【連載】中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」 NCC編第5回 草野絵美―世界NFTトップ作品「新星ギャルバース」を生み出したマルチタレントアーティスト
デジタルガレージ(DG)社は1997年価格コム、2005年食べログとWeb1.0、2.0時代を乗り越えてきたインターネット企業で、2013年からサンフランシスコでインキュベーションセンター「DG717」を運営している。今回6/14に第22回目となるNCC(THE NEW CONTEXT CONFERENCE)カンファレンスは、過去最大の1500名もの参加者を数えた。なぜなら「web3 Summer Gathering 〜未来からのテクノロジーの波をサーフしろ〜」と、web3、DAO、NFT、暗号通貨をテーマとするものであったからだ。この領域は「English speaking Community」が主導している。すなわち米国を中心としたコミュニティである。DG社取締役でもある伊藤穰一氏は言わずと知れた元MITメディアラボ所長であり、孫正義氏にYahoo!を紹介したエピソードから始まる様々な伝説や広い交友関係で知られる。過去はWikipedia、Linkedin、Twitterの創業者を直に呼んでくる豪華なDGカンファレンス、本ステージも彼を中心とする米国のweb3.0サービスの先駆者たちを呼んでのパネルディスカッションが行われた。
今回はその1人、草野絵美氏にインタビューを行った。
■アート×音楽×ファッション×コミュニティ⇒新星ギャルバース
――:自己紹介からお願いしてよろしいでしょうか?
草野絵美と申します。東京都出身で、伊藤穰一さんとは、2011年慶應義塾大学のときにインキュベーションOpen Network Labに入っていて、その4期生としてもう10年以上のお付き合いです。この4月に「Shinsei Galverse(新星ギャルバース)」を制作し、発売いたしました。
▲新星ギャルバースの作品ページ(Opensea)
――:草野さんはいつごろからNFTアートをされているのですか?
2021年3月にアーティストの友人に誘われて、英語圏でこういうものが流行っているなと思って、自分で試しに作品を出してみたんです。私はAudio VisualをNFT化して、マーケットプレイスのFoundationで出展してみて、その1作は特にコミュニティを作ることなく、ただ1品で買われました。
――:Zombie Zooやギャルバースの前にそんな時代があったんですね。
しばらく空白の時代がありました。21年夏くらいまでしばらくウォレットも放置していた状態だったのですが、家でいつも私がNFTの話題を出していたので、当時8歳の息子が自分の絵をアップしてみたいという話になって、前から使っていたアカウントを使って作品を出しました。
――:もともと絵が得意だったり、かなり特別な才能があったんでしょうか、、、?
感性がとても豊かだと思いますが、特に絵に対してのパッションが突出しているというわけではありませんでした。ただ、夏休みに限らず、ロボットキットを売ったりボードゲームを作ったり、家庭内でたくさんのプロジェクトを家族でやっていて、NFTはその一つでした。今回のNFTはポケモンカードを買いたいという理由で気軽にはじめたものでした。
――:結果3000万円以上の取引額を記録したというニュースを拝見しました。子どもが描いたゾンビ×動物というアート作品で考えるとあまりに異例ですね。アニメ化もされるとお聞きしました。
東映アニメーションがこの作品に共感してくれて、アニメ化に向けて調整中です。5月にはすでにPVも出しています。
――:ではホントに「8歳がNFTアートをあのタイミングで出した」というそのこと自体に大きな価値があったという感じなんですね。その後、Zombie Zooは一躍有名になりますね。お子さんが一躍時の人になる弊害もあるとニュースで拝見しました。
たくさん取材頂きました。合計40回くらいはテレビや雑誌などに出ていますが、小学生がそういったものに時間をかけすぎるのはよくない、ということもあり、1取材ごとに15分に区切らせていただいて、今は日常生活を送りながらこうした活動も、という形で進めています。本人がそれによって今までと生活を激変させないようにしていますね。
▲Zombie Zooの作品ページ(Opensea)
――:驚くのはその後2022年4月に草野さんご自身も「新星ギャルバース」という作品を展開されて、取引総額累計で約20億円(発売時レート)ほど流通しています。これが前回Jaesonさんも言及されましたが、世界最大のNFTマーケットでの24時間オールカテゴリランキングで世界一という快挙を達成しています。90年代に世界中を席捲した日本アニメを彷彿とさせる世界観になっています。
ゾンビズーの経験を生かしつつ、以前から一緒にMVを作り、いつかアニメを作りたいという夢を共有していたアーティストの大平彩華と、ZZホルダーだったオーストラリア人デザイナーとこのプロジェクトを始動しました。コンセプトづくりや物語の設定は、チームで話しながら作ってきました。私は主に物語の設定や、コンセプトづくりなどを担当しています。基本言語は英語で、グローバルにマーケティングを行なっています。その当時のトレンドとして、コレクティブの多くが日本アニメインスパイアだったものの、本物の日本人アーティストが手掛けるものはほとんどありませんでした。そこで、女性目線にかわいいと思えるアニメ絵で、90年代の日本アニメの世界観を表現したことがギャルバースの成功要因の一つとなりました。
――:Zombie Zooにしても、ギャルバースにしても、作家にはどのくらい還元されるものなのでしょうか?
二次流通が行われた価格の2.5〜10パーセントが作り手に還元されます。他のメディアでもよく語っていますが、これはアート作品が売れただけではなく、「可能性に賭けるコミュニティ」が誕生したともいえます。この原資をもとにいかにこの先のプロジェクトを運営するかにかかっています。そういう意味では「儲かったよね」等々の話ではなく、「期待値が集まった」ことに対して、それをきちんと運用して、今後もギャルバースを発展させていく責任がある、という状態になります。今チームもいて給与も払っているし、アニメ制作のためにちゃんと予算を確保しています。
――:日本に豊富なマンガ・アニメなどの既存IP作品への期待値は本カンファレンスでもよく語られています。またIPを保有する出版社や事務所、ゲーム会社などもそれぞれこの領域に強く興味をもっている段階です。そうしたクリエイターではなく「企業」は、どうしていったらよいと思いますか?
いろいろ“失敗例”なども見ていて思うのは、既存IPからのNFT化ですと単なる販促品になっている事例が多いんです。ギャルバースは8,888体のキャラクターアートを作りました。それ自身をアバターとしてメタバースに進出したり、様々な二次創作で盛り上がるよう施策を考えています。企業の信用やキャラクターブランドは最初の起爆剤にはなりますが、大切なのは買い手であるコミュニティへのリスペクトを忘れないことです。また、クリエイター自身がなぜこの作品をつくり何を実現していきたいという「コンセプト」がなければ、受け入れられないのが現在のNFT業界です。そのまま既存IPのNFTだけを出していくよりも、すでにNFTコミュニティの中心にいるクリエイターたちと協働して作品を出していく、という形のほうがよいのではないかと思います。
――:コミュニティというのがキーワードになってますよね。だから企業というより、クリエイターという「顔が見える」立場がNFTアートの発信源になっていますよね。
自然に売れるものでは決してないんです。コミュニティに届けないといけない。人々に「物語への納得感」を伝えていくことが大事ではないかと思います。私たちの場合は、世界中にファンのいる1980~90年代のノスタルジックアニメの文脈に乗せてNFTコレクションを作りました。NFTホルダーと一緒にアニメ化を目指すというロードマップを掲げ、実際にアニメスタジオやプロデューサーとの対談の様子なども随時発信することで、NFTコレクターのコアな層やアニメカルチャーを愛する人たちに「本物のプロジェクト」として響いた、ということだと思います。
――:伝統的なアート業界や音楽業界からは草野さんのプロジェクトはどう解釈されているのでしょうか?
さまざまな業界の方に興味をもっていただけますが、共通して言えることは、一つのことしか知らない人の既存の物差しで考えようとするとNFTは難解だと思います。パトロン文化、コミュニティ支持が成功を導く現代アートの文脈もあります。しかし、同時にユーティリティを求められる、音楽業界のファンコミュニティのような側面もあります。それにプラスして、株や暗号資産などのトレーディング・流動性も考慮しなければならないため、一つの視点だけで理解しようとすると無理が生じます。
幸いなことに、私は、ミュージシャンの活動経験があり、メディアアート作品などを作り、東京藝大で教鞭もとっていました。そしてファッションメディアや広告代理店にも勤務をしていたので、予算管理やスポンサーシップ、インフルエンサーマーケティングも熟知していました。これまで「器用貧乏」だったことがずっとコンプレックスでしたが、そこが全方位に生きたという感触がありますね。
特にギャルバースのようなPFPプロジェクトはひとつひとつがアートとして魅力を持ちますが、同時に、ソーシャル上で顔になるというファッション要素もあります。私はリアルタイムでは体験してませんが、昔の裏原宿文化にも似てますね。NIGOさんや藤原ヒロシさんに認められることでhypeするよね、という感じです。最先端の人の持っているNFTに皆が追随してそれがブランド化していく過程があります。
――:そういう意味では、やはり「コミュニティの中心で活躍するクリエイター」という個々人を中心に、企業や組織もそこに支援するような形が発展として望ましそうな気がしますね。本日はありがとうございました。
デジタルガレージweb3.0カンファレンス特集
会社情報
- 会社名
- Re entertainment
- 設立
- 2021年7月
- 代表者
- 中山淳雄
- 直近業績
- エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
- 上場区分
- 未上場