【連載】中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」第6回 1人の演劇家が手掛ける忍者×HIPHOP×アニメの北米メディアミックスプロジェクト
今回は北米向けアニメ・メディアミックス作品「NinjaMASX」を手掛けられている、コンテンツプロデューサー和田亮一氏にお話をお聞きした。『カメラを止めるな』の共同原作者としても知られる。これまで様々なプロデューサーやクリエイターと接してきたが、単身アメリカに乗り込み、ニューヨークやハリウッド、ラスベガスの大物たちとこれほどEarlyな企画段階で提携・協業関係に持ち込めている人を私は知らない。大企業も、大型資本元のバックアップもなしに、たった1人でそれを実現する和田氏の実績の秘密に迫った。
■海外・アニメ・メディアミックス未経験の1人の元演劇家が挑戦する、世界的アニメプロジェクト「NinjaMASX」
――:自己紹介からお願いできますか?
和田亮一と申します。もともと福島生まれで18歳になったときに明治大学の演劇学を専攻するために上京し、学生時代は学生演劇サークル「活劇工房」に所属して以来、20代は演劇を中心とした活動をしていました。大学卒業後に立ち上げた自分の劇団PEACEで『カメラを止めるな』の原作になった舞台「GHOST IN THE BOX!」(@2011,2013)を作ったり、劇団解散後、広告代理店・IT企業で働いた時代などもありましたが、ここ数年はNinjaMASX(ニンジャマスク)という全米で公開するアニメシリーズのメディアミックスプロジェクトを行っています。
――:そもそも演劇を作っていた和田さんが、ハリウッドのクリエイターやニューヨークのストーリーライターと組んでアニメプロジェクトをつくっているといるのがどういうことなんだ!というところから今回のインタビューが始まったのですが、よろしければ経緯をお話いただけますか?
中山さんとお会いしたのも、11月ロサンゼルスで商談出張をしてきた直前でしたよね。NinjaMASXはこれからのプロジェクトで、今は自分1人の会社で動かしています。
Warnerと映画共同制作スタジオを作りDisney+に初めて外部から長編映画を販売したLabid Azizと、DCコミックの人気映画「ヘルボーイ」のAndew Cosby、それからDisneyやSony Picturesと組んで『Pirates of the Carribbean』のシナリオ等を手掛けてきたStarlight RunnerのJeff Gomezと組んでジョイントベンチャーを組成し、展開するアニメプロジェクトを行なっていくと、今年のカンヌ国際映画祭内で発表されました。
現在アメリカのクラウドファンディングKickstarterでキャンペーンを行っており、2024年以降のアニメ化を目指して進めております。
PoCスタジオCEOのLabid Aziz氏
PoCスタジオCCOのAndrew Cosby氏
Starlight Runner創業者のJeff Gomez氏、次回本特集でもインタビュー予定
――:そうですよね。Facebookで拝見していて、ちょっと和田さんがあまりに有名な俳優やアスリートとのセッションが多くて目がチカチカしましたが…。
レイ・セフォーですよね。K-1選手の。友人でちょうどラスベガスの彼の大豪邸に遊びに行ったときの動画のことかと思います(笑)。NinjaMASXも応援してくれていて、実は彼からアーネストホーストやマイクタイソンにも売り込んでくれていて、「俺らも出演できるのか!?」みたいな話も来ています。色々大物の方々が参画してくれているので、面白いものになると良いのですが…。
▲左から元総合格闘家のRay Sefo氏と、和田亮一氏(レイ・セフォー氏のラスベガス自宅)
――:ちょっとカオスすぎて、一体どういうプロジェクトなのかが本当に読めませんが。どういったお話なのでしょうか?
本当に思い付きから始まったプロジェクトなんです。私はそれまで英語ができたわけでも海外経験あるわけでもなかったのですが、『カメ止め』が海外でもあれだけ受け入れられたのを見て、海外でもヒットする日本的な何かを探しはじめたんです。
今はシンガポールに移住したオリラジの中田敦彦さんと“これからはニンジャが絶対来る!”って話になり、そこから「Ninja×Hiphop(ずっと私が趣味でやってきた)」で、かつ今は世界中を席巻している「Animeという表現」が一番合うのではないか?ということで今回のプロジェクトを始めました。2019年ごろの話です。
――:じゃあご経験からのプロダクトアウトではなく、完全にマーケットインで「海外でヒットするもの」という観点から始まったプロジェクトなんですね!?
21年7月にカンヌ映画祭でプロジェクト発表致しました。未来のアメリカを舞台に、6人の若者がNinjaMASXというヒーローになり世界を救います。Hanzo(火)、Takamura(風)、Ushioni(土)、Hanna(水)、Mashira(雷)、Mizuchi(幻)と属性別のキャラクターがいて、それぞれが口寄せ(モンスターを呼び寄せること)ができて、さらにそれぞれの通り名や戦い方、HIPHOPのテーマソングがあって…という形です。詳細については、今後少しずつ発表していきます。
NinjaMASXのキービジュアル
https://www.atpress.ne.jp/news/267582
――:まだ公表できない部分ですが、私も資料を拝読したところ、世界観からキャラクター、いくつかのテーマソングとか割と形が出来てきてますよね。ただこれからアニメも作らなければならないですし、日本のアニメスタジオは今完全に需要過多でなかなか作れませんよね。
はい、アニメ化やその先のゲーム化まで考えるとまだまだ時間もお金も必要です。アニメは海外のスタジオで作る予定ですね。実はこれも未発表ですが世界的に有名なラッパーの方に楽曲依頼していて、すでに入金して1年くらいたっているのですがまだ出来上がってきておらず。日々連絡取り合っているのですが、海外の多忙かつ著名な方々を巻き込む難しさも感じております。
――:でもこうやって関わっている方々も登場するアニメなんですね。K-1選手と落語家が登場するニンジャのHIPHOPテイストのアニメって、それだけでも話題性抜群ですが(笑)
▲NinjaMASXに登場する予定のRay Sefo氏のキャラクター
▲NinjaMASXに登場する予定のカナダ人落語家桂サンシャイン氏のキャラクター
■一人の劇団員がNinjaMASXに至るまで
――:そもそも和田さんの生い立ちや経験にとても興味あるのですが、最初は普通に大学の劇団員だったんですよね?
はい、普通に演劇にハマった一大学生でした。俳優として特に優れてたとは言えないんですが、どちらかというと愛嬌と人脈でうまくやっていくタイプで、昔から演劇に友人などを呼ぶのは得意でした。学生時代はだいたい100人くらい集めてきて劇場をいっぱいにして、なんとか採算とる、といったことは得意だったのもあり、卒業もそのまま俳優でいこう!と。
――:そこまではよく聞くストーリーではあります。日本の劇団って5000くらい乱立していて、ほぼ1-2人みたいなものも多く完全なド・ベンチャー業界ですよね。人しか要らない、だからこそ組織として維持できるサバイバルレートが非常に低い。
あまりに過当競争な世界で、小さな数のお客さんをとりあってなんとか生きている。いかに演劇が儲からないかというのも見てきていたのですが、逆に自分だったらもっと違う劇団ができるんじゃないか?という思いがあって、あえて立ち上げました。ただ振り返ると、自分も相当にビジネス感覚が欠如していたと思います。どこかで面白いものを創りさえすれば売れると思っていた。
――:劇団は私自身も論文を書いていて(「劇団飛行船~人形劇団50年の経営戦略~」)、調べていたこともあるのですが、ほとんどがチケット販売を手売りしており、「俳優として優れた人」ではなく「お客さんを呼べる俳優」が大事だったりしますよね。
そうなんです。それで演者としてのスキルよりは、チケットが売れる俳優が演技力関係なく出演して、かつ給与も払われないのでチケット代で稼ぐ、「集客維持⇒クオリティ低下(チケット集客が見込める俳優優先)⇒集客減⇒売上減⇒コストカット(役者給与払えずチケット手数料を給与に)⇒…」のような負のサイクルが業界全体にあります。それに抵抗すべく、劇団PEACEは全員給与で雇用して、クオリティの高い演劇で人を呼べるようにしよう、と。
3年で目標(3000人/公演を集めること)に行かなければ劇団を畳むと公約していて、最後は2千人近くはいったんですが、目標が達成できなかったので公約通り27歳のときに辞めました。(当時としては)大きな借金を背負って、お金も夢も友人も失い、正直自殺まで考えるような状態になってしまって。心配になった親に呼ばれて、そこから福島に逃げるように帰りました。
――:それってまさに起業家のプロセスをご経験されてますね。本当に苦労されてますね。福島では暫く療養していたような感じでしょうか?
たまたまネットで見つけた広告代理店に連絡して、なんとか拾ってもらってサラリーマンになりました。正直びっくりしました。それまで馬車馬のように働いてきたので、9時~18時で勤務すればいいうえに、定給までもらえる!おまけに18時から翌朝9時までは全部自由時間じゃないか!それで、夜や週末は福島から東京まで新幹線で通って、自分が好きだったラップを使ってラップスクールを立ち上げたんです。
――:全然引きこもってないじゃないですか笑。今度はラップなんですね。
ラップの舞台をやって話題にもなったし、多くのメディアに取り上げられました。なにより驚いたのはラッパー志望と言いながら、結局「コミュニケーション学校」みたいになっていくんですよ。入れ墨ゴリゴリのヤクザみたいな人とか、普通に定年退職した人とか、子供までくるなかで、全員がラップバトルで言いたいこと言いあって最後は握手!みたいな。みんなストレスをためた状態でラップバトルしながら、スッキリとなって友達も出来て。これ、そのまま企業にもパッケージで売れるな!と思って、いくつかの企業では実際にワークショップまで行いました。
――:基本的にどこにいっても「ゼロイチの立ち上げ」をやってしまうタイプなんですね。その後は東京にまた出てこられるんですよね?
はい、2017年ですかね。31歳になる手前でやっぱり東京に出ようと。地元の先輩が所属していたIT企業があったので、いったんそこに就職してスーツ着て営業してました。
――:サラリーマン和田亮一はどんな感じになるのでしょうか?やっぱり外向・営業型に?
そうですね。実はあんまり劇団の時と変わらないじゃん!と思ってました。お客さんの相談にのってるうちに、IT企業なんですけど認知させたい商品を、「じゃあ告知イベント作っちゃいましょう」と提案して、普通にお客さん呼んで演劇のようにコンテンツを提供して、構成や脚本も自分で書いて、販促して。つまり演出だなあと思って。
やっぱり自分がやるとどうしても同じ形になるし、これはもう一回、自分にしかできない「表現」をしっかりやろうかなと思ってたんです。
■「自分たちの意見を取り入れる」日本人を北米作家たちは求めていた
――:このあたりの時期で和田さん、有名になってしましたよね。
はい、『カメラを止めるな』がバズっていて、最終的に自分も「共同原作」という形で名前を連ねていただきました。その時に初めて海外と日本のエンタメに関する考え方や制度の違いを知ったんですね。
――:北米と日本、どのように違うものなのでしょうか?
はい、まずマーケットが圧倒的に違う。あとは「夢」を笑わない国なんだなあとなんとなく感じました。あと僕は昔から韓国のコンテンツ(映画・ドラマ・音楽など)が大好きで、彼らはその頃から、いや、もっと前から海外へ向けたコンテンツづくりをしていました。
もう一つ、直接的には実は桂三輝(桂サンシャイン)さんというカナダ人落語家さんとの出会いが大きかったんです。English Rakugo(英語落語)といって、自分1人で英語でのお話まで考え、出資も集めて合同会社としてのプロジェクトを作り、そのお金で実際にニューヨークの興行を実現しようとしている。彼と出会ったのは、NYブロードウェイでの公演の資金集めのために彼が自ら開催していたパーティーに、お誘いがあって参加した時でした。日本の伝統芸能を、こんなにも一生懸命に世界で表現しようとしているサンシャインさんに、一発で惚れましたね。
そして2019年9月、無事にNYブロードウェイでのロングラン公演がスタート。僕はプロデューサーの一人として参画させていただき、文字通り日本ではできない経験をして、より一層海外で自分の表現する世界を具現化することに照準が向きました。
――:和田さんとはここでも繋がりましたね。僕も早稲田大のMBAで教員をやっていたころに彼を呼んで授業をやったり、このように論文も書いたんです。(「落語界のコロンブス~桂三輝のブロードウェイ挑戦~」)
彼は凄い男です。途中でコロナのために中断せざるを得なくなりましたが、21年12月にはロンドンで興行をし、22年1月には再びオフブロードウェイで英語落語をスタートさせる予定です。
▲和田亮一氏
――:和田さんにもお聞きしたいんですが、そもそもなぜJeffやLabidのように、ディズニーや円谷プロといった大手企業とディールしてるクリエイターと組めるのでしょうか?NinjaMASX自体はとてもベンチャーな企画だと感じておりますが。
そうですね、僕自身よく彼らが受けてくれたなというのはいまだ疑問もあるのですが。彼らが言っていたことで確かにと思ったのは、「今までいろいろな日本人が米国にプロジェクトを持ってきた。だが日本人が持ってくるものは、『エゴが凄い』」と。
皆、こういうのを作りたい、こういうのが面白いと言いながら、「じゃあ北米向けにこうしたら?」と提案をしてみると、いやもう日本で成功してるしこういう形になってるから、と。「それは我々と組む意味ないじゃないか、だったら自分達だけで普通に展開しなよと言いたくなる」、とのことでした。
その点、NinjaMASXは企画自体すごくクールだし、フレキシブルに自分たちの意見を取り入れてくれる。「自分達としてもアイデアを生かせて面白いから組むんだ」といった趣旨のコメントにハッとなりました。
――:非常によくわかります。日本企業は、特に大手に関しては、作品に手を出すな、ディストリビューションだけやってくれ、アメリカのテレビや小売店流通に乗せてくれ、みたいなスタンスになりがちなんですよね。
僕は無名ですからね(笑)英語はちょっとお恥ずかしいくらいの中学生英語なんですが、わりとこちらから提案もってガシガシ話すと実は伝わってるし、あちらのレスポンスに対してすぐに答えているうちに、面白いじゃないか!じゃあこの作品のためのジョイントベンチャーを作ろう、とか、じゃあ俺のこういう人脈紹介してやるとかって話になりますね。
――:和田さんの場合、「愛嬌と人脈」を言語の壁を気にせず乗り越えられるところに凄さがありますね。あとは自分が手を動かすことへのためらいのなさ。大企業は作り手/売り手が分かれるので、どうしても北米現場の熱も伝わらないし、NYのストーリーライターが言ったことで作品の根本から変えるなんてありえないです。でもこの最初のプロットとかキャラクターって和田さんが作ったんですよね?
そうですね。最初のドラフトは全部自分で書いて、ストーリーを英訳してもらったり、キャラクターをデジタルイラストで描いてもらったり、イメージを音楽にしてもらったり、PV動画をつくってもらったり。でも最初の「こういうもの作りたい」は全部自分1人でやってますね。
――:そこに凄い強みがある気がします。経営者/事業家/作家/役者を1人プレイでやってるから、たとえ“生煮え”でも最初に自分で手を動かし、意見言われたらそこは経営者/事業家の顔つきに変えて内容を取り込む。演劇家が手掛けるビジネスの凄さを今回感じました。
自分としてはまだまだ始まったばかりというところがあり、インタビューをお受けするのもちょっと躊躇いはあったのですが、ただ、今行なっているKICKSTARTERは北米向けの発信ばかりで日本人のサポーターがまだ少ないので、ぜひ黎明期ですが、NinjaMASXを知っていただければと思います。
■Kickstarterの開始と今後のNinjaMASXの展開について
――:そういえばKickstarterを11月から始められていて、いまどのような状況なのでしょうか?
今回は、ピッチ用の2分程度のトレーラーアニメを作る!という目的で認知とちょっとした資金を集めているのですが、実は160人くらいの寄付者がいるなかで顕著な違いが出ていて「半分の日本人は直接お会いして話した人、半分の外国人は会ったこともない人たちがPjtに共感して支援してくれている」状態なんです。
国民性の違いだと思いますが、きちんと信頼関係を結んだりメディアなどで“有名に”ならないと日本人はなかなか支援者になりにくい。逆に北米だと、めっちゃいいじゃん!1人でこんな壮大なことをやろうとしてるのか、とか、そもそも作品としてこれを見たいといった感覚で支援者になってくれて、腰がだいぶ軽い印象です。
――:海外というか北米の特徴な気がします。アメリカンドリームのように、身の丈に合わないけど「面白いことをやろうとしている」というアスピレーションを評価する文化がありますよね。日本だと「こんな経験浅い若者が…」みたいなネガティブスクリーニングで。でも米国だと「こんなに経験浅い若者なのに!?」というむしろ野望や意思をポジティブスクリーニングしてくれる。
そうですよね、本当に米国は素敵な国だと感じます。
▲左から映画「ヘルボーイ」の脚本家Andrew Cosby氏と和田亮一氏
――:これからのNinjaMASXの展開や意気込みについて語っていただけますか?
これから、僕が考えたベースをもとに、ハリウッドのメンバーが加わって、約半年ほどかけて基盤になる世界観が出来上がります。その後、アニメを作るプロダクションがスタートとなるイメージです。2022年は、実際にアメリカに渡ってがっつりやっていくことになると思うのですが、今世界情勢やトレンドっていうのは本当に日々変わっていくので、その変化に対応するのも一つの楽しみだと思っています。半年後、一体どういう世界観が出来上がっているのか自分としても予測できないし、さらに1年後はもっと面白いことになってるんじゃないかと思います。
このプロジェクトを通して、世界に受け入れられる面白いものを作る!というのはもちろんのことなんですが、それ以上に、「一人の日本人が、海外で仲間を集めて行って大成する」という物語を作り上げたいなと。アメリカの映画ってマーベルがわかりやすいんですけど「Hero’s Journey」と言って、一人の英雄の冒険譚なんですよね。そうではなくて僕は「Collective Journey」みんなで作る冒険譚にしたいなと思っています。
仲間になりたい人、大歓迎です。一緒に冒険しましょう。
ハリウッドの仲間達と作る前、僕が僕の権限のみでできる最後のプロジェクトがこのKickstarterです。2022年1月7日で終わってしまうんですが、ぜひ日本の皆様にも知ってもらいたいなと思います。もしよかったらチェックしてみて下さい。
会社情報
- 会社名
- Re entertainment
- 設立
- 2021年7月
- 代表者
- 中山淳雄
- 直近業績
- エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
- 上場区分
- 未上場