【連載】中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」第9回 ゼロからストーリーを生み出す米国のスペシャリスト集団Starlight Runner

中山淳雄 エンタメ社会学者&Re entertainment社長
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Starlight Runner Entertainmentはニューヨークにある「原作会社」である。日本にも多くの“原作者”はいるものの、クリエイター達がグループとなって法人化する事例はあまり多くない。それだけの安定したクオリティで、多様な作品の原作を任せられる“信用”を得ることは簡単ではない。だがそれを米国でディズニーやソニーと展開している原作会社が20年近く存在しており、最近になって円谷プロダクションのウルトラマンの米国展開を支援しているという話を聞き、直接インタビューにいくことになった。
(インタビュアー・翻訳:Re entertainment 中山淳雄)

 

■ディズニー、ソニー、EAが委託するキャラクター・世界観原作会社

――:はじめまして。自己紹介からお願いしてよろしいでしょうか?

Jeff Gomezです。Valiantというアメコミ出版社で働き始め、そこが買収された先がゲーム会社Acclaim(1987年ゲーム会社、Atariを辞めたスタッフが作ったActivision、Accoladeに次ぐ3大ゲームソフトウェア会社、2004年倒産)で、2000年よりキャラクター・世界観づくりの原作会社Starlight Runner Entertainmentを続けてきました。Disneyとは『パイレーツオブカリビアン』『アバター』『トロンレガシー』、のちに『スターウォーズ:Galaxy’s Edge』など、Sony Picturesと『アメイジングスパイダーマン』『メン・イン・ブラックⅢ』、21世紀FOXと『アバター』、マイクロソフト『Halo』、Netflix『Ultraman』などを手掛けてきました。
 

▲Jeff Gomez氏

――:素晴らしい実績ですね!実はJeffさんが日本のメディアにピックアップされるのは今回が初めてではありません。以前立命館大学でゲーム研究をされている中村彰憲教授が電ファミの連載のなかで取り上げられ、中山自身もそこで初めて拝見しました。「中山さん、凄い人がいるよ!MTG(マジック・ザ・ギャザリング)やパイレーツカリビアンのストーリーを手掛けた原作制作作っている人がいるよ!」と紹介いただきました。最近は日本のコンテンツも手掛けられているんですよね?

Netflixでもアニメ化しているウルトラマンの北米展開に関わっています。ほかにも中山さんが前回取材されたNinjaMASXという新興のアニメプロジェクト< https://gamebiz.jp/news/340410> でも、取り組みができるか調整を進めているところです。

――:そもそもどうして日本のコンテンツにこのように関わるようになったのでしょうか。

自分には子供っぽいアメリカアニメがもともと合わなかったんです。短編の、ギャグコメディで終わるようなものばかりで、つまらなかった。日本の「シリーズもの」で長い時間をかけながら、どんどんストーリーが続く物語に引き込まれました。1年間ハワイに住んでいたときに(1975年)、多くの日本アニメ・ドラマを視聴し、その時に大きく影響を受けたのが『人造人間キカイダー』『仮面ライダー』などのシリーズドラマ、シリーズアニメでした。

――:原作会社という立ち位置は日本でも珍しいものです。そもそも大資本の会社はこうしたコアの部分を外部化することは避ける傾向があるのではないでしょうか。

アメリカでもこうしたTMS原作を入れることは、そんなに一般的ではないです。我々がすこしずつ信頼を得て、外部化しにくい部分に入れるようになっていったという話です。

――:これまで20年事業をされてきて、事業的にはどのような状況だったのでしょうか?

最初の10年はかなり苦しい時代も経験しました。風向きが変わってきたのは、Disneyと『パイレーツ・オブ・カリビアン』から『Halo』、そしてジェームズキャメロンの『アバター』をやったあたりから信頼と注目を集めるようになって、だんだん数億円単位のディールをできるようになってきました。

 

■世界観のメディア別寛容度が高かった日本の多様な作品展開を許容した

――:私自身は記者や事業家ではあるのですが、同時に日本のメディアミックスの研究者でもあります。複数のメディアを巻き込みながらのTMS(トランスメディアストーリーテリング)、MediaMix(メディアミックス)といった手法の違いについて、30年間米国でその歩みを見てきたJeffさんから見て、その変化をどう感じられますか?
※簡略して説明すると、TMS=スターウォーズやマーベルのように1つの共通した時間軸のなかで異なるキャラクターのストーリーが次々と展開されていくもの。世界観の統一性・整合性を強く持つ。MediaMix=日本型で世界観の統一性をそれほど考えず、マンガ・アニメ・玩具それぞれで1つの作品の異なるストーリー展開をするもの

日本のメディアミックスは「ライセンス手法がユニーク」であったことが特徴です。前述のように「シリーズ」として継続の仕組みが、作品展開の中に織り込まれていました。

――:これは日本の出版社の米国展開でもよく聞きました。1巻完結が多く、2巻、3巻…と買い続けることに米国ユーザーは慣れていません。もう習慣が作り出した文化だとは思いますが、米国は2巻以降がなかなか売れない。そうしたなかでシリーズで映画をみていく、ディズニーのMCU(マーベルシネマティックユニバース)は、実は最初のTMSだったと言えるのでしょうか?

本当の意味でTMSを最初から最後まで徹底して行ったのは、米国でもMCUが初めてだと言えます。正直アメリカでシリーズアニメが常態化してきたのは最近になってからの話なのです。TMSの特徴は「Design Sensitivity(デザインの柔軟性)」によります。Jenkins(TMSの提唱者、最近日本語訳もでた『Convergence Culture』が始祖の書となっている)がはじめてこの概念を提唱したとき、どこまでメディアの違いに対して敏感にデザインを変えていくかというところが課題でした。北米においては、こうした取り組みは本当に「始まったばかり」なんです。だがそれは映画や映像メディアが中心であり、コミックスや玩具まできちんととらえた展開かというと、そこにはまだ課題があると言える状態です。

――:カナダのConcordia大学のMarc Steinberg氏が日本文脈のKADOKAWA型メディアミックスを北米で提唱している学者としていくつも著作を書いていらっしゃいます。TMSと比べて、日本型のメディアミックスにはどういう違いがありますか?

日本のライセンス手法は、アニメ・マンガを使って似たようなストーリーをリニアに展開したり、同じストーリーを別のメディアでは違う語り口で作ってしまったり、いわゆる「Design Sensitivity」を開放しているところに特徴があると思います。

――:どうしても日本ですと学問と産業に断絶があります。TMSやMediamixといっても業界的な浸透度はイマイチです。Jeffさんのこうした実践は学問的なものが役にたっているのでしょうか?

(Jeff氏はニューヨーク市立大学の准教授も兼任している)私の理論はアカデミックな議論がもとになっています。大学で理論化したものは実践でもきちんと使えています。私が提唱しているのは「Narrative Design(ナラティブ ・デザイン)」というもので、ストーリーデザイン(作り手側の世界観の作りこみ)じゃないんです。ユーザーとのインタラクティブなやりとりの中で、原作自体も変えていってよいと思っています。こうしたナラティブ(ユーザーも含めて紡がれる物語)自体をどうデザインしてそれを作品に取り込むかということをやっています。

TMSは「プロセス」にこだわるものだが、Narrative Designはもっと「アート」寄りの動きという違いともいいますか。もはやアニメでもなくなっているものですが、Netflix『Arcane』は、RiotのLeague of Legendが下地になっており(アドバイザーとして自分もちょっと入っております)、ゲームから派生して1つの世界で生み出すものが、他の世界に引き込むための誘因になっている。多くのナラティブデザインの要素がきちんと設計され、込められている作品です。

――:このユーザーのナラティブを取り入れて、という考え方は、映画やアニメといった「プロダクトアウトの作品作り」からは生まれなかったのではと私は考えます。むしろコミックやゲームといった“(以前は)下流に位置していた”メディアの原作者のほうがユーザーに近く、そこではプレーヤーごとに楽しみ方がある世界観であったがゆえに、むしろ柔軟にそれを取り入れることができたのではないか、と思います。

 

■原作者と信頼性を構築するというArtな作業の美しさ

――:Narrative Designもそうですが、同時にこれまでの作りこまれた原作者との関係性も大事ですよね。私も多くのライセンス商品を手掛けてきましたが、作家・編集者が生み出した世界観との整合に苦労しました。

それは米国も同じです。最初の原作者でない我々がすべてを作りこむことはできません。『パイレーツ・オブ・カリビアン』の時は大変でした。ジャックスパロウ役のJohnny Depp氏とストーリーのすり合わせを行う。あれほど忙しい俳優が、キャラクターの逐一の設定に判断している暇がない。確認をとると全然連絡がなく、いつのまにか欧州にいたり。彼も彼でTrustできる人が必要なのです。

現状ではコミックやテーマパークのライドで人々が期待しているものが経験できていない。キャラクターを解釈しながら、そこのメディアでしか経験できないことを届けるべきだと提案をしていきながら、プロデューサーがYes、俳優のジョニーデップがYesと言える関係性を作っていく。我々はキャラクターを害する者ではない、キャラクターを育てる者であると伝え、「I trust you」と最終的に言われるところまで作品理解を深め、関係性をつくっていきました。これ自体が「Art」であり、原作との信頼関係を築くことは美しいプロセスだと思います。

――:原作者本人との信頼もありますし、MCUのように企業対企業になるとさらにその関係構築の難しさがありますよね。スパイダーマンなどかなり難易度が高そうなプロジェクトにも関わられてますが…。

もちろんです!本当に本当に大変でした。Adaptation(妥協・調整)のためには、エゴとエゴとの戦いが避けられない。ここの仲裁をしていくことは大変な作業です。スパイダーマンの玩具を作る時にも、ではどちらがどれだけの権利行使をするのか、といった調整にはとても労力を要しました。

――:その意味では日本のウルトラマンは対日本企業がパートナーですし、さらに難しかったのではないでしょうか。こちらはどのようにプロジェクトが始まったのですか?

LAで30年ライセンス事業をやっている、The Licensing GroupのDanny Simonと2018年に話したんです。「ライセンスの神」と言われる男です。彼も円谷プロダクションとディールをして数か月くらいしかたっていないような状況でした。「お前、ウルトラマン好きだったよな?ちょっと説明してくれないか?あれって、実際何を食べてるんだ!?(笑)」というところから、これは作品理解のある自分がちゃんと入ったほうがよいなとなって、一緒に東京にプレゼンに行ったんです。プロダクションIGが制作したアニメを、Netflixとの提携をつないだのも、Dannyの力量でした。

――:Jeffさんご自身がウルトラマンに詳しかったのでしょうか?

実は、私自身は昭和時代の「ウルトラマンセブン」について詳しくても、最新版についてはそれほど追っていませんでした。そこでEJ(StarlightのTMS Producer)がウルトラマンに詳しく、彼をプロデューサーとしてアサインしたんです。我々はチームで動いています。ここにいるChrisがグラフィックをつくり、Evangeliaがマーチャンダイズ専門家として入り、Marieが通訳としてコネクターとなり、このチーム全体で円谷の信頼を得るために提案をしていった。それがあって初めて実現した座組だと思います。

――:ウルトラマンは1995年ごろから海外の著作権がバラバラになってしまって(創業者一族による口約束での売却などがあった。詳しくは『ウルトラマンが泣いている』参照)、いままで円谷自身で海外展開を推進することができませんでした。2018年ごろにようやく裁判で決着がついて、約20年ぶりにアメリカと中国への展開が可能になってます。以前の記事で拝見しましたが、どうやってこの20年、アメリカのユーザーは“生存”してきたのでしょうか?

インターネットという文化がユーザーを保全してくれました。彼らは作品展開がされていなくても、なんとか彼らのなかで存続させる方法を探る、これがネットが可能にした世界です。皆でテープを郵送で回しあって視聴する習慣が残っていました。「Shout! Factory TV」というネットワークを7月10日にウルトラマンDayで視聴していたのが6万人だった。なので実際どのくらいファンが残っているのか、100%の精度でサイズがはっきりとわかっていたんです。ずっと作品を守り続けてきたユーザー発信でそこからファン層をつくっていけるかというところが我々のチャレンジだ。

――:具体的にはどんな展開を予定されていますか?

今、とてもエキサイティングなフェーズです。TV、ビデオゲーム、モバイルなどでどうウルトラマンを広げていく提案を行ってきた。そうしたところ、円谷も「分かった、じゃあ、テストしてみよう!」となった。

まずはプロダクションIGのNetflix「Ultraman」がある。そこに、実は多額の予算をかけてLucas Film制作のウルトラマンがMade in Americaで作られることになった。これはすごいプロジェクトになるぞと、次はDennyと私でMarvel Comicsの編集長とかけあって、これは大きなウェーブになると説得していった。彼も「Let’s Go(さあ、いこう)!Ultraman Comicを作るぞ!」となっています。

――:新作映画とマーベルコミックですか!凄いですね。直近はどんなことをされているのでしょうか?

ウルトラマンとユーザーの間に接点をいかに創り出すか。私のほうでは、インタラクティブなウェブサイトを作っています。今日本の特撮ライブショーを米国で同時上映をしている。昨晩もこうやってキャスティングを行った(21年11月19日時点)。Webベースで同時配信のインタラクティブなサイトをつくり、ショーの視聴を$10で売って、皆がコメントを書き込んでいる仕組みになっている。その場でChat機能もあるのでQ&Aにもこたえている。今回で4回目だったが昨日も1.7万人が視聴していた。残り12月末までにあと2回やる予定です。(実際12末で200万サブスクライバーに到達!)

――:同時並行で地域もまたがるなかでどうストーリーを展開していくのでしょうか?

まずNetflixウルトラマンのストーリーがある。そこに今回我々がコミックスとして展開したり、ユーザーとのインタラクティブなWebを設計したりしながら作っていくストーリーがあります。その先に、さらにルーカスフィルムが制作する米国産のウルトラマン実写版の構想があり、今それも取り掛かっているところです。この3つの宇宙はかならずしも一つの世界観の中では語らず、違うユニバースとして展開しています。

こうした「Narrative Design」な手法はFranchise Universeを成長させるためにもっと進化していく予定だ。ゲーム・テーブルトップゲーム的な世界観拡張の手法が、今後もキーになる。

 

■日本企業へのメッセージ

――:日本企業とのアライアンスについてはどうお考えでしょうか?

私は日本コンテンツで育った人間です。だから、今後も日本企業が北米に展開していくときの原作展開はぜひ一緒にやっていきたいと思っています。

――:今、私自身が経産省と海外展開IPプロジェクト調査をしているのですが、日本企業の中でもグローバル展開ができているものとできていない会社で大きな差があります。日系企業に特有の課題は何かありますか?

日本企業の課題は、「Hesitation(臆病さ)」に尽きる。正直、日本のコンテンツの北米展開は「Time is right now(この今の瞬間こそがベスト)」といえる状況です。2010年代は日本キャラクターが、配信の力でFlooded(洪水)のようになだれ込んできた時代です。歴史上こんなことはかつてなかった。この圧倒的な流通がなされたことで、いま欧米の会社は日本のメディアカンパニーとプロジェクトを進めることに非常に熱心になっています。

世代を超えて、日本のマンガ・アニメ・特撮ファンが育っているこのタイミングで、Media Mixのような日本のお家芸を使ってグローバルに展開できる「シリーズを作れるか」が試されています。このFantasic Creative Opportunity(グローバル作品作りが求められる素晴らしい好機)と言える環境においてなお、日本企業のあまりにSlowすぎる対応やHesitationの部分がボトルネックになっています。経産省のプロジェクト、自分を入れてくれれば、私が一言いれたいくらいです。

――:実際に直近の北米マンガ市場は2019年から5割増、2020年からはさらに2倍になった、と言われるほど急成長しています。TCGでもフィギュアでも、北米に供給を行っている企業はこの数年で本当に倍以上に成長している事例もたくさん見ます。それはCrunchyrollから始まり、Netflixなど総合メディアが日本コンテンツを波及するネットワークとなり、ユーザーの期待値が上がっている。このタイミングでHesitationにとらわれ、いままでのように信頼構築にあまりに時間をかけすぎるようですと、再びこのゲートが閉じられていく自体に直面するかもしれませんね。
 

▲Starlight Runnerのチーム。左からEJ Couloucoundis氏(Transmedia Producer & Editor-in-Chief of Ultraman Connection)、Marion Calamari 氏(Production Coordinator)、Jeff Gomez 氏( CEO)、Chrysoula Artemis (Chief Creative Officer)、Evangelia Artemis-Gomez氏( Writer & Associate Producer)

 

中山淳雄:
エンタメ社会学者&早稲田MBA経営学講師。リクルートスタッフィング、DeNA、デロイト、バンダイナムコスタジオ、ブシロードを経てRe entertainmentを創業。エンタメ社会学者として研究する傍ら、メディアミックスIPプロジェクトのプロデュース・コンサルティングに従事している。東大社会学修士、McGill大経営学修士。新著『推しエコノミー 「仮想一等地」が変えるエンタメの未来』を10月14日に上梓し、アマゾンベストセラー1位を記録し、早くも増刷も決定した。

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