【連載】中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」第7回 「好きなものを堂々と好きと言える世界を創る」-推し活応援メディアOshicocoを立ち上げた新卒1年目の女性社長

中山淳雄 エンタメ社会学者&Re entertainment社長
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今回は「推し活」をビジネスにする株式会社Oshicocoを立ち上げた多田夏帆社長にインタビューした。まだ「推し」という言葉自体が流行して数年とたたないこのタイミングで3万人以上のフォロワーを抱えるOshicocoは、Web3.0の世界を見通す、新しいパーソナライズメディアを目指す新進気鋭の企業と言える。

 

■推し活インスタ「Oshicoco」が半年で日本最大規模に

――:自己紹介からお願いできますか?

多田夏帆と申します。2021年4月にアニメ/マンガのIPディストリビューション会社ダブルエルに新卒で入社しまして、社長の保手濱彰人さんから支援を受けて、推し活応援メディアOshicocoを立ち上げました。自分自身も含めてZ世代の女子を対象としたメディアで、「コンプレックスのある女の子」「マニアックな趣味をもつ女の子」を救いたい、というのが発端でした。

主にInstagramを中心にメディア活動をしており、現在3万人強のフォロワーがおります。月に170万人ほどにリーチしており、だいたい1投稿すると3千人くらいのエンゲージ(いいねやコメント等)がついています。この「登録者数の10%」というエンゲージ率の高さからかなり需要があるサービスになる、ということで今回株式会社Oshicocoとして法人化することになりました。

――:10%はかなり高いエンゲージ比率ですね。フォロワー数も含め、「推し活支援」では日本最大規模になっていると言える状況ですね。どんな情報を提供されているのでしょうか?

(サイトを見ていただくとよいかと思いますが)「(推しの)誕生祭ケーキデザイン」「大人かわいいトレカケース」「ライブ持ち物5選」「痛バッグの作り方」などなど。推しはBTSからジャニーズからキャラクターまで色々おりますが、どの推し活ユーザーにも共通するような情報を日次であげていっています。

 Oshicocoが展開するインスタ“oshikatsu_media”

 

――:なんか普通におしゃれな感じですね…。“推し活応援メディア”自体がそもそも完全に新規ジャンルだと思いますが、これまで市場として提供メディアがなかったものなのでしょうか?

いわゆる「オタク向け」みたいなものはあったのですが、どうしても“ダサい”感じがしてしまうんです。原色系だったり、タレントやキャラクターを前面に押し出したファングッズのようなものばかりで、普段使いできるような、いわゆる「普通におしゃれなもの」がなかったんです。

コスプレにしても、ジャニオタ向けのうちわにしても、本当に自分が気に入るものというと自分で作るしかなくて。それがまた大変なんです。なので普通に推し活している私としては、同世代の女性たちがおしゃれだしかわいいし、それでいて推しと一緒にいられるような感覚をもてる、良いものを商品化していこうとこの事業を立ち上げています。

――:なるほど、そうなると完全に情報提供だけのメディアということではなく、自社でグッズの提供やECなども含めた、「推し活女子」に向けた「メディアコマース事業」ということですね。

はい、まずInstagramやnoteのような「メディア事業」があり、そこに21年8月からオープンした公式オンラインストアを使って自社で開発するオリジナルグッズや、アパレル雑貨のセレクトなどの「EC事業」、そしてZ世代向けの商品開発などを行う「コンサルティング事業」などが事業の軸になっています。

単なるトレカカードもインスタ映えする形でデコレーションがされている。こうしたグッズをオンラインストアで販売している。

 

■Meryのトップブロガーが新卒1年目で社長になるまで

――:そもそも新卒1年目の多田さんが、どうして自社メディアを起業することになったのか、興味があります。メディア事業自体は始めてではないんですよね?

21年3月までは普通に早稲田の学生だったのですが、実は4年間ずっと女性向けのファッション・美容のキュレーションメディアMeryでブロガーをやっていました。Meryは年間1億PVも稼ぐような、10代女子向けにはとってもメジャーな媒体です。そこで4年間ライターとしてユーザーさんたちと向き合ってきた経験が今回につながっています。

――:トップブロガーだったとお聞きしております。どのくらい記事を書いていたのでしょうか?

4年間で400本の記事なので、年100本、月10本弱というところでしょうか。勤務も長かったので最後は100人を数えるライターのマネジメントなども行っていました。トップと言っていいかわからないですが、PV数で年間1位を頂いたり、良く書けた記事は150万Viewなどになりました。私自身はそんなに数字数字というよりは、ずっと“今の女の子”が何に悩んでいるのかをずっとメモをとり、記事を書き続けて、何かこの経験を会社に入社しても生かしたいなと思っていました。

――:View数もすさまじいですが、週2本を4年間書き続けたという実績が、すでにプロフェッショナルさを語っていますね。どういった特集をされてたんですか?

私自身は一番Viewをとった記事よりも、誰もが知らないものが伝わっていくのが好きなんです。例えばギムナジウム特集をしたときには、ドイツの男子校という誰も知らないけれど自分だけが追いかけていた内容の漫画・小説を記事にしたもので、そんなニッチな内容でも5万Viewにいったことがとても達成感がありました。

――:『トーマの心臓』『ライチ光クラブ』などですね。多田さんの趣向がばっちりわかる記事ですね。このあたり好きな方ならYoutuberの好事家ジュネさんがぴったりハマりそうですね。ブロガーやメディア運営をされていたところから、どうして今回起業という話になったのでしょうか。

何か自分の好きなものを広めるメディアをやってみたいとぼんやり考えていました。そこに、学生の時に紹介いただいた保手濱さんが、「だったらもう会社つくって社長やったほうがいいんじゃないの?ひとまず勉強も兼ねて僕の会社入ったら?」と背中押していただいた形です。私もすごくビックリしたんですけれど、、、結果、入社半年でこうして会社を立ち上げさせていただくところまで来ました。
※保手濱彰人氏自身は、現在15年以上続く東大の起業サークルTNKの発起人であり、ホリエモンこと堀江貴文氏のカバン持ちで2005年に有名になってから、学習塾やソーシャルゲーム会社を立ち上げ、現在はダブルエルの代表取締役社長

――:多田さんのオタク歴は長いのでしょうか?パッとお見掛けした感じ、そんなタイプにも見えないんですが、、、

小学校のころはジャニオタで、母や兄弟とうちわ持って関ジャニのコンサートに通い詰めてましたよ。中学生になってからは2.5次元演劇にハマってテニミュ(ミュージカル『テニスの王子様』)のリピーターです。たぶんマンガや音楽が好きだった両親の影響も大きかったと思うんですが、自宅に3000冊くらいマンガがあるので、小さいころからそれを読み漁ってたのも大きいんでしょうかね。アニメだと『鋼の錬金術師』が好きで、歴史も好きなので新選組モノはかなり読んでますね。中山さんが言ってた『漂流教室』も大好きで、他には…

 

2次元からアイドル、日本史、城などの幅広いジャンルのオタク。「おしゃれに可愛く推し活すること」を信念にしている。

 

――:なるほどなるほど(笑)かなり長いことオタクだった感じですね。何かハマると集中的に消費する、というのをずっと続けてきた“偏愛”歴をビシビシ感じますね。でも“消費者”だった多田さん自身がMeryなどで発信されるようになったきっかけは何でしょうか?

高校のころからTumblerなどでブログを書きはじめていて、近い趣味の人や海外の人とつながった経験が大きいです。父の影響で80年代の音楽も大好きで、デヴィットボウイについてブログを書いてるうちに、英語で海外からの問い合わせをもらうようになったり。対応しようとして必死で英語辞書片手に英語でブログを書いてみたり。TwitterやTumberなどを通して、人種・地理問わずに人とつながる経験がとても面白くて、大学に入ってすぐに当時DeNAと小学館の共同出資で再立ち上げとなったMeryで1期生のライター募集があった際にすぐに申し込みました。

――:ギムナジウムの特集といい、わりと趣味趣向が先鋭的でとがっている多田さんは、それをまわりに広めたい、という共有意識が強くて、それが今の事業につながってきているんですね。それがすごい伝わります。

はい、書くことは昔から大好きでした。

 

■キュレーションメディアからパーソナライズメディアの時代へ

――:(僕が聞くのもなんですが…)そもそもなぜこんなに推し活が普及したんでしょうか?

「推し活」自体はホントにこの1年盛り上がってきた言葉だと思います。私の高校時代(2010年代前半)は普通に萌えとかオタクとかって言葉でしか表現されていなかったので。

推し活にハマる人たちは総じて「自己肯定感が低い」ように感じます。そうした中で『推しエコノミー』にも書いてますが、「生きなおし」「自分を好きになるための活動」として、誰かを好きになることでそんな自分自身を好きになれる、それが推し活だと私は思ってます。結局は世界を良くしたいという気持ちから出てきているように思います。

――:そうした中で、多田さんとしてはこれまでされていたキュレーションメディアではなく、なぜ今回「推し活応援メディア」というものに注目したんでしょうか?

キュレーションメディアというものの存在がもう難しい時代だとつくづく感じました。なんでもあるポータルのようなところに人が集まりにくくなっている。そうした中で、InstagramやTwitterなどのコモディティになっているプラットフォームの上で、いかに細かな需要をもつ一定層に深く刺さるものができるかどうか、メディアをパーソナライズする必要があると思い、Oshicocoでは思い切って「推し活ユーザー」という趣向性のみをターゲットとしたメディアにしていくことにしました。

――:それは私自身もWeb3.0の文脈で強く感じます。メーカーのお仕着せのような発信・広告・宣伝が通じづらくなっており、ユーザーがいかに自分たちのものとして感じて、コミュニティで参加できる「余白」があるか。これはメディアもコンテンツも求められる時代だなと。

はい。だから「公式」とか「運営」という感覚でやりたくはないんです。「これは推しがいる自分のためのメディアだ」とファンの方々に思ってもらえるかどうか。

メディアをつくると、どうしてもコンテンツ系=IPとなってしまう。IPってそれぞれ好きなオタクの属性がだいぶ違いますよね。でも供給者側ではなく消費者側から見てみれば、グッズの作り方や楽しみ方は推しが何であれ共通していますし、「何かを推している」というファン全体に共通する活動を補助するサービスが、自分だったら作れるのでは、という思いがありました。

――:競合はどんなところがあるのでしょうか?

推し活情報も発信しているアクセサリーブランドなどで3~5万フォロワーのものはあります。ただフォロワーの方々のエンゲージ率も掛け合わせると、Oshicocoがそのなかでは一番といえる状況にはなってきています。ただ、そもそもこの領域にセグメント化して手をつけている会社さんはほとんど見当たらない状況です。だからチャンス、とも言えますが。

――:事業サイズとしてはどんな感じなのでしょうか?資金調達などもされますか?

最初にWebの開発費として初期投資がかかります。まずはメディアで視線をあつめながら、グッズ販売で少しずつ会員数を増やしていく。1万人くらい超えてくると1つのメディアとなって広告もつくようになりますし、そうした協賛案件なども入れながら、今年の夏にはWebを完成させる予定です。このメディアとグッズとWebが三位一体で連携していく状態を作っていくことが2022年の目標です。

現在はまだシリーズAくらいの段階で、ちょうどいま資金調達もはじめるフェーズです。ご出資いただける企業や投資家様も募集中です。社員は現状私もいれて3人でまわしていますが、今年の4月から新入社員も3人入ってくるので合計6人規模で拡大していく予定です。

――:Webメディアとしてはなかなかのサイズですね!Oshicocoが目指したい世界というのはどういうものなのでしょうか?

Oshicocoとして目指したいのは、「(オタク系・BL系といったカテゴライズがされない)とにかくカワイイから入れるサイト」と「すべての違った推し活のファンが共通で悩んでいるものに対するソリューション」をサービスとして展開していきます。最終的には、オタクが「堂々と好きなものを好きと言える世界」を作っていきたい、というのが個人的な野望でもあります。

 

左から池田芽伊氏、代表取締役多田夏帆氏、藤井侑香氏

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