【GONZO30周年】『蒼の彼方のフォーリズム』制作スタッフインタビュー 「恋愛要素を削りましょう」決断の背景とは

2022年9月11日に設立30周年を迎えたGONZO。『LASTEXILE』や『ぼくらの』『ストライクウィッチーズ』など、数々のアニメ作品を世に送り出してきたスタジオだ。

現在は、30周年限定グッズが手に入るクラウドファンディングなど、往年のファン垂涎の「GONZO 30th アニバーサリー」と題した記念企画も進行している。
今回AnimeRecorderでは、2016年に放送されたアニメ『蒼の彼方のフォーリズム』を制作した追崎史敏監督、キャラクターデザインの中野圭哉氏、そして原作であるゲームを手掛けた鈴森氏にインタビューを実施。今なお新作ゲームが発売される『蒼の彼方のフォーリズム』のアニメはどのようにして生まれたのか、当時を振り返ってもらった。

登壇者プロフィール

追崎史敏
『蒼の彼方のフォーリズム』監督。
90年代からアニメーターとして活躍し、2003年には『カレイドスター』のキャラクターデザインを担当。『ロミオ×ジュリエット』『えとたま』などの監督も務めた。エンカレッジフィルムズ代表取締役。

中野圭哉
『蒼の彼方のフォーリズム』キャラクターデザイン・総作画監督。
『エスカ&ロジーのアトリエ~黄昏の空の錬金術士~』『競女!!!!!!!!』といったアニメ作品のキャラクターデザインを手掛けたほか、ゲーム『ロロナのアトリエ-アーランドの錬金術士-』のアニメーションキャラクターデザインも担当した。

鈴森
『蒼の彼方のフォーリズム』の原作であるADVゲームでキャラクターデザイン、原画を担当。TVアニメでもキャラクター原案として原作監修を担当した。

アニメとゲーム、お互いを高め合った制作環境

――本日はよろしくお願いします。今回のインタビューでは『蒼の彼方のフォーリズム』は放送から約6年が経過していますが、当時を振り返っていただければと思います。

鈴森氏:アニメ化するまでの流れから言うと、原作であるゲームを発売する前にGONZOさんと弊社の間でやり取りがありまして、そこからアニメを作ろうと、本格的な話になっていきました。正式に発表したのもゲーム発売前でしたね。

追崎氏:あのときってまだゲーム発売されてなかったんだ…。妙に早いイメージはあったけど(笑)。

鈴森氏:だいぶ珍しいことなので、話題になったのも覚えています(笑)。で、その後GONZOさんと打ち合わせを重ねて、スタッフを集めていった形です。監督はまだ決まっておらず、シリーズ構成の吉田玲子さんのほうが先に決まりましたね。
吉田さんとお話した際には「どんなアニメにしたいですか」と聞かれて、こちらとしては「恋愛要素を削り、フライングサーカス重視でお願いします」と伝えました。ゲームのシナリオは膨大で、TVアニメの尺に合わせるとなにかを削らなければなりません。天秤にかけた結果、優先するのはフライングサーカスだということになりました。

――そういえば、恋愛ゲームなのにアニメでは恋愛要素が削られていましたよね。

鈴森氏:。あおかなで力を入れたのは恋愛部分よりもフライングサーカスでした。発売後のファンの皆様の反応もフライングサーカスが熱かった。というご感想が多かったため、優先すべきはフライングサーカスだということになりました。
そうなってくると、GONZOさんとの間で、監督はアクションを描ける方にお願いしたいなという話になり、これが、かつて『カレイドスター』にも参加した追崎さんに頼むことになった経緯です。

追崎氏:僕のところに提案が来たときも「スポ根アニメが作りたい」というお話でした(笑)。自分で作った恋愛ストーリーから恋愛を削るという決断はなかなかできないと思うし、すごい提案だと思いましたね。

鈴森氏:やっぱり『カレイドスター』は意識していたんです。僕だけでなくGONZOさんもテレビ東京さんも、少なからず「もう一度『カレイドスター』を作る」という気持ちは持っていました。

――追崎さんと中野さんは、原作のゲームに対してどんな印象をお持ちでしたか?

追崎氏:お話をいただいてから作品のことを見たり聞いたりしたので、変な先入観がないというか、フラットな状態で制作に入れました。『蒼の彼方のフォーリズム』は今でも人気の高い作品じゃないですか。そんな作品に対して、フラットな状態で向き合えるのはある意味で幸せだったのかもしれません。

中野氏:僕は…恋愛があると思ってました(笑)。『恋と選挙とチョコレート』の流れもありましたし、何かしら恋愛の要素はあるだろうと。

――キャラクターデザインはどのように考えていったのでしょう。本作の場合はゲームのイラストが元にありますよね。

中野氏:そうですね。鈴森さんからアニメ用の資料をいただけたので、かなりスムーズに作業できました。

鈴森氏:影の入れ方とか、本当に細かいところまで注文したら、すべてしっかりと反映してもらえました。僕は今も『蒼の彼方のフォーリズム』を手掛けていますが、原画を描くときは中野さんのデザインを参考させていただくこともあるくらいです。

――アニメで生まれたビジュアルを、今度はゲームに逆輸入していると。

中野氏:恐縮としか言いようがないです…(笑)。鈴森さんは打ち合わせにも積極的に参加していただいたので、直接意見を聞くことができたのも大きいですよね。間に誰も挟まないので、お互いが理想とするキャラクターへ最短で近づけたのだと思います。

――鈴森さんはGONZOに対して、どんな印象をお持ちでしたか。

鈴森氏:僕はもう、GONZOさんの大ファンなんです。そもそも『青の6号』や『戦闘妖精雪風』が大好きだったんです。。ラジオも聞いていたし、シンプルにファンでした。ゲームの発売前にアニメ化を決断したのも、GONZOさんだからというのも大きいです。

――アニメ製作後、原作の展開に与えた影響はありますか?

鈴森氏:たくさんあります。『蒼の彼方のフォーリズム EXTRA2』では中野さんや追崎監督のレイアウトを参考にさせていただいたシーンがあるくらいです。ゲームを作っている自分自身でも分からなかった「フライングサーカスってこういう動きなんだ」という気付きがあって。

追崎氏:アニメの制作時からすごく貪欲な方で、カットのひとつひとつをチェックするんです。

鈴森氏:といっても、「このカット格好いいですね」と言うだけで、面倒なオタクになってたかもしれません。スタジオから帰ると、監督の絵コンテを模写したり、勉強できることも多かったですね。

中野氏:僕が描いたものからさらにレベルアップしていて、『EXTRA2』のオープニングもアニメに近いクオリティで驚きました。以前久しぶりに版権イラストを描く機会がありまして、そのときは僕自身の資料ではなく、ゲームを参考に描きましたから。そこから発展して、この絵でもう一回アニメを作りたいくらいです。

鈴森氏:もうひとつ、絵コンテを繋げて映像にする「コンテ撮」というものにも参加させていただいたときのことです。それ自体は動きのない映像ですけど、そこで「これってアドベンチャーゲームじゃん」と気づいたんです。

追崎氏:あー、確かに。

鈴森氏:コンテ撮は動きがなくても動きが想像できるので、これはアドベンチャーゲームに使えるなと。『EXTRA2』は、そういったアイディアも盛り込まれているんです。最近は自分のレイアウトが追崎さんの絵コンテに似てきて、1人でニヤッとしています。

中野氏:追崎さんの絵コンテはレベルが高すぎて、アニメに描き起こすのが難しいと言われているんです。それに似てきたなら確かに嬉しいかも。

――アニメ以前、以後で、ゲームの作り方にも変化があったと。

鈴森氏:全然違います。というか、今はゲームを作っているというより、「アニメにどこまで近づけるか」が命題になっています。

――ちなみに追崎監督は、ノベルゲームに馴染みはあったのでしょうか?

追崎氏:すいません、実はまったくなくて…。そもそもゲーム自体『ドラクエ』くらいしかプレイしていないです。だから『蒼の彼方のフォーリズム』に関してもアニメ化のお話をいただくまで知らなくて…「フライングサーカスって何?」というところからのスタートでした。

鈴森氏:打ち合わせだけでなく、LINEでもいろいろ説明することが多かったですね。

追崎氏:(笑)。中間のプロセスを挟まず、直接やり取りできたのは良かったと思います。

架空のスポーツ「フライングサーカス」を映像で見事に表現

――恋愛要素を削ってフライングサーカス中心にするという話もありました。あらためてフライングサーカスにはどんな思いがあったのでしょう。

鈴森氏:やっぱり、この世に存在しないスポーツって想像力が働くんですよ。だけどオリジナルのスポーツを言葉だけで説明するのは難しく、アニメでしっかりと伝えたいという思いが強かったんです。

追崎氏:鈴森さんに試合の展開だけ教えてもらって、それを元に僕が絵コンテに起こす流れでしたね。

鈴森氏:フライングサーカスを絵コンテにできるのは追崎さんしかできなかったと思います。

追崎氏:いやいや、僕も立体的な動きを想像するのは難しかったですよ。プラモデルで動きを再現するなど、とにかくいろいろな方法でイメージを膨らませていきました。

――追崎監督としては、フライングサーカスを表現するにあたって、どんな方向性を考えていたのですか?

追崎氏:あまり特別なことは考えていませんでした。ゲームでもフライングサーカスのビジュアル自体はあるので、それを映像として形にしただけ、くらいの感覚なんです。あとはやっぱり、CGを担当したオレンジさんの力も大きかったです。

鈴森氏:CGカットと作画カットの使い分けも上手かった印象です。CGはアクション中心というか、コントレイルを印象的に見せることが重要だったのです。

中野氏:作画だったら絶対大変だな、ということをやってくれますからね。それでいて、CGのほうが作画に歩み寄ってくれるので、僕としてはモデルの監修をするくらい。「自分ではやりたくないな…」と思いながら見ていました(笑)。

――鈴森さんは完成したアニメを見て、どんな感想でしたか。

鈴森氏:特に最終話は感動的でした。この作品の平均カット数は346カットだったのですが、最終話だけ493カット。とにかく動いてくれて、絵コンテを見ただけで感動したのを覚えています。

中野氏:最終話は総作画監督の小池さん(小池智史氏)が地獄を見てましたね(笑)。

追崎氏:僕が考えたカットを原画マンに振らなければいけないので、本当にできる限り、スケジュールが許す限りの量を仕上げていきました。

鈴森氏:ゲームでも決勝戦のCGは差分込みで150枚くらい描いているんです。どれだけ描いても終わらなかった経験があるから、500枚近くとなると、想像もつかないです。

――最近のアニメ業界についてもお聞かせください。現在はライトノベルやコミックを原作とするアニメが中心で、ゲーム原作は少なくなりました。

鈴森氏:『蒼の彼方のフォーリズム』は恋愛要素を削るという手段を取りましたが、これに限らずノベルゲームをアニメにするには多くの制約がかかります。
ファン目線の変え方だと、シンプルに恋愛をしたくないんじゃないかな、とも思います。2000年代はアニメもゲームも恋愛をテーマにした作品が多かったですよね。それが徐々にいわゆる”なろう系”、異世界を冒険する作品に移ったのかもしれません。

追崎氏:なろう系に代表される、強い理想を叶えてくれる作品が多くなりましたね。「もしも異世界に転生でいたら」といった具合に。

鈴森氏:以前の恋愛ゲームは、主人公がヒロインのために努力するケースがメインでした。今は逆に主人公側が受け身ですよね。ただ、それだと恋愛ゲームって成り立たないから難しいです。最初から主人公がヒロインに好かれていたら、攻略にならないですから。

――ありがとうございます。では、30周年を迎えたGONZOに向けて、なにかメッセージがあればお願いします。

追崎氏:アニメの世界、いろいろなことがある中で、30年続くのはやっぱりすごいことだと思います。

鈴森氏:学生時代から大好きなスタジオだったので、その一部分になれたのは本当に幸せです。これからも良い作品を生み出してください。

中野氏:僕はもう、『あおかな R(リファイン)』がいつか制作できることを楽しみにしています。

鈴森氏:アニメはアメリカや中国でも配信されて、ファン層が広がった手応えは感じています。またアニメからゲームに入ったという声もたくさんいただきます。引き続きファンの期待に応えられるよう頑張っていきたいです。

――次の展開にも期待しています。ありがとうございました!

『GONZO30周年アニバーサリー』応援クラウドファンディング
■実施期間
2022年9月11日 (日)18:00 ~ 2022年10月15日(土) 24:00

クラファンページはこちら
https://animefund.com/project/gonzo30th

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