【連載】中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」第74回 日テレが生んだVTuber企業ClaN:インフルエンサーを芸能・放送文脈につなぎ、マス化させていく

中山淳雄 エンタメ社会学者&Re entertainment社長
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ClaNはVTuber事業者やクリエイター向けにテレビ番組・配信番組からイベントを提供するBtoB型VTuber企業だ。誰もが知るVTuberが所属しているわけでもなく、誰もがアクセスできる自社アプリ・サービスをもっているわけでもない。だがそのプラットフォームの上で、ANYCOLORやカバーのタレントが交流し、テレビでよく見るタレントとネットにしかいなかったライバーが接点をもつ。そうした「接合点」をつくりだすリアルとネットのハブ事業を率いているのが若干29歳の社長、日テレ初の新規事業の法人化ということも含めて異例づくしなこの企業・サービスについてインタビューを行った。

 

【目次】
日テレが始めたVTuber新規事業が5年目でスピンオフ法人化
ミュージカルとエンタメと海外留学にハマった学生時代。テレビ局就職の背景
社内起業スタート、2年目で事業責任者。1年悪戦苦闘して味わった手詰まり感
コロナ・ロックダウンで事業撤退の瀬戸際。1on1対話サービスで起死回生の一擲
記憶がない激動の2021年、スピンオフ成功とVTuberの未来への貢献

 

■日テレが始めたVTuber新規事業が5年目でスピンオフ法人化

――:自己紹介からお願いいたします。

ClaN Entertainment代表取締役の大井基行(おおい もとゆき)です。ClaNは「人生を変える、エンターテイメントを」をスローガンにVTuberなどインフルエンサーに特化したエンタメ企業です。2018年から4年間日本テレビの事業として運営して、2022年4月よりスピンオフした会社になります。

――:28歳で日本テレビ子会社社長、しかもVTuber事業をやっている、ということでかなり珍しいキャリアですよね。

2017年に日本テレビに入社しまして、営業の仕事をしながら半年たったところで新規事業の提案が通り、2年目となる2018年春からVTuber事業の責任者をしていました。それ以来5年半ずっとこの事業をしているので、僕自身はいわゆるテレビマンとしての仕事をほぼやっていないんです。日テレグループの中では亜流も亜流のキャリアだと思います。

――:VTuber事業としてはどんなことをされてるんですか?所属のVTuberがいるわけじゃないんですよね?

自社VTuberの運営からスタートしたのですが、現在はクリエイターのネットワークを中心としたサービスをしております。いわゆるVTuberの事業者やクリエイターさんを支援する事業になります。

「MUSIC VERSE」というテレビ番組を月1回のサイクルで企画・制作しておりまして、配信番組としては「MUSIC VERSE LIVE」をSPWNで展開しており、それ以外にも「バズリズム LIVE V 2023」という芸人のバカリズムさんをMCとしたVTuberを中心とした音楽フェスなども運営しております。最近発表したところではサンリオとの協業でのVTuber事業を始めたり、幅広い事業を展開しています。

――:VTuber事務所はどんどん増えていますが、VTuber「を活かして」のイベントやテレビ番組、企業タイアップといったコンテンツを強みとした展開をされている、というのは確かに特徴的ですね。

2020年にほぼ事業撤退ギリギリのところで、なんとか切り拓いたのがこの事業でした。2人のチームからスタートして、従業員数はいまでは30名以上となっていますが、ようやく一つの会社として様々な事業を展開できるくらいのサイズになってきたと思います。

――:あえて日テレグループでこうしたVTuber事業をやることのメリットって、どういうところなんですか?

一つはテレビというメディアを活用できることだと思います。もちろんテレビに対して妄信的な考え方を持っているわけではなく、テレビ離れなどの現実は理解しています。その上で、テレビは「受動的な」メディアだからこそ、興味がない人でも時間があるときに「ながら」で視聴していたら、だんだん好きになるとか、そういったことがあると思います。ネットやモバイルのコンテンツは、それでいうと能動性が高いんですよ。自分で検索してフォローして好きなコンテンツを能動的に視聴している。私も日々活用していますし、非常に便利だとは思いつつ、一方で興味があまりない層に対してはコンテンツとして広がりづらい側面もあると思います。その点、テレビを介することで一つのきっかけを作ることができるし、マスコンテンツにしていくことに貢献できると考えています。

もう一つ明確なメリットとしては、バーチャルとリアルのコラボレーションや企業さんとのタイアップなどにおける日本テレビグループに対する信頼性だと思います。アーティストのCreepyNutsさん(ソニーミュージック)とVTuberの森カリオペさんのコラボ(カバー)とか、古坂大魔王さんとクリエイターなど、他ではみたことのない組み合わせのハブになれる。そこに企業さんの協力も得ることができる。こういったことは日本テレビグループに対する信頼性があるからこそ実現できることだと思います。

――:広げていく、という意味でいうと、どのVTuber事務所も自社プラットフォーム(タレント別YouTubeチャンネル)・自社タレントに拘っているところを、貴社が中間的な位置づけてそこを支援できるということですね。

 

■ミュージカルとエンタメと海外留学にハマった学生時代。テレビ局就職の背景

――:大井さんは若くして「社内起業家」となられてますが、もともと起業志向だったんですか?

経営には小さい頃から興味がありましたが、起業という形にこだわっていたわけではありませんでした。1994年生まれで、普通の会社員家庭で育っています。一点、今につながる経験でいうと、親がエンタメ好きで、よく舞台とかミュージカルに連れて行ってもらってましたね。日本でも劇団四季を何度も観てましたし、一度だけ小6のときにニューヨークのブロードウェイで「オペラ座の怪人」を見た時は、本当に感動しました。小学生の時に演劇を少し習ったこともありました。

――:小学生でミュージカルは早熟ですね!

エンタメについては親のストップがかからない家庭だったので、舞台系もそうですがデスクトップPCで掲示板とかブログとかニコ動とかYouTubeとかずっと見ているような子供でした。

その後地元の公立中学校に入ったのですが、学校に行かずに引きこもりの時期もありました。その期間はずっと家にいて、毎日15時間くらいネットとか、それこそテレビだけを観るような生活を続けてしました。「SMAP×SMAP」「めちゃ×2イケてるッ!」「笑っていいとも」「ぐるナイ」「世界まる見え」とか。当時テレビを見まくっていたことは、確実にその後日本テレビの就職につながってますね。同時にネットカルチャーにも多く触れたのは今のVTuber事業にも活かされていると思います。

――:当時のエンタメ漬けの蓄積が今に生きていることを考えると、ムダだったとは言えませんね。高校ではどんなことをされてたんですか?

高校は文化祭の中でクラスごとにミュージカルをやって、順位をお客さんの投票できめるというイベントがあって、それに3年間熱中しました。チームでモノづくりをして、それを目の前のお客さんに味わってもらうというのは本当に感動しました。それまで生徒会長とか部活のキャプテンとかをやるようなタイプではなくて、リーダーシップとは程遠かったのですが、あの時が初めて自分がリードしてチームをまとめた経験だったと思います。

――:大学は慶應大学に進学されます。

大学一年目は、いわゆる大学生らしいことを一通りやっていました。サークルとかバイトとか友達とご飯いったり。ただそういう生活に半年もすると飽きてしまって、刺激が足りないと思って語学留学したのが転機になったんです。

ロンドンに1ヶ月だけ留学して、当時TOEICも当時は500点くらいで全然話せなかった状態だったのですが、現地に研修で来ていたイタリアの空軍に所属する友達が出来て。フランチェスコという少し上の年齢なんですが、そのイタリア空軍の仲間20人くらいの中に混ぜてもらって、自分1人だけ日本人だったのですが、そういった環境でワイワイ話したり遊んだりするのが本当に楽しかったんです。

――:そういうのありますよね。日常に閉塞感があって、ちょっと飛び出した異世界で、刺激のなかで自分がこういうの好きだなと発見する瞬間は僕も学生時代にニュージーランド留学でありました。

そうなんです。それで海外留学にハマってしまって、その後セブ島に2回留学します。欧州や北米、アジア人の友達がどんどん出来ていくなかで、もっと本格的にと思って大学3年の終わりに休学して、1年間UCLAで米国留学するんです。当時はもうそのままハリウッドに就職したいと思っていました。

――:だいぶ野心的ですね!!しかし「エンタメ」という軸はずっと保持し続けてるんですね。

そうですね、当時から留学中にNetflixやワーナーの本社いってみたり、アメリカのエンタメ界で活躍したい、という欲求を温めてました。でも1年間大学の交換留学するくらいじゃ、まったく役に立てないことに気づいて。ロサンゼルスにあるガンホーのアメリカ支社でインターンをしたのですが、自分の無力さを痛感するばかりでした。これは一度日本でちゃんと修行してから将来世界で勝負しよう、と思ったんです。

――:なるほど、それで帰国後に日テレに就職となるんですね。しかしテレビ業界は超人気業界、それだけ目指すのはリスキーですよね?あと希望していた「世界のエンタメ」からすると、テレビ局ってちょっとドメスティックですよね?

業界としては外資系コンサルかテレビ局に絞って受けていました。日テレ自体がちょうど「ビジネス志向の人間を入れていこう」というタイミングでもあったので、面接も「グローバルに展開するエンタメビジネスをしたい」という話をしながら内定をもらうことができました。同期30人くらいの中で毎年1~2人はそういう人がいる時期で、「こういうテレビ番組を創りたい」という人が多い中で、「テレビはこのままじゃまずい、世界に出てビジネスをしないと」といった僕みたいなタイプも一定数とろうという気運があったのか、そこにハマるような形で入社することができました。

――:テレビだとドメスティックな仕事しかできないかもとか、大企業でチャンスを得るまで修行期間が長いんじゃないか、といった不安はなかったんですか?

逆に「テレビ局は色んなエンタメに携わることができる」と思ってましたね。テレビだけでなく、ネットや音楽ライブもやっているし、他にも美術館運営からアニメ、映画まであった。これだけキャパシティの広い会社だからこそ、自分から仕掛けていけば新しくて面白いことができるだろうと思い、期待を胸に入社しましたね。

 

■社内起業スタート、2年目で事業責任者。1年悪戦苦闘して味わった手詰まり感

――:最初からVTuberビジネスを提案していたのですか?

社内で新規事業プランを提案する制度があったのですが、最初はYouTubeビジネスを提案していました。何のビジネス経験もない素人ではあったのですが、自分なりに頑張って書いた企画書をみて、「新入社員にしては珍しいな」と思ってくれたのか、先輩がサポートしてくれました。もっと実際に事業をしている人に会ったほうがいいよと、色んな起業家につないでくれたのです。その時にBitstarの渡邉さんとか、まさにYouTube周りでビジネスやっている起業家の方々とお会いすることができました。

――:それ、先輩にめちゃめちゃ感謝ですね!大井さんの場合、学生時代とかに起業家がまわりに多かった、というわけでもないんですね?

起業した友人は周りにほとんどいませんでしたね。興味はあったものの学生時代は実際に行動に移そうとまではしなかったです。ただまさにこの2017年後半くらいから初めて「起業家」という人種に会い始めて、そこで大きな刺激を受けました。キッカケを作ってくれたその先輩には今も感謝してます。

そうしているうちに17年末に「キズナアイ」をYouTubeで発見します。最初に動画を見た時は本当に衝撃でした。エンタメ×テクノロジー×グローバルを事業のテーマとしてずっと考えていて、そのすべてがここに詰まっていると直感的に思って、YouTubeビジネスのなかでもVTuberに絞った提案に結びつきました。

――:なるほど!2016年6月に誕生したキズナアイはまさに日本で最初に有名になったVTuberでしたね。じゃあ後から提案をリバイズしてVTuber事業に改変したんですね。

はい、その企画が通って無事2018年8月に社長室に配属となり、VTuber事業が立ち上がります。

――:業界としてもかなり早いタイミングでの参入ですね。COVER(2016年6月)、ANYCOLOR(2017年5月)やUnlimited(2017年10月)からそれほど離れてませんね。日本の大手メディア企業としては相当、先見の明がありますよね。

まだVTuberという存在が世の中で理解されていない時期で、事業を始めるにあたっても手探りで進めていくような状況でした。ただVTuberというコンテンツに大きな可能性があることは確信できたので、どんな形になるかは分からないけど、まずはやってみよう、という気持ちでした。同期のもう1人との2人チームでの社内新規事業としてスタートした形になります。

――:日テレのなかでは新規事業を提案して事業化する確率ってどんなものなんですか?リクルートのNewRingとかだと、それこそ年1,000件あって、そこから数件みたいな超レアな確率ですよ。

母数はわからないですが、数年間で5~6個はこうした新規事業は立ち上がっていたタイミングでしたね。既存のテレビや広告事業などとは全く異なる事業だったということもあり、他の事業と比べてもこのVTuber事業はかなり異色だったと思います。

――:入社2年目としてはかなり栄誉あることですね。しかし先ほどから聞いていると大企業にありがちな「ブロック」みたいなのはなかったんですか?2年目だから早すぎる、とかリスク検討せよで1年くらい提案書出し直しさせられる、とか。早すぎる出世で嫉妬なんかもありそう。

何か嫉妬を受けたり、先輩からブロックされたりといった経験は本当に感じたことがなくて。というのは、そういった対象にひっかかりようがないほど「特殊な」キャリアだったのかなとは思います。いきなりVTuber事業を立ち上げて、できたばかりのジャンルで社内にはまだ詳しい人もいない、マーケットがどうなるのかもわからない、経験も前例もない中でゼロから調べながら進めていく、みたいな状態なので「わかってもらえない苦しさ」はあっても、故意に邪魔されたりといったことはなかったですね。

――:それは実は結構珍しい気がします。日テレの一番の強みはその文化かもしれません。僕も最近お会いした土屋敏男さん(「進め!電波少年」プロデューサー)や奥田誠治さん(映画事業部で長くスタジオジブリを担当)、大塚恭司さん(「Mr.マリックの超魔術シリーズ」ディレクター)達って、ホント自由にプロデューサー・ディレクターをやらせてもらって定年まで勤めあげてるんですよね。およそサラリーマンとは一線を画していた“クリエイティブ"な人たちが何十年も一緒にいられるって凄い受け皿力です。

それは確かに日テレの良い文化なのかもしれません。ただ事業の初期は正直かなり大変な状況ではありました。2018年10月にアニメ「ヤッターマン」のIPを活用して「カミナリアイ」と「ボヤッキー」のVTuber2人がデビューすることはできました。約1年間全力でやってみて、登録者数7万くらいのところまではもっていくことができたのですが、事業としてスケールさせることは中々できず、事業の進退が問われるなど、風向きも厳しくなっていきました。

市場としても四天王がトップの時代で(「ミライアカリ」「電脳少女シロ」「輝夜月」「バーチャルのじゃロリ狐娘YouTuberおじさん」)、そこににじさんじさんやホロライブさんが急激に追い上げていったタイミングだったと思います。僕らも事業に伸び悩んでいるなかで、彼らとどう違うのか、他の事務所・VTuber達は今何に困っているのか、というのを聞いてまわりました。そうやって得た情報のなかで、思いついたのが「V-Clan」構想、今のクリエイター支援のネットワークの構想なんです。

――:なるほど!事業スタートして2年、自前でVTuber運営に突き当り、なんとか生存の道を探した結果としてのVTuber支援事業だったんですね。

 

■コロナ・ロックダウンで事業撤退の瀬戸際。1on1対話サービスで起死回生の一擲

――:でもそのタイミングって、あの、まさにコロナの・・・

そうですね!もうこれがうまくいかなかったら事業は終わりだという進退がかかったタイミングで仕込んでいた他社の人気VTuberを集めたイベントが2020年3月、緊急事態宣言で飛ぶんです。終わった、と思いましたね。3月どころか4月になってもオフィスに行くどころか家から一歩も出れないような大変な状況になってきて。そんな悶々としている状況下で、当時他の会社がオンラインで色んなサービスを試験的にやっているのを見ていた中で、「ファンミーティング」のような1対1の対話サービスがあったんです。

これだ!と思いました。当時は緊急事態宣言下で、イベントがほとんど開催されていないときでしたが、好きなVTuberと1対1で電話ができるイベントであればお客さんも演者さんも自宅から参加できる、このイベントなら成功できるのではないかと思いました。。

――:あ、“オンラインの1対1の密室握手会"みたいなファンミーティングサービスですよね。ソニーのforTune MeetsとかWeshoWとか 。

当時はそういったサービスもない最初のタイミングでしたから、電話でVTuberとファンの方々をつないで3分間会話できるイベントをしよう、と短期間でなんとか開催しようと進めてました。準備を進めていく中で電話回線だとだいぶ料金が高くつくことが分かり、商用利用の許諾を得てChatWorkを使いました。20人以上のVTuberが参加したのですが、それぞれ1日20人分くらいのチケットが販売されて、結果としては3日間で合計600人くらいの枠のチケットがほとんど完売したんです。

――:あの緊急事態宣言直後で日テレもだいぶ混乱していた時期ですよね。新規事業でピボットするのにチームは何人くらいでやってたんですか?

私を含めた最初の2人と現在事業部長の大谷を加えた3人だけです。先ほどのイベントも通話に対してモニタリングスタッフが必要だったのですが、外部のスタッフを雇って10程度のラインをコールセンターのように束ねて、3日間ずっとはりつきでまわしていました。ちょうど2020年5月のゴールデンウィークの話です。

――:それ、よく実行しようと思いましたね。普通はいろいろ事業検討でリスクとかいろんなストップもかかりそうな。

もちろんリスクを想定したマニュアルなどは作っていましたが、その時は事業が存続するかの死活問題でしたから必死でした。これをやらないと事業は無くなっていたかもしれません。自分は入社して他の部署でキャリアを積まずにすぐに新規事業に取り掛かったこともあって、戻る部署もなかったんです。転職をするにも、この事業が終わったら一体どこにできるんだろうか、と思ってました。

だからこそこのイベントで数百万円という売上があがった時、初めて「これは事業として成立するかもしれない」と思えたんです。2018年6月から始まっての2年弱、ずっとボールが芯に当たる手ごたえはなかったんです。そういう苦しいなかで、規模は決して大きくなかったですが初めてのヒットでした。

――:いや、その必死さが何よりの勝因ですよ。色々リスクとか検討してたら、できなかったですよね。

まあそれでも、普通の起業家に比べたら甘い環境だったと思います。結局日テレのバックアップのもとでの社内起業でしたしね。でも「この事業が終わったら死んでしまう」というくらいの絶望感もあって、あの時の感情は忘れられないです。

――:一度ヒットをとらえたオンラインミーティングの事業から、その後はどうなるんですか?

2020年からはその推しと電話ができるイベントを5回開催しましたね。その他にもVILLSというオンライン音楽フェスを3回実施し、他にも企業さんから依頼などもあり、イベントは合計10回ほど実施しました。他のコンテンツも含めて事業は急拡大する中で、チームは3人のママでしたからね。それはもうとんでもなく忙しかったです。その甲斐もあって1年間で売上は10倍以上になりました。まあそれまでの数字が小さかった、ともいえますが笑。

2021年でようやくチーム体制は5名になって、地上波で月1回放送ですが「プロジェクトV」という番組を始めました。

――:テレビ局ではVTuber取り上げた番組は日テレさんが一番最初ですか?テレ朝さんが「ブイ子のバズっちゃいな!」(2020年10月~21年9月、木曜深夜02時帯)とかもやってましたよね。

テレビ朝日さんの「超人女子戦士 ガリベンガーV」(木曜深夜01時半帯)が2019年から先行してましたね。一度「プロジェクトV」と裏被り(時間帯が重なる)になってしまって、それが縁でガリベンガーチームとご飯に行ったんです。非常に良い方々ばかりでそこから仲良くさせて頂いていて、僕、あちらの番組のYouTubeに出て「プロジェクトV」の番宣もやったことがあるのですよ。テレビ業界的には結構珍しいことかもしれないです。

――:たしかに笑。同じジャンルで同時間帯のライバル同士なのに、ゲストで呼ばれて、しかも裏番組の番組宣伝をしているって、なかなか見たことないシチュエーションですよね笑。

 

■記憶がない激動の2021年、スピンオフ成功とVTuberの未来への貢献

――:2021年はどのくらいプロジェクトが成長したんですか?

2021年に社内事業としてある種の限界を感じたんです。社内事業として数人で運営している状態だとマンパワーも足りず、事業もこれ以上伸ばせないこともあり、別会社化させてほしい、と申し出ました。無事に会社を設立する方向で固まるのですが、結果として実際にClaNが設立されるまでは半年以上かかりました。こういった前例もないし、マニュアルもない中で、何をしないといけないかの洗い出しから始めて。会社設立のために必要な関係各所との調整をしている間にも、事業としての成長はどんどん進んでいきました。

この年は地上波12回分とその配信番組で12回、そこに大型イベントや企業タイアップも多くあって、メディアの立ち上げなど新サービスの開発もしました。その上で法務や経理などのバックエンドの作業もありました。これまでで一番忙しかったこの2021年で、正直あまり記憶がないです。

――:記憶が・・・ない??笑

文字通り、2021年だけ記憶が飛んでいることが多くて。これは良くない話なのですが、日テレ全体の社員の就業時間で一番僕が長かったような状態もありました。

――:でもこうなってくると社内でもずいぶん注目あびるんじゃないですか?

売上については2020年に10倍以上の成長があって、21年もまた倍くらいになるんです。それでやっと社長室管轄の新規事業のなかではは売上トップになったのですが、このあたりでようやく「なんかVTuber事業で頑張っているやつがいる」という社内認知が出始める感じです。それまでは社内で知っている人もそこまで多くなかったですし、ずっと亜流でやっている感じです笑。

――:あれだけ大きい会社だとコングロマリッドディスカウントがかかっちゃいますよね。ゼロから億をつくるのがどれだけ大変かやってみろ!って思いますが。では2022年4月の別会社化が実現した時は感無量ですね。どのくらいの社員数になったんですか?

今は社員数でいうと約30名ですね。だからこの5年間で2人⇒2人⇒3人⇒5人⇒30人となった感じで、やはり別会社化して組織としての機動性をあげたのは良かったと思います。私も日テレを退職して、転籍の形で入社しています。

――:入社5年で退職、6年目で子会社転職、になるんですね。今はどのくらいのプロジェクト数をかかえているんですか?

既存のプロジェクトに加えて、2022年度に仕込んだ10個くらいのプロジェクトのうち、今現在で5つほどが出ていて、そろそろ残りの5つもリリースされてくるといったタイミングです。上半期では2023年4月に「MUSIC VERSE」、6月にYouTube MCNの名称を「C+」にしてサービスもリニューアルし、7月には「バズリズムLIVE V 2023」の開催や、サンリオさんとの共同プロジェクトの発表もしました。

――:今後はClaNをどうしていきたい、というのはありますか?

冒頭でお伝えしたような、「事務所やプラットフォームでもない独自のビジネスモデル」「受動的なユーザーにも届けてマス化させるテレビの力」「日テレグループとしての信頼性」という我々の強みとともに事業を拡大していくことで、VTuberをジャンルとして世の中に広げていきたいと思います。コンテンツ面ではバーチャル✖︎リアルというのは一つのテーマとしていて、次元を超えてVTuberがアーティストや芸人、タレントとコラボすることで、さらに視聴者層を広げていくようなことは意識しています。

――:たしかに!「バズリズム LIVE V」も拝見しましたが、VTuberとバカリズムさんや、リアルなアーティストが共演している姿はなかなか見たことのない「画」でしたね。

キャラクターに限らず、コンテンツ自体がIPになるのが理想だと思っています。例えばテレビであれば「イッテQ」にこのゲストが出たら、どれだけ面白くなるんだろうと想像ができるのも、番組そのものに世界観があって視聴者からの信頼があって、それがIPとして成立しているということだと思います。「バズリズムLIVE V」も1回ではなく毎年続けていくことで、そういう確立した世界観をもつイベントにしていきたいと思っています。

また企業さんとの取り組みも重要だと思っています。ClaNでは滋賀県や埼玉県のような地方自治体だったり、ローソンや花王、ロート製薬といった誰もが知っているような大きな会社さんともタイアップを実現しています。多くの企業がVTuberを支援して、さらに市民権を得ていく。ClaNとしてはこういう世界をもっと広げていけたらと思います。

――:確かに歴史が長い企業の傘の下で、こういう新規事業が立ち上がることってもっともっと必要ですね。

日テレグループの安心感や信頼性はありながら、スタートアップとしての強みは失わないようにいきたいですね。オフィスみられて感じられていると思いますが、ClaN自体はもう完全にスタートアップ寄りの文化です。「今日やるか、一生やらないか」みたいなことを僕はよく言うんですが、そういう熱気とかスピード感は大事にしています。

――:海外エンタメに挑戦したいという気持ちもまだ全然あるんですか?

もちろんです!VTuberの強みは、キャラクターであることを活かして日本だけでなく世界から支持されている部分だと思いますし、VTuberの文化を国外の企業が再現することは簡単ではないと思っています。ClaNでも今まさにグローバル展開のための準備を進めています。

余談ですが実は先日、ロンドン語学留学以来フランチェスコに会ったんですよ。いまやイタリア空軍の代表みたいな立場で日本に来るまで出世していて、10年ぶりなのに自分のことをすごい覚えていてくれていて。あの時たどたどしくてしゃべれなかった英語で人生をシェアすることができたのは、本当に感動しましたし、言語を超えてコミュニケーションができる嬉しさを改めて感じました。

――:ええ~!いい話ですね、それ!大学時代の原体験、ぜひそういった経験を元にVTuberの海外配信・海外イベントもつくっていってほしいです。

 

会社情報

会社名
Re entertainment
設立
2021年7月
代表者
中山淳雄
直近業績
エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
上場区分
未上場
企業データを見る
日本テレビ放送網株式会社

会社情報

会社名
日本テレビ放送網株式会社
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