFCの四方健太郎さん(連載第47回) 、そしてまさかAxie Infinityの創業者でもあるJeffrey Zirlinさん(連載第68回) とか世界的NFTブームを牽引した開祖にインタビューできたのも個人的には相当ムネアツでした。

――:だいたいこのあたりで30位までの記事は全部網羅した感じでしょうか。

いやー衝撃的なのはここまでお話しても、いまだ半分も言及できていないという事実です笑。ちょっと言及できずに終わってしまう記事が多くて、本当に申し訳ないです・・・この振り返りだけですでに1万字越えてしまっている。。。

――:そのほか、印象的なジャンルや人はいらっしゃいますか?

もう全員インタビュー聞くたびにへーとかはーとかそんなんばっかりなんですけど、やっぱり海外で単独で活躍している人のお話はとても印象的なんですよね。『ラストサムライ』でトム・クルーズと共演していたリー村山さん(連載第76回)とか、バルサでメッシと働きながらカンボジアリーグのトップをやっていた斎藤聡さん(連載第55回)とか、国際メディアプロデューサーのKeiko Bangさん(連載第82回) とか。

同じグローバルでいうと、アート系で元森美術館館長の南條史生さん(連載第97回) やStartbahnの施井さん(連載第79回) 、Cekaiの加藤さんとか(連載第73回) 、やっぱり「個人の手に近い形で作品をもっていく人」は強いですよね。マンガ原作者としての巨匠樹林伸さんも鮮烈な印象です(連載第44回)。『エンタの巨匠』じゃないですが、各業界の巨匠シリーズもずっと続けていきたいですね。

――:ちなみに中山さんは今連載はどのくらいやっているんですか?この3年間って本もだいぶ出してますよね?

2019年『オタク経済圏創世記』から始まり、2021年『推しエコノミー』が本連載スタートと重なってますよね。その後2023年に『エンタの巨匠』『エンタメビジネス全史』 と2024年『クリエイターワンダーランド』だから・・・3年で4冊ですかね。

だいたい月1で連載している記事は、いまは6媒体になっていて、こっちも連載2年になるビジネス+ITの「キャラクター経済圏」で、たまに対談記事なんかもやってます。プレジデント社が連載2つあってエンタメ企業の分析である「エンタメ千里の道」 とMy Anime Listさんのデータで海外ファンからみたアニメ人気を分析している「世界からみた日本アニメミシュラン」 、世界のメディア・テックを分析する日経新聞のDigital Eye 、あとは日経クロストレンドの「エンタメヒットの新方程式」 でしょうか。こちらは劇場版アニメ興行収入をベースにした分析ですね。

――:そんなに連載していたですか!?なんか書いている量がバグってませんか?

いや大変ですよ、本当に。書くのは完全に副業みたいなもので、本業はエンタメのビジネスコンサルですからね。3年間でしたけど、こうやって書いているものまとめるだけでも一つの歴史みたいになって、なかなか感慨深いものがありますね。

でもアウトプットすることって本当に力になるんです。ふわっと聞く話も、「記事にしないと」と思うことで自分の集中度もグッとあがりますし、何より1人で感動したことも同じ濃度では難しくても数千人~数万人がそれを読んでそこから行動が変わるわけですから。つねにアウトプットのフィルターを通して広げる意識がないと、社会を動かすなんてとうてい自分の知人の範囲だけだと厳しいですよね。

――:今後は中山さんとしてはどんな活動をされていく予定なのですか?

書き続けますよ!出せないものもいっぱいあるんですが、こうやって最前線で得たエンタメ業界の知見を「インフラ化」することで、学生も勉強できるチャンスも増えますしもっとエンタメ産業に入りたい人も増えます。大手企業とベンチャー企業のマッチング事例も増えますし、そういった会社や人を紹介するときにもこの記事をささっとみておいてもらえばいいわけですから。だから「エンタメビジネスを分解して書いて広げる」というのは僕自身のライフワークみたいなものです。

でも質の高いアウトプットをし続けるためには、もちろん重要なのは質の高いインプットをし続けることなので、今後も企業コンサルで一緒に事業つくったり、ベンチャー企業の支援をしたり、「事業をしていくこと」自体が本業であることは変わらないと思います。大学や行政、色々な協会での理事の仕事などもエンタメ業界の影響力を広げていくためにやれる限りはやっていきたいと思います。

――:中山さんはそうやってどんどん記事にしたり繋げたりしながら、エンタメ業界をどうしていきたいんですか?

社会学やってた20年前から変わらないかもしれません。社会が劇的に変わる瞬間って、何か技術とか事件とかで変化すること以上に、「その技術や事件をどう解釈して認識しているか」ということがセンターピンなんです。だから概念化・抽象化・構造化といった形できちんと共有知にして、最前線の事例も歴史的な解釈も織り交ぜながら、「エンタメ産業に関わる認識・解釈をできる限り高い解像度にしていくこと」がそもそも産業発展に大きく貢献できるんじゃないかと思うんです。

幸い1社の営利だけを追求しないでいられる中立的なポジションなので、その立場でしか聞けないこと知れないこと語れないことっていっぱいあるんですよ。だからこの「エンタメ社会学者」というポジションを最大限に生かして、僕自身がもう20年近く日本の海外展開ビジネスをやってきた難しさを痛感しているので「エンタメ産業・企業の海外化の推進」というところに身を賭していきたいなという思いがあります。

――:Gamebizとしても、今後もそのお手伝いができればと思います。とにかく100回お疲れさまでした!

また3年後、第200回記念でお会いしましょう!!

会社情報

会社名
Re entertainment
設立
2021年7月
代表者
中山淳雄
直近業績
エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
上場区分
未上場
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