【連載】中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」第42回 Web3は「思想への参加権」-オフィス事業からNFT事業に転換するメタバースベンチャーの野心

中山淳雄 エンタメ社会学者&Re entertainment社長
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2021年2月に「NBA Top Shot」で月数百億円級の取引量が爆発し、21年7月からは「Axie Infinity」がブームとなり、月数千億円単位へと異次元の成長を遂げたNFT市場-この未曽有の大活況が2022年6月に突然崩落する。ウクライナ情勢、米国金利上げ為替介入、中国での暗号通貨取引・マイニングの禁止規制とNFTマーケット二次取引閉鎖、などが続々と連鎖し、株式市場とともにNFTもまた投機商品としての魅力を失った。こうした「失望」の最中にも日本のNFTプロジェクトは多く立ち上がり、8~9月にいくつもの成功例が出ていた。今回はそうしたプロジェクト(Pjt)の1つ、ベンチャー企業が展開した「AZITO」というメタバースPjtを取材した。この「NFTの冬」の最中に半年間で立ち上げ、“資金調達"に成功させたベンチャー起業家は何を考え、どうサバイバルしているのかについて掘り込んでみたい。

 

■2022年夏、Web3メタバースプロジェクトAZITO始動 

――:自己紹介からお願いいたします。

メタバースNFTのAZITOというプロジェクト(Pjt)をやっております株式会社OPS IONの代表Takaと申します。弊社がつくっているメタバース上でTalk to Earn(話して稼ぐ)という形で、ユーザー同士で会話すればするほどトークンがもらえるという仕組みで2022年5 月から展開しております。

 

――:今回リリースしたばかりのAZITOがNFTで発売後すぐに売り切ったこともあり、ぜひお話聞かせてほしいということでお時間頂きました。

3000個が完売しました。2段階で売っておりまして、22年8月27 日にプリセールで決まった人たちに1枚0.04ETH(≒0.8万円)で、その後オープンセールで0.06ETH(≒1.2万円)でメタバース内の土地を売りました。といってもまだメタバースが完成しているわけではないので、上記の仮面をかぶったアイコンのNFTが入会権のようなものでこれを配布しています。合計121ETHで現在の相場だと2,400万円分くらいが販売された格好でしょうか。ホワイトペーパー(上場企業のIR資料のように、そのNFTプロジェクトが何を目指し、どんな機能が実装されていくかの計画などを見せるもの)だけでそのチケット参加券が3000個売れたということになります。


――:これは下記OpenSea(世界一のNFTマーケットプレイス)をみるとこのようになっています。 

・Item(アイテム数):3,000
・Total Volume(総取引額):121ETH(≒2400万円相当)
※これまでOpenSea上で取引された総量
・Floor Price(買値):0.052ETH(≒1万円)
・Best Offer(売値):0.041ETH(≒8千円)
※Floorで買った瞬間に売っても、0.01ETHしか値崩れしないので価格は安定
・Listed(売買リスト率):8%
※3000個のうち8%が売りに出ている。これが高いと売り逃げする層が多いのでPjtへの期待値低く、少ないとそれはそれで流動性が低く市場が盛り上がっていない。丁度よい感じ。
・Unique Buyer(ユニーク購入者):37%
※3000個のうちのユニーク購買者率。3000個の37%で、1110人程度が購入した


――:この完売という結果に至るまで、どのくらい苦労されましたか?

いや、大変でしたよ。本当にIPOのようなもので、どうやって最初に我々のPjtに参加しようという最初のコア層を作っていくか。Twitterで我々の思いや今後の計画を知ってもらうために数か月前から随時発信していって、インフルエンサーにも直接声かけて協力者をつくっていきながら、なんとか完売までもってきたという恰好です。


――:貴社が今後用意するメタバースへの参加券、ということでこれはベンチャー企業がSEEDやシリーズAで資金調達をしていくようなものなのでしょうか?

確かに資金調達をしていくようなプロセスですね。ベンチャーの場合はその資金を少数企業に集約して出してもらうのが望ましいですが、NFTだと不特定多数の相手で、なるべく分散して多くの人に持ってほしいというところは違いますね。


――:実際の購入者って知っている人だったりするのでしょうか?あと購入者の海外比率は?ギャルバースなど日本発で成功したものは7-8割海外からのユーザーという感じでしたよね。

会ってまでいる人はほとんどいないですけど、SNS上ですでに交流していた、やっぱりすでにエンゲージを示してくれた人たちがメインで買ってくれてます。海外比率はちょっと残念だったポイントで、全体の1割くらいしか海外バイヤーはいかなかったですね。こちらからの発信は全て日本語、英語でやっていたのですが、、、他のNFTプロジェクトをみていても思うのですが、日本人向けのNFTセールとなると1,000人くらいの購入者が今の限界だと思います。


――:ASAGIとかMEN STUDIOとか同時期の他のNFTプロジェクトみると、だいたい1000人ほどから100~300ETH(≒3~6000万円分)調達というのが多いですよね。日本初のもので大きく成功しているのって5800ETHの『新星ギャルバース』 とか800ETHの『Kawaii Skull』くらいなんですかね?

あんまりないんですよね、実は。 2次流通まで込みでいうとイケハヤさんがやっているCNP(Crypto Ninja Partners)は4700ETHと よい数字が出ています。


――:なんか新しい上場時の目論見書の見方を教えてもらっている気分です笑。わりと公表数字で成功の有無って見えるものなんですね!

 
 

■中学行かず、高校中退。ハングリーさが生んだ大検・会計士合格 

――:TakaさんがなぜNFTプロジェクトを始めるにいたったかというキャリアについてお聞きしていきます。生まれ・地元やどんな育ち方をしたんですか?

1992年生まれで出身は兵庫です。ちょっと言いにくいんですが・・・ずっと貧乏だったんですよ。それで中1になって親が離婚した後にさらに厳しくなって、母親は週7で清掃業にかかり切りになるような状態で、朝5時から仕事に出て帰ってくるのは深夜。僕もすっかり学校にいかなくなっていました。


――:中1から学校にはいってないんですよね。ご家庭の事情もあったかと思いますが、ゆとり世代というファクターも影響してるのでしょうか?

そうですね、まさにゆとり世代ど真ん中で、教師も気を遣っていて、不登校でも何か言われることが無かったんです。ちょっと荒れていた学校だったこともあって、教師いじめみたいなこともありましたし、僕自身は行ったとしても給食と体育の時間だけ、みたいな状態が、この親の離婚を機に始まります。


――:それはいわゆるヤンキーだった感じでしょうか?

まあ、そうですね笑。ちょい悪だった感じではあります。中学校もほぼ3年間行ってなくて、高校も名前をローマ字でかければ入れるような夜間高校で、当然ながらそこもまともに通学はしていないです。


――:そうなると勉強の代わりに、日中は主に何をしてたんですか?

だいたいは友達とたむろしてましたね。家でゲームしたり、カラオケいったり。高校に入ってからはバイトもして、夜に学校があるんですが、それも真面目に行くでもなしに周辺の駐車場で夜明けまで過ごしていたので、逆に昼までは毎日睡眠時間ですね。


――:昼夜逆転の生活ですね。お母様はだいぶ苦労されたと思いますが、学校に行かなくなるTakaさんに対してはどんな感じだったのですか?

放任主義でわりとそういうのも含めて容認してくれていました。ほとんど僕が何をしているのか見てる状態じゃなかったというのもありますけど、「そうなったらそうなったでなんとかする」、といった感じで。


――:それが高校で急に転機があるんですよね?一念発起で猛勉強に突入したのは何がきっかけだったんですか?

高校2年のときに母親が倒れるんです。このままじゃ生活ができなくなるかもしれない。でも高校に今から通い始めても単位とりきって卒業するには20歳になってしまう。だったらと高校を中退してしまい、携帯も解約して友人関係も遮断し、そこからはほぼ勉強しかしてないですね。もともと高1くらいから、このままじゃ流石にまずいなと思っていたところだったので、母の病気に直面して一気に方向転換しました。


――:それこそよくある感じですけど、それまでの仲間から邪魔が入ったり、抜けることでボコられたりとか、みたいのはなかったのでしょうか?

まあバカにはされましたね。いまさら大学行くとか言い出すし、会計士になるとか言い出すし。だからって邪魔されるということはなかったです。皆僕が相当なボロアパートで苦労しているのは知ってましたし、まあそもそも携帯も無くなっていたので物理的にアクセスできなかったというのもあるでしょうけど。


――:やっぱり「ゆとり世代」という特殊性を感じます。中山はちょうど1まわり上ですけど、親なり教師なりそれなりの権威性をもっていましたし、強制力をもって「普通の生活」に矯正されていく圧力はしっかりありました。

大人が強くなかった世代ですよね。ホントに調子にのっていて、「大人」を下にみてました。絶対に手は出してこない、でも口論したってこちらを論破できるわけでもない。それでも、あのときの自分を受け入れてくれていた母親は心底尊敬しています。今は元気でやっております。


――:だからこそなんでしょうけど、「ゆとり世代」はボカロPから保健室登校のVTuberとか、様々なクリエイターを生んだ世代でもあります。Takaさんはその後、大検をとって大学入試を狙うわけですね。

結構自信はあったんです。学校行っていないわりと勉強は分かるほうで、人よりは出来るはずという謎の自信はありました。大検の末に大阪経済法科大学に入学します。お金のこともあって国公立をめざしていたんですが、残念ながら受からなくて私立になってしまいました。19歳だったので、普通のステップでいうと1浪で入学した感じですね。試験終わったあと、ストレスからなのかもう数日間起き上がれなかったです。


――:高2からの3年で壮絶な追い込みをかけてきた感じですね。そこは会計士にはなりやすい大学だったんですか?

数年に1人くらいは合格する、くらいの比率ですかね。特待生だったので学費はタダだったのと、資格取得に手厚い大学だったんです。予備校費用を出してくれたり、合格すると報奨金があって。簿記1位だと10万円、会計士だと30万円とか。


――:なんと分かりやすい笑。それは頑張りますよね。

まんまと釣られて大学2年で簿記1級、大学4年で会計士をとります。早く自立して家計から独立しなきゃいけなかったので、大学4年目の会計士試験は、それはもう必死でしたね。命かけて、合格しました。それで入社したのが監査法人トーマツです。そこで働いたのが2016年から18年末の2年半ですね。

 

■世界初のメタバースオフィス事業、1年で社員全員が辞めた過酷な起業家デビュー 

――:中山の時代も不良が一念発起して1日10時間以上血を吐きながら勉強し、弁護士・会計士になった、みたいな“立身出世"ストーリーはよく聞かれました。Takaさんは高校から大学に入っても、わりと私生活をかなぐり捨てて勉強していた感じなのでしょうか?

高校はまさにそんな感じでしたけど、大学はそれなりに楽しんでましたよ。サークルには入ってなかったですがゼミは楽しかったですし、飲み会なんかも出てましたし。だって中学高校とあわせて6~7年、まともにスクールライフを送っていなかったので。勉強中心ではありましたが、いろいろ思い出もあります。


――:トーマツに入ると公認会計士として安定的な生活ですよね。大企業の監査案件中心ですか?

ちゃんと給与もいい額もらえて、平穏な生活でしたね。仕事は上場企業の監査ですけど、大阪からトーマツベンチャーサポート(DTVS)で幾つかベンチャー企業も見れたんです。


――:おおーDTVS!斎藤祐馬さんのやつですね。実は中山もデロイトトーマツコンサルティングに2012~13年にいたときに接点ありました。トーマツは監査法人としては(将来上場して監査案件を増やすための)ベンチャー育成を2010年から開始、当時20代会計士だった斎藤さんが中心に牽引し、19年に30代で社長になります。

あ、コンサルもやってたんですね、幅広い笑。大学くらいから、自分は性格的に普通の会計士より起業したほうがいい、と思うようになっていたので、トーマツ入社時に「3年で辞めます」とは伝えていたんです。だから起業も、もともとのプラン通りなんです。まあ入社時にそういって辞めない人間いっぱいいるので、あまり真に受けられてなかったですけど。


――:そうですよね、それはよくありますね笑。起業はどんなメンバーではじめるんですか?

大学の時から仲良かった友人(営業)と、草野球チームで会ったエンジニアとの3人ですね。仕事しながらだと準備もできないので先に2018年末に退職してしまって、3人で現在のOPS IONを作り、そこから100個ビジネスアイデア出しあって何をするか決めました。その100個の中であったのが、「クラウドオフィス」のアイデアでした。1か月くらいで決めて突き進み、「メタバースオフィスRISA」としてサービス展開したのが2019年2月です。


――:3人のバックグラウンド全く関係ないんですね!辞めてからプランを出し合うとは、、、なぜクラウドオフィスがいいと思ったんですか?

MMOってあるじゃないですか? 2006年にガラケー向けに「エターナルゾーンオンライン」というMMORPGがあって、それが衝撃的だったんですよ。現実と別人格の自分がいて、一緒に誰かと戦える。別人格の自分が生きられる世界、というのに興味があって、それに近いものとしてRISAを創るんです。PC上にオフィス空間をつくって、画像共有したり部屋をカスタマイズするようなメタバース空間として。


――:エンタメ経験がここにつながるんですね。まさにミラーワールドでデジタル上で異なる現実空間を創るという感じですね。

そうですね、ゲームとかアニメ、映画でいうとマトリックスとかソードアートオンラインが好きだったので。でもバーチャルって何十年たってもいまだなじみのない世代もいる。誰もが入れるバーチャル空間を創りたいと思ったんです。

僕、ゲームが好き なんですよ。大学に入るために勉強するのも、会計士に合格するのもゲームのようにやってました。自分で絶対にクリアしないといけないゲーム。そういう目標設定して一心不乱に突き進む、みたいなのは得意で、自分は絶対起業したほうが向いている、というのは結構早めから考えてましたね。


――:ただ起業したてでお金も潤沢じゃないですよね?どうやってRISAの原型を創るものなんですか?開発費ですとか。

根性です笑。3人とも無給のまま、エンジニアの1人が不眠不休で作り、僕がTwitterでプロモしまくって、Googleフォームで集めた希望者だけでベータ版を19年2月にはスタートさせます。RISAはその時点では日本 初の3Dバーチャルオフィスだったので、実は結構いろんな会社から契約いただいたんです。初期200~300社ものお客さんがつきました。


――:創業2カ月の3人ベンチャー、無給で創った3Dオフィスで数百社のクライアント!すごいスピード感ですね!どうやってサービスに入ってもらうんですか?

参考になるものもなくて、一旦1ユーザー月500円くらいで設計し、まだ開発物も出来ていないタイミングで絵と情熱だけをもってPRしていきました。お客さんもついたので2019年4月にはシードラウンドの 資金調達を実施しました。


――:銀行だったらとても融資してくれないフェーズですよね。しかも初期にしてはなかなかいい企業価値ですね。

現在も入っているクラウドワークス役員の成田修造さんはその時期に個人で入ってくれましたね。ただ、、、そこからいろいろクライシスがあります。


――:スタートアップあるあるのアレでしょうか。。製品トラブル、創業メンバー離脱、マネジメント問題、キャッシュフロー問題などなど。

まさに、、、まず3Dで重すぎたことがあって登録者は初期にドバっと増えるんですが「続かない」んです。入っても使い勝手が悪い、しかもまだリモート勤務が当たり前ではない時代だったので、登録しても月1回くらいしかログインしないんです。だから毎日のぞいてもアクティブなのは数人~数十人とか。


――:ファーストペンギンですもんね。コロナの1年前・・・本当に1年だけ早かったですね。

そうしたなかで、資金調達できたこともあって採用をガンガンかけてしまいます。半年で15名ほどまで増えます。


――:えええ!それは早すぎる!アクセルべた踏みですね。

謎にアクセル全開ですよね。そして中山さんおっしゃるように創業メンバーも離れます。仲良かった営業の友人は3人の役割分担のハレーションもあり、最初の2カ月目で退職してしまっています。創業エンジニアも新規採用でほかの技術者も増えてくる中で、秋には辞めています。 継続ユーザー・MAUとしての実績が積みあがっていないので追加の資金調達もうまくいかず、19年10月、半年たったときにはあと3カ月でキャッシュアウトという状態でした。ほぼ全員リストラします。これが地獄でした。


――:いやー地雷踏みまくってますね笑。資金繰り、製品計画、マネジメント、ここらへんのバランスはかなりデリケートですよね。採用したばかりのリストラも揉めますよね。

採用した月にそのままリストラみたいな方もいたので、、、本当にあの時は申し訳なかったです。そこで優秀な3人だけ残しますが、実はここからさらに地獄が続くんです。


――:え、それ以上の地獄が・・・!?ダウンサイズと製品のリスタートですよね。

エンジニアとデザイナー含めて4人所帯ですが、完全に自信喪失していた僕は次に何をすべきかジャッジができなかったんですよ。自分はいったい何がしたかったんだろうとフワフワしていて、優秀さをもてあました3人からボロカス言われ続けました。「こういうのをやってみようよ」といっても、「は、それなんで必要なんすか?」みたいな。社内の雰囲気はサイアク。自分は感覚派なタイプで、なんでもとりあえず始めてみようというタイプなんです。それがロジックと説明を求めるエンジニア・デザイナー達には合わなくて。


――:なるほど、リスタートの前にどこに向かってリスタートするかも迷ってしまったんですね。

針のムシロでした。結局2020年1月、3カ月たったところで他3人が一斉に辞めます。完全に1人になります。


――:地獄!!精神の病に陥りそうですね・・・その後、どうするんですか?

ヴィパッサナー瞑想という修行に行きました。京都のお寺で10日間真っ暗な室内で瞑想し、自分を見つめ直しました。朝6時にわかめと玄米の精進料理が出て、朝9時におやつみたいなものがあり、そのあとは一切何もなし。夕方までずっと座禅です。誰とも話さない、ずっと内省し続ける。


――:自己探求の旅に入っていったんですね。しかも結構レベルの高い精神修練ですね。

離脱者めちゃくちゃ多い修行なんです。僕も途中ガタが来ましたけど、10日間なんとか最後までやりました。

成果でいうと「メタ認知力」が上がりました。自分の反射的に何でもすぐに反応してしまうところに、メタ認知で思いとどまれるようになります。瞑想って自分の呼吸に集中して、すぐにブレてしまう人間の思考を整え返すんですよ。本質的に注意力散漫な「思考」を制御して、自分がやるべきことに集中力をひき戻す。そうすると刺激に対して敏感になって、感性が開かれる感じがありました。ムカつくことなどあっても、呼吸整え、メタ認知するとまたすぐに冷静になれます。この修行中にコロナパンデミックが起こります。

 
 

■「精神と時の部屋」から世界一変。メタバースオフィスRISAの復活とレッドオーシャン化 

――:まさに「精神と時の部屋」ですね。戻ってきたら世界が変わっていた。

はい、修行から帰ってきたのが20年3月で、世界が一変していた。一応そこまでも借入でなんとかやっていましたが、4月にはキャッシュが再びやばくなりました。そこでちゃんとマネタイズできる堅実な事業をやろうと会計士の資格を生かして経理のOS事業を開始していました。ただその2週間後にコロナ助成金が入り、その食いつなぎ資金を元手にRISAの再立ち上げに乗り出すんです。


――:20年1月に全員抜けて、RISAは休眠状態だったわけですよね?

コロナ禍で各社がリモート勤務に強制シフトするなかで、RISAへの問い合わせが入ったんですよ。休眠していたのですが、急遽前の辞めたエンジニアに声をかけました。するとすでに別の仕事についていて1か月で復旧まではもっていけるが、それ以降は面倒みきれないと。それで一旦そこまでお願いしつつ、4人くらいのエンジニアを新規で採用する。

そしてRISA再始動でプレスリリースうってみると、メディアからの引き合いがものすごかった。TBS『グッとラック!』出演が決まり、そのテレビをみたリモート勤務へのシフトを考える企業からひっきりなしに問い合わせが入るんです。まだエンジニア採用中のタイミングに笑。


――:いろんなものの順番がおかしいですね笑。20年3末に修行から帰って経理OS始めるけど2週間で助成金がおりて、問い合わせもあったので5月にRISA再立ち上げ。1か月復旧作業中にメディアに出て受注案件ががどっさり入り、それを4人の新規エンジニアで突貫工事で対応していったのが6月、ということですね。

ベンチャーってリソースもノウハウもないじゃないですか? もう勝てる部分って時流にあわせてスピーディーにポジション獲れるかどうかだけなんですよ。この2020年はとにかくテレビにでまくってました。メタバースオフィスという事業では日本で一番いいポジションにいて、契約もどんどん決まっていました。

そんな怒涛の4~6月を過ごし、20年9月に1億円調達します。そこは成田修造さんが役員を務めるクラウドワークスからの正式な資金調達です。


――:あの、いま時の人となっている成田悠輔さんの弟さんですよね。中山もYouTubeで拝見しました 。しかし個人的には2020年のこの段階でもNFT、ブロックチェーンの話題が出てこないことに衝撃です。21年夏にNFTプロジェクトやっているTakaさんは2020年時点では暗号通貨とかCryptoKitties、NBA Top Shotとかには入ってないんですか!?

はい、RISA一本やりでした。NFTとかWeb3は実態がわからない怪しいもの、という印象しかなくて、実際にいろいろ調べ始めたのは2022年2月ごろですね。


――:意外にも結構遅いんですね!?2021年がNFT元年でしたのでAxieブームも終わり、22年で収束フェーズから入ったんですね。RISAは絶好調のままだったんでしょうか?

いえ、それがまさにAZITOに入っていく理由ですが、再立ち上げしたRISAに追随して様々な競合が出てきて負けはじめていたんです。3Dでのメタバースという設計自体に無理があって、どんどん作っていったんですが、負荷が重すぎて前回同様にやっぱりユーザーが定着するような状態をつくれなかったんです。大量の登録者が次々とこぼれていく。そうしたなかで安定性と軽さにフォーカスした2Dの競合がシェアを伸ばしていきます。

――:2020年は競合爆発ですね。こうしてみると、RISAだけ異様に早いポジションにあり、2年目の波に乗っかれました。2021年は好調でしたが、そもそも今のMetaのHorizon Worldsでも同じ問題につきあたってますが、「3Dメタバース自体が人類には早すぎる」のかもしれません。

19年2月:メタバースオフィスRISA(日)
19年8月:Immersed(米)
20年5月:Gather Town(米)、VIVE Sync(米)
20年8月:oVice(日)
21年1月:Cyzy Space(日)
21年8月:Meta「Horizen Workrooms」(米)

はい、3Dはもう無理だと思いました。 21年6月にRISAの 作り変えを決意、22年1月に2Dで出し直します。ただ、すでに市場でのポジショニングは大方決まっており、どう差別化していくかに苦戦していました。差別化を模索する中で、当時RISAが重視していたアバターやエモーションなどのエンタメ性とNFTなるものがもしかしたら相性がいいかもと思い、NFTを売買し始めたのがAZITOを始めるきっかけになります。


 

■履歴書不要・実名不要、顔を知らない社員たちが作り上げるWeb3型組織 

――:ここでようやくAZITOなんですね!いやー起業後の3年間が濃すぎますね。でもいきなり8月のメタバース募集から始めるわけじゃないですよね?

もちろんいきなりはつっこめないので、RISAのアバターをOpenSeaで売ってみたんです。30~40体の画像をNFT化してアップしてみました。それで売れたので結構いけるなと思って、AZITOを22年5月に立ち上げて、8月にセールしました。スケジュール的にはこの業界でみてもわりと無茶をしているほうだとは思います。

――:無茶なスケジュールですね!ブロックチェーンつなぎこむNFT化って技術的ハードルはないんですか?

RSIAのときからのエンジニアに頑張って勉強してもらいました。 自分でもいくつか買ってみて、それで価格のつき方とか成功・失敗の事例など見ながら、なるほどな、と思うところがありました。「買う」という行動を通してアーティストと運命共同体になれるんですよ。数クリックでその人との関係性を買う、というか。購入物の絶対的な価値ではなく、その購入物の制作者と共犯関係を築いて、そのプロジェクトに入っていくためにお金を出すようなものでした。


――:アカツキWeb3ファンドEmooteのコムギさんのTwitterがまさに言っていることですけど、一緒にあがっていける「亀」を買うんですよね。そうすると有名IPですでにその知名度のあるものを買う「兎」型だとちょっとNFTとは本質的には相いれないのかなとも思います。

そうですね、少なくとも企業自体を支援するかどうか、でいうとハードルがあります。アーティスト個人ならどうプロジェクトを進めようとしているか見えますが、誰がどう動かしているかわからない企業型・有名IP推進型ですと、「参加して経験できること」が見えないからです。

ファウンダーにしてもクリエイターにしても結局個人としての人間性をさらけだして、応援できる面をイメージさせないとNFTのPjtは今までのところうまくいっていないと思いました。(成長株の)アイドルとファンの関係に近いですよね。


――:現在のTwitter1万人、Discord4.5千人というのは結構多いプロジェクトですよね。いまパッとみても700人くらいがオンラインで色々話してます。

セールは初動が大事なんですよ。一緒にやってくれている成田さんや全力まんhttps://onl.bz/t5jF9TL の影響力もあります。彼自身2万人フォロワーのいるNFT界隈のインフルエンサー&マーケターです。彼が入ったプロジェクトは今まで全部成功しているんです。

最初の時点ではベンチャー起業と同じで、僕らには「思想」しかなかったんですよ。こうしたいという気持ちはあっても、一体どんなものができあがるのかプロダクトのプロトタイプもなかった。でもWeb3って「思想への参加権」なんです。僕らの思想に共感して一緒に入りたいと思えるかどうか、その成長幅への期待に何人本気で集まってくれるかということなんだと思います。


――:かなり手間かかりますよね。

めちゃくちゃかかりますよ!  なので、「商品化としてのNFT」という考え方は相いれないと思います。僕自身が毎日のようにチャットにはりついて、配信していって、実態や進捗をどんどん見せていっています。


――:まさにWeb3で「商品をつくって販売する」というこれまでのモデルとは全然違うなと感じます。OPS IONとしての組織の作り方にも興味があります。どんな組織でこういうプロジェクトをまわしているのか、とか。全員リモート勤務で、しかも社員じゃなくてDiscordだけで手伝っている方とかもいますよね。入社の仕方も特徴的です。

そうですね、いまは社員5名、雇用していない状態で手伝ってくれている方々が10 名といったところでしょうか。顔をみたことない人もぶっちゃけいます。というか直接お会いしたことある人はほとんどいないです笑。


――:そういうなかで「採用」ってどうしてるんですか?履歴書・職務経歴書も見ないんですよね?

見ないですね。だいたい職務経歴書だけみても、実はその人が本当にできる人がどうか結局わからないんですよね。それよりも過去のTwitterのログをたどったほうがよっぽどその人の志向性とかが分かります。あとは試用期間です。実際一緒に働いてみて、1か月、早い人は数週間で正式雇用に切り替えます。それで失敗した、変な人が入っちゃった、ということはないですね。やっぱり口コミ、SNS履歴、試用期間があれば、優秀な人は採用できますね。

給与も基本的には言い値ですけど、ポジション・役割ごとにレンジはあるのでそれをオーバーしない範囲では調整してますね。


――:会社にとって「信用」をどう構築するか、考えさせられますね。今までは大学や職務経歴書、過去のキャリアと面接の印象が「信用を代替するもの」でした。

ずっとハンドルネームだけで働いてて、ほとんどが副業もしてますしね。こちらとしてはフィルタリングに割く時間を極力絞ってます。

NFTを買ってくれた人もそうですけど、AZITOと利害が一致していることが大事なんです。AZITOがあがっていくことが本人たちにも還元されるということがトークンなどでひもづいているので、必然的に熱量の高いチームが出来上がります。


――:AZITOはこれまでのNFTのPjtとはどう違うんですか?

この2年間のNFTって基本的にはPFP(プロファイルアイコン)で画像だけ売ってきた感じなんですよ。

AZITOは今3,000区画の土地を売りましたけど、ここから7000区画も追加で売っていくときには会話だけでなくメタバース内で様々な機能がついてきます。まだ会話しかできない状態ですけど、それだけでも結構Twitterにあげてくれるユーザーも多いんですよね。それもこれもこのリリースに至るまでに関係性を築いてきているからなんです。現在の購入者はAZITOに期待してくれていて、新機能をいれると喜んで使ってくれて、しかもリテラシーが高いのでどんどんフィードバックをくれる。それで次の実装機能を決めていって、「一緒につくっていく」感覚がありますね。


――:今はベータ版で数十人が入っている状態ですけど、画像をみるとRISAの経験が生かされている印象です。

世界中のメタバースでまだ「成功」といえるような事例はないんです。 世界中のメタバースプロジェクトどれを見てもまだユーザーは滞留していない。ここでRISAの経験が生きていて、実用性重視で2Dを選び、PCのスペックごとでユーザー体験が違わない様にしました。いかにActive率をあげていくか。

今のところは会話くらいしかやることがないんです。それでTalk to Earn。それだけでももうTwitterにあげてくれている人がいます。今までのゲームって、楽しめるものを作って買ってもらってからがスタートなんですよ。でもAZITOの場合は買う前のプロセスで「参加権」を買いたい人は固まっていて、もう買ってもらったときにはすでに全員が動き出しているような感じなんですよね。


――:AZITOそしてOPS IONとしてはどういうところを目指していますか?

今後はユーザー数をどう増やすか、増えていくためにAZITOメタバース内でどう楽しんでもらう機能を創っていくか。そのうち ほかのNFTプロジェクトの拠点もこのAZITOの中につくってもらって広げていきたいですね。この空間の中自体が、いまのDiscordのようなもので、色々なサークルが出来て自由に会話してコミュニティができるような、そういったメタバースにしていきたいと思っています。

会社としては今、シンガポール法人設立準備中です。来年には転居予定で、そうすればトークン発行などもっと自由度の高い展開をしていけると思います。

 

会社情報

会社名
Re entertainment
設立
2021年7月
代表者
中山淳雄
直近業績
エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
上場区分
未上場
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