マンガのコンテンツスタジオとして、縦読みマンガと横読みマンガの双方を手がけるSTUDIO ZOON。立ち上げから間もない組織でありながら、作家の個性に合わせて縦読み・横読み、読者層、配信先まで柔軟に設計する体制を築き、変化の激しいマンガ市場に向き合っている。
そんなSTUDIO ZOONがどんな制作体制を取っているのか、前後編にわたるインタビューで迫る。前編では、スタジオで編集統括として活躍する村松充裕氏にインタビューを実施。『身分差に終わった恋を、今さらですが。』の立ち上げをはじめ、STUDIO ZOON編集部の特徴、そして同社で活躍する編集者像について聞いた。
目次
ジャンルも縦横も絞らない。作家の個性から考えるSTUDIO ZOONの作品づくり
――まずは、村松さんのご経歴について教えてください。
村松氏:
2002年に講談社へ入社し、少年マンガ・青年マンガの編集を担当してきました。そのほか、マンガアプリの立ち上げなどにも携わっています。講談社には約21年在籍し、その後、2023年からSTUDIO ZOONに入社しました。現在も編集者として作品づくりに関わっています。
――代表作のひとつとして『身分差に終わった恋を、今さらですが。』がありますが、村松さんは本作にどのような立場で関わっているのでしょうか。
村松氏:
担当編集者として、作家さんと一緒に企画を作り、打ち合わせを重ねてリリースまで進めました。立ち位置としては、一般的な担当編集者です。
――本作は、どのような経緯で立ち上がった作品なのでしょうか。
村松氏:
STUDIO ZOONはもともと縦読みマンガスタジオとして立ち上がったのですが、横読みマンガにも取り組もうというタイミングで、作家の渡鍋ぽんずさんと知り合いました。
当初、ぽんずさんは縦読みマンガを志望されていたのですが、作家性を見ていくなかで「横読みマンガのほうが向いているのではないか」と感じたんです。そこで、「横読みマンガに挑戦してみませんか」とお話ししました。
――縦読み向けの作家と横読み向けの作家では、どのような違いがあるのでしょうか。
村松氏:
縦読みマンガの場合、ユーザーはかなり気軽に作品を開いて、気軽に読み始める傾向があります。そのぶん、「自分たちが見慣れているもの」「今読みたいもの」が分かりやすく提示されていることを期待する部分があるんです。
たとえば、作品を開いた瞬間に「なんか違うな」と思われると、深く考えずに読むのをやめてしまう。そういう移り気なユーザー像を前提に作る必要があります。
そのため、「これはあなたが求めている作品ですよ」と分かりやすく示しながら、そのうえで「でも、こういう新しさがあって面白いでしょう」と設計していく力が求められます。ある種、設計者のような視点が必要になるんです。
――作品の魅力だけでなく、読者にどう届くかまで設計する必要があるんですね。
村松氏:
そうですね。一方で、横読みマンガを読むユーザーは、もう少し「何か面白いものはないかな」という感覚が強いように思います。縦読みマンガと比べると、作品に対して少し前傾姿勢で向き合ってくれるというか、「ちょっと惹かれたから読んでみよう」という入り方をしてくれる。
そのため、縦読みマンガほど強い設計力が求められるというよりは、数ある作品の中で「これは何か違う」「キャラクターが個性的で面白い」と感じてもらえることが大切になります。個性が勝負の中心になってくるんです。
縦読みマンガは「あなたが今求めているものですよ。ただ、少し新しいでしょう」と提示する感覚に近い。一方、横読みマンガは「どうですか、これ面白くないですか」と作品の個性で勝負していく感覚があります。
渡鍋ぽんずさんは、個性的なキャラクターが次々と湧いてくるタイプの作家さんで、「縦読みマンガの読者が喜ぶのはこういう形だ」と計算ずくで描く設計者タイプではない。そうした作家性を縦読みマンガに落とし込もうとすると、かなり強く型にはめる必要が出てくると感じました。
それよりも、横読みマンガのほうが、ぽんずさんの持っている面白さや個性をより自由に発揮できるのではないかと考えました。
――同じ編集者が「この作家さんは縦読み向き、この作家さんは横読み向き」と判断し、それぞれ企画の方向性を分けていく。こうした作り方は、ほかの会社でも行われているのでしょうか。
村松氏:
いや、そこは珍しいのではないかと思います。多くの場合、縦読みなら縦読み、横読みなら横読みと、編集部単位で見るとどちらかしかやっていないのではないでしょうか。
僕らの場合は、作家さんに合わせた企画を考えるというか、作家さん自身の個性に合わせて、もっとも合った形で作品を出していくことを考えています。まず、ジャンルを絞っていないんです。さらに、縦読みか横読みかも絞っていない。そこは、かなり特殊だと思っています。
たとえば、雑誌であれば「ジャンプのマンガを読みに来た人」「マガジンのマンガを読みに来た人」に向けて作品を作るわけですよね。女性向けマンガであれば、女性向けマンガを読む人に向けて作る。普通は編集部の中で「この読者に向けて作る」という前提が握れている状態なんです。縦読みか横読みかを選ぶ以前に、そもそもの読者像や媒体の方向性がある程度決まっている。
――媒体や読者像が先にあり、そこに合わせて作品を作っていくケースが多いわけですね。
村松氏:
そうですね。そこに対して僕らは、今は結果的にそうなった部分もありますが、企画に合わせて「どの形で出すのが一番いいか」をかなり柔軟に考えています。
縦読みで作る制作体制もありますし、横読みマンガとして出すこともできる。女性向け、男性向け、コミックシーモア向け、めちゃコミック向けといったように、作品ごとにかなりオーダーメイドで考えていくところがあります。これは、すごく特殊な点だと思います。
グループの力に安易に頼らない。まずはSTUDIO ZOON自身がヒット作を生み出す
――STUDIO ZOONについても伺わせてください。まず、STUDIO ZOONの編集部では、主にどのような仕事をされているのでしょうか。
村松氏:
基本的には、いわゆる一般的なマンガ編集部と大きくは変わりません。マンガの編集作業を行いながら、縦読みマンガの制作・編集作業も行っているという形です。
横読みマンガであれば、作家さんと企画を作り、ネームや原稿について打ち合わせをしながら作品を形にしていく。縦読みマンガであれば、制作体制や分業の仕方も含めて、作品づくりに関わっていく。そこを両方やっている編集部だと考えていただければと思います。
――STUDIO ZOONの特色として、サイバーエージェントグループであることも大きいと思います。実際にグループ内で働いていて、強みを感じる部分はありますか。
村松氏:
いろいろありますが、まず会社として非常に柔軟性が高いところは大きいです。僕らは今、事業の形をかなり自由にデザインしているというか、状況に合わせて変えていける環境にあります。
出版社の場合、昔から決まっている形があり、それに合わせてシステムなども最適化されている部分があります。もちろんそれは強みでもあるのですが、そこから違うことをやろうとすると、どうしても調整が複雑になりやすい。
一方で、STUDIO ZOONでは「こちらの方がいい」となれば、柔軟に形を変えていくことができます。この2~3年の間でも、年度ごとに事業の形を変えてきました。そうした柔軟さは、まず大きな強みだと思います。
――新しいスタジオだからこそ、事業の形そのものを変えながら進められるわけですね。
村松氏:
そうですね。あとは、いわゆるシナジーという意味では、グループ内にはアニメ事業などもありますが、現時点ではそこに安易に頼ろうとはしていません。
たとえば、まだ作品が小さい段階で「アニメ化できませんか」とお願いしても、それはあまり良い形ではないと思うんです。まずは、中にいる人たちが自然に「これをやりたい」と思えるような作品を作ることが大事だと考えています。
グループ内に素晴らしいアニメ事業やメディアがあるからこそ、私たちはその強力なアセットに甘えるのではなく、まずは自分たちの足元で確固たるヒット作を生み出す責任があると考えています。双方が100%の力を発揮できる状態で掛け合わされて初めて、本当の意味での大きなシナジーが生まれるはずです。だからこそ、まずはSTUDIO ZOONとして打席に立ち、結果を出すことに集中しています。そのうえで初めて、グループ内のシナジーが本当の意味で生まれてくる。今は、少しずつそうした芽が出始めている段階なので、ここからだと感じています。
――考えようによっては、「グループ内にアニメ事業があるからアニメ化しなければいけない」といったプレッシャーもありそうですが、そこに引っ張られすぎないのは良いところかもしれませんね。
村松氏:
そうですね。僕らなりの歩み方として、「こういう形で達成していきます」ということを、上から下まできちんと共有できています。
「そういうペースで、これくらいの時間をかけてやっていくんだね」と理解してもらえているので、無理に別の方向へ引っ張られて困るということはありません。
STUDIO ZOONが実現する「作る」と「売る」の近さ

――STUDIO ZOONならではの働きやすさや、チャレンジのしやすさについては、どのように感じていますか。
村松氏:
先ほどお話ししたように、「こうしなければならない」という決まりがあまりないところは大きいです。加えて、サイバーエージェントグループ全体が非常に協力的だと感じています。
分からないことがあれば、グループ内で聞くことができるんです。しかも、聞いたことに対して、本当に参考になる話を返してもらえることも多い。横の情報交換がとてもスムーズにできる環境だと思います。
そうした意味では、チャレンジしやすいですし、新しいことに取り組むうえで相談しやすい会社だと感じています。
――具体的に、お話しいただける範囲で「こういった事例がある」といったものはありますか。
村松氏:
サイバーエージェントグループは、もともとゲーム、広告、メディアなど、さまざまな領域で事業を展開しています。直近では、実写や2.5次元に関わる会社もグループ内に多くあります。
そうした環境なので、事業的な情報交換というより、普段から普通に話す機会がかなり多いんです。ゲームの事業部の方、広告の営業の方、グループ会社の方など、いろいろな人と接点があります。
そこで得られる情報の幅広さは大きいですね。たとえば、僕らが独立した出版社だった場合、2.5次元の領域で今何が流行っているのかは、自分が好きで追っていない限り、なかなか分からないと思うんです。
でも、今の環境ではそうした情報が自然に入ってくる。ドラマの話もそうですし、ABEMAで恋愛リアリティ番組が盛り上がっているといった話も入ってくる。いろいろな領域に目を配れる環境があるのは、強みだと思います。
――マンガだけでなく、周辺領域の動きも自然に入ってくるわけですね。
村松氏:
そうですね。あと、これは事業部内の話になりますが、かなり強いと感じているのが、ビジネスプロデューサーと、編集者が向かい合って座って、一体となって動いていることです。
一般的な出版社だと、編集部と営業部が分かれていて、場合によっては建物も違うことがあります。そうすると、「編集部は作る」「販売部は売る」という形で、どうしても縦割りになりやすい。
でも、STUDIO ZOONでは「作る」と「売る」がかなり近い距離で合致しています。作品を作る段階から、売る側のプロが売る目線で入ってくる。一方で、売る段階では作る側のプロが作品の魅力を理解したうえで一緒に動く。そういう体制になっています。
――作る段階から、届け方まで含めて一緒に考えられる体制なんですね。
村松氏:
そうです。それも、すごく良い形にデザインできたところだと思っています。
僕自身、普通のマンガ編集者として考えると、30代がひとつのピークで、40代以降は難しさも出てくると感じていた部分がありました。でも今は、自分の中で「第2次黄金期が来たぞ」という感覚があるくらい、ありがたいことに、ヒットにも恵まれています。
ただ、これらのヒットは今の体制じゃなければ出せなかったな、という感覚があります。もう一度、編集者として再生させてもらったような感覚があるんです。そこは、STUDIO ZOONにいるからこそできたことだと思っています。
変化し続けるSTUDIO ZOONで働く面白さ
――STUDIO ZOONだからこそ、作品を作る体制や環境が整っているということですね。では、STUDIO ZOONで働くうえでの面白さや、やりがいについては、どのように感じていますか。
村松氏:
本当に柔軟で、なおかつ変化に敏感なところですね。それは僕らの事業部単位でもそうですし、横にあるほかの事業部もそうです。さらに、上の経営層も含めて、とにかく変化が激しいんです。
僕ら自身も、「こういう動きがあるらしいぞ」「だったら、こうしないといけないね」「どうする?」「じゃあ、こうしよう」といったやり取りを常にしています。事業部の中でもそうですし、経営側がまた別の動きをキャッチして「こういうふうにやったほうがいいかもしれない」となることもある。
横の事業部が動いているのを見て、「そうか、じゃあ自分たちもこう変えよう」と考えることもあります。
だから、常に事業の形を変え続けている感覚があります。大変な部分もありますが、それが面白さでもあります。退屈しない環境ですね。
――STUDIO ZOONにおける分業体制についても伺いたいです。編集者の方が、どれだけ作品づくりに集中できる環境なのかという点はいかがでしょうか。
村松氏:
事務作業のようなものは、なるべく編集者自身の手から少しずつ離していく体制にはなっています。1つの作品を進めるうえで発生する事務的な業務については、ある程度切り離せている部分もあります。
ただ、「なぜ今、自分がヒット作を出せる感覚を持てているのか」と考えると、それは単純に“作品づくりだけに集中できているから”ではないんです。
むしろ出版社の場合、特に総合出版社のようなところほど、長い時間をかけて分業の最適化が進んでいます。編集者は本当に「マンガの打ち合わせ」以外はあまりしない、というくらい純度が高くなっている。作ることに関しては、非常に専門化されているわけです。
――一般的な意味での「分業」は、出版社の方がかなり進んでいる部分もあるわけですね。
村松氏:
そうですね。それはそれで、非常に効率的だと思います。ただ、その一方で「作ったあとは売ってください」というように、作る側と売る側が分かれてしまうところもあります。
僕らの場合は、逆にそこがくっついているんです。そうすると、世の中の動きや空気感を感じられるというか、「今はこういうふうに動いているんだ」「こういう理屈で作品が届いているんだ」といったことが見えてくる。そこに閉塞感が生まれにくいんです。
分業が進みすぎて専門化していくと、自分が大きな仕組みの中の一部品になってしまう感覚もあると思います。たとえば自動車工場で、ひたすらタイヤをはめる係のようなイメージです。タイヤをはめる技術はものすごく高いけれど、「これは何の車のためのタイヤなのか」「今このタイヤでいいのか」までは見えづらくなる。
マンガ編集でも同じように、担当している部分の技術は高まっていく一方で、作品がどう届いているのか、世の中とどうつながっているのかが見えにくくなることがあると思うんです。
STUDIO ZOONでは、編集者が作る部分だけでなく、届け方や事業の動きまで含めて見ることができる。いわゆる分業化とはまったく逆の方向で、作品全体を見られる環境になっています。
だからこそ、僕自身がもう一度、ヒット作を出せる感覚を持てるようになったのだと思います。
変化を楽しみ、ヒットを出し続ける。STUDIO ZOONが求める編集者像

――ここからは、STUDIO ZOONが求める人材についても伺っていきたいと思います。その前提として、まず現在のマンガ市場をどのように捉えているのか、そしてその中でSTUDIO ZOONがどのようなポジションを目指しているのかについて教えてください。
村松氏:
ここ2年ほどで、マンガ市場は非常に大きく変化していると感じています。
もちろん要因はいろいろありますし、細かく話し始めると長くなってしまうのですが、大きく言うと、電子書籍を中心とした市場になっていく中で、読者の軸が少し変わってきているように思います。
マンガという市場は従来、作品やキャラクターへの「愛着」の軸と、息抜きに読んでスカッとする「消費」の軸との2軸で支えられてきましたが、近年はどんどん「消費」の側に比重が寄って来ています。
――作品との向き合い方そのものが変わってきている、ということでしょうか。
村松氏:
そうですね。その変化自体は、10年くらいの単位で少しずつ進んでいたものだと思います。ただ、この2年ほどで一気に加速した感覚があります。
そうした変化に組織としてどう対応できるかが、編集部の力を大きく左右すると思うんです。
その点、僕らは組織の形を粘土のようにこねながら、変化に対応できる状態を作り続けています。市場の動きに合わせて、自分たちの形も変えていく。その柔軟さは大事にしています。
――変化に合わせて組織の形を変え続けることが、ヒットを生み出す土台にもなっているわけですね。
村松氏:
編集者や編集部にとって、何が一番必要なのか。直球で言えば、やはりヒットを出すことだと思います。そこに尽きるのではないでしょうか。
だからこそ、ヒットを出せる組織であり続けること。そして、変化の激しい市場の状態をキャッチアップしながら、ヒットを出し続けることが非常に重要だと考えています。
STUDIO ZOONとしては、まずそのポジションを取り続けたい。市場が大きく変わる中でも、組織を柔軟に変化させながら、きちんとヒットを出せる状態を維持する。それが今の一番大きな命題です。
おそらく、それをしっかりできるようになった先に、次の2〜3年でまた新しいステップが見えてくると思います。ただ、今はまず、変化に対応しながらヒットを出せる組織であることを最優先にしています。
――STUDIO ZOONで活躍されている編集者には、どのような特徴がありますか。
村松氏:
まずは、「変化を楽しめる」ことだと思います。
編集者は、少し職人的な側面もある仕事です。そのため、「昔からこうやってきたから」という考え方になりやすい部分もあります。一方で、今のマンガ市場は非常に変化が激しい。変化したいのに環境的にできなかったり、そもそも変化の方向性をキャッチアップできていなかったりすると、編集者や編集部には閉塞感が生まれてしまうと思うんです。
だからこそ、変化することを強く望んでいて、それを楽しめるタイプの人は、今の編集部において活躍しやすいのではないでしょうか。
――活躍されている編集者の経歴としては、前職でも編集職を経験されていた方が多いのでしょうか。
村松氏:
現状は、ほぼ全員が編集経験者です。それぞれ理由はありますが、私たちがよく言うのは「より強くなるために、あえて重力10倍の場所に来た人たち」ですね。より熱量の高い環境に自ら身を置いて、自分を鍛えたいという感覚です。もちろん、未経験者や経験の浅い方を採用していく動きも、すでに始まっています。
――10倍の重力の中で鍛えられるような、チャレンジングな環境でも楽しめる人が活躍できるということですね。
村松氏:
そうですね。それを楽しめる方が向いていると思います。
――未経験者を採用する場合、求められるスキルやマインドはどのようなものでしょうか。
村松氏:
未経験者の場合は、「絶対に一人前の編集者になる。そのためなら石にでもかじりつく」というくらいの執着がある人だと思います。
すでに他社で編集経験を積んだうえで、重力10倍の環境を求めて入ってくる人たちが多いので、未経験で入るのであれば、相当強いマインドが必要になると思います。
ただ、経験が浅い人が不利だとは思っていません。経験が浅い人には、浅いなりの成長の仕方や成果の出し方がありますし、経験豊富な人より大きなポテンシャルを持っている場合もあります。
一方で、今の若い方と話していると、自分のキャリア形成にとても敏感だと感じます。「これをやっていて大丈夫なのか」「別のことをやった方がいいのではないか」と、不安になる気持ちも分かります。変化が激しい時代だからこそ、自分が有用な人材であり続けるために、いろいろなところへ保険をかけたくなるのだと思います。
ただ、編集という仕事には未来がありますし、専門性を獲得するのが簡単ではない分野でもあります。だからこそ、一度、本気でやってみてほしいんです。他のことは一旦忘れて、全力で編集に向き合ってみる。その覚悟を自然に持てる人であれば、STUDIO ZOONの環境は合っていると思います。
今は情報も入ってきますし、社内でも議論や勉強、実践をたくさん重ねています。そうした環境の中で、「ここなら一人前の編集者になれる」と思える人であれば、成長できるはずです。逆に、気持ちが移りやすい状態だと、なかなか大変かもしれません。
だからこそ、編集者になることに強くすがりつける人。そこに本気で執着できる人が、未経験者には特に求められると思います。
自分の担当作だけではなく、事業全体の成功を喜べる組織に
――社内カルチャーや働く環境面で、STUDIO ZOONならではの特徴はありますか。
村松氏:
これはサイバーエージェントのカルチャーでもあると思いますが、「お祝い事が多い」ことですね(笑)。
一般的にマンガ編集部は、比較的職人肌の人が多く、照れ屋な人も多いんです。たとえば100万部売れても、みんな「シーン…」としていて、かなりお酒を飲んだ後に「あ、おめでとう」みたいなことを言う。そういう照れ屋な人たちの集団という雰囲気があると思います。
一方で、STUDIO ZOONでは「この作品が見事リクープしました、おめでとう!」と、みんなでしっかり祝う文化があります。
――確かに、従来のマンガ編集部だと、黙々と作業している職人集団というイメージがあります。
村松氏:
例えばアニメの場合だと、1つのプロジェクトに何十人もの人が関わって進んでいくので、プロジェクト全体の成果をみんなで喜びやすいと思うんです。
一方で、マンガ編集部の場合、たとえば編集者が30人いたら、それぞれが5本ずつプロジェクトを走らせているような状態です。その中で、Aさんの担当作品がヒットしたとして、まったく別のプロジェクトを担当しているBさんが手放しで喜べるかというと、なかなか難しいところもあります。
――その中で、きちんと祝える雰囲気があるのは良いですね。
村松氏:
そうですね。なぜBさんが素直に祝いづらいのかというと、「事業」にピントが合っていないからだと思います。
事業全体として、「AさんもBさんも、この編集部という事業の構成員である」というところにピントが合っていれば、Aさんのヒットも「同じ日本代表のメンバーがホームラン打った!」という感覚で喜べると思うんです。
でも、自分自身の担当プロジェクトにしかピントが合っていないと、他の人のヒットに対しても「へえ」で終わってしまう。
STUDIO ZOONという家の中で、僕らは一人前になりに来ていると思っています。その家を守りたいし、もっと大きく、強くしていきたい。だからこそ、それに資することがあれば、自然に嬉しいと思える感覚があるのだと思います。
――事業全体に意識が向いているからこそ、他の人の成果も自然に喜べるわけですね。大きな出版社だと、なかなか事業そのものにピントを合わせるのは難しい面もありそうです。
村松氏:
出版社にいた感覚からすると、事業にピントを合わせるのはやはり難しい部分もあると思います。規模が大きすぎるということもありますし、どうしても自分の担当作品や担当領域にだけ意識が向きやすいところはあると思います。
――では最後に、現在編集部ではどのような人材を求めているのか、人物像について教えてください。
村松氏:
経験者であれば、現状に不安や不満、モヤモヤ、焦りを感じている人ですね。今の市場の状況をきちんと見ている人であれば、そうした感覚を持つのは自然なことだと思います。「何かにかまけていて、自分がキャッチアップできていないのではないか」「このままだと一人前ではなくなってしまうのではないか」という危機感がある人です。
経験が浅い人の場合は、「絶対に一人前になる」という強い執着を持っている人です。経験者が不安や焦りを感じる理由も、根本には「一人前であり続けたい」という思いがあるはずなので、そこは共通していると思います。
――ありがとうございました。
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会社情報
- 会社名
- 株式会社サイバーエージェント
- 設立
- 1998年3月
- 代表者
- 代表取締役会長 藤田 晋/代表取締役社長 山内 隆裕
- 決算期
- 9月
- 直近業績
- 売上高8740億3000万円、営業利益717億0200万円、経常利益717億4300万円、最終利益316億6700万円(2025年9月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 4751
