【CEDEC 2018】任天堂・宮本氏が見据えるモバイルゲーム市場の未来とは…「重課金を前提にしない」買い切り型モデルへの挑戦


コンピュータエンターテインメント協会(CESA)は、8月22日~24日の期間、パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)にて、国内最大のゲーム開発者向けカンファレンス「コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス 2018」(CEDEC 2018)を開催している。
 
本稿では、8月22日、任天堂・代表取締役 フェローの宮本茂氏が登壇した基調講演「どこから作ればいいんだろう?から10年」のレポートをお届けしていく。本セッションでは、2008年に実施したCEDEC基調講演の内容を振り返りながら、ゲーム制作の現状についての話を展開した。
 

■ゲーム業界にも大きな変化をもたらした"スマートフォンの登場"



▲任天堂・代表取締役 フェローの宮本茂氏。
 
CEDECへの登壇は10年ぶりとなるという宮本氏。10年前は、”独創性”を大切にしている任天堂の視点から「ゲーム開発の過程」や「トラブルへの対処法」の話をしていたという。また、当時から「グローバルにヒットをすること」、「漫画や小説、映画などに比べてゲームは若いメディアなのでもっと幅を広げるために努力をしていきたい」ということを見据えていたと振り返った。
 
ここからは少し、当時の話を振り返っていく。2008年の基調講演で宮本氏は、ゲーム開発を行う際は「構造」から考えると話した。どのような構造にすれば「遊びたい」と思ってもらえるか、または「(開発者にとって)都合が良くなるのか」という部分についても語られたとのこと。課題点としては、高性能化に伴いクリエイターの仕事がマネジメントや管理業務に割かれていたことから、クリエイティブに全力を注げないという無駄をどのように解決していたか。
 
また、世界中で認められるようなヒットを生み出すにはどのように考えればよいかについては「自身の体験を含め、個人の中にある感覚を大切にすることが重要」と話す。オリジナリティは肌身の体験から生まれてくるもので、そういったものが結果的にグローバルに受け入れられるのではないかとの考えから、流行に流されずに”自分が何を作りたいか”と向き合うことが大事だと話したと振り返った。
 

▲ここで宮本氏は、現在グローバルに受け入れられた一例として2015年に発売された『スプラトゥーン』を挙げる。同タイトルでは、若い世代の開発者が中心となり、独特の操作感とユニークさを取り入れられたと、その成果を喜んだ。
 
その後、宮本氏は「新しい入力デバイス」や「AR・VR」といった新技術の登場や、通信環境の発達、ハードウェアの進化について話した後、それらを踏まえたうえで、ここ10年の最も大きな変化はスマートフォンの登場”であると話す。スマートフォンが世の中に浸透したことで、ゲームは媒体として大きな変化を迎えたと語った。当時、携帯電話でゲームを遊ぶことで肝心なときに電池がなくなってしまうのでは、という懸念もあり踏み切れなかったという宮本氏は、それも現在ではバッテリーの進化やモバイルバッテリーの普及により解決されたと話す。
 
ちなみに、スマートフォンが発表される以前から、ニンテンドーDSにはタッチパネルやカメラが搭載されていたことから「方向性は間違っていなかった」と宮本氏は悔しがった。ネットワークに繋ぐという壁が高かったと当時を振り返った。
 
また、多彩な機能は搭載されていても、それを便利に使えるものがないと中々世間に広がっていかないというところでアプリの貢献は非常に大きいとコメント。非常に分かりやすいUIになっていると述べた後、今後は、音声認識や画像認識といった新たな技術を駆使したゲームが登場するとより面白くなっていくのではないかと展望を語った。
 
そのほか、スマホの登場はメディアの観点にも大きな変化を起こしたという。これまで報道や週刊誌など、制限された媒体でしか情報を届けることができなかったが、インターネットやSNSの発達により一般的にも情報を届けるということが手軽になり、従来のメディアの力を借りずとも今までより簡易的に世界中に情報を発信できるようになった。
 
 
▲京都の伏見稲荷大社は、Instagramで注目されたことをきっかけに世界中へと広がり「外国人に人気のスポット」として5年連続で首位を獲得している。また、写真の狐は『スターフォックス』に登場するフォックスのモデルにもなっているのだとか。
 
ここからは再び「ゲームの構造」に関する話に戻り、近年発売したタイトルからいくつかを例に挙げて、宮本氏がこだわったポイントなどを紹介した。いずれのタイトルも、かっちりとした仕様書通りに作っているのではなく、開発者たちが実際にゲームを遊びながら「もっと、こういったものがあれば楽しい」と考えながら作っているのが伝わってくるのが良い点だと述べた。
 
 
▲「移動することが楽しい」という部分を追求したという『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』。
 

▲今までは(メーカーが)制限を付けることで「遊び」を提供してきたが、今やその先に新たな魅力があるのであれば「(ユーザーに)床を作らせてあげればいい」という想いから登場した『マリオメーカー』。
 
宮本氏は、『マリオメーカー』が生まれたことにより、2Dマリオとは別軸として3Dマリオである『スーパーマリオ オデッセイ』の制作に取り組むことができたという。さらにそこから「モバイルでマリオを作るなら?」、「もっと単純に走ってと飛ぶだけのマリオを作れないか?」と考えた際に出てきたのが『スーパーマリオ ラン』だったという。
 

 
またこの頃、任天堂では「ひとりでも多くの人にゲームを遊んで欲しい」というテーマを掲げられていたことから、スマートフォンを無視することはできなかったと宮本氏は話す。しかし、任天堂が他社のプラットフォームでゲームを制作するのは、同社としては初めてのチャレンジとなる。その際、クリエイティブ以外の仕事面が増加したが、ここは「覚悟を決めてやることにした」と宮本氏は当時を振り返った。
 

▲ジャンプ操作のみを行うシンプルな遊びにするというコンセプトで制作された『スーパーマリオ ラン』だったが、「初めてゲームに触れる人にとってはそれでも難しい」、「制作者として難しいものを作りたくなってしまう」といった点から、配信当初は離脱者の多さに驚いたという。
 

▲そこで登場したのが「リミックス10」というシステムだ。本モードは、手軽に様々なステージを楽しめるが、ハイスコアを狙うことも楽しみになるという二重構造になっている。このように、リリース後もプレイヤーの様子を見ながら開発ができるのはモバイルならではの面白い環境だと宮本氏は述べた。
 
さらに宮本氏はモバイルゲームの大きな課題として「重課金」について言及。スマートフォンゲームに取り組むことを決めた当時、課金方針については任天堂でもかなり話し合われたようだ。そこで宮本氏は「お金を出していただくのはサービスやデータに対してであって、パラメータやレア度を調整して価値を釣り上げることは止めよう」と決めたのだとの裏話も披露した。この点が、当時一部で「ガチャを禁止する」という伝わり方をしていたが、ただしくは「自分たちが作ったアプリに対して適正なお金を払っていただけるようにしたい」との想いだったとのこと。スマートフォンゲーム市場という新たに生まれた巨大マーケットで、なるべく多くの人がリーズナブルな値段で楽しめる環境を作りたいという理由があるようだ。
 
そうした想いもあったほか、トライ&エラーを繰り返す「マリオ」シリーズは買い切り型のモデルと相性が良いという理由で『スーパーマリオ ラン』は無料でも遊べる体験型のモデルとなった。しかし、この形態はスマートフォンゲーム業界では「一部課金」というジャンルにまとめられてしまうため、一部ユーザー層のハードルが上がってしまった部分もあると分析した。結果、『スーパーマリオ ラン』で採算は取れたものの大ヒットとはならなかった。しかし、宮本氏は買い切り型モデルが定着することで安心してゲームを作れる環境ができあがるとし、今後も同じ方針で努力を続けていくと決意を新たにした。
 

▲「重課金を前提にしたモデルを作らない」という思想から、親が自分の子供に安心して買い与えられるゲームにしたかったという。価格設定については、世界共通ということからショップとの相性に課題が見えたと明かした。
 
そんな折、2015年に登場したのが『Pokémon GO』だ。前社長の岩田聡氏、ポケモンの石原恒和氏、Nianticが中心となり取り組んでいた本タイトルは、発表当時こそ報道も2~3日で収まってしまっていたが、サービスを開始した瞬間から爆発的に取材が飛び込んで来たという。『Pokémon GO』のヒットについて宮本氏は、要因のひとつとしてゲーム自体を難しくしすぎなかったことにあると分析しているようだ。開発当時は、GPSを使ったサービスがどのようなものになるのか、またコミュニティが形成されることで面白さが広がっていくというイメージがし辛いため、ゲーム画面を見ただけでは「シンプルすぎるのでは?」という意見もあったという。今では身近にも親子で一緒に『Pokémon GO』を楽しんでいる姿が見られることから、コミュニティが形成されることで楽しみが広がっていくというのもモバイルゲームの特色のひとつだと話をまとめた。
 

▲講演の終盤には、過去に宮本氏が記した「デザイナーの悩みの構造」というメモも公開された。宮本氏は、当時を振り返りつつ、ネタを練らずに広げると事態が悪化するというのは今も昔も変わらないとコメントした。

最後に、宮本氏は「お互い10年後へ向かって頑張りましょう」との言葉で講演の締めとした。

 
(取材・文 編集部:山岡広樹)

 

CEDEC 2018


■『SUPER MARIO RUN(スーパーマリオラン)』
 

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任天堂株式会社
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会社情報

会社名
任天堂株式会社
設立
1947年11月
代表者
代表取締役社長 古川 俊太郎/代表取締役 フェロー 宮本 茂
決算期
3月
直近業績
売上高1兆6718億6500万円、営業利益5289億4100万円、経常利益6804億9700万円、最終利益4906億0200万円(2024年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
7974
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