『推しもオタクもグローバル』~デジタルガレージweb3.0カンファレンス~NCC編第1回 アジアが先行するweb3.0、2022年は分散化時代にむけた転換の幕開け

中山淳雄 エンタメ社会学者&Re entertainment社長
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デジタルガレージ(DG)社は1997年価格コム、2005年食べログとWeb1.0、2.0時代を乗り越えてきたインターネット企業で、2013年からサンフランシスコでもインキュベーションセンター「DG717」を運営している。今回6/14に第22回目となるNCC(THE NEW CONTEXT CONFERENCE)カンファレンスは、過去最大の1500名もの参加者を数えた。なぜなら「web3 Summer Gathering 〜未来からのテクノロジーの波をサーフしろ〜」と、web3、DAO、NFT、暗号通貨をテーマとするものであったからだ。この領域はEnglish speaking Communityが主導している。すなわち米国を中心としたコミュニティである。DG社取締役でもある伊藤穰一氏は言わずと知れた元MITメディアラボ所長であり、孫正義氏にYahoo!を紹介したエピソードから始まる様々な伝説や広い交友関係で知られる。過去はWikipedia、Linkedin、Twitterの創業者を直に呼んでくる豪華なNCC、本ステージも彼を中心とする米国のweb3.0サービスの先駆者たちを呼んでのパネルディスカッションが行われた。

 

<主なスピーカー>
・Yat Siu(Animoca Brands 代表取締役社長 兼 共同創業者 / Outblaze CEO 兼 共同創業者)
・平井 卓也(衆議院議員 / 自民党デジタル社会推進本部長)
・Jaeson Ma(OP3N 共同創業者)
・スプツニ子!(アーティスト / 東京藝術大学デザイン科准教授)
・Mundi Vondi(Klang Games GmbH CEO)
・豊崎 亜里紗(Cega 共同創業者 兼 CEO)
・Vishal Punwani, MD(SoWork CEO 兼 共同創業者)
・Richard Ma(Quantstamp, Inc 共同創業者 兼 CEO)
・五十川 舞香(Webacy 共同創業者 兼 CEO)
・Sean Bonner(web3アドバイザー)
・Kawaii SKULL(アーティスト)
・草野絵美(新星ギャルバース共同創業者兼クリエイティブディレクター)





■web3.0-分散型が主導するデジタルエコノミー。2022年はweb3.0元年になる

伊藤穰一氏のKeynoteから始まった本カンファレンスは、最初からギアがはいりっぱなしで、Futuristic(未来志向)のプレゼンから始まる。そもそもweb3とは何なのかという定義から始まり、ネットが我々にどんなアクションを可能にしてきたかの歴史を紐解く。

すなわちweb1.0(1993~)でWWWブラウザの発明によるread(読む)、web2.0(2008~)でブログやSNSなどのwrite(書く)が始まり、現在我々が立たされているブロックチェーン(BC)技術を背景とするweb3.0がjoin(参加)を可能にしたということになる。

もちろん我々はSNSでも動画視聴でもJoinはしてきた。だがそれはあくまで「書いたり読んだりするためのコミュニティ」であり、そこに没入したり交流を促進する奥行きという意味では限界があった。また「所有する」ということも含めた物理世界とは隔絶したものがあり、ECを通して購入したり支払ったりすることは確かにネットを“経由”したけれども、あくまでも自宅に物理的に運ばれる“所有物”ありきで決済のみのネット介入であるため、完全にネットの中だけで完結するような購入/所有は存在しなかった。ここでのJoinは「参加して、交流して、交換して、所有する」という物理世界で完結するようなフローが、そのままネット内でもすべて完結する意味でのJoinである。

Join(参加)する先としてのコミュニティの考え方も、この10年で大きく変遷してきた。2009年ビットコインはあくまで分散型金融の至上主義であり、コミュニティの力を信じていない。分散型という「システム」に準拠するため、コミュニティ性悪説でいかに人力を介さないかというところに注力してきたものであり、逆に2013年イーサリアム(ETH)はコミュニティの力を性善説的にとらえており、双方で「コミュニティ」による解釈が全く異なる。その哲学の違いが、両サービスの違いにつながっており、それも面白い特徴である。

 

▲伊藤穰一氏のKeynote Speech


透明性は一つのキーワードで、伊藤氏のWalletの過去取引履歴一覧を掲示したうえで、BC技術は企業から個人まであらゆる取引履歴が明記され、誰もが見れる取引帳簿となり、未来永劫すべてがたどれる“究極の透明性を担保した”世界である、と述べた。むろんそれにはセキュリティの担保が不可欠であり、そのセキュリティのために元来我々ユーザー自身がCentralize Finance(統合型金融)を志向してきたのがこの数世紀の傾向である。一元的に“信用できる”組織が管理して、何かトラブルがあればそこに問い合わせる、ということが日常茶飯事であった。だが、誤配は起こるし、ハッキングは受けるし、「統合」は必ずしもセキュリティを担保しないことは自明である。なにより「統合」が新たな権力・システムを生み、我々はいつの間にかそれに従属する存在になってしまう。「分散」という仕組みが正しく機能するのであれば、我々が求めるゴールにそのほうが近いのではないか?という問いかけが一貫するカンファレンスでのテーマでもある。

DAO(自律型組織)についても語られた。米ワオミング州で6千人のDiscordユーザーたちが土地を買ってDAOの物理組織化をはかったり、同州では法人と同じようにDAOも法的な組織として法制化したことでも有名だ。だがDAOは我々が考えるような株式会社組織とは大きく異なる。ENS(イーサリアム)トークン(DAOにおける株式のようなもの)のうち、Community Treasureの非流通分の50%を除くと、いわゆる会社関係者であるCore Contributors達がとるのは25%に過ぎず、残り25%はAirdropといういわゆる“会社外のボランティアユーザー”に感謝の意で無償に配られるのだ。全体の1/4を資本も労働契約も全く関係のない人々に配る、というのは利益追求型の株式会社ではありえないだろう。またコミュニティの意に沿わない経営をした際に、創業者がクビにされるというケースもある。こういったトークン&運営ポリシーによって当事者になってもらって、その経済圏自体を大きく広める手伝いをしてもらい、外から大きな投資が入った時に全体の価値があがって全員が「結果的に」豊かになる。こうした半分資本主義的、半分ボランティア組織的な動きは、半世紀前にP.ドラッカーが唱えた説に近づいて行っているのかもしれないという高揚感も感じられた。
 

DeFi、NFT、DAO、横文字の多さはこの業界の大きな課題だ。まだ「翻訳」されていない輸入モノの概念であり、日常世界で肌感をもてるような実体験を伴わないがゆえに、いまだに概念ゲームで上振れしている傾向はある。いったんそれらを包括する「web3.0時代」の歴史は総括すると下記のようになる

<web3.0時代の歴史>
2009~16年ビットコイン創世記
2017年ICOバブル
2018~19年クリプトの冬(バブル期の不況)
2020年DeFiの夏(様々な分散型金融プロジェクトが乱立)
2021年NFTブレーク
2022年web3.0元年

過去特集記事で紹介したように、2017年ICOバブル崩壊後の2018~19年「クリプトの冬」こそが現在活躍するweb3.0型企業が創設ラッシュになっている。これは2001年ドットコムバブルや2007年リーマンショック後に、ベンチャー創設がむしろ活発化していた情勢と一致する。すなわち冬にこそ、春に至る準備がなされている、ということだろう。


■反GAFA、ネットワーク効果の力を自分たちに取り戻す
UNLOCK(解放する)―カンファレンスで幾度となく聞かれた言葉だ。金融にせよデータにせよ、ユーザーは自分たちでコントロールできない状態で、ある種Lockされた状態にある。統合CentralizeというコンセプトによるLockは様々なところに敷衍する。人・モノ・金・データすべてがCentralizeされた、大きな組織のもとに統括・管理されてきたのが20世紀である。分散型Decentralizeは13年前にサトシナカモトの論文によって世に生み出され、ビットコイン、その後のETHの数々の“金融実験”のなかで、今ある形で少しずつ浸透してきた。そこで徐々に実感するのは、我々は我々自身の活動にProperty rights(所有権)を与えられていないということだ。

本講演にはweb3.0業界で世界トップ級の投資家が参加している。1人はAnimoca Brands※創業者のYat Siu氏と、East West Ventures共同創業者のJaeson Ma※氏である。2人が展開するエネルギッシュな講演は、まさに現在北米で毎月のように開かれているweb3カンファレンスの熱量そのままに日本に届けられた。
※Animoca Brands:メタバース「The Sandbox」を保有する企業で22年1月に410億円調達時にその企業価値は約5,700億円と評価された。AnimocaBrands自体もSanrio Digitalの買収や、Open Sea、Dapper Labs、Yield Guild Games, Axie Infinity含む340以上のプロジェクトに出資し、間違いなくweb3.0でトップを走るレジェンド級企業である。
※Jaeson Ma:アーティスト、投資家、連続起業家。Tiktock対抗馬ともみなされ、インドネシアで数百万のユーザーベースをもつ「Triller」や、600万弱のYouTube登録者をもつデジタル音楽レーベル「88rising」などweb3業界ではレジェンド級の投資家。

Yat氏は2015年に香港でNFTカンファレンスを開いていた。その時代、1部屋に入っていた20-30人、それが全世界ですべてのNFT関係者だったという。それは1970年代半ばのコミケや、1990年前後の北米ゲーム業界でもあった、業界がはじまる黎明期と全く同じである。そこから2017年のICOバブル、そしてバブルがはじけるまさにその時に普及したCryptoKittieとブロックチェーンゲーム(BCG)(Animoca Brandsが出資してるカナダ・DapperLabが開発)の勃興、そして『Axie Infinity』という全世界に展開されるBCGがNFTブームを創り上げた2021年(こちらもAnimoca Brands出資のベトナムSky Mevis開発タイトル、同様にその普及に大きな貢献をしたギルド集団Yield Guild Gamesにも出資している)。創業3年足らずのAxie InfinityはEAに次ぎ、Take2やバンダイナムコなど歴史あるゲーム会社を超える時価総額をたたき出し、ゲーム業界に衝撃を与えた。Yat氏はこの7年間の冬の時代と、昨年のバブルをずっと見届けてきた経験値を踏まえて、語る。

 

▲伊藤穰一氏とYat Siu氏のOpening Session

基本的にこれらのバブルは「ネットワーク効果」によるものだ。デジタルで起こる口コミの爆発的成長は我々自身がこの10数年、何度も経験しているとおりだ。現在米国の成人の85%は毎日オンラインにログインし、8%が時々ログインし、わずかに7%のみオンラインからかけ離れた生活をしている。つながっている状態が「常態」となる現代社会において、データは累積的に蓄積され続けている。そしてそれは我々の知らないところで活用され続けている。データが情報となり、知になる。21世紀の石油とも言われるデータは、その活動主体である我々自身が管理しなくてよいのか。web3.0とは、こうした我々自身のデータを我々自身の所有物として取り扱い、そのネットワーク効果によって得られるものをプラットフォームではなく我々自身のために使うものである。

我々自身が1つのデータとしてWeb2の世界に存在している。それが何重にも分類を重ねられてInformation(情報)となり、それをつなぎ合わせてFacebookからAmazonに至るまでGAFAMがKnowledge(知)として活用している。すでに時価総額が合計1,000兆円となるGAFAMによるデータ独占は目にあまる寡占となってきている。

 

▲Yat Siu氏の講演。ユーザーがDataの1要素でありながら、InformationとKnowledge化はプラットフォームによって“収奪”されていることが語られている。

同じことはJaeson氏も提唱する。GAFAMはまさにピラミッドの頂上に君臨するがごとく。行政による独占禁止法による「市場競争の適正化」などもはや“張り子の虎”と化しており、それぞれが検索、SNS、データーサーバー、ECなどのWeb2分野においてセグメントで50%から時には90%を超えるシェアを得ている。それもまた「ネットワーク効果」によるものであり、人が多ければ多いほど、データが集まれば集まるほど、エコーチェンバーの反響効果としてそれ以外の選択肢がすべて封殺されていく。そして肝心のデータの提供元である我々は、毎日せっせと自分のためにポストしてアピールして社会的活動を行いながら、その実、いつのまにかネットワークの奴隷となって、データを提供するために無償で多くの時間をささげる従属体のような存在になってしまっている。

 

▲Jaeson Ma氏の講演。GAFAMがデータを吸い上げたピラミッド社会はweb3によってフラットな関係性に結びつきあうことを語っている。

一つ面白い事例がある。Jaesonとともに88risingを創業した日系アメリカ人のSean Miyashiroは世界で1億視聴を集めるYouTubeDJのような存在だ。88risingは若者に魅力的な音楽コンテンツを展開し、600万弱の登録者とその視聴によってYouTubeから収益を得ている。だがアドセンスで得られた収益は2-3000万円に過ぎない。1億もの視聴を集めて数千万円、全世界的な成功にも関わらず、それはあまりにも還元率が低いのではないだろうか。かたやEDM音楽をNFT化させた3LAU(ブラウ)はSpotifyもApple Musicの力も使うことなく、単独で11百万ドル、すなわち15億円レベルの取引額を実現している。当然ながら1億人なんて数字ではない。数百人、数千人、ひょっとすると数十人レベルの購入によってそうした数字が達成していたりする。web3.0ビジネスの「ネットワーク効果」はマスメディアがこの1世紀繰り広げてきた「規模の経済」を転倒させる。

プラットフォームが人を集めてくれているわけではない。クリエイターが集めて、それをプラットフォームが利用している。アクセスできる鍵を自分たちで握っていれば、クリエイターが本来得るべき対価は現在の比ではないはずだ。InstagramもYouTubeも45%、Spotifyは70%、全額制作費を負担するNetflixは100%—これがプラットフォームがユーザーが購入・サブスクなどで消費する全額からマージンとして徴収する割合である。YouTubeに比べればSpotifyはまだ1viewあたりの収益でいえば10倍以上、“寛容なプラットフォーム”ともいえる。

本講演でNFT販売によって成功したクリエイターたちの事例をみれば、その集客も収益も、驚くほどプラットフォームに依存していない。DAOの組成は無料で行えるし、トークンの発行からNFTマーケットプレイスの販売に至るまで、人手をそれほどかけない分散型web3サービスの手数料は数%程度である(ガス代という、取引の記録にかかるものだけは市場連動で、ときには高額に触れすぎる課題はいまだ残っているが)。そう、web3.0とはまさに特定企業・特定サービスによる寡占を防ぎ、クリエイター個々人とユーザー個々人を余計なTransaction Cost(取引価格)をかけずに裁定するための21世紀のシステムなのである。

悲しいかなGAFAを生み出した米国西海岸(米国というよりは米国に集まる移民と言い換えたほうが正しいが)が、現在もまたweb3についても多くの提唱者を生み出し、その発信地域になっていることに対しては、若干もやもやする気持ちが生まれないでもない。だが後段で話すように、このweb3.0のトレンドがEnglish Speaker、特に米国から生まれるように見えながらも、その実、担い手としてアジアの存在感が想像以上に増しているという事実もまた、そこにまだ希望を見出す余地が十分にあることを物語っている。


■マイノリティにこそ翼を与えるweb3、世界はアジアを中心にまわっている
日本のweb3.0を推進している主役はweb1.0からIT業界をひっぱってきた世代というよりもむしろ現在10-20代のミレニアム・Z世代である。先日自民党から出されたweb3.0ホワイトペーパーの立案に貢献した渡邊創太氏とともによく名前があげられるのは、早稲田大学時代からEast West Venturesで東南アジア投資を行ってきた大日方裕介氏である。いずれも20代起業家である。現在はポルトガル・リスボンに在住している大日方氏は、日本入りして時差ボケもなおらぬままに講演を行った。

 

▲大日方祐介氏の講演。2018年Web3の中心に日本が「なりかけていた」時代、キャッチアップが早かった日本の若者たちについて言及している


すでに2017~2018年からweb3.0のコミュニティを作り、最初のBCGであるCryptKittiesの開発者などを日本に呼んで行ったイベントでも来場した日本人の8割は学生で20代そこそこの若者たちだったという。「クリプトの冬」でもあったこの時期に、定期的にカンファレンスを主宰し、このNCCのような取り組みをほぼ個人でも行ってきた。web3.0で現在取り上げられている先駆者のほとんどはこの時代にほぼボランティアワークのような形で業界のAdvocatorとなり、常に海外から情報を取り続けていた人材が多い。そしてその担い手もまた20~30代という若者である。

web3.0は「若者」と同時に、マイノリティとしての「アジア人」を北米社会で多く惹きつけている。“Asian Web3 Mafia”という表現が何度かJaeson氏からも語られたが、実はトップのプロジェクトは日本人を含めたアジア人が担っているものが驚くほど多い。2022年1月にロサンゼルス在住の30代クリエイターが5人ではじめたAzukiは、数日で31百万ドル(35億円)で売却され、1か月後には総額3億ドル(300億円)を超えるトップコレクションとなった。このモチーフはサムライやニンジャなどまさに日本とアニメをかけあわせたようなものになっている。『Axie Infinity』はベトナムの開発会社とフィリピンのギルドコミュニティが生み出したものであり、BinanceもCoinbaseもAnimoca BrandsもすべてそのAdoption(適用)がアジアに発している。web2.0時代に成長するアジアが市場としては対象になりながら、その担い手が判を押したかのように毎回40~60代の白人男性だった、という時代に違和感を感じていた、アジア系アメリカ人が現在のweb3.0をけん引している

作り手にも売り手にも日本人がいないことにフラストレーションがあったと草野絵美氏は語る。21年春ごろからNFTに入っていった同氏は、取引総額(発売時レートで約20億円)で世界最大のNFTマーケットプレイス「Opensea」の24時間オールカテゴリランキングで全世界一位にもなった「Shinsei Galverse(新星ギャルバース)」の発起人兼クリエイティブディレクターだ。8歳の息子が売り出したNFTアート「Zombie Zoo(ゾンビ飼育員)」で一躍有名になったが、その直後に立て続けのようなプロデュース作品のヒットは喝采を浴びている。日本人の、しかも女性で、90年代の日本アニメシーンをコンテクストにした作品が世界中を席捲し、日本人製作のNFTアートとしては金字塔を打ち立てた。

これもまたUnlockの流れだろう。かつてブルースやジャズの流れがアフリカ系アメリカ人を解放し、ロックミュージックが学生を解放し、PCとネットがヒッピーやオタクが解放されたように、21世紀に入ってGAFAか全米というより全世界的に統合型に積み上げられた社会においても権力バランスのひずみで藻掻くマイノリティが、web3.0というコンセプトを武器に、一種のカウンターカルチャーのような形で「価値観の転倒」を画策している。それはむしろ団塊世代とともに育ってきた団塊ジュニア世代・Y世代が座して呑み込んできたものを、ミレニアム世代とZ世代が再構築しようという試みなのかもしれない。

 

▲左から伊藤穰一氏、藤岡桃子氏、Jaeson Ma氏、大日方祐介氏。各組織でアジア人や女性の比率がどのくらい多いかといった議論がなされている。


■先進的に“お茶目”な日本のweb3.0行政。世界に先駆ける日本の政治家たち
本講演の面白さは、20-30代を中心とする投資家・クリエイターの集いでありながら、日本の政治家など制度設計に関わる人材をも巻き込んでいる点だろう。カウンターカルチャーでありながら、“反”権力ではなく、むしろ向社会的に動かそうとしているところが、web1.0やweb2.0とは異なる傾向だ。だからこそ、多くの世代やデモグラフィを惹きつけているのかもしれない。前段の講演で「日本のもつ魅力」「日本が惹きつける人材」などの話を展開されながら、基本的にはそこのボトルネックになっている居住ビザや受け入れ、アクセレレーションについて、夕方の政治家を巻き込んだ議論においてそのままクロージングにもっていってしまう。

1か月で全然違う話になってしまうこれだけ早い業界のなかで、政治家はキャッチアップが正直難しい、と平井氏はつぶやく。だが、グレーゾーンでの税金とられたり、やっていたことが無駄になるかもという恐怖で海外に逃げるweb3.0企業もあり、現在そこが課題になっているという話をされた件については、「変えられますか?」という伊藤氏の質問に、「(最低限そこは政治家として)なくせると思います」という平井氏の明言が引き出されている。

ベンチャーやテクノロジー業界の課題点は先行する技術やデータのインサイトが、結果的には「社会のオーソライズ」が受け入れられずにつぶれていく点にある。米国では当然になっているロビー活動においても、実はGAFA含めた西海岸企業がキャッチアップしはじめたのはここ5年くらいの傾向である。きちんと社会全体を国・州・企業を巻き込みながら歩調をあわせてこなければ、「天才児の妄言」のように片付けられてしまう事例は歴史をひもとけば枚挙に暇がない。業界インサイトが多くの投資家・クリエイターによって語られながら、同時にそれを制度設計につなぎ込む役割をもつ“大人たち”もカンファレンスに巻き込み、その場である意味「逃げ場をふさぐような発言」を引き出したことは本カンファレンスの大きな意義だったように感じられた。

 

▲左から伊藤穰一氏、長谷部健氏、平井卓也氏。web3.0への日本行政の巻き込みについて語っている。

岸田政権はweb3.0について他国のリーダーにさきがけて、英国での会議などで急激に発言をしている。岸田トークンの発行も発表された。これは他国からみても例外的に先進的な動きである。本来は官僚からある程度“叩かれた”意見としてスタンスを示すものが首相の口からでてくるものだが、まだステータスが定まらないこの領域についてコントロールが効かず、「意見がでちゃった」状態だったともいえる。日本の組織のメリットは(ときにそれがデメリットになるが)、こうした“組織のほころび”である。コロナ統制で我々がみてきたように、ぐずついた意思決定、社会の信頼関係に依存した強制力の弱いルール化、だが同時に新しい取り組みに対する旺盛な好奇心と右に倣えで集団的な胎動は驚くほど素早く起こる。そんな日本の特性が、岸田トークンのようなお茶目さや失笑にもつながった取り組みに発展し、それは実は他国からみると驚くべき現象でもある

長谷部健渋谷区長にも、区として可能な取り組みの質問がなされ、ボランティア参加者へのトークン発行で将来的に利益が得られたり、児童手当がブロックチェーン技術と紐づけてきちんと想定されている用途で使われているのかなど、実はリテラシーの低い一般層にもweb3.0的サービスを普及させる手段が講じられた。渋谷区が現在行っている1,500名の高齢者にスマホを貸与している試みで、91歳の高齢者がデジタルマネーを使い始めたり実際の体験価値を通じてやっていくことで年齢・世代に寄らずにこうした技術にキャッチアップしていくことも可能だった事例や、山古志村のNFTアート販売事例などをみても、国民個々人と最も近い行政接点を持つ市区町村の単位でもweb3.0に向けた実験・取り組みは十分に可能である。

渋谷区として多国籍軍のスタートアップをどうつくるのか。2010年代に大成功を収めた日本のインバウンドはコロナで一度止まってしまったものではあるが、今なお居住・生活空間としての日本への海外人材の強い興味を踏まえると、チャンスは開かれている。グローバルなカンファレンスをどんどん開き、一つのインバウンド誘致の機会としていこう、という形でパネルはクロージングとなった。

全講演を通して、個人的には2005年に一世を風靡したトーマス・フリードマン『フラット化する社会』を思い浮かべた。1990年代から米国を中心に急激に進んだ「グローバル化」の果てに、世界経済が一体化していくという論調は賛否両論を巻き起こした。リーマンショックによって『ブラックスワン』などむしろリスク面を強調する論調が生まれ、その後の国家間緊張関係で“新しい冷戦”に至るその後の10年は、必ずしも政治・経済・社会・文化すべてがフラット化するものにはなっていないが、GAFAの成長は間違いなくこのコンセプトに沿ったものであり、ネット領域におけるフラット化は確実に進んでいった。web3.0も同様に、一つのイデオロギーとして機能はしていくだろうが、一元的にその変化に全領域に「収れんされる」といったことは起こらないだろう。だがしかし、暫時的ではあれ、1980年代にPCが生まれたときに人々が夢想した社会が10年ごとといった周期で着実にかつ確実に変化していったことは我々自身が体験しているとおりである。社会全体のベクトルとしては、文化→社会→経済→政治など順は違えど、web3.0のコンセプト、あらゆるものが分散化するという方向軸は、すべからく全産業・企業が取り組まなければならない課題になるだろう。その予兆を感じさせる「web3.0元年」の記念すべきカンファレンスであった。

 

 

デジタルガレージweb3.0カンファレンス特集

第1回 アジアが先行するweb3.0、2022年は分散化時代にむけた転換の幕開け(当記事)

会社情報

会社名
Re entertainment
設立
2021年7月
代表者
中山淳雄
直近業績
エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
上場区分
未上場
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