【インタビュー】大規模化するゲームアプリ運用で施策の精度をいかに上げるか…大型プロジェクトにおけるデータ分析の導入事例(提供:リーン・ニシカタ)

木村英彦 編集長
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モバイルゲーム業界では、昨今、ゲームアプリがリッチ化し、運営チームの規模が100人を超えるタイトルも珍しくなくなった。競争の激化と開発・運用コストの上昇を背景として、ゲーム運用ではイベントやアップデートなどより精度の高い施策が求められるようになっている。

人気タイトルを多数運営するアカツキ<3932>では、現場で実際に業務に従事し、意思決定を行っている企画担当者のデータ分析スキルを底上げすることで、こうした課題に対応し、これまで多くの成果を残している。

今回は、アカツキのモバイルゲーム事業部プロジェクトマネージャーの磯原浩二氏(写真左)とリーン・ニシカタのマネージャー栗田雅史氏(写真右)にインタビューを行い、大型プロジェクトにおけるデータ分析の導入プロセスについて話を聞いた。
 
 
 
――:まず、自己紹介をお願いいたします。
 
磯原:アカツキには2019年に入社しまして、現在はあるゲームタイトルのプロジェクトマネジメントを担当しています。これまでソーシャルゲームの黎明期からソーシャルゲームの開発・運営に携わってきました。現在アカツキでは、若手の人材育成支援や採用業務をメインに行ないつつ、プロジェクト内では様々な問題や課題に取り組んでいます。
 
栗田:リーン・ニシカタに昨年夏にデータアナリストとして入社して以来、磯原さんが担当しているタイトルの分析支援を行っています。当社にはソーシャルゲーム黎明期から分析に携わっていた人間が集まっており、現在、様々なゲーム会社様のデータ分析を支援しています。
 

 
――:ありがとうございます。本題に入りますと、まずリーン・ニシカタさんではどういったサービスを提供されていますか。
 
栗田:リーン・ニシカタでは、お客様のスマホアプリやWebサイトのデータ分析環境構築や分析業務を支援しています。本プロジェクトでは分析業務を請け負っており、お客様がサービスを運営する上で生じた課題に対し、我々の方でデータを分析し、インサイトを提供することで、お客様の意思決定を支援しています。売上やアクティブユーザー数などの基本的なKPIやコンテンツ別プレイ状況やクリア率などを集計し、可視化するのはもちろんですが、施策が成功もしくは失敗した場合の要因分析にも踏み込んで着手しています。結果は主に企画職の方にお伝えして、数字の解釈や次にとるべきアクションなどの意思決定をお手伝いしています。
 
 
――:データを集めるところから支援されているのですか。
 
栗田:プロジェクトによってはデータ基盤構築・データ収集から始めますが、今回は運用中のプロダクトということもあり、データが一定収集できている状態からのスタートでした。

 
――:磯原さんとしては、リーンさんとどういう経緯で組まれたのでしょうか。
 
磯原:もともとプロジェクト内でデータ分析を強化する課題がありました。その体制構築を行う際に、分析が出来る人材を探すところからスタートしました。社内の他のプロジェクトでリーンさんに入っていただいていることを聞いておりましたので、私のプロジェクトでもお願いすることになりました。そこでプロジェクトに参加していただいたのが栗田さんです。

栗田さんにプロジェクトの現状と課題をお話したところ、すぐに理解していただき、問題の解決策までご提案いただきました。事前に自分の抱いていたアウトプットのイメージとすぐにつながりましたので、正式にお願いすることにしました。ご紹介していただいてから、フルリモートで1カ月もたたないうちに取り組みをはじめました。
 

 
――:随分早いですね。データ分析の課題とはどういったことだったのでしょうか。
 
磯原:プロジェクトの運営年数が経過し、事業フェーズが変わっていくなか、2年後、3年後のイメージをつくって足元の運営を行っていく必要が出てきました。その為データ分析に基づいた定量的なイメージも構築する必要がありました。

それ以前にもデータ分析に関する課題についてチーム内でも議論になることが何度かあり、潜在的な課題であると認識していました。
 


――:そういった経緯があったのですか。具体的にはどういったことから始めたのでしょうか。
 
栗田:短期的な課題と中長期的な課題に切り分けて取り組みました。まず短期的な課題については、日々の売り上げやDAU(日次アクティブユーザー数)などの基本的なKPIのほか、コンテンツ別のプレイ状況などのデータを可視化し、どういったコンテンツがよく利用されているのか、利用されていないコンテンツをどういう方向に変えていくべきかといった分析をしながら施策の方向性まで提案することにしました。

中長期的な課題としては、新規ユーザーの定着率や復帰ユーザーはどこからアクセスしてどんなコンテンツで遊ぶのかといったところを分析しながら、アプリ全体の改善に資するような取り組みを行ってきました。
 
磯原:少し補足させていただきますと、冒頭でもお伝えしたアウトプットイメージが明確だったところがポイントになったと思っています。私自身、前職ではプロジェクトリーダーの立場で経営陣への報告義務も担っていましたので、そういった経験が活きたと考えています。リーンさんの提案は、報告内容と必要なデータが明確になっていました。

プロジェクトリーダーやプランナーと協議して仮説を立て、立証に必要なデータを固めた上でリーンさんへ要望を出していきました。仮説検証に必要なデータを集めることができているのか、そして仮説を検証しながら次の施策を考えるPDCAサイクルをいかに回すかを念頭に置きつつ、徐々にプロジェクトに取り入れていきました。

こうした取り組みを行う中で、データ分析に消極的だったスタッフから「こういう分析をしたいのでデータが欲しい」という依頼がでてくるようになりました。ちょっとずつ意識の変容が見られ、それが行動の変容につながり始めています。



 
 
――:単にチームに入ってデータ分析を支援するというよりも、もうちょっと深い取り組みと見たほうがいいですね。
 
磯原:そうですね。いわゆる「外注先」としてデータの収集と分析をお願いする関係ではなく、プランナーやエンジニアと一緒に、チームの一員としてデータ収集や分析の仕組みづくりを行うだけでなく、そういった「文化」をチームに取り入れて定着させていく取り組みとなっています。
 
栗田:依頼どおりに集計・分析したことをレポートするだけでなく、上がってきた分析をどう見たら、どう伝えたら、どういうアクションにつながるか、まで、きちんと想定して分析することが重要だと考えています。一緒にチームの文化を作り上げるという感覚を持っています。

現在ではリリース後の反応を数字で見て、その反応に対する仮説を洗い出し、一つ一つシューティングしながらより面白いコンテンツにブラッシュアップしていく流れができつつあります。結果が積み重なり、カルチャーが形成されていく様子に自分もやりがいを感じています。
 


――:一定期間運営しているタイトルだと、新しいカルチャーを取り入れることってよほどのことがないと難しいですよね。
 
磯原:おっしゃるとおりです。新しい取り組みを始めるにあたり、栗田さんにどうチームに馴染んでもらうかで、結果が大いに変わると思っていました。そのため、栗田さんへのオンボーディングとして、チームの過去・未来・現在と抱えている課題、やるべきことを詳細にお伝えしました。

そこを理解していただいた上で、チームへの入り方や収集するデータ、着手していくタスクの整理などを明確にしていき、じっくりとチームに馴染んでもらうようにしました。

例えるなら、水族館の大水槽のような多種多様の「共存」と同じ状態だと思っていて、大水槽の中に多くの魚がいる中、突然、新しい魚を入れると様々なコンフリクトを起こす可能性があると思います。他の魚との関係もそうですし、環境に慣れず新しい魚が調子を崩してしまうかもしれない。その為、徐々に馴染ませていくなどのケアが必要だと思います。

それと同じで、まずはチームの環境に徐々に慣れていってもらう為に、メンバーとの関係構築を重視しました。すでにできあがっているチームに新しい要素を入れることは、それくらい気を使うべきことだと思っています。
 
 
――:私個人も前にいたゲーム会社で、データ分析の人がチームにうまく入れず、コンフリクトを起こす事例を見ました。

 
磯原:私のほうで丁寧にオンボーディングをしながら、主要メンバー個人個人と栗田さんを繋ぐハブ役となり、「こういうコミュニケーションをとって欲しい」と双方が具体的にどんなやりとりを行えば良いのか、をイメージできるように説明していきました。
 
栗田:はい。オンボーディングは、参画直後から非常に丁寧に実施いただきました。また、今でも分析結果が出た際には開発チームが分析結果を受け入れやすくなるように、事前に磯原さんや他の分析メンバーにお伝えし、相談しています。

 

――:随分やりやすかったと。
 
栗田:そうですね。分析の結果が開発側としては意図しない結果の場合もあるので、いったん磯原さんに受け止めていただいて、チームにどのような温度感・語気で伝えるのかを調整していただきました。
 
磯原:たまたま私のスキルセット・経験則と栗田さんとの相性がかみ合って調和できた部分も大きかったのかもしれないと感じています。
 
栗田:もともと2人ともデータに重きを置いた会社での経験があった、というのも成功の要因かと思います。

 
 
――:取り組まれている期間はどれぐらいなのですか。
 
磯原:昨年の8月からなので、9ヶ月くらいになりますね。
 
栗田:個人的な話でいうと、リーン・ニシカタに入ったと同時にこの案件のお話がきました。単なる分析にとどまらず、文化として根付くところまで必要と考えていたので、「ぜひ」とやらせていただきました。もともと前職のモバイルゲーム会社で中長期運営タイトルを中心に分析をしていましたので、その経験が活かせるとも感じていました。

 
 
――:リーンさんと組んで、まだプロジェクトの途上だとは思うのですけど、役に立っている部分を教えていただけると。
 
磯原:端的に言うと、話が早いですね。キャッチアップ能力が非常に高くて、かつ、アウトプットも正確で早く、チームとのコミュニケーションも的確ですね。私だけでなく、メンバー自身もそう感じてくれているようです。

栗田さんも私も長期運営タイトルを中心にやっていたことやモバイルソーシャルゲームの黎明期から携わっているなど、共通点も多いので、収集するデータの種類やデータのとり方、アウトプットのイメージなどが共有しやすい部分がありました。実際、ここまで振り返ってもイメージのズレは少なかったと思います。

 
 
――:プロジェクトの文化については変えている途中ということでしょうか。
 
磯原:そうですね。徐々に変わりつつあるといったところです。

「これが駄目」と否定するものではなく、どちらかというとチームのやっていることを数字面から支援するという意味合いが強くなっています。「数字がきちんと出ているから大丈夫だよ」というメッセージを伝えたい部分がありました。

チーム側は良いことをやっているので、もっと自信を持ってほしいと考えたのです。そして、意思決定者も数字があれば根拠をもとに判断できます。意思決定支援としての材料を事実ベースで提供できるようになったところも改善だと思います。

 
 
――:今やっていることを、感性的に作っている部分が正しいと裏付けているわけですね。
 
磯原:そうです。面白さは担保できていますので、そこに数字の裏付けをしたいと考えていました。魂を込めるといいますか。会社によってはデータありきで考える会社もあるのでしょうが、当チームとしては正しさも大事ですが、それ以上に面白さを重視しています。
 
栗田:いくらチームのカルチャーを変えるとはいえ、これまで積み重ねてきたものを否定するようなことはありません。特にアカツキ様で意識しているのは、更に面白いゲームを作っていくにあたって、その面白さの「程度感」をきちんと伝えるようにするということです。

具体的には、「昔からプレイしてくれるユーザーが、より深く遊んでくれるようになっています」「既存のユーザーは活発に遊んでいますが、最近ゲームを始めたユーザーはこの部分のキャッチアップに苦労しているようです」など、誰にどのようにコンテンツが刺さっているのかをしっかりお伝えするようにしています。

データに対して解釈を入れることで、プランナーさんの方でも更に面白いコンテンツにするにはどうすればよいかが設計しやすくなります。このようなプランナーさんとの連携を一つでも多く作れるよう意識して、日々のデータ分析に取り組んでいます。



 
――:なるほど。
 
磯原:議論ではよく事実と真実の切り分けをやっていますね。また、CS(カスタマーサポート)チームと密に連携もしています。CSチームは、定性分析が非常に得意です。お客さまの声を一番聞いているところですし、チームのメンバーも自分自身でゲームをやり込んでいて、ユーザー目線を持っています。一連の仮説を立てる上で、定量データだけではなく、定性情報も紐付けていかないと有効な分析ができません。数字として出てくる事実だけでなく、真実をどう見るか、という問いかけも常に行うようにしています。
 
 
――:いわゆるデータ分析コンサルティングというよりは、深い取り組みになるのですね。
 
栗田:「運用支援」という言葉が一番近いかもしれません。お客さまが運用しているタイトルに対して、どのようなサポートできるか、という問題意識で動いています。「データを使って何でもできます」や「データ分析でこういうことがわかりました」など上から目線で語るのではなくて、お客さまの目線に立って「今こういうところに悩んでいる」「こういうところをサポートしてほしい」というニーズに対して真摯に向き合い、アウトプットを出していくことを大事にしています。
 
 
――:今後の展望や課題として感じているようなポイントがあれば。
 
磯原:次のステップとしては、データ分析をPDCAフローにきちんと乗せていくことを目指しています。いきなり進めるとうまくいかないので、まずは仕様を決める前の企画段階で目的やターゲット、手段、目標とする成果への認識が統一されている必要があります。つまり、何を持って振り返るのかを明確にします。

そのうえで取得するデータや振り返りの方法に関するコンセンサスを取りながら、きちんとワークする状態まで持っていきたいですね。
 
栗田:一部では既にプランナーがデータを自身で確認しながら、コンテンツの難易度をチューニングするといったアクションが出てきているところです。今後も、プランナーが自ら企画したコンテンツを自身の力で面白くしていく動きをサポートしたいですね。

 
 
――:先にお話ししていただいた、プランナーへの研修にもつながってくるのかと。
 
栗田:われわれはゲーム業界の経験が長いほうの部類になってきています。業界には未経験者の方もたくさん入ってきていますので、業界全体として質を上げるために、少しでも長く速く走れるように、スキルをお伝えしていきたいと思っています。
 
 
――:リーンさんとの取り組みで印象的なエピソードはありますか。
 
磯原:有力な競合タイトルが出た際には、市場調査とともに影響調査なども行うことがあります。栗田さんも温度感が高く、仮説を立て、すぐに必要なデータを定めて調査に着手したことがありました。
 
栗田:競合タイトルが出たときに、担当タイトルに影響があったのかどうかと今後の展望を含めて、クイックにお伝えできたのはよかったと思います。

 
 
――:そういう部分まで調査されるのですね。驚きました。
 
栗田:プロジェクト内の課題だけでなく、業界全体の傾向も踏まえて動いています。我々は幸い他社様ともつながりがあるので、業界の温度感なども共有しながら一緒に分析しています。
 
磯原:もうひとつ具体的なエピソードでいうと、分析とはちょっと別の観点にはなりますが。チーム内で分析に興味のあるメンバーがいて、自分でSQLを書きながらやってはいるけど、なかなかうまくできなかったのです。それに対しての支援もやっていただきました。栗田さんは、彼からは師匠として崇められていて、師弟関係のようになっています。

彼は元々、定性分析には強かったので、定量分析スキルが身につけば最強になれると伝えました。彼の中では将来キャリアとして、そういった方向を望んでいたので、栗田さんに教わりながら大きく成長し、我々が行っていた業務の一部を担ってくれるようになりました。それによって、我々も違ったことに時間を割けるようになり、良い循環が生まれてきています。
 
栗田:プロジェクト内でOJT(On-the-Job Training)を担っている形になります。先の菅さんとの対談の中でお伝えしたOff-JTも含めて、アカツキ様にはいろんな分析ノウハウを提供できている実感があります。OnとOffの両面で鍛えることで、かなり納得度の高いものが提供できていると考えています。
 
磯原:そうですね。すごくいい取り組みができていると思います。
 

 
――:ありがとうございました。


【注目インタビュー】
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コーポレートサイト



(※)写真は、撮影するタイミングのみマスクを外しています。

株式会社アカツキ
http://aktsk.jp/

会社情報

会社名
株式会社アカツキ
設立
2010年6月
代表者
代表取締役CEO 香田 哲朗
決算期
3月
直近業績
売上高243億3600万円、営業利益57億円、経常利益52億700万円、最終利益13億4200万円(2023年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3932
企業データを見る
リーン・ニシカタ
https://www.lean-nishikata.com/

会社情報

会社名
リーン・ニシカタ
設立
2018年6月
代表者
西方智晃
企業データを見る