2025年4月ラスベガスでLicense Expoが開催された。ライセンスの考え方自体は1900年前後からあり、それを本格的にビジネスにしていったのがディズニーの1930年代半ばの展開。だがそれが協会となって一般的なビジネスの振興対象になってくるのは米国で1980年代、日本では2000年代に入ってから。今回はライセンス協会の展開をみながら、2025年関税問題について考える
■120年の歴史をもつライセンス、21世紀に入って全世界に広がっていた
「ライセンス」の考え方自体は古くから存在する。世界初のライセンスキャラクターは「ピーターラビット」だ。映画『ミス・ポター』(2006)でも取り上げられた英国作家のビクトリア・ポターが描いて1902年に出版した絵本からキャラクターが飛び出し、ハロッズ百貨店などで陶磁器やお皿などに転用されたところからライセンスビジネスが始まる。それを会社として部署を立ち上げライセンス管理というビジネスモデルに昇華させたのが1928年『蒸気船ウィリー』のミッキーマウス擁するディズニーである。
概念自体は古いが、ライセンスと商品化が始まるのはずいぶん後年になってからの話。「ピーター・ラビット」も1952年からウェッジウッドの陶器のみに商品化され、日本でも1975年から福音館書店によって商品化展開がなされるようになるが、この時点ではあくまで出版を補助するものとしての商品化の位置づけ。約20年かけた段階で商品化は15社程度にとどまり、日本で1300万部が売れたとされる絵本を販促する材料の域を出ていない。
この絵本から生まれた万人受けするキャラクターが、「ライセンス」としてビジネスの素材になってくるのは、米ペンギンブックス社がポターの時代に出版をしていた英フレデリック・ウォーン社を1983年に買収してから。ライセンスの考え方を少しずつ浸透させてきていたディズニー、そして何よりスター・ウォーズという巨大なヒット作から、彼ら自身想像していなかったサイズで「すたー・ウォーズ4」(1977)で100社、「5帝国の逆襲」(1980)で300社、そして「6ジュダイの復讐」(1983)から10年かけて600社とライセンシーとともに成長してきたことで、1990年代には「ライセンス産業」というのが産業としてそれなりのプレゼンスを示す“黎明期”に入ってくる。ここでピーター・ラビットやポパイ、リサとガスパールといった古くからあるキャラクターのライセンス権が高く評価されるようになってきたのだ。
「国際ライセンス業界マーチャンダイザー協会(LIMA)」が立ち上がったのはまさにそういった文脈における1985年であり、これは同時に米国レーガン政権下で知的財産で海外収益を確保していこうというタイミングとも合致していた。LIMAが戦略パートナーとしてライセンス市場や企業戦略についてのスピーカーを集め、英国の出版・イベント企画会社のInforma社が展開するLicense Expoは、ラスベガス(5月)から始まり上海/中国と日本(7月)、ロンドン/英国(10月)の世界4拠点で展開されるライセンスの世界イベントだ(同社が運営していないがイベント自体のライセンスアウトとなる香港国際Licensing Show(4月)など他のライセンスイベントもある)。
日本は遅れること17年、2002年に日本支社が立ち上がっている。「ピーターラビット」「ムーミン(フィンランド)」「ミッフィー(オランダ)「くまのぷーさん」など日本で欧米からのライセンス商品が積極的に取り入れられたのはバブル崩壊後、2003年ごろからの話だ。90年代に活性化した米・英のライセンス業界、そこに遅れた日本は00年代に大きくその存在感を示すようになり、ムーミンにせよミッフィーにせよスヌーピーにせよ「母国の次に売れている市場は日本」と言える状況にもなった。日本は不況・停滞期にライセンスの成長市場を見出したのだ。
LIMAがディレクターを置く国は、アメリカ・ブラジルに、欧州は英・仏・独・伊、アジア太平洋では日本・中国・オーストラリア・ニュージーランドと10か国にも及ぶ。この10拠点でLIMAの世界会員社数1200社、日本でも約100社を振興し、業界の活性化を図る。日本のLIMA支社設立は2002年(Licensing International Japan)、決して早くはないがアジアにおける最注力市場であり続け、近年はそこに勃興する中国が並走している。
今回はそのライセンス業界最大規模ともなるLicense Expo Las Vegasに2025年5月20-22日に参加、世界IP戦略の中心地でいま何が起きているかを取材してきた。出展社数は400社、日本から12社、日系米国支社も含めると23社が出展していた。完全にBtoBでビジネス客だけが訪れるExpoにしては巨大で、来客は合計1.2万人に及ぶ。ビジターだけの社数でいえば、ゆうに数千社はくだらない。映像販売やゲームショーなどと比べると「販促」よりも「ブランディング」という色合いが強い。各社は10~20年と出展を続ける老舗企業が多く、版権をBtoBでライセンシー企業と関係構築しながら複数年度で時間をかけて浸透させていくライセンス業界らしく、「何年も出続けていたら、ブースで隣あわせになったA社さんとコラボをすることになった」といった話もよく聞く。





■関税!関税!関税!不透明な中で困惑する米国IPと攻勢をかける日本IP
このLIMAという世界ライセンス協会が有名なのは、このイベント担当というよりもむしろその調査力をフルに発揮した「Global Licensing Survey」だろう(Licensing Internationalの会員は無料だが、通常に入手すると$5,500の有料購入となる)。
毎年各ライセンシーから匿名で生データを収集し、どんな地域・カテゴリーでライセンス収入を得ているかを調査研究しており、行政・コンサルからも引き合いの強い資料だ。2025年調査は全世界935社からのサーベイ結果となっており、追加で56社に実際にインタビューを行った結果としての結果が現れており、その結果が359億ドル(約50兆円)のライセンス収入データとなっている。2000年から四半世紀の間、毎年調査を行っており、2020年のコロナ禍以外はすべて右肩上がり。

▲Licensing International発表資料
全世界3690億ドルで昨対比3.7%成長のライセンス市場は6割が北米だが、ある程度成熟している。日中韓など北アジア361億ドルやASEAN143億ドル、そして中東62億ドルの成長速度は平均を上回り、前述のLIMA支社のある10か国を中心にライセンスの波は全世界に広がっていっている。
ただこの好調なライセンス業界に「水を差す」動きが、まさにトランプ関税だ。今回のラスベガスのテーマは「関税!関税!関税!」。どこにいっても誰と話しても関税の話でもちきりであった。玩具業界としては米国政府へのロビー活動を積極化させようとしているが、続くライセンス業界も手段があるわけではない。講演会でライセンサー、ライセンシーが入り乱れて対談するも、出てきたのは「Uncertainty(先行き不透明)」と「Everyone has to suffer(みんな苦しいんだ)」というワードばかり。とにかく右往左往しながら日々更新されるニュースに戦々恐々とさせられている、という状態で、「Tariff Turbulence:Navigating Global Trade and Its Impact on Consumer Products」のセッションでも版元に料率交渉の緩和をしてほしい、ライセンシーとしてはとても耐えきれないという悲鳴ともいえる現場の声がこだましていた。
玩具業界への関税比率で2025年7~8月にある程度合意をされた結果としては中国が40~145%、ブラジル50%、ベトナム30%、インド25~50%、台湾30%、インドネシア29%、日本や韓国の15%は“最恵国待遇”の域だろう。9月16日に米国で通関される貨物から適用されているが、焦点となった米中関税会談は5~9月と約半年間「90日間停止」を繰り返しながら、2025年11月末までペンディングを繰り返している。12月に入った現在もなおカオスな状況にあり、この1年の間には混乱が収束しなかったということになる。
■日系各社は攻勢一辺倒、勢いを失い始める北米キッズIP
任天堂・ポケモン・Vizmedia(小学館、集英社、小学館集英社プロダクションの米国子会社)・KONAMIといった面々はLicense Expoの定番の出展企業である。これらも大きなブースを構えていたが、今年ひときわ大きく目立ったのがSEGAだろう。ソニックのハリウッド映画シリーズで3弾まで発表し、累計10億ドルの大盛況。映画やゲームなどを含まない、純粋な「ライセンス収入」で2021年の57億円が、3年で133億円と約3倍近くにまで拡大しており、「トランスメディア」というグループミッションに向けて今回のブース出展でもひときわ目立つ大きな間取りをジャックしていた。


▲セガサミーのライセンス収入発表資料
同社の米国市場の好調はライセンス事業のみにとどまらない。10年以上前から展開しているラスベガス・カジノ向けのスロット機で2024年はスマッシュヒットを飛ばした。「Railroad Riches」はTop Indexing Gamesというカジノ機のランキングで1位を獲得。これは韓国で展開しているカジノという「場」ではなく、ゲームコンテンツのように1つのカジノコンテンツそのもので大ヒットを飛ばし、亀田社長の言葉を借りれば「アメリカカジノ界で『ムシキング』を作ったような成功事例」ということにもなる。コロナ後の回復基調の波はカジノビジネスにも順風を巻き起こしており、好景気のなかで日本企業の稀な成功事例といえる。
VTuberホロライブグループのCOVER社は2023年から出展しており、今年で3回目。昨年北米支社を設立したばかりの中で、ライセンス収入は毎年上がり続け、海外営業の担当者も3年前の約5人から30人規模に増員するほどの好調ぶり。アクキーなどが多かった初期から比べ、アパレルや服飾品なども増えてきた。海外イベントはほかにも台湾ゲームショーやアメリカのGame Developer Conferenceなどにも出展しているが、このLicense Expo@ラスベガスには出展するだけの特別な理由があるという。それは「世界のライセンシーに開かれている」という点だ。米国イベントとはいえ、最大のライセンスイベント。ライセンサーもライセンシーも欧州・アジアを含めた世界各国から集まる。日系企業で海外ライセンスに関心度が高い企業も一斉に出展するためそことの情報交換やリレーション構築の場にもなる。

VTuberはファンとの共創が売りのコンテンツ。ファンがミームを産んで、そのミームをVTuber本人がひろい、そこからグッズが生まれる、という逆転現象も起きている。「ディズニーランドにVTuber5人組が行った、という企画動画が24時間以内に5言語でファンサブで字幕がつけられて広がっていた」というほど、ファン参加型で自動的に広がっていく。
IPディベロッパーのブシロード社も海外ライセンスに攻勢をかける1社だ。2019年に新日本プロレスのアメリカ展開で初めて出展、コロナ期は控えていたが2024年から出展し今回は3回目。やはり「BtoBでここまで広く関係構築できるイベントはほかにない」という理由から出ており、単純な売り上げ増というよりも経年的にライセンシーとの関係構築をする意味でも、また新たなライセンサーを探す意味でも重要なイベントである。現在カードゲームから派生する「カードファイト!! ヴァンガード」を主要IPとして各種アニメキャラとコラボするライセンシー商品でもある「ヴァイスシュヴァルツ」やフィギュアブランドのPalVerse、アニメ人気・コレクティブ人気がコロナ後に爆発し、現在もその市場が維持されている米国市場を中心に展開を画策している。
関税の影響はどうかと聞くと、マレーシアでカード製造をして米国輸入している同社は最初24%関税から現在90日間保留状態で10%となった。ダメージはあるが致命的ではない。むしろ中国製造のPalverseのフィギュアが30%ということでこのまま適用になると重い判断となる。こうした先行き不透明ななかで製造・流通のパイプラインを変更するのは現実的とはいえない。単純に米国製造に切り替えても同じクオリティを維持できるかわからないし、そもそもこの関税戦争がどう決着するかも決まっていない。まだ関税を理由にライセンス契約をとりやめる企業はでてきておらず、需要としてはそれほど変わっていない、ただ楽観視はできない、と海外担当執行役員の平良氏が話す。

関税問題はじわじわと影響を派生させてきている。7月に行われるAnime Expoではフィギュアの出展を取りやめる予定という企業の話も聞いた。30%関税適用では商売が成り立たない、ということで年1回のプロモーションに絶好の機会を「使わない」判断だ。タカラトミー社もADKエモーションとともに『ベイブレード』を北米展開しているが2024年秋から展開する第四世代「ベイブレードX」が好調に滑り出したこの春にまさに関税問題が直撃する。フィギュア同様にベトナム製造の玩具は高関税適用の対象国、アニメにのせて子供たちの心をつかむコンテンツの出鼻で水を差された格好だ。ここから先しばらくの間はこうした米国市場の攻勢を様子見・保留する企業も増えてくることだろう。

逆に日本市場向けの動きはどうだろうか。欧米IPをライセンスインして日本市場向けの商品をつくるパイレーツファクトリー社の渡邉喜一郎氏に話を伺った。マテル社の80周年ということでUNOやバービー、Hotweelなどを日本市場に展開しようと久々にVisitorとして参加した、という。1983年設立の老舗である同社はスイスのネスレ社の「キットカット」の大坂・りんくう店を受託運営しており、「キットカット 桔梗信玄餅味」や「東京バナナ」コラボなど日本にローカライズした展開で欧米IPを日本に根付かせる経験が長い。ライセンスビジネスそのものが「輸入モノ」で、ディズニーを頂点としてそのクオリティコントロールにあわせることでライセンシーは育っていった。ただ国内ライセンスが育ち、1990年代をピークに外資IPの日本市場展開というのはそれほど成長基軸ではない。そうした中でマテル社の高いライセンスコントロール基準を満たしながら、80周年にふさわしい商品をどう企画提案し、作っていくか(現在の日本市場向けには自動車玩具であるHotweelが売れている、とのこと)。

近年のアニメブームで「ライセンスアウト」が一気に大勢となったLicense Expoで、玩具・フィギュアなどの文脈では直近課題はかかえるも総じて日系企業は米国市場攻略に前向きだ。逆に会場全体を通じて長く参加をしている企業からは「ちょっとおとなしくなった印象」という声も聞こえた。特にNickelodeonのような米国でケーブルからはじまったキッズチャンネルIPが出展を取りやめており(Disney社などはもとから会場出展はせず前日にExclusiveなDisney向き合いのライセンシーとのホテルミーティングを実施している)、配信勢が勢いをつけるなかで旧式ライセンスは厳しい状況にもある。日系IP同様に韓国系IPもCJENMなど出展をしており、「アジア勢の北米展開」が目立つ格好だ。
今回のイベントで一つの象徴ともいえるのが「玩具屋」であるMattel社が「IPカンパニー」を自称していたことだろう。本来はライセンシーで様々なIPの商品化に精を出すマーチャンダイジング会社ですら、「機関車トーマス」や「バービー」などの自社キャラクターをIP化させて広げていくことを事業の主軸に置くようになった。2025年8月にアリゾナ州で、2026年にはミズーリ州で「Mattel Adventer Park」というテーマパークも設立予定で、映画・アニメなどの映像会社だけでなく、ゲーム・玩具といった商品化産業も自らIPを創出し、版元として名乗りを上げていくようなトレンドは今後も加速していくだろうことが予想された。
会社情報
- 会社名
- Re entertainment
- 設立
- 2021年7月
- 代表者
- 中山淳雄
- 直近業績
- エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
- 上場区分
- 未上場