ケイブが配信する『ゴシックは魔法乙女(以下、ごまおつ)』はスマートフォンで誰でも楽しめるシューティングを実現した、現在のマーケットを見渡しても珍しい作品だ。唯一無二の個性は多くのファンを集めることに成功し、2017年末にはリアルスコア大会も開催するまでに成長した。(関連記事)
昨今ではe-Sportsに力を入れるゲーム会社が増えてきたが、シューティングゲームでの大会というのは珍しい。ケイブは一体『ごまおつ』にどのようなビジョンを持っているのだろうか。製作総指揮の池田氏(写真右)、広報にしてリアルスコア大会の企画も担当した内堀氏(写真左)にインタビューを実施。ケイブのシューティングにかける考えをきいてみた。
■ジャンルの強みが出た『ごまおつ』リアルスコア大会
――まずはお二人がリアルイベントと『ごまおつ』にどのように関わっているのか改めて教えていただけますか?
池田氏(以下、池田):『ゴシックは魔法乙女』の製作総指揮を務めている池田と申します。制作組織全般を見ており、データを見ることもあれば、プログラムを書くこともあり、特にシューティング部分に関しては主に私のほうが担当しています。
内堀氏(以下、内堀):ケイブで広報を担当している内堀です。『ごまおつ』のリアルスコア大会の開催にあたって、企画を担当し、ユーザーさんとどうコミュニティを作っていくかの設計を担当しています。
――昨年12月にリアルスコア大会の第1回目、4月には第2回目の大会を含むケイブ祭りという大きなリアルイベントが開催されましたが、振り返ってみていかがですか?
池田:リアルイベントでのスコア大会をソーシャルゲームでできないか、という構想自体は以前からありました。かつてハドソンさんがやっていたキャラバンみたいなシューティングゲームの対戦企画は、当時のゲーマー視点でも大変熱いものがありました。シューティングゲームでの対決はそれだけで見栄えが良いですし、当時盛り上がった原体験があり、それを再現したい気持ちから実現したものです。
内堀:『ごまおつ』でやろうとしたきっかけは、やはりユーザーさんがついてきてくれる確信があったからです。
池田:もちろん最初は「いつかはできたらいいな」程度の思いだったんですけど、だんだんユーザーさんによるスコアアタックの研究が進んできて、スコアに対する姿勢もアーケードの世界に近づいてきている感覚がありました。
内堀:ランキングでも同じユーザーさんを頻繁に見かけるようになったり、SNS上でのスコアアタックの盛り上がり拡大の実感や、また池田が申し上げた通りユーザーさんのスコア研究が進んできたことも見え、「今だ!」と思い立ったのが昨年で、、最初に開催したのが2017年末に溝口で行った第1回 リアルスコア大会でした。ただ、私たちとしては手応えがあったと同時に準備不足であったことも事実です。
――準備不足というと?
内堀:ケイブとしては前例がない企画で、どうやったらユーザーさんが盛り上がってくれるのか、手探りで行ったイベントでした。限られた時間の中で選手全員にスポットを当てるべく、生放送で配信する台としない台を作ったのですが、配信しない台ではなにが起こっているのかまったく分からない状況になってしまったり…
これは私たちが甘かった部分ですね。アンケートでも「楽しかった」と肯定的な意見が多い中に、改善点を指摘する内容もかなりの数でした。ですが熱意もすごく感じました。貴重なヒントももらえたので今後に活かしていきたいですね。
池田:第1回のリアルスコア大会もそうですけど、正直ここまで熱が上がるとは思っていませんでした。私たちとしては回を重ねるごとに、徐々に観客が増えていくのを想定していたんですけど、いきなり多くの方が来場してくれました。
内堀:イベントが始まる時間よりも遥かに早いタイミングで会場が埋まってしまって、急遽エキシビションマッチを行うことになりましたね。そんな企画が生まれるくらい好調でした。
――これは個人的な印象なんですが、『ごまおつ』のユーザーさんはノリがいいですよね。
内堀:そうなんですよ。皆さんエンターテイナーだなと思います。大会では自身の端末で声優さんに挑んでもらうコーナーがあったんですけど、その声優さんが担当するキャラクターをホーム画面にわざわざ設定してきてくれたんです。そうやってネタを仕込んでくるあたりは『ごまおつ』のユーザーさんならではですね。
――大会を行うにあたって、特に意識したところはなんですか?
池田:大会を通してユーザーさんの中からヒーローが生まれること、そして最終的にヒーローを身近な存在にすることです。アーケードの時代では紙面上、スコア上でしか知ることのできなかったスタープレイヤーを、ユーザーさんの見えるところに出せたのは良かったことだと思います。またケイブ祭りでは、第1回目での反省点を克服することも意識しました。出場する選手をしっかり全員画面に収めること、上位プレイヤーの攻略を理解している人に解説を任せて、キーポイントを紹介してもらうことなどですね。1回目では分かりづらかった勝負の分かれ目も、解説者のおかげで分かりやすく伝えてくれたと思います。
――2度に渡る大会を通して、『ごまおつ』だからできたこと、手応えを感じる場面はありましたか?
池田:『ごまおつ』だからというよりシューティングゲームだからできたこととして、スピード感、リズム感のある試合というか大会になった感覚はあります。スマートフォンアプリの多くは、ユーザーさんが任意で進めるゲームが多い。でもシューティングゲームの場合は任意でない代わりに勝手に進行するので、テンポがいい側面があるんですよ。テンポのいいゲームの中で、ユーザーさんがどう対応していくかは観戦者にとっても見応えがありますし、このジャンルの強みを改めて感じましたね。
――良い意味で起伏を作りやすいということですね。
内堀:他のジャンルと比べて、ミスをしたときのわかりやすさも強みです。これは失敗したなと、見てるだけでもすぐに分かるんですよ。その瞬間に観覧している誰もが「あ~」と落胆の声を上げる、それで会場が一体感を得られるのは『ごまおつ』のe-Sportsとしてのアプローチにつながっていくと思います。
――ユーザーからアンケートを取っているというお話でしたが、印象的な意見はありましたか?
内堀:特に多いのは地方でもイベントをやってほしいという意見でした。まだ関東でしか開催できていないので、いつかは地方、そしてアジアなどでも開催したいです。直近でも第3回目の大会を関東でやるのか、それとも地方でやるのかは社内でも検討しているところです。地方にも強いユーザーさんは多いので、しっかりと目を配っていきたいですね。
――『ごまおつ』でのバージョンアップという点では、どのような構想をお持ちですか?
池田:今回のスコア大会はスコアを純粋に競う大会なので、ベストのプレイをいかに引き出すかの大会でした。アプリのほうでも、純粋な対戦を睨んだ機能を付け加えたいと考えています。ちゃんと駆け引きができるというか。
内堀:現状は『ごまおつ』の中にある機能を使って大会を開いています。しかしアプリに大会用のルールが入っているわけではないんです。私たちのほうでルールを提供できるよう制作を進めています。
池田:それ以外にもシューティング原点回帰というところで、もう少し深掘りしていこうと。多くのユーザーさんがシューティングの魅力を目当てにプレイしてくれているわけですから、より力を入れて盛り上げていきたいですね。
――やはり今後の注目ポイントとしては、e-Sportsを意識したバージョンアップになると。
池田:意識はしていますけど、対戦モードに関してはe-Sportsというより、プレイヤー同士での対戦を色濃くさせるものだと考えています。
――ユーザーから機能追加の要望などは届いているのですか?
池田:もちろん色々いただいています。ただ、現行あるゲームの延長線上の提案が多いですが、それだけにとらわれないほうがいいとも考えています。シューティングでの対戦ゲームを本格的に作るためには、既存のゲームとは違う方向に持っていきたいからです。
■目指すべきはシューテングゲームのスポーツ化
――御社が考えるe-Sportsの在り方についても教えてもらえますか?
池田:私たちはシューティングそのもののスポーツ化を考えています。スポーツ化の意味するところとしては、プロの人もいれば、公園で遊ぶ人もいるような、遊びでも本気でも通用するコンテンツという意味です。プロと呼ばれる人たちも作りたいですし、子どもたちにとっても楽しめるもの、いろいろな人達を巻き込めるジャンルにしたいんです。これまでのシューティングゲームというと、ひたすらストイックに突き詰めていくイメージがありました。もちろんそれも一面として必要ですが、もっと幅広い人が楽しめることを目指したいです。
内堀:アーケード向けのゲームを作っているときは、どうしても難易度の低下に限界がありました。いわゆるアーケードレベルの難易度では、ライト層が入ってこなくなってしまうんですよね。
しかし『ごまおつ』ではアーケードの概念を捨てて、難易度をぐっと下げたんです。難易度を下げても楽しめる、楽しんでくれる人がいることを発見できたのと、このジャンルを触ってこなかった若い層が興味を持ってくれたことはシューティングにおける『ごまおつ』の貢献だと思います。
池田:『ごまおつ』をきっかけに、シューティングゲームを遊んでくれる人が増えたことは間違いありません。アーケードの世界だと単位時間での売上の側面もあるので難易度を担保しなければいけません。だから『ごまおつ』では思い切って下げることにしたのですが、その下げる度合いについて社内で相当議論になりましたね。下げることは決まっても、どこまで下げるのかは本当にたくさんの意見があって、プレイする上での緊張感をどうやって確保するかは連日のように議論していましたね。
内堀:十数年に渡って難易度の高いゲームを作り続けてきたメンバーですからね(笑)。
池田:薄味になってしまわないかという不安は確かにありました。でも『ごまおつ』の目指すところはアーケードやコンシューマで実現できなかったところであって、新しいファン層を獲得するためには思い切ったことをしなければと決心したのが、結果的に良かったのだと思います。
――シューティングゲーム全体を見ても革命的な存在と言えるのですね。
池田:ケイブの中では間違いなくそうですね。今では『ごまおつ』の中でもシューター古参組とデビュー組が一緒にプレイしてくれています。
内堀:最近ではシューティングデビュー組の若い方々が頭角を現してきたのは嬉しいことですね。皆さん自分のプレイ動画を撮って、なにが悪いかを分析して次のプレイに役立てているんです。そういった姿を見ていると、シューティングゲーム業界にも若い力は必要だと痛感しますね。ケイブ自身、「シューティングは昭和に流行ったゲーム」という認識があるんですけど、伝統を伝える役目があるとも感じます。
――今後の展望についても教えてもらえますか。
池田:ケイブとしては先ほどお話したシューティングのスポーツ化を狙います。狙うにあたって、それに適したタイトルが必要であり、今、開発を進めています。これは当然ながらグローバルで展開したいと考えていて、デバイスも問わずさまざまな地域で配信することが目標です。また、遊びでもあり競技でもある、シューティングゲームの新しい形も提案したいですね。
――若い世代のファンに対しては、どのようにアプローチしていく考えでしょうか。
池田:プロ化は当然睨んでいますけど、その前にスター選手を生み出したいです。昔のシューティングゲームでも、女性シューターが少数ながらいたんですが、今回の大会でも女性層が大分増えてきた印象があります。そういった女性の方もスター選手の一員になってくれたら、相互で盛り上がりが作れるのではと期待しています。
内堀:スポーツの話で例えたとき、卓球だと福原愛さんがいて、その後も女性の名選手が続々と出てきたじゃないですか。それと同じ流れを作りたいと考えています。かつてギャラリーの中にいた人たちが、やがて選手へと成長していく構図を作りたいです。
――ありがとうございます。それでは最後に、読者へ向けて一言お願いできますか。
池田:『ごまおつ』に関してはシューティングゲームのスポーツ化を実現する第1弾として、対戦要素を取り入れて盛り上げていきます。その後リリースする開発中の新しいタイトルも、e-Sportsを睨んだ作品になります。今までのような単に突き詰めていくタイプとは違った方向性を目指しているので、また違った盛り上がりを見せていけたらと思います。
ケイブが作ってきた難しいシューティングゲームとは少し違うかもしれませんが、ユーザー層を広げられる作品を目指しています。いま強力な開発スタッフと共に、モックの制作を始めています。具体的な内容は今年の夏に公開できるよう準備を進めていますので、楽しみに待っていただければと思います。
内堀:私が考えていくのは、実際にスポーツ化したときにユーザーさんとどう楽しむかです。もっと皆さんとコミュニケーションを取って、望まれる形を目指します。なので、どんどん意見をお伺いしたいです!ファンの方々と一緒に作っていく。改めて、そう強く意識しています。
――ありがとうございました。
■『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』
(C)2015 CAVE Interactive CO., LTD.
会社情報
- 会社名
- 株式会社ケイブ
- 設立
- 1994年6月
- 代表者
- 代表取締役社長 秋田 英好/代表取締役CFO 伊藤 裕章
- 決算期
- 5月
- 直近業績
- 売上高122億7400万円、営業利益18億7000万円、経常利益19億4300万円、最終利益14億4100万円(2024年5月期)
- 上場区分
- 東証スタンダード
- 証券コード
- 3760