【インタビュー】エンジニアもアーティストも、”皆でユーザーが喜ぶことを考え話し合う”…8年以上も愛される「あんスタ」シリーズを手がけるHappy Elementsの開発スタイルとは
『あんさんぶるスターズ!!Basic/Music』や『エリオスライジングヒーローズ』、『メルクストーリア - 癒術士と鐘の音色 -』などで知られるHappy Elements株式会社。
同社は京都に拠点(カカリアスタジオ)を置き、数多くのオリジナル作品を自社開発にて行っている。
昨今では数多くの作品がひしめき合う中、同社が手がける『あんさんぶるスターズ!!』は去る4月に8周年を迎え、シリーズ作品となる『あんさんぶるスターズ!!Music』も4年目となるなど、多くのユーザーに長らく愛されている作品となっている。
そんなHappy Elements株式会社のゲーム開発はどのようにして行われているか。gamebizでは今回、エンジニアであるM氏にインタビューを実施。
同社がゲーム作りで大切にしている考えやスマートフォンゲームにて長く愛される作品を手がけるその秘訣について聞いてみた。
Happy Elements株式会社が考えるゲームの楽しさやゲーム開発で目指すもの
――:本日はよろしくお願いします。まず簡単な自己紹介をお願いできますか。
『あんさんぶるスターズ!!Music』にてゲームエンジニアをしているMと申します。
高校卒業後に、専門学校を経てゲーム会社でアルバイトをする機会があり、そこから長らくゲーム開発に携わっていました。
当時はiモードのアプリの開発のほかXbox360やPS3向けのコンソールゲーム開発も行い、ソーシャルゲームの時代ではモバゲー向けのゲーム開発なども経験し、スマートフォンゲーム開発にも携わるようになりました。
――:ゲーム開発歴は長く多様なのですね。Happy Elements株式会社にはどういった経緯で入社したのでしょうか。
前職でソーシャルゲームの開発をしている時に『あんさんぶるガールズ!』という作品を通して、Happy Elements株式会社の存在を知りました。
グループリーダーであるチーフエンジニアが講演しているのをみて、開発に関する考え方などに共感しました。
タイトルに惹かれたというよりは、その講演の中で、Happy Elements株式会社がエンジニアに対して思っていることを聞き、よりHappy Elements株式会社を意識するようになりましたね。
▼当時の講演資料はこちら▼
https://speakerdeck.com/kusakari/ansanburusutazu-falseyun-yong-nituite
――:Happy Elements株式会社入社後はどのようなプロジェクトに関わっていたのでしょうか。
採用面接の時に新規ゲームに関わりたいと話したこともあってか、入社後は新規ゲーム開発のチームに所属となりました。
そのゲームは結局、リリースすることはなかったのですが、その後も様々なプロジェクトに関わるようになりました。
技術研究なども行うようなチームなども経験し、その後に今の『あんさんぶるスターズ!!Music』のチームに入ることになりました。
――:ちなみに『あんさんぶるスターズ!!』はシリーズでは8周年を迎え、『Music』でも3周年ですが、振り返ってみていかがでしょうか。
私自身、『あんさんぶるスターズ!!Music』のチームに入ったのが1周年目の後半くらいで、最初はデバッグチームの立ち上げを行いました。
年末や周年付近だと施策の数も多くなりデバッグする量もかなりのものになるのですが、最後は何とか乗り切りました。
しばらくしてデバッグの業務も安定してきたので、2周年目の直前くらいに3DエンジニアとしてMVの開発に携わることになりました。
そこではビデオコンテ(Vコン)や背景ビデオコンテ(BGコン)を参考に、Unity上でMVを再現するためのシーンのセットアップや機能開発を行います。
MVによっては同じステージを使いまわしているものもありますが、基本的には全てのMVのステージを新規に用意する必要があり、毎回何かしらの開発が必要になります。
最近で印象に残っているもので言えば、劇場で公開したアニメーションをゲームと一緒に連動させるイベントがあり、その実装に苦労や達成感はありましたね。
他にもMV衣装を着せ替えれるMV衣装フィッティング機能の開発を担当したのですが、MV衣装の数が大量にあり実装や確認が大変だった思い出があります。
あとは、今年のエイプリルフールで公開した『あんさんぶるトレーニング』の新作ミニアプリを絶賛開発中です(笑)。
――:ちなみにM氏から見て『あんスタ!!』には、エンジニアの目線からどんな魅力というか、楽しさがあるというふうにお考えでしょうか。
先程も少し話したのですが、曲ごとに全て演出が違い一つとして同じ演出のMVは無いので、毎回新鮮な気持ちで開発できます。
限られたスケジュールの中で、前回の曲よりどうやってクオリティを上げていこうか、いかにユーザーさんに楽しんでもらえたり、驚いてもらえるかを考えていくという部分は、エンジニアとして様々な創意工夫ができる余地があり、楽しい部分と言えるかと思います。
Happy Elements株式会社は、パブリッシングも含めて自社開発になるので、比較的クリエイターの声が実現しやすいゲーム会社だと言えます。
MV企画者から「このMVでは今までにやったことない新しい演出を入れたい!」と話が上がれば、エンジニアからは「新しい演出を入れるには既存機能だと難しいので、リリース済み楽曲の改修含めて機能開発をしましょう」といったように、チーム全体で協力して納得いけるまでこだわれるのはクリエイター冥利に尽きると思えます。
・・・もちろん、納期との戦いもありますので、「今回はちょっとスケジュールが詰まっているので、既存機能でいきましょう」といった判断も必要な時はありますが(笑)。
――:なるほど。ただ、タスクをこなすだけでなく、いかにこだわっていけるかを考えられるのが魅力ではあると。
自身の裁量でこだわるのもそうですし、『あんさんぶるスターズ!!Music』全体の歴史で見た時に、特定の曲の位置づけが大事になることも結構あります。
「今回は曲のこの部分をユーザーさんにも楽しんでもらいたいから、過去のイベントやMVを考慮してこんな演出を入れましょう」といった作り方もチームで話し合って決めていますね。
――:結構、チーム内では議論して進めていくのでしょうか。
Happy Elements株式会社でもいくつかのプロジェクトチームがあり、それぞれにチームの特色はありますが、私のいるチームでは話し合うことが多いですね。
オフィスではチームごとに部屋があるのですが、特定の職種が固まっている訳ではなく、企画の人やアーティストの人など様々な人が席の周りにいます。
ですから、細かい点も話し合いながら進めていますね。
――:物事を決めるにあたっては、何かしらの軸がないと決断もしづらいかと思いますが、Happy Elements株式会社が考えるゲームの面白さ、楽しさというのは、どういったところにあるとお考えでしょうか。
直接的に面白さに繋がる要素というものは様々にあると思いますが、ユーザーさんをどうやって喜ばせるかというか、どう驚いてもらうか、といった点はみんな共通して力を入れていますね。
3Dの開発チームでは、演出的な盛り上がりとか、「このユニットだったらこういう演出が入っていると昔のMVとちょっと繋がりがあるから盛り上がるよね」とか、そういったことを頻繁に話しながら進めています。
私自身、『あんさんぶるスターズ!!Music』の立ち上げ時にいた訳ではないですが、エンジニアの中には立ち上げ時から担当している人もいて、コンテンツについても詳しいので、時には意見をもらったり、時にはこちらから意見も出すこともあります。
――:実際の開発で印象的だったことはありますか。
『あんさんぶるスターズ!!Music』の場合、声優さんが出演する生放送でMVを公開することがよくあります。
生放送の日は事前のスケジュールで予め決まっているのですが、大体放送開始ギリギリまでMVの最終調整をしていることが多いです…(笑)。
放送当日でも気になったところがあればブラッシュアップをかけており、気が付いたら数時間後に放送開始ということが多いですね。2、3日前に終わっている、みたいなことはほぼないです(笑)。
ただ、ひたすら疲弊して作り続けているというよりは、できる限りこだわっていきたいという気持ちで行っています。
MVを公開する前には関わった人全員で確認し、「ここがおかしい」とか、「もっとこうした方がいい」という意見を取り入れ、なるべくクオリティ上げて生放送を迎えることが多いです。
…生放送現場の人にはご迷惑をかけているなとはいつも思っています(笑)。
――:こだわりがあるからこそなんですね(笑)。ちなみに、これまで様々なゲームを開発してきたM氏からみて、スマートフォンゲーム開発の魅力はどういったところだと思いますか。
スマートフォンゲーム開発の魅力で言うと、ユーザーさんの声がダイレクトに見ることができるのが分かりやすい魅力かなと思います。
『あんさんぶるスターズ!!Music』の場合、TwitterやYouTubeで施策のリリースやMVを公開すると、結構な数のコメントが付くので、ユーザーさんからの反響をダイレクトに見れるのが魅力的かなと思います。
もちろん、人によっては負担となる事があったり、良い部分も悪い部分もあると思いますが、私はそういった反響も見ることができるのは楽しいです。
ユーザーさんからの「以前のこの場面を汲み取って、今回のMVに反映しているんだ!」みたいな書き込みを見て楽しんだりしています。
すぐにユーザーさんの反響が来るというのが、本当に、スマートフォンゲームの魅力だと思います。
ユーザーさんの声も近いということもあり、チームとも話し合うことも自ずと増えてくるのかなと思います。
ゲームの楽しさやユーザーの驚かせる為に、みんなで話し合う
――:話を聞いていると、皆さんでいかに良くしていくかを話し合っていることがとても印象的ではありますが、Happy Elements株式会社にはそういった企業文化があると思われますか。
比較的そうかなと思います。もちろんチャットとかで話すことも多いのですが、席も近いので、ちょっと話しに行ってそのまま立ち話といった事も多いです。
――:以前からそういった文化だったのでしょうか。
私が入社した時からそうだったので、初期の頃からそのスタイルなのかなと思います。もちろん業務を細分化したり、イラストを描く人でしたら線画だけに専念できる環境なども用意されていますが、3Dチームでは、みんなが一本のMV仕上げるために、混ざり合って参加している印象です。
――:エンジニアの方もコンテンツ演出などにも参加するのは珍しいですね。
エンジニアに関わらず、職種や世代を問わずコンテンツの内容に意見やアイデアを出す人は多いですね。…というより、話し合うのが好きな人が私のチームには多いのかもしれません(笑)。
Happy Elements株式会社では、話し合う事も多いので、基本は出社スタイルなのですが、クリエイターズフライデーという、金曜日はリモートワークでもOKという制度もあります。
働き方を自由に選択して良いのですが、私のチームはなぜかほとんどみんな出社しています(笑)。
――:選べる状況だと、在宅を選ぶ人が多い印象ですが、珍しいですね(笑)。
3D開発ですと、自宅のPCでは作業しづらいというのもあると思いますが、基本的には皆出社していますね。
もちろん、出社していない場合もありますし、リモートワークだと集中しやすい場合もあると思います。
ただ、立ち話などの雑談やコミュニケーションから生まれるものもあると思うんですよね。ゲーム作りというエンターテインメントであれば、大事な要素だと思います。
先ほど話したように、Happy Elements株式会社は自社開発なので、ゲーム開発における裁量は比較的ある方だと思います。だからこそ、話し合いでゲーム作りにこだわっていくというのも実現できているのかもしれません。
――:なるほど。みんなでユーザーさんに喜んでもらう考えを出し合ってきたのが、これまで作品が支持されてきた要因なのかもしれませんね。
ゲーム開発に専念できるHappy Elements株式会社
――:M氏からみたHappy Elements株式会社について、お伺いしたいのですが、入社当時に感じた印象などをお聞かせいただけますでしょうか。
エンジニアとして入社したときには、環境がすごく良いなと感じました。機材などはもちろんのこと、開発で使うツールなどもクリエイターが使いたいと言えば、大体利用させてもらえます。
以前にいた会社ですと、コスト面を気にして使えなかったこともあるのですが、Happy Elements株式会社は開発に専念しやすい環境にしてくれているのだなと感じました。
あとはエンジニアに関していうと、いろんな方がいるなという印象です。開発や技術が好きな人もいれば、マネジメント寄りの考え方もいます。色んな人が交わってゲーム開発がされているのが、個人的には面白いなと思いますね。
――:どういった方がHappy Elements株式会社には向いているなと感じますか。
もちろんプログラミングなどのスキル面は大前提として、自分で突っ走っていく方っていうよりかは、協調性を持ってやる人が合っているのではないかなと思います。
ゲーム開発だと、一人でできる事には限界がありますので、話し合いながら進めていく人が合っているのかなと思います。
――:今後やっていきたいことについてお聞かせください。
『あんさんぶるスターズ!!Music』については、引き続きユーザーさんに喜んでもらえるように日々考えていきたいと思います。
エンジニア個人としては、3Dに携わっている事もあり、VRやARといった分野にはちょっと興味はあります。その分野がこれからも盛り上がっていくのであれば、今までで身についた3Dデザインなども活かしてみたいなと思いますね。
――:ありがとうございます。それでは最後に読者に向けて一言お願いできますでしょうか。
業界の方がご覧になっているかと思いますので、ユーザーさんに喜んでもらえるようなゲームを手掛けられるよう、今後も皆さん一緒に頑張って行けたらなと思います。
その中で、Happy Elements株式会社でのゲーム開発に興味がある人がいらっしゃれば、ぜひ一度話してみたいですね。京都にてみんなでゲームを開発していますので、興味のある方はぜひ一度遊びに来ていただきたいですね。
――:ありがとうございました。