【カンヌ映画祭編②】ゲリラ戦を勝ち抜き「声優:キアヌ・リーブス」を誕生させた『HIDARI』、コマ撮り業界の超新星になるか 中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」

中山淳雄 エンタメ社会学者&Re entertainment社長
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2026年5月12~23日、12日間にもわたって開催されるカンヌ映画祭に参加した。これは「世界映画祭の頂点」である。オスカー(アカデミー賞)は米国映画を中心にしており、厳密には世界の映画祭の要件を満たしてはいない。映画もアートもスポーツも「ブランドは欧州、市場はアメリカ」である。いかにブランドというものが作られるのか、を学ぶには、このカンヌ映画祭ほどふさわしいものはないだろう。映画は市場としてはテレビ・放送の1/10程度、フランスの映画市場も全世界のシェアは4%に過ぎない。それなのに、だ。いまだに映像の世界における「映画」のブランド地位は盤石で、かつ米どころか英独仏のなかでもフランスの「カンヌ映画祭」だけは格別な地位にある。一体その「価値」の源泉はどこにあるのか。第1回 に続き、第2回ではAnnecy Animatnion Showcaseのノミネート作となった「HIDARI」プロジェクトについて詳細をインタビューした。

 

■初めてのゼロイチ作品が「木彫り人形のコマ撮り」

――:HIDARIの動画、本当に衝撃でした

あんまりストップモーションのアニメとか見ないんですけど…しかも「木彫りの人形」でこんなことができるんだ、と衝撃を受けました。

川村:HIDARIは「こんな無名の僕らが世界でヒットするようなコンテンツを作るにはどんな企画にすればいいのか?」というところから逆算して、最終的に「コマ撮り(ストップモーション)」でしかできない「木という素材を中心にすえた物語」にたどり着いた作品です。コマ撮りの醍醐味は、「本当の物体」を動かしていること。なので、その「本物でしか出せない素材感」にこだわれば、誰も見たことのないようなユニークな作品ができるのではないかと考えました。普通のコマ撮りでは制作の効率なども考えて3Dプリントやシリコンなどの人形を使うのですが、そうではなく、とても動かすのは大変だけど敢えて日本文化にも深い縁のある「木」を使うことで、すごくわかりやすく今、世界でも人気が高まっている「和」の世界を描けるのではないかと。世界に興味をもってもらえるもの・ウケるものというゴールがはっきりしていたので、それにあわせて創り方から創っていった感じです 。

そうした「素材と物語が一体」となっているコンテンツをつくるため、木彫りの人形で演じる意味がある物語を作らないといけない。そこで思い出したのが、落語『ねずみ』などで知られる左甚五郎という人物でした。日光東照宮の眠り猫などでも有名な人ですね。


▲左から松本紀子プロデューサー、川村真司監督

 

――:聞き覚えはあるけれど、確かに詳しくは知らないです。

川村:本当に謎な人物なんですよ。日本各地に「左甚五郎作」と言われる彫刻はたくさん残っているんですが、そのロケーションもバラバラだし、制作年も長期間にわたっていて、本当に一人の大工なのか、本当は作家グループとして「継承していた名前」じゃないかという話もあるくらいです。それにその名前の発祥自体にも所説あるんです。「右に出る者がいない」から「左」という説や、彼の技術をねたんだライバルによって右腕を切り落とされて、左手一本だったからという結構バイオレンスな説もあります。それが非常に面白かったんです。

だから彼の逸話と、江戸時代の史実、そして今回のために新たに考えたファンタジーな設定を混ぜて物語が作れそうだと感じたんです。今回は長編約90分の物語にするために、(当時本当にあった)江戸城改築工事の秘密を守るために職人たちが殺されてしまうという設定で、そこで師匠や許嫁であるその娘も含めて仲間を全員殺され、片腕まで失った甚五郎が大工道具を武器に変え、カラクリ義手を開発して単身復讐に乗り出すというあらすじを思いつきました。

――:悪役もすごいキャラがたってました。

川村:あれは裏切った兄弟子の一人、「犬丸」というオリジナルキャラクターになります。今YouTubeに上がっている5分尺の映像は、10年間の潜伏期間と修業期間を経て、遂にその兄弟子との対決に至った甚五郎が大立ち回りを演じるところにフォーカスした「パイロットフィルム版」になっています。

もともと左甚五郎の話は頭の中にひっかかっていて、こういう物語でどこかでなにか出来ないかな、とは考えていて、ずっと引き出しにしまってあったんです。でも映画を作ろうと思っていたわけではなくて、マンガでもいいし、MVでもいいしくらいに考えてました。そこでちょうどドワーフの松本さんに映画を作らないかと持ちかけられたんです。彼女とは過去にいくつもプロジェクトをご一緒させていただいてたんですが、20年ドワーフスタジオを経営してきて、そろそろオリジナルのコマ撮り映画作品を作りたいと考え始めたんだそうです。そんな時、「コマ撮りだけをやっている人だと典型的なコマ撮り作品になりがち。川村さんであればそれを破壊する違うものが作れるのでは」という風に思ったらしく、僕に声をかけてくれたんです。なかなか勇気のある方ですよね(笑)

――:広告クリエイティブは受託仕事が多いですが、こういうゼロイチは以前もやられてきたんですか?

川村:映画は完全に始めてです!コマ撮りは、MVやショートフィルムくらいしかやったことなかったんです。それでいうと、キャラものも、その原作や脚本をつくるのも、実は初めてなんです。(川村氏がCo-founderである)Whateverはデザインとテクノロジーのはざまでいろいろと「なんでもつくる」ということをやってきた会社で、メインの仕事は広告的なものや、体験型コンテンツの企画・開発だったりが多いんです。NHKで「テクネ 映像の教室」を作ったり、ミスチルの音楽MVを作ったり、大阪万博でパビリオンの体験デザインを作ったり、といった幅広い仕事に携わらせていただいてきましたが、今回は本当に初めて尽くしの体験でした。世の中が「これからはIPだ!」と言ってるし、小さくても自分もIPものに挑戦してみたいなと思っていた矢先だったのでタイミング的にこれはチャレンジしなくては!と思って始めました。

――:まさかの初作品でCanne Animation選出はすごいですね。川村さんはプログラミングだったりデザインだったりをもともと得意とする人だったんですか?

川村:僕はもともとデザイン出身では全然なくて、専攻はコンピュータサイエンスだったんです。慶應SFCという大学時代に、佐藤雅彦先生(『ドンタコス』『バザールでござーる』のCM制作や『ピタゴラスイッチ』監修などに関わり、1999年より慶應環境情報学部教授)の研究室に入ることができて、そこで始めて「デザイン」とか「ものづくり」に出会ったんです。それで、こうやってモノづくりをしながら食べていくにはどうしたらいいかと悩んだ結果、クリエイティブの仕事をするなら広告代理店だろうと最初は博報堂に就職したんです。

――:川村さんご自身も2011年米Creativity誌によって「世界のクリエイター50人」、2012年米Fast Company誌の「100 Most Creative People in Business」に選出された実績もあります。

川村:僕は生まれは日本ですが、育ったのはアメリカで、海外経験が長かったんですよ。前職で立ち上げたPARTY(2011~18)というスタジオも今のWhatever(2019~)もニューヨークオフィスを立ち上げたりして、仕事の多くは今でも海外案件です。それもあって海外でそれなりに高く評価してもらえているのかなと思います。だから僕の中身は、実は7割くらいアメリカ人で、逆に日本文化への憧れをずっと抱えてきたんです。子どもの頃は、たまにしか見られない日本のアニメを見ては「なんてレベルが高いんだ!」と感動していました。日本では毎週のようにアップデートされる日本のアニメやマンガがライブで見られないという思いを悶々と抱えていて、そのときの思いが、HIDARIへのパッションになっているのかもしれません。

  

■哀愁のコマ撮り業界、良いものに全体重をかけて作ってしまう「守らないチーム」

――:松本さんはどうして川村さんに依頼しようと思ったんですか?

松本:ドワーフで約20年やってきて、そろそろなにか新しいオリジナルもつくりたいと思っていたんです。最初の仕事は川村さんがNY時代に声をかけてくださった、安野モヨコさんの「オチビサン」のショートフィルム。その後、NHKの朝ドラ「スカーレット」のオープニング映像(2019)、どーもくんの8K映像ではパズルのような複雑な企画を考えていただいたり、ちょこちょこいろいろな仕事でご一緒はしていたんですが、ふと、川村さんが長編の企画をしたらどんなことになるんだろう、とお声をかけて、いろいろなアイデアの中にこの「HIDARI」になる企画があって、「うわ、これだ!」と思ったんです。

――:アニメーションスタジオ・ドワーフも、私は長い事注目してきました。当時のTYO社長・吉田博昭氏が「TYOの三大天才」と呼んでいたのが、松本さんが一緒にドワーフを立ち上げた合田経郎さん、5pb./MAGESの志倉千代丸さん、ビルドアップ岡部淳也さんでした(『TYOの勢いはなぜとまらないのか』2006)

松本:私自身は2025年にドワーフの代表を退任して、プロジェクトベースのプロデューサーとして今はフリーでも仕事をしているんです。ドワーフは2003年設立で、そこから長いこと「クリエイター合田経郎、プロデューサー松本紀子」のツートップ体制でやってきて、そうしたなかでNHKどーもくん(1999〜)や「こまねこ」(2003〜)Netflixの「リラックマとカオルさん」(2019)、そしていろいろなショートフィルムや広告映像なんかを作ってきました。

――:よく考えると2015年日本進出のNetflixで2-3年かかる制作、というとリラックマ、よほど早い時期に提案にいっているんですね。

松本:そうですそうです、国内のパートナー候補に話をもっていっても「Netflixってなんですか??」っていわれるくらいの時代でした。San-xさんとご一緒して、デザイナーのコンドウアキさんにもご協力いただいて作った「リラックマ」シリーズは配信時代の新しいコマ撮り作品としてうまくデビューできたんです。だからその後もコマ撮りで色々やっていきましょう、と『ポケモンコンシェルジュ』(2023)ができたり、WIT Studioさんでは『My Melody & Kuromi』(2025)が作られたりしてきました。じゃあ次は何を、と考えたときに「そろそろ新しいオリジナル作品で勝負してもいいんじゃないか、と考えたんですよね。ドワーフとしては次の世代への継承も進んでいたし、むしろ私は新しい道を切り拓くことを考えてもいいんじゃないか、と。

――:川村真司監督×松本紀子プロデューサーの2人の野望が合致したプロジェクトなんですね。いつごろから構想はスタートしたんですか?

川村:企画を考え始めたのは2021年ごろで、最初は気軽に100本ノックのようにいろいろなアイデアを考えては松本さんにぶつけてました。そしてたくさんのアイデアの中から「左甚五郎を木彫りでやろう!」という方向が定まってからはじゃあこれをどうやったら映画にできるんだ?ということになるわけです。コマ撮りで長編映画90-120分作ろうと思うと最低でも数億円かかっちゃうんですよ。コマ撮りでその予算規模になると、日本国内だけじゃ難しくて、やはりグローバルのお金やチーム編成に頼ることが必要だよねと。

――:なぜこの5分フィルムを作ったのでしょうか?

川村:「パイロットフィルムを作りましょう」というのは松本さんからの提案でした。コンセプトをまとめた企画書や脚本だけだと、この映像の新さや面白さは全く理解してもらえない。中山さんもそうだったように、「木彫り人形でのアクション映像」なんて、一度観てもらわないことには誰も想像できないですよね。だからこそ自分たちで出し合えるお金でテスト映像を作って、そのインパクトある映像を持って世界の配給会社や制作会社にアプローチしていこう、という戦略を決めたんです。

松本:いや、そう決めたところで、もう大変ですよ。放っておくとみんな報酬に関係なく勝手に盛り上がって広げていっちゃいますし。このプロジェクトって「男たちの夢をのせて」みたいなところあるじゃないですか。あんな武器がいいとかこんなカラクリがいいとか、江戸城がトランスフォームするとか、「こんなのあったらイイよね!」「カッコいいよね!」って盛り上がりすぎちゃって、パイロットであっても、どんどんどんどん膨らむものを私たちが冷静にたたんでいく、というのも重要な仕事でしたよ(笑)。

――:それは思いました。あまりに精巧な「木彫り兵器」たちで、これ絶対「好きで創ってるよね??」という緻密さでした。

松本:ある意味プロデューサーとして依頼していることを「守らないチーム」。自分たちが良いと思ったものには全体重をかけてやってしまう。でもそれが最高峰にまでのぼりつめたから、めちゃくちゃ刺激的な大人が見ても十分に楽しめるアニメーションになったのでしょうね。

――:なるほど!!3年前、このパイロット版があまりにすごいインパクトで、それで僕も今回インタビューを申し込んでしまいました。ここまで作りこんだお金はどのくらいだったのでしょうか?

松本:ここまではドワーフとWhateverとTECARATの3社が持ち寄りしての自腹でつくってます。建前的には3000万円くらいですが、過剰なエネルギーを注いだみんなの力が結集されているので、実際に普通に計上すると倍じゃきかないほどかかってるってことかと。当然ながら今時点では回収できていません。アベレージ、1チームが丸々つかっての撮れ高が1日「2-3秒」なんですよ。しかも撮り直しはしたくないですから、事前の設計も大事。そして、設計通りじゃつまらないからどんどん工夫して、勢いのある切れ味のいいアクションを撮影していく。

――:制作費だけじゃないですよね。こうしてカンヌにきたり、営業活動にもお金がかかります。

松本:Motion GalleryとKickstarterでクラウドファンディングをしましたし(2022年、2023年)、Kickstarterでは200万円目標だったところに、1400人超から1500万円ものお金が集まっています。こうしたお金はその後の営業活動に使っています。

今は「文化芸術活動基盤強化基金 (クリエイター支援基金) 」の「 Film Frontier 長編アニメクリエイター 支援 」 に選出されて、海外展開活動のサポートをしていただいて、カンヌにも来ています。


▲多忙な映画祭の合間に食事しながらのインタビューとなった。左から川村真司監督、松本紀子プロデューサー

 

■一度は実現しかけた“巨大プロジェクト"、Questryという仲間と共に、カンヌ映画祭選出でリスタート

――:以前お聞きしたけど、2023年のパイロット版やその後の営業の成果もあって、実は2024~25年で一度座組は決まりそうだったんですよね?

松本:はい、実は大手グローバルメディア企業から全額を出すというオファーをもらい、10M超え(1000万ドル)の案件として成立しかけていました。

――:10Mドル超級!?それは驚きですね。日本で言うと『キングダム』を原作なしオリジナルで作るみたいな話ですよね。

松本:あはは、米国ハリウッドではこのくらいの予算はインディーズの範囲なんですよ。だから日本ではちょっとした金額でも、米国大手メディア会社からすると「インディーズで1本作ってみましょう」でしかない。日本映画の基準とは本当に桁が違いますよね。まあそうはいっても金額出すよ、となってからこそ契約の細かいところの調整まで含めるとグリーンライトまで1年じゃ済まないのが当たり前ですが。

――:松本さんはなぜそんな交渉ができたんですか?日本企業でグローバルメディア大手とそういう交渉ができるプロデューサーがいない、ということが今、国全体の課題にもなってます。

松本:「どーもくん」のテレビシリーズで海外の仕事はし始めていましたが、本格的な交渉の最初は『こまねこ』のシリーズ企画(2016)です。Amazon Primeのパイロットシーズン(リリースを前提としたパイロット版の制作)から、ガチの海外との交渉経験が始まりました。。米国との交渉って言いたいことは言うし、で、ときには結構なハイボールで要求を投げたりするじゃないですか?弁護士にも「この要求は強すぎるかもしれない。下手すると、ディールブレークしますよ」と忠告されたりもしたんですが、どうしても言わなきゃいけないときには、ええい言ってしまえ!と。それが意外に通ったりもする。そうやってグローバルな配信大手が相手のときにも制作費をきちんとしたものにあげていったり、「スタンダード」と言われる条件を変えていったり、ということやってきました。

権利を手放しちゃうと、新しいチャンスがあったときに「あ、これやりたい!」というのが制約されるのがしんどいんですよね。でもだからといって自分たちで「用意できる、集められるお金」で「できることだけやる」と、大きなチャレンジができない。

――:本当に「にわとり(金)が先か、卵(IP)が先か」みたいな矛盾した話ですよね。お金は出してもらいたいけど、全部IPもっていかれるとクリエイティブへの魂が失われる。

松本:永遠の命題ですね。真逆のものが併存しているので、そういうのに「折り合いをつける」必要がある。あくまで自分たちのIPでありながら、協力してもらって一緒に作っていく新しいスキームを考えようとしました。そこで大きかったのがQuestryの伊部さんたちの参画です。「強気でカウンター出しちゃっていい。その足りない金額は我々で調達するから」と言ってくれました。

――:まさにQuestryはみずほ証券ともコンテンツファンド立ち上げてますし、「Entertainment meets finance」という彼らが掲げるテーマはこのためにこそありますね。

松本:90分の長編アニメーションにするための脚本を書き上げ、いざ制作しよう、という段階に入ってました。契約も最終局面で、金額半分でいいから権利をシェアしようとカウンターで交渉していたところでした。そこまでやっていたところで、(大手メディアグループのM&A合戦があって)とん挫してしまうんです。交渉していた担当者たちがリストラなどで全員いなくなっちゃって。それでじゃあすべて仕切り直し、もう一度座組づくりのために、ピッチからはじめよう、となって最初のキックオフにもなったのが今回のカンヌ映画祭なんです。

――:まさに2023~25年のこういう活動を支えるために、IP360などがあるんだと思うんですよ。

川村:そうですね。当初はそうした政府の助成金などは一切使ってなかったんです。制度として応募できそうなものもあったんですが、書類提出作業もかなり大変なプロセスですし、そこに費やすだけの時間やマンパワーがなかった。

パイロットフィルムのためのクラファンで集まったお金はありましたが、その後の営業活動もボランティアに近い形でなるべくコストをかけないよう頑張ってきたんですが全部の活動費を計上していったら、ここに至るまでのかけたコストというのは数千万円じゃ足りないくらいなんじゃないかなと思います。この3年間は自分のもちうるエネルギーの大半はこのプロジェクトに賭けてますので、そういったすべてを数字で計上してしまうと…全然割にあってはいない(笑)でも楽しいし、本当に新しいチャレンジに携わっていると思えるから、苦ではないんですよね。

――:文化庁もやっていますが、そういった行政支援というのは監督やプロデューサーの海外への機会獲得の助力になっているものなのでしょうか?

川村:先ほども申し上げたように、僕たちは今、フィルム・フロンティアで支援していただいています。香港、カンヌ、アヌシーの映画祭などはこのプログラムを組み合わせながら海外展開もして実現してきた、みたいな状況です。

――:実際に「HIDARI」のPRのためにどのくらいの頻度でこういう大掛かりな、カンヌ映画祭などのイベントで出張・営業活動はされているのでしょうか?

松本:いままでは、特に違うプロジェクトなどくっつけて色々な理由をつけながら、ですけど、最低でも年3回くらいは海外出張していますね。一つは「作品そのもののプロモーションと新しい資金調達のメディア企業との接続」もありますが、もう一つには「とにかく人脈を広げるためのコネクションづくり」があります。ハリウッドに強いプロデューサーにもチームに入ってもらって、こういうロビー活動みたいなものにも時間とお金をケチっていたら、凄い事なんて待っていても起こらないんです。

――:逆に行政支援による制約はありますか?

川村:プロジェクトは「いきもの」なんですよね。良いものを作ろうとすると、進めながらゴールの位置や形がドンドン変わっていってしまう。そうした中で税金(助成金)を使うということは年度単位できっちり「何を作って、何を返すか」というのを約束させられている状態はあって、そのプロジェクトの進化やピボットに対して時には制約にすらなってしまうように感じています。特に日本の作家たちは真面目なので、制度が決めたルールを必要以上に意識して守っちゃうんです。それでもしかしたら萎縮してしまうこともなくはないのかなと想像してます。それは僕自身も気をつけないといけないことだなと思ってます。

――:そう考えると「支援頼り」は危険ですよね。あくまで自分たちのプロジェクトとして推進して、行政支援「も使う」くらいのレベルでないと。

松本:人に出してもらう前に、自分の作品にきちんとベット(掛けることが)できるかも大事ですね。川村さんがやりたいことやらせてます、というスタンスも無責任です。自分自身が人生をっていうと大袈裟ですが、時間やエネルギーをベットできるくらいのものであるべき、と思いますね。アニメは下手すれば3-4年かかります。

ところで、今回のIP360はある意味「勝ち馬」をより勝たせる形のものになっているように思うので、私たちはオリジナルだし、新進(笑)なので、これが叶うのかな、とは思います。ただ、アニメーションの場合は走り始めてから、自分で判断して、タイミングで部分を切り取って助成金を申請するしかない、という感じになります。あまり、制作と助成のタイムラインが合わない。資本という意味では今回、作品のことをとってもフェアに考えてくれるQuestryの伊部さんが入ったことが非常に大きかった。ぜひ中山さんにそちらの話も聞いてほしいですね。

 

■奇跡のドリームマッチング、なぜキアヌ・リーブスは「OK」したのか?

――:今回のカンヌでミラクルな発表がありました。HIDARIの左甚五郎の声優にキアヌ・リーブスをあてる、という。なぜキアヌ・リーブスだったんですか?

川村:パイロットフィルムができた直後、どういった制作スタッフや役者さんと仕事をしたいのか、という「ドリームリスト」というのを作ったんです。この人たちが参画してくれたら絶対成功するだろう、という。それで一番上に僕が書いたのが、キアヌ・リーブスだったんです。そもそも左甚五郎という主人公のキャラは、三船敏郎とキアヌ・リーブスを足して2で割ったようなキャラクターにしたい!とずっと勝手に言っていました。

――:でも実際、どうやってアクセスしたんでしょうか?

川村:プロデューサーも「どうせ当たるなら、リストのいちばん上から、当たりましょう」とキアヌを知っている人、知っていそうな人を手繰りに手繰って、たまたま彼がバンド活動のために日本に来るときに、資料一式を手渡しできる「かも」しれない人に託すことができたんです。

そうしたら数日後になんとキアヌから連絡がきたんです。冗談かと思ったんですが、本人が「一度話そう」といってくれて、言われたzoomにアクセスしたらライブハウスの楽屋みたいな場所に髭も髪もボーボーな男が一人で座っていたんです。「うお!本物のキアヌ・リーブスだ!」と。そしてすぐさま、「HIDARIは最高だ!僕も参加したい!」と言ってくれたんです。本当に夢のような瞬間でした。

――:でも問題はそこからじゃないですか。普通にキアヌをアサインしちゃうと「原価」が莫大になっちゃいますよね?

松本:キアヌのキャラクターですよね。彼は自分自身で決めて自分から好きな作品に参加している。川村監督とのシナリオの打ち合わせでも、2時間以上ぶっつづけでビデオ会議して、いろんなアイデアもどんどん自分から出してくれるそうです。もちろんちゃんと今はエージェントとも話していますが、最初は「俺の名前使っていいからどんどん進めようよ」とか、クリエイター同士のつながりですごく協力的にやってくれてます。プロデューサーとしては、全然正攻法じゃないし、再現のしようもないですが。我々の戦い方は全部インディーズらしいゲリラ戦です。

 

■コマ撮り業界を再興できるのか

――:そもそも私は詳しくないのですが「コマ撮り」という業界は

松本:コマ撮り業界の代表作は例えば「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」(1993)とか「Fantastic Mr. Fox」(2009)「コララインとボタン魔女」(2010)もありますが、このあと大ヒット作は生まれていないんです。でもこの「ナイトメア」って毎年クリスマスの頃に見られるんですよ。コマ撮りは古くならない、配信時代になってもCGと違って技術革新があるわけじゃないからずっと見られ続けるんです。しかもHIDARIはなにがいいかというとですね…これだけ激しいアクションで身体も真っ二つになったり血(木くず)も噴き出すんですけど、映倫審査はPG13じゃなくてG(全年齢視聴可能)なんですよね。全部木彫の世界なので。笑

――:手作りであること、耐久性なども考えると、確かにAI時代だからこそこの「HIDARI」のようなコマ撮りはより強いメッセージ性をもつのかもしれません。逆にこうした作品で業界の嫉妬とか横やりとかはないのですか?

松本P:コマ撮り業界は世界中で仲が良いんですよ。どこかで「CG業界に駆逐されるかも」というプレッシャーを感じてやってきているから、みんな新しい作品がでてくることを応援してくれる。それぞれが競合視している場合じゃないんですよ。むしろ業界のスターを生まないと生存できないという危機感がある。ドワーフで海外を攻め始めた時代にも海外のコマ撮り業界の友人が「ノリコ、時代は変わってきてる。アメリカでは俺らはまず配信会社にピッチしてるんだ。これからは配信だよ!」といってくれて色々な配信プラットフォーマーを紹介してくれました。

業界自体が歩調をあわせないと自滅します。ドワーフとしていくらくらい、とバジェットを設定しても「うちだったらもっと安くできますよ」と競合がでてきて単価を下げてしまうと、それがパートナーとの交渉テーブルになって、どんどん予算がキツくなっていく。「タダでもやります!」とパッションをもって入ってきてくれる人もそれはそれでありがたいんですけど、それを続けていると業界自体が持たなくなる。

――:共同開発でやる、といったことも可能なのでしょうか?

松本:ヨーロッパは「作ることそのものへの助成」がそれなりの額になるんですよね。そうして、オリジナル作品を豊富な助成金でつくれちゃうんですよ。でも、だからよいかというと、ヨーロッパの親しいプロデューサーが言うのですが、「商業・市場を意識しないで済んでしまう」という課題もあるんですよね。だから欧州のプロデューサーとしてはあえて、日米パートナーをいれて商業を意識した作品を作らねば、という別の危機感もあったりします。

――:なるほど、助成だけで成立してしまうのも考えモノですね・・・

松本:逆にアメリカにはストップモーションを得意とするLaikaという会社があります。NIKE創業者のフィル・ナイトの息子がオーナーで、そのバックアップがあるからか高バジェットの凄いものを創っている。ただそれですら、いや、だからこそ、商業的に成功している、とはいえない。そもそも「コマ撮りは打席が少ない」ので、。失敗してリクープできない、という実績をつくっちゃうとと未来のコマ撮り業界のために、よくない。ひとつひとつをビジネス的にも丁寧に考えねばならない。今回の「HIDARI」はコマ撮り業界全体の期待をも背負ったプロジェクトでもあるんです。

――:『HIDARI』は今後2026年にどんな動きを構想されていますか?

松本:やること全部やるつもりで動いています。幸先よく、カンヌアニメーションのショウケースに選んでいただけたので、「カンヌ」「アヌシー」のロゴを映像につけられるようになりました。それだけで今後の営業の武器になります。これをもって、新たな座組づくりのために動きます

――:そうした中で「カンヌ映画祭」というPR機会はどのくらいの重要度なのでしょうか。賞自体はほかにもとられてきたわけですよね?

松本:まず「カンヌに選ばれた」と言う話題性はありがたいです。そして、ヨーロッパを中心とした映画関係者にまとめて会えるのが素晴らしい。米国の映像市場がいまあまり景気がよくない。なので、今回カンヌを起点にヨーロッパ市場を実感を持って触って、そこからアメリカ攻略はすこし時期をおいてから入れていってもよいかもしれない。闇雲に制作費を集めるだけではなく、ひとまずここから完成まで3年間一緒に走ってくれる仲間探しという感じです。

――:お二人のグローバル経験の集大成で、かなり戦略的にこのカンヌ映画祭までの道のりを敷いてきた、というようにも受け取れました。

川村:ありがとうございます。戦略ももちろんありましたが、多分もっと大事だったのが、僕らがある意味「アホ」だったからなんだと思います。アホだから、木彫りでコマ撮りしよう!みたいなことを決めて動き出しちゃうし、無邪気にキアヌにコンタクトとってみたりしちゃう。でもそこに経験とパッションがあるから、動くことで道ができてなんとかここまでやってこれたのかなと思っています。

今回のカンヌだってラッキーが重なった結果ですから。とにかく最初に「見たことのないものを作ろう!」という衝動のようなものがあり、そこに燃料をくべ続ける必要がある。信じられるコアメンバーとなんとかその火を絶やさないようにやっていって、でもそれも「誰かが見つけてくれる」なんて待ちスタンスじゃダメなんです。どんどん外に出ていかないと。そして、二匹目のどじょうが一匹目よりも大きくなることはないです。とにかくオリジナルなものをつくらないと、その一匹目で、ちゃんと大きなものは作れない。

――:今回の勝因はなんだったのでしょうか?

松本:正しいものが正しいタイミングで動くことでチャンスを掴もうとできるんだ、と思っています。川村さんがこの企画を見せてくれたとき、あ、今ならこの企画できる。こういうの得意なスタッフを知っている。必要なパーツ、全部集めらえる。「惑星直列だ!!」と思えた瞬間がありました。まず大事なのは目利きの勘。そのあとはフットワークと胆力、そのうえではじめて掴んだ運、ですかね。でもまだ勝負は途中です。ぜんぜん「勝った」とは思っていないので、戦い続けねば、と思っています。


▲チームHIDARI。左から伊部智信氏、大内まさみ氏、富永勇亮氏、川村真司氏、松本紀子氏、大西美枝氏

会社情報

会社名
Re entertainment
設立
2021年7月
代表者
中山淳雄
直近業績
エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
上場区分
未上場
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