【連載】中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」第53回 フォロワー数が全てではない。数ではなく熱量をビジネス化するロングテール・プラットフォームBitStar

中山淳雄 エンタメ社会学者&Re entertainment社長
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YouTube業界の熾烈な競争は2017年上場後の19年頭に時価総額1,000億円をつけていたUUUMが現在200億を切り、22年に上場したVTuberのANYCOLORが一時期3,000億円、現在もUUUMの10倍規模で評価を受けているところからも分かる。“新進気鋭の業界"のはずのYouTubeの中でもタレント離脱・経営陣離脱、倒産事例など引きも切らない。そうした中で、これまでの「事務所」ビジネスとは一線を画するデータドリブン×ロングテールで中小YouTuber、TikTokerを支援するBitStarが新しいビジネスモデルをみせはじめている。その収益の多くが「登録者10万人未満」のクリエイターから生まれているという事実は衝撃だ。今回、クリエイターエコノミーの一環として、急成長中のインフルエンサーマーケティング企業、BitStarに取材を行った。

 

登録者の少ないYouTuberでも儲かる!?目指すYouTubeクリエイターエコノミー
サッカー日本一を目指した学生時代。学生起業・シリコンバレーで開眼した起業マインド
ベンチャー企業で武者修行、1日300円でホームレスと電源取り合い競争のなか、見出したチャンス
BitStar始動!YouTube界のオリコンを目指し、データで広告主を支援する

 

■登録者の少ないYouTuberでも儲かる!?目指すYouTubeクリエイターエコノミー

――:自己紹介からお願いいたします。

独自データベースを強みにYouTuber、TikTokerを中心とするクリエイター支援事業とソーシャルメディアのコンテンツ制作事業を展開しているBitStar CEOの渡邉 拓(わたなべ たく)と申します。

――:BitStarさん絶好調ですね!

ありがとうございます笑。2014年に設立してからシリーズA・B・C・D・Eで過去5回、累計30億円以上の資金調達をしてきまして、累計5,000人以上のクリエイターの支援と年間4,000本のコンテンツ制作、1,600社以上ものクライアントからお仕事をいただけるようになりました。従業員も220名規模のところまできております。

● 2015年3月シードラウンド(金額非公表:East Ventures)
● 2016年7月シリーズA(金額非公表:コロプラ)
● 2017年9月シリーズB(約3億円:グローバル・ブレイン、朝日放送テレビのCVC、TBSのCVC)
● 2018年8月シリーズC(約11億円:グローバル・ブレイン、コロプラネクスト 朝日放送テレビのCVC、GREEグループのREALITY、インテージのCVC、Makers Fund、朝日新聞社、名古屋テレビのCVC)
● 2020年8月シリーズD(約9億円:電通グループ、丸井グループ、コロプラネクスト、フォーイット、SKIYAKI、ビーマップ、セガサミーホールディングス)
● 2021年12月シリーズE(金額非公表:グローバル・ブレイン、阪急阪神ホールディングスのCVC、丸井グループ)

  

――:渡邉さんには以前NewsPicksのプロピッカー同士ということで、会でお声がけ頂きました。

いや、中山さんの大ファンで。PIVOT「エンタメビジネス大全」は毎回毎回とても楽しみにしていたので、お顔を拝見して、すぐ声をかけさせていただきました。あの連載、すごい力入ってますよね。

 

――:お陰様で、締切と格闘しながら頑張っております笑。BitStarといえば、年4回の恒例のYouTube再生数ランキング、2022年総括もだいぶ様変わりしてましたよね。

弊社は登録者数50万人以下のロングテールからミドルクラスの“中小系"のクリエイターが支援の中心で、基本的にデータドリブンに経営をしており、ソーシャルメディアのデータはずっと収集し続けているんですよね。YouTubeをはじめとしたソーシャルメディアのトレンド・傾向を網羅的にかつ最速でビジュアル化できるという点では今、日本の中では最前線にいるはずです。

 

▲BitStar社のInfluencer Power Ranking、四半期ごとにチャンネル総再生数ランキングなどを発表している

 

――:YouTuberのマネジメントの会社といえばUUUMが代名詞になっていました。以前そこに次ぐ2番手ということでVAZを再生させた小松裕介さんをインタビューさせていただいてます。こうした競合関係のなかでBitStarさんはどういう位置づけになるのでしょうか?

実はあまり競合という意識はないんですよ。弊社も一部マネジメントはやっていて今や所属クリエイターは350組以上と規模も大きくはなっていますが、基本的に“芸能事務所型"が中心の会社ではないです。

110万件以上のソーシャル上のアカウントをトラッキングして、データドリブンなクリエイターの発掘、アカウントの成長支援、マネタイズの観点では過去にどんなYouTuberがどんな広告主のどんな商品でコラボして、どのくらいの効果を上げてきたかという「データ」が一番の強みです。1回あたり数千万円といった大型タイアップ案件を得るトップクリエイターの支援ももちろんありますが、私たちの強みは一定の予算でPRしたい商品に過去反響がよかったインフルエンサーを数十名検出し、データ結果をみながら今回のバジェットに一番合う方を複数名選定するような「広告案件マッチング」が収益ドライバーになっています。なのでUUUMさんやVAZさんにも仕事をお願いするため、むしろ協業相手という理解です。

 

▲広告主が直接商品のインフルエンサーとなるYouTuberを発掘し、その配信結果を分析しながらROIを算出できるDatabaseを事業の強みとしている

 

――:え、それでも儲かるものなのですか?アドセンス(視聴回数に応じてYouTubeからもらえる広告収入)の金額が減ってきて、100万人フォロワーがいて毎月数千万回視聴されているYouTuberですら、厳しくなっている話も聞きます。

いえ、弊社の場合、売上も50万人未満のフォロワー数のYouTuberが一番の収益源になってますからね。発掘-選定-商品配送/動画公開-効果測定ー支払いまでのインフルエンサーマーケティングのプロセスの仕組化・自動化に努めてきましたし、ロングテール・ミドル規模のクリエイターがどんどん増えているので、昔であれば成立しなかった“小さな規模のマッチング"が頻繁に起こるようになっているんです。今や50万フォロワー以下のクリエイターが5年で15倍に伸びていて、数でいくと市場の99.5%以上を占めます。

 

▲拡大するクリエイターエコノミー

 

 

――:まさにロングテール、これは凄い割合ですね!登録者数が増えないし、アドセンス収入も少ないのでYouTube廃業、という事例も増えてます。そうしたなかで10万人もいかない“小規模"YouTuberできちんと商売をまわしているんですね・・・実際の売上規模はどのくらいなのでしょうか?

普段あまり業績を公表していないのですが今年度で売上50億円規模になってくる見込みです。

 

 

■サッカー日本一を目指した学生時代。学生起業・シリコンバレーで開眼した起業マインド

――:渡邉さんは慶應大学時代に起業されてますよね。どんな学生時代だったんですか?

学生時代はサッカー一筋でした。幼稚園のときから小中高大とサッカーをやってきて、ポジションはゴールキーパーです。

 

――:高校はどちらですか?

茨城県の茗渓学園というところで、そこは11人ギリギリそろうかどうかで、弱小高校サッカー部だったのですが、その同期メンバーが慶應大学のサークルに入っていたんですよ。それで1年浪人して後を追うように入学して、そのサークルに入り関東1部リーグに昇格し、プレーをしていました。

 

――:高校同期もスゴイ選手がいたんですね!部活に入ろうとはしなかったんですか?

慶應にも「ソッカー部」(サッカー部の呼称)があるんですけど、そこで毎日練習してプロを目指すほどの意思はなかったんです。でも高校までガッツリやっていたから、せっかくなら本格的なサークルで全国を目指すまではやってみようよということで慶應「キッカーズ」に入りました。サークルはサークルですけれども大学内でも最も強く、1957年設立でかなりの老舗です。

 

――: 早慶でいうと早稲田も部活じゃなくてサークルで強いところがあるんですか?

早稲田大学稲穂キッカーズですね(創立1961年、2017年に史上初の新関東カップ戦、サッカーマガジン杯、新関東リーグ戦で優勝し、東西日本一決定戦勝利で三冠・日本一)。彼らがまさに日本一のサッカーサークルでした。

 

――:やはりそこでも早慶戦・・・4年間で就職とはならなかったんですか?

あまり考えもなく大手企業への就職に殺到していく人が周りで多い状況をみて、「本当にそれが正しい選択か?」と思うようになりました。僕は天邪鬼だったので、ちゃんと考えたかったんですよね。サッカーを引退するまでサッカーのことばかり考えていたので、引退後は理系でもあったことから大学院には行くことに決めて、研究、国際交流活動、ビジネスにチャレンジをすることにしました。大学4年のときに学生起業をしています。

 

――:大学4年目、どんな起業をするんですか?

日吉周辺の地域限定のモバイルクーポンサービスを開始し、地域店舗から広告費をもらって運営していくモデルでした。流石にもう撤退していますが、「当時アレ、使って ました!」という人ともたまに会うんですよ。あと当時一緒に学生起業していた仲間は今BitStarでも一緒に働いています。GREE新卒第一号で入社し、ラクスルCTOをやってからBitStarに戻ってきたCTOの山下とか、新卒で経営戦略コンサル企業にいってからBitStarに入った創業メンバーの原田とか。

 

――:渡邉さんご自身は、昔からリーダーポジションになることが多かったんですか?

いえいえ、ゴールキーパーでしたけど、「キャプテン」という感じではなかったですよ。中高でも普段は席の後ろに座って、サッカー以外は主体的ではなかったですし。人前で話すのも緊張してしまって苦手なタイプでした。唯一大学の後半になって、ビジネスをやっていた時と「東京国際交流館」という1,000人規模の留学生会館の代表をやっていたのがリーダー経験だったかもしれません。

人前でプレゼンなんて緊張しすぎて前も向けなかったんですよ笑

 

――:え、そうなんですか?いまお話するとそんな印象ないですね。

もう何百回、何千回やってますからね笑。起業したのはいいけれどこれから人前でプレゼンする機会が増えるのにこのままだとマズイと思って、大学院を卒業するまで毎週人前でプレゼンの練習をしてました。社会人になってからもなかなか慣れなかったですが、さすがに最近は緊張しなくなりました。

 

――:大学院でシリコンバレーにも行かれてますよね。当時の地域クーポン事業ともかかわりがあるんですか?

直接的な関係はなかったんですけど、当時ビジネスコンテストで出会ったメンターの方から「とりあえずシリコンバレーに行け」と言われてたんですよ。「今のお前に足りないものがそこにはある」と。「詳しいことは言わないが行ったら教える」とだけ言われて具体的な紹介や計画は何もなしに、とりあえずシリコンバレーに行きました。

 

――:英語は話せたんですか?

勉強してTOEICの点数はそれなりになりましたが、全然できないのも同然です笑。とりあえず2週間くらいの滞在予定でシリコンバレーに行ったんですが、2日くらいで最初にとった2件のアポが終わってしまって。

 

――:本当にノープランで行くだけ行ったんですね笑。

そこでやることなくなって、メンターの人に電話したんです。「実はいまシリコンバレーにいるんですけど・・・」と笑。そしたら、「そうかそうか遂に行ったか」とその場で、バイオベンチャー企業を大手企業にバイアウトしてセミリタイアした金島さんという方を紹介してもらいました。そこで住み込みさせてもらいながら、毎日VCの人やスタンフォードの研究生、MBA生、起業家の方々を紹介してもらって、話を聞きに行ってました。

 

――:メンターの方も驚いたでしょうね。金島さんは若手育成をやられている方なんですか?

昔、ノバルティスファーマにバイアウトした後は僕のような若手にアドバイスしたり、日本とシリコンバレーをつなぐかたちで若者支援をされている方でした。メンターは本当に行くとは思ってなかったんでしょうけれど、現地から電話したら金島さんを即座に紹介いただきました。その方の人脈で様々な人にお会いできて、シリコンバレースタートアップ界隈の空気感にどっぷり漬かってきました。

 

――:その滞在は渡邉さんにとって大きなものだったんですね。どういう学びがあったんですか?

2つあるのですが、1つ目は私の創業時のミッション(目標)にもつながるのですが、起業するのであれば産業や文化をつくっていくことに寄与するぐらい大きな目標を持ちたいと思ったことです。シリコンバレーでは少人数でも今の世の中の課題とソリューション、その先のビジョンを 非常に大きく持っている人が多いことが印象的でした。

2つ目は将来的に起業するのであれば、今やるか、スタートアップに就職した方が良いという結論を得られたことです。シリコンバレーでは優秀な人ほどスタートアップを起業するか、将来起業したい人はそこに近い経験を積む人が多いと言われていました。であれば、私も就職するにしても小さな組織であればあるほどいいと思いました。大企業のように組織は大きくなるほど専門分化していき、調整ごとも多くなる。そうした経験は自分のスタートアップには役に立たない。覚悟とか責任感を突き詰める意味でも、少人数でなんでもやる組織がいいと思って、帰国後ベンチャーに就職します。

 

■ベンチャー企業で武者修行、1日300円でホームレスと電源取り合い競争のなか、見出したチャンス

――:最初から起業も視野にいれた就職だったんですね。1社目はどんなところに?

オアシスソリューションという元々はマンションの給水管の工事会社です。50人前後の会社でしたが社長直下でマンションのネットワークを活かしたクリーンテックの新規事業担当者ということで、特にマンションにEVカーシェアを導入する新規事業立ち上げの 仕事をしていました。

私がシリコンバレーにいった時にテスラが上場前の段階でしたが、これから電気自動車が世の中の課題を解決し新しい産業をつくっていく可能性を感じて、日本でどうにかビジネス展開できないかと考えていたところ、社長もEVに興味をもってくださり一緒にやっていくことに決めました。

 

――:だいぶ早い時期ですね!かなり導入は難しかったんじゃないでしょうか?

はい、2011年の震災直後だったこともあり、災害時の電源としての活用も注目されてはいたのですが、既設のマンションでは理事会で修繕積立金をこれに使っていいのかなど議論が絶えず、また設備変更で特別決議の議決のハードルが高く、かなり時間をかけて最後は見送るというケースが多かったです。最終的には既設のマンションでは難しいという結論になりました。

今度は新設のマンション導入にフォーカスして導入は進んだのですが、スケールするほどまではいかず、時間軸が長い話でもあるのでスタートアップにとってはつらかったですね。

 

――:社長直下でゼロイチの新規事業責任者となると、まあ想像できますが、相当なドブさらい仕事になりそうですね。

当初はサービスの受付窓口も365日24時間、自分の携帯でしたしね笑。商社やメーカー、ディーラー、システム会社、工事会社、マンション管理会社とも手探りで進めていて、時には怒られこともありましたし、朝から晩まで土日も働いて、手取り給与は10数万円でしたが色々と経験できて良かったです。

 

――:まわりは颯爽と慶應を卒業して商社銀行コンサルでエリート街道歩いている同期も多かったでしょうし、うらやんだり後悔したりといったことはなかったんですか?

それが、全然なかったんですよね笑。むしろ「これだけ幅広い経験と役割をやれている!」という充実感すらあって、クリーンテックへの使命感も醸成されて、最後まで前向きにやってました。3年で辞めますと宣言していたので2013年末に独立するんですが。

 

――:BitStarの構想は最初からあったんですか?

いえ、実は辞めるとき何もなかったです笑 会社を辞めたあと「何をやろうか」でかなり悩んでたんですよ。そのまま同じ領域で起業してもお世話になったオアシスと競合になってしまうし、ゼロベースでIT系を起業するにも「それ、自分がやる意味があるのか?」とか思ってしまって。

ビズリーチ南壮一郎さん、サイバーエージェント藤田晋さん、ソフトバンク孫正義さんの本を読みまくって、得られた学びは「ごちゃごちゃ次の保険をかけずに、まず辞めてしまうことが大事だ!」と、まだビジネスプランを決めずに退職したんです。そしたらそしたで、本当にやることなくなってしまって笑

 

――:じゃあYouTuber事業というのが最初からあったわけじゃないんですね。2013年、たしかにはじめしゃっちょーや東海オンエアがでてきたあたりで、まだ「お金になる」イメージは全くなかった時期ですね。

はい。結局IT業界で何かやる時に専門性を活かすこともできないとすると、シンプルに好きなことをやるしかないと思いました。大学院時代に動画像処理の研究や動画制作をやっていたり、単純に動画見るのも好きだったので動画のメディアを運営していました。

その時に、友人のYouTuberが僕らのメディアと提携していたのですが、クライアントにタイアップを提案して実現したことが今に繋がっていますが、まだほとんど事例がなかった時代だと思います。

 

――:従業員はいたんですか?

しばらく私1人です。共同創業者の原田が平日夜と土日はフルで手弁当で手伝ってくれていましたが、1日300円で生活していたのでとても給与が払えるような状態ではありませんでした。そんななか14年の年末、後輩起業家と仕事してるうちに年を越してしまって、じゃあ銭湯でもいこうかと。その時に年末のYouTuberのタイアップ動画を思い起こしながら、ビビッと今のBitStarの形に行き当たったんですよね。

これからクリエイター1人1人がTV局になって、それぞれのスペースで分散的な広告が主体になってくる。プロダクションとタレントの関係性も変わるし、制作の下請け構造も変わる。海外ではデジタルスタジオと呼ばれるクリエイティブ制作=メディアとなる強いスタジオも生まれ始めていた。つまり、YouTubeをはじめとするソーシャルメディアが台頭してきたことによって、広告-プロダクション-メディア・制作といったコンテンツ産業全体が変革すると感じました。

 

――:なるほど、15年1月1日の銭湯がBitStarの原型が“降りてきた"瞬間なんですね!

その直後なんですが、中山さんも前取材されてたTHECOOさんが1月20日にまさにYouTuberと企業をつなぐ「iCON CAST」を発表するんです。先を越されたーー!と思って。あっちは元Googleの20人くらいの精鋭部隊、こっちは1人の何もない貧乏人とインターン生、手助けしてもらっている社会人の寄せ集めですし、まだ毎日ホームレスのおじちゃんとケンタッキーやバーガーキングの電源場所争いをしているような毎日でしたから笑。

 

■BitStar始動!YouTube界のオリコンを目指し、データで広告主を支援する

――:2014年7月Bizcast(現BitStar)設立、THE COOと比較したときの窮状のなかでも、よくぞ意思くじかれず、スタートしましたね!

競争という観点ではそうですが、マクロの目で見ても世の中のトレンドは不可逆ですし、毎日自分がクリエイターたちと向き合っていても社会的意義も大きいと感じました。ならやるべきだ、と思って 2015年春にはクリエイター支援事業を開始し、正式なプラットフォームのローンチはその年の9月にしました。

 

――:先ほどのデータを拝見していて「YouTube界のオリコン」みたいだなと。彼らも1967年にレコード売上ランキング誌を発行していたところから、POSデータを取得できるようになって分析データからのコンサル事業などを収益化していきました。

確かに「今、旬な人」を探すこともできるデータベースなのでオリコンに近いかもしれませんね。視聴者の性別や年齢などは機械学習で分類できるようになっています。

 

――:これ、自動クローリングでとれないところもありますよね?

クローリングだと精度の粗いデータもあるのですが、そこは「人手」で仕分けているデータもあります。

 

――:なるほど、結構コストかけているデータなんですね!

様々な角度から110万人の精度の高いデータを貯め続けることで、データベースの価値は年々向上していきます。投資に対してシステム使用料だけでも十分ペイしていますが、さらにこのデータを企業とインフルエンサーのマッチングプラットフォームに連携するなど、様々なシーンで活用することでさらにスケールアップできると考えています。

 

▲インフルエンサーごとにDay, Week, Monthでの投稿本数や平均視聴回数、視聴者の属性などがスケルトンで見れるようになるシステムIPR(Influencer Power Ranking)

 

――:前回おっしゃっていたフォロワー巨大なYouTuberよりも、フォロワーが少ないYouTuberのほうが効果がいいっていうのは、どういう意味なんですか?

マーケティングの目的にもよりますが、認知を取りにいくのであればフォロワーが多い人も選択肢に入りますが、クリエイターはもはやセグメント化されているので、クライアントが認知よりも獲得を意識するのであればマス向けの人よりも、一定のセグメントを深く捕まえているほうが結果が良いことが多いです。大事なのはフォロワー数に表れない「本当に人が動画視聴によってどう動いているか」の結果のほうなんですよね。ただその現状に対して弊社のツールを使って膨大なクリエイターデータの中で、商品の相性やユーザー層の詳細分析、過去のプロモーション動画のパフォーマンスをみながら広告主側が選択できるというのが価値だと思っています。

 

――:いや、それホント面白いですね。BitStarの収益割合ってどんな感じなんですか?UUUMさんがアドセンス(Youtubeから視聴回数に応じて配布される広告費)が5割ですよね。他ベンチャー系だと8-9割のところが多い。

弊社だとアドセンスは相対的には低いですね。エージェントとしての広告収入とコンテンツ制作部分の割合が大きいです。最近ではDtoCサービスがセグメントとしてはこれからですが非常に伸びています。

 

――:VTuberのANYCOLORさんもアドセンスは1-2割でコマース中心です。もう視聴回数での広告費収益をあてにしていくのは厳しいのでしょうか?

今までと比較すると厳しくなってくるとは思います。日本全体でのYouTubeの視聴人数も視聴回数もほぼ上限まできている中で、YouTuberの動画配信者や動画投稿本数が増え続けているため、1動画あたりの再生数や1チャンネルあたりの再生数は低下傾向にあります。そのため、今後もロングテール化はどんどん進みます。そうした中、ざっくり広く沢山、ではなく一定のフォロワーに支持されるニッチで特徴があるYouTuberへの広告出稿案件はどんどん増えていくと思います。

 

――:ショート動画の流れはどうでしょうか?視聴“回数"だけは爆上がりした2022年でしたが・・・

市場全体の視聴回数はこれだけ増えてます(データを見せながら)。広告マネタイズだけ考えると今はショート動画が正解なのですが、それだとクリエイターの本当のファンは「貯ま」らない。コンテンツ起点で興味を持つことが多いショート動画はフォロワーの新規獲得にはなりますが、そこで入ったユーザーを長尺動画でロイヤリティをもったフォロワーに繋げられるかどうかが今後重要なポイントかと思います。クリエイターにとっては複雑な戦略とオペレーションが求められます。

 

――:たしかにこうやって一瞬でデータにアクセスできるの便利ですね・・・DtoCの先として、ライブコマースはどうでしょうか?中国ではECがすでに日本の10倍近い150兆円、そこにライブコマースで20兆円を超えてきている。

中国はマスメディアが弱いのと、商品が本物か偽物かわからないから、それを確認できるライブコマースが流行ってますよね。日本ではまだまだこれからですね。そのくらい既存のリテールがうまく機能しているとも言えますが。

 

――:YouTube以外のサイトで、こうしたインフルエンサーをつくりだしたり、新しい広告機会を作れるプラットフォームは出てくるのでしょうか?

今はTikTokですが、今後もByteDance社はLemon8やPICOなど新しいプラットフォームが出てきていますし、米国でもスタートアップが様々なプラットフォームをリリースして人気を博しています。盛者必衰ではあるので、どこかで人気のプラットフォームが入れ替わることは十分にあります。BitStarとしては、常にデータを取り続けることで市場の変化の機微に対応できるようにしていきたいと考えています。

 

――:しかし、色々お聞きしていて、2010年代前半のアドテクのようだなと思います。当時は“なんでもトラッキングできますよ"と言われSDK何十種類もいれたらサービスそのものが重くなって本末転倒とかありましたが、5年単位くらいで急激に改善しました。インフルエンサーマーケティングもRTB(リアルタイムビッティング)のように、動画広告が自動でインフルエンサーとマッチングされる未来がみえます。

いずれはそうなってくると思います。ただアドネットワークと違うのは、やはりクリエイターを主体とした動画ではあるがゆえに、ブランディングを気にして広告主とマッチしないこともあります。

また、獲得広告(ユーザーを獲得するための広告)というよりは、ブランディング(商品イメージを喚起する非直接的な広告)なんですよね。ブランディング7割:獲得3割くらいのイメージで使う企業が多いです。なので現在のアドネットワークでの獲得型広告をリプレイスするのではなく、テレビ広告自体を食っていくイメージが近いと思います。

 

――:なるほど、インターネット広告の脅威というよりも、テレビなどのマス広告への脅威ということなんですね。BitStarとしては今後どういうところを目指されているのですか?

クリエイターエコノミーを代表するプラットフォーマーになりたいと思っています。BitStarはプロダクトだけではなくエージェント、プロダクション、コンテンツ制作、D2Cなど様々なサービスを展開していますが、プロダクトやこうしたサービス群も掛け合わせて、クリエイターとクライアントがどんどん集まってくるような広義でのプラットフォーマーになりたいと考えています。

クリエイターが集まれば集まるほどクライアントとのマッチングの精度があがるためクライアントが増え、クライアントが増えれば増えるほどクリエイターにとっては仕事が集まる場所となりクリエイターもさらに増える、という循環を作りたいと思っています。

いずれにしても、結局は「クリエイターエコノミーの拡大をしていくこと」への貢献なんですよね。顧客への付加価値を高めていくために既存事業の成長はもちろん、新規事業やM&Aなども含めてどんどん新しいチャレンジをしていきたいと思います。

 

 

会社情報

会社名
Re entertainment
設立
2021年7月
代表者
中山淳雄
直近業績
エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
上場区分
未上場
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