【連載】中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」第13回 「アジア最後のフロンティア」ミャンマーでみたeSportsの可能性-教育と競争がもたらす人材への機会

中山淳雄 エンタメ社会学者&Re entertainment社長
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軍事クーデター以降、混迷を極めているミャンマー。「最後のフロンティア」と呼ばれていたこの地でモバイルゲームの浸透に挑戦をしていたプロジェクトがあった。没交渉となったこのコロナとクーデターの2年間、実際にこの国でどんな形でビジネスが継続されていたのか。そこでは“遊び”としてのゲームではなく、“生活のための”ゲームが、かつてサッカーが与えたようなチャンスを与えるものとして作用していた。今回はゲーム会社から総合商社に転職した本吉氏からお話を伺った。

■10年弱の民主化のなかで通信キャリアで挑戦できたこと

――:自己紹介からお願い致します。

本吉友尚と申します。中山さんとはDeNA時代からの同僚で、これまでハドソン、DeNA、ガンホー、セガ、ミクシィなどで10年以上ゲーム業界の海外展開をやってきました。直近3年間は住友商事に所属し、ミャンマーにてモバイルコンテンツ事業や現地最大手の通信会社にて広告宣伝全般を統括する部署に携わっておりました。

――:いつもお世話になっております。今回本吉さんからみたミャンマーのモバイル事業が面白かったのでぜひインタビューさせてくださいという形になりました。

どうぞお手柔らかに。中山さんも2013年にミャンマーに行かれていたということですよね。それから8年経過してますが、本当に紆余曲折あり、直近数年間の間だけでもコロナやクーデターなど、現地の方々は非常に色々な経験をされていたと思います。私自身は2019年にミャンマーに入りましたが、移住1年数か月後にはコロナがミャンマー国内で流行したため、その時点で日本へ帰国し、そこから2年間はリモートでミャンマーの事業をみておりました。

 

▲ミャンマー・パゴダの象徴「シュエダゴンパゴダ」

――:私もシンガポール・インドネシア・マレーシアでモバイルゲーム事業やってきましたが、なかなか数字があがりにくい事業で、そうしたなかでミャンマーというのは完全に「未知の国」です。2013年出張時は、正直まだビジネスのにおいはほとんどしなかったですね。

そうですね、図1のようにGDPでいってもラオス、カンボジア、ミャンマーは東南アジアの中でも低い部類に入る国となり、人口が多いことを除けば基本的には発展途上国に組します。「アジア最後のフロンティア」と呼ばれる理由もうなずけました。今回私は住友商事とご縁があり、このミャンマーでの挑戦という機会をいただきました。

図1でみると、ミャンマーが人口こそ5000万人を超えるものの、1人あたりGDPでもフィリピンやベトナムどころかラオス・カンボジアにも差をつけられている様子がみられる。

――:ミャンマーでの事業なんてまさにゼロイチで市場を作る試みですよね。ミャンマーはどんな通信環境で、どんなSNSツールを使ってるんですか?

5500万人の人口のうち、一般的にインターネット人口比率は半分の2500万人くらいと言われていて、10年前が50万人くらいしかいなかったことを考えると、ネット化が急速に進んでいる国ではあります。ただ水道水へのアクセスが8割、電気・下水が7割とも言われており、それを考えると、まだネット以前に通常インフラの整備等が必要とも見受けられました。あと特に雨季などになると停電なども多発しており、ここの整備も含めてまだまだ課題は多いのかなと感じました。

ネットといっても、ほぼ9割のユーザーがFacebookを使っていて、ほかのSNSはまだまだ浸透していないように見受けられました。モバイルの普及率は非常に高く、逆にPCの利用者などはまだ一握りなので、ほぼほぼ「モバイルでネットにつないでFacebookをみる」というのがインターネット利用の主流という印象を受けました。

――:Facebook2000万人って、実質日本とかカナダとかとそう変わらないんですね!皆さんちゃんと通信につないでデータ消費してたりするものでしょうか?所得からするとやっぱり高いですよね?

給与はかなり個人差はありますが、ざっくり言うとだいたい日本の10分の1ぐらいの印象で、基本的にはみんなAndroidのスマホ端末を買って(iPhoneは1割くらい)、プリペイドでデータや通話分を購入して、携帯を使っていました。そもそも銀行口座も4人中1人くらいしかもってないと言われていますし、クレジットカードもほぼほぼ持っている方はいませんでした。

 

2013年当時の販売携帯端末

――:そうした国でアプリゲームから開始したわけですよね。そもそもミャンマーはアプリゲームなどのコンテンツに課金される国なのでしょうか?

はい、ミャンマーに着任後、私はまずゲーム会社に配属となり、過去には日本でもリリースされたパズルゲームのアプリを2019年3月にミャンマーでリリースしました。収益化という部分においては、色々なハードルがあり、なかなか厳しい結果に終わりました。その後は、現地大手の通信会社に移り、携帯キャリアとしてのブランディングや広告マーケティングを担当していました。

ミャンマーでコンテンツ課金はまだまだ発展途上な部分が多く、かつ独自の課金方法などが主流だったりするので、いろいろとまだこれからな部分はあるのかなと感じました。

――:東南アジアといえば野良アプリですよね。アンドロイドが改造できるOSなので、正規ではない市場が中国でも400以上ありますし、インドネシアやベトナムも「Googleが扱っていないAndroidアプリストア」が乱立しています。

はい、まさにそのとおりで、AppleStoreもGoogle Playstoreもあるにはありますが、基本的には国民のクレジットカードの保有率が低いため、なかなか正規ストアで課金はできず、比較的野良のAndroidアプリがダウンロードされ、独自の課金手段を活用して課金しているケースが多かったです。

■キャリアステップのプログラムとしてのeSports

――:コンテンツ課金をしないミャンマー、そこだと市場サイズは小さいのでしょうけれどどんなゲームがプレイされてますか?

ByteDance傘下のMoontonという会社が開発している「Mobile Legend」(MOBA系のゲーム)とTencentの「PUBG Mobile」(荒野行動のようなバトルロワイヤル系)の2つがメインでプレイされていて、他国で流行った新作ゲームなどもやり始めるユーザーは多いですが、なかなか継続はされず、最終的にこの2つにまた戻ってくるという印象でした。

――:その2つはeSportsゲームとして有名ですよね。ミャンマーでもeSports自体は盛り上がっているのでしょうか?

現地のスポーツメディアにも普通にeSportsのニュースが掲載されてます、というくらい結構メジャーであった印象です。メディアのニュースを見ていると、サッカー、サッカー、と記事がが続いた後にeSportsトーナメントの記事があり、そしてまたサッカーに戻るというようなこともありました。そのくらいサッカーやeSportsはメジャーなスポーツであったように見受けられます。eSportsについてはあまり「遊び」という意識はなく、「スポーツ」としてきちんと認識されていたようにも思われました。またeSportsで勝つと国の代表として国際大会にも出場できるため、「ミャンマードリーム」への道のりも結構明確であったのが、ユーザーのモチベーションに繋がっていたのかと思います。

――:たしかに僕がいったときにもそこらじゅうでサッカーやってました。国技なんですかね?そのわりに、FIFAランキングも152位で、ワールドカップ出場経験もないですよね。

サッカーはかなり人気でした。ただやはり「育成」と「目標」の部分に少しハードルがあると感じられ、なかなか国際的に競うにはまだこれからなのかなと感じました。育成については、例えば国際的な指導者を物理的にミャンマーに呼んだりするには少しハードルがあったり、施設面においてもなかなか潤沢にはいけない状態であったりするので、難しい部分もあると思います。あと育成のシステムも例えば日本で部活をやっていれば、毎年全国を巻き込んだ大会が定期的にあり、そこで活躍すると卒業後にプロになるというような道はあると思います。ミャンマーでは施設面、移動面、インフラ面等々、諸々の事情もあり、なかなか全国の学生を巻き込んで定期的に大会を開催するというのは少し難しい部分があるのかなと思っています。

あとミャンマーではMyanmar National League(MNL)という日本でいうJリーグみたいなリーグがあったり、代表の国際試合などは定期的に行われていましたが、トップの選手で数名タイのリーグに所属しているようなケースはありましたが、これが大きな「目標」(ミャンマードリームみたいなもの)には繋がっていたかというと少し懐疑的で、なかなかここの目標が明確でない部分が更なる飛躍を阻んでいるのかなとも思いました。

さらには2020年にはコロナが流行してしまい、学校が閉鎖されるという事象が起き、スポーツだけでなく、教育もストップしてしまった時期があり、結構みんな大変な思いをしていたと思います。



――:なるほど、それは大事なポイントですね。うまければいいわけではなく、うまくてもプロへの道がきちんと整備され、教育とセットでないとそのスポーツで食えるようにはならない。eSportsだとどうなのでしょうか?

逆にゲームでいうと、ミャンマーの若い人達はインターネットリテラシーは非常に高く、色々と海外の最新情報など取得していたりするので、「インターネット」という良い教材があり、学びの場はとても身近にあると感じました。合わせてeSports大会というオンラインでも参加できる大会が定期的にあるため、こういった学びと実行の場が身近なため育成や目標の部分においてはかなり寄与していると考えています。現状でミャンマーのチームはそれなりに海外の大会でも実績を出したりしているので、ここもゲーマーの良いモチベーションに繋がっているのかと思います。
 

ミャンマーのMobile LegendのFacebookページ。2906万人がフォロー

――:そうなるとかなり真剣にゲームをやっているということですよね?

はい、以前eSportsの大会を賑やかし目的でルールを少し変更して、遊びに寄せた大規模な大会を開催したことがありますが、現地の代理店の方へ最初提案した際にはかなりの反発がありました。彼らの根本認識としてeSportsはあくまで「スポーツ」であり、ルールを変更するのはかなり抵抗があったようです。言ってみればテニスラケットで野球をしようと言ってるようなものなので、確かに最初は疑問に感じたのだと思います。

最終的には彼らも趣旨を理解していただき、かなり乗り気になっていただいて企画の時点では現地の方とも笑いながら色々な案を計画していったのを覚えています。実際の大会はテンセントにも協力していただき、PUBG Mobileというゲームでマップに銃なし、フライランパンのみルールで対戦したり、銃や武器一切なしで車だけでぶつかり合う、等の変化球のルールで、ミャンマー国内のプロ選手、ストリーマー、タレントに加えて、東南アジア近郊の国の著名プロ選手やストリーマーを招待し、大会を開催しました。そして大会としてはかなり成功したと感じています。ただやはり根本としてはミャンマーの人々にとって、ゲームで勝負することに「真剣」なんだなと感じました。

――:eSportsは遊びじゃないんですね。ここらへんはNFTゲームに殺到するフィリピンと同じような状況ですね。仕事が少ない途上国では、賃金格差を利用して「稼げるゲーム」が社会的なインフラになりえる。

確かにまさに同じ状態ですね。Axie Infinityにフィリピン人が何十万人とプレイヤーでおしかけて75歳の高齢者も小銭を稼ごうとプレイしている状況などをみると、教育や社会的インフラの整備がまだまだ必要な途上国でこそゲームやesportsがそれを代替するものになりえる可能性を秘めていると考えています。
 

2013年すでにDisneyストアが展開

 

だが著作権法が整備前の段階でDisneyストアの隣にあるミッキー?やキティ?

 

にぎわっているゲームセンター(大半はプレイせずにおしゃべりをしている)

■軍事クーデターになって変わりゆくミャンマーの経済風景

――:そもそもコロナや軍政といった世界規模の変動のなかで、ミャンマーはどうなっているのでしょうか?

まず2020年にコロナが流行したことでいろいろと状況が変わりました。外での撮影等の規制が入り、TV局も新しい番組の撮影が難しくなり、新規の番組の放映が少し減ったような印象でした。合わせてeSports大会にも色々と影響があり、オフラインでの大会が次々とキャンセルしていったのはありますが、合わせてスタジオ等での撮影も色々と工夫が必要でeSports大会の配信も諸々影響が出ていました。コロナ患者が更に増えていくと街中でオキシメーター等の機材が不足しているとの話があり、現地の人たちは対応に追われており、非常に大変だったと思います。

――:ミャンマーの医療は非常にレベルが低く危険だと聞いてます。私も出張中は、もしケガしても足を切られたり誤診されるリスクもあるから這ってでもタイにいって治療しろと言われたりしました。

幸い、私は滞在中病院には行かずにすみました。そして、2021年にクーデターが起こり、更に状況は変わりました。クーデター後には大規模なデモが起き、軍との衝突もニュースで見ていたのですが、ミャンマー国内では通信が遮断されたり、SNSが規制されたりして、日本からのコミュニケーションが非常に難しかったのを覚えています。 当時はスタッフの安否を確認することに躍起になっており、まずは自身の安否を優先してもらい、仕事については後回しでよいという話をしていました。

その後、スタッフの生活がある程度安定してきたのが確認できた時点で諸々の業務を復帰してもらいましたが、TVは更に新規の番組は減り、CMもあまり入っていない状態が続いていて、もちろんゲームの大会や配信などもかなり減ったため、全体的なエンタメコンテンツが一時的にかなり減ってしまっていました。

――:キリンもミャンマー撤退を決めてましたね。友人で海外向けの映像配信サービスをやっていたのですが、クーデータ後に債権になっていた通信会社での売上も支払われなかったり、そもそもミャンマーにおいていた口座からお金を送れなくなったりもして、基本的には損切りしないといけないような状況でした。

確かにミャンマー国内でドル不足というものが発生し、海外送金には一定の制約がありました。幸い私の部署ではミャンマー国内のパートナーとの取引が多かったため、支払い面においてはそこまで大きな影響はありませんでした。

――:そもそもミャンマーでコンテンツ消費という文化を作ること自体が不可能だったのでしょうか。

正直なところ、思ってた以上に厳しかったです。ドイツのゲームショーGamesconにいって、ゲームの買い付けなどしようとしたのですが、まず単価も全くあわないし、相手企業もそもそも「ミャンマーという国」そのものを知らないので、興味を持たれない状態でした。だからコンテンツ文化を作る前にコンテンツそのものが調達できないという状態だったのです。

もちろん全然商売にならないということはなく、小米の携帯端末などはよく売れてますし、その他の外資企業でも成果をあげているところはありました。ゼロイチで市場を作るのはとても挑戦的でやりがいがありました。ミャンマーの人たちはとても勤勉で純粋な人達が多いので、とても一緒に働きやすいし、その中で信用関係なども構築することはできていたと感じており、なんとか前向きに進めるなと手ごたえを感じた頃にコロナがあり、クーデターがあり、なんかもろもろスローダウンしてしまったような印象はありました。

――:10年前は実はインドネシアやベトナムでも同じようなことをよく言われていました。コンテンツ市場を根付かせるのは難しいと。でも政情安定があり、市場経済が動き始めて、徐々にジョイントベンチャーで外資とのゲーム開発などをやっていくうちに少しずつ国産メーカーも出始めました。本当に10年・20年といった単位で考えないといけないのだと実感しました。ミャンマーもひとまずは政情の安定化ときちんと外資の投資が回復できる最低限の条件がそろってくることを待つしかないですね。

はい、この経験はミャンマー以外にもまだまだある途上国における通信キャリアやコンテンツメーカーがまた次につきあたる問題でもあると感じており、その時に、この経験をもって、もっとサステイナブルで中長期的に実行可能性のある形で、また挑戦はしていきたいと思ってます。

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