【インタビュー】最終回直前! 高評価が相次ぐTVアニメ「神撃のバハムート GENESIS」はCygamesによる一社提供。現況・今後の狙いをプロデューサーに訊いた
Cygames(サイゲームス)は、同社が開発・運営するソーシャルゲーム『神撃のバハムート』のアニメーション作品「神撃のバハムート GENESIS」を、2014年10月からTOKYO MXをはじめ多数の局で放送開始している。
完全オリジナルストーリーを採用したアニメ版では、監督にさとうけいいち氏、音楽に池頼広氏、アニメーション制作に緻密な作品づくりに定評のあるMAPPAと、こだわりぬかれた豪華スタッフ陣が集結。また、各局で初の試みとなる5.1chサラウンドならではの迫力ある音響も導入し、ユーザーからは既存のTVアニメの枠を超えたクオリティの高い作品として、放送開始後から大きな反響を得ている。
本稿では、『神撃のバハムート』TVアニメ化の仕掛け人でもある、Cygamesの取締役・木村唯人氏に企画経緯や制作過程、そして今後の取り組みついてお話を伺ってきた。アニメ史上でも類を見ない一社提供である本作だが、果たしてCygames側の狙い、そして胸中は。
■「神撃のバハムート GENESIS」
■ベテランスタッフ陣が集うアニメ制作現場
株式会社Cygames 取締役
TVアニメ「神撃のバハムート GENESIS」プロデューサー
木村唯人氏
――:本日はよろしくお願いします。月並みな質問ではありますが、まずはTVアニメの企画経緯についてお聞かせください。そもそも何故アニメを作ろうと思ったのでしょう。
単純に「アニメを作りたかった」というのが一番の理由です。企画を立ち上げたのは今から2年前になりますが、当初はそこまで時間をかけようとは思っていませんでした。ただ、『神撃のバハムート』の世界観で「オリジナルで本当に良いものを作ろう」という思いが、私含めスタッフ陣のなかで日に日に強まり、結果として現在放送する形になりました。
――:ちなみに、御社側でTVアニメ企画に携わっているのは……。
以前アニメ制作会社に勤めていた弊社スタッフと私のふたりです。
――:おふたりですか……。加えて製作委員会ではなく、一社提供ですよね。
はい。そのため、はじめに制作会社を探すところから始めました。本当に何から何まで自分たちで行っていきましたね。
――:なかなか骨の折れる業務ですね……。一社提供というのは、アニメ史上としても非常に珍しいケースかと思います。
本来であれば、代理店やパッケージメーカーの営業さんが来て、版権をお貸しする形でアニメ化するケースがほとんどですが、本作では弊社側から依頼した形になります。
――:『神撃のバハムート』をTVアニメ化する際に、何かコンセプトはあったのでしょうか。
メインに据えたのは、やはり本格的なファンタジー作品を制作することでした。最近のアニメは、現代の主人公が異世界に迷い込んだり、電脳世界を冒険したりと、面白くも突飛なストーリー展開が特徴的ですが、あくまでも我々が目指したのはひとつの世界で繰り広げられるファンタジー作品です。
昔の深夜アニメは、何かと挑戦的で骨太な作品が多くありました。そこを思い出しつつ、見る側に負担を強いるアニメにしようと手掛けていきました。視聴者数は減ってしまうかもしれませんが、見てくれた人の記憶に残る作品を目指そうと。
また、キャラクターデザインに関しても、時代のニーズに沿った絵柄があると思いますが、「神撃のバハムート GENESIS」では、そういった部分はあえて意識せず、等身がキリッとしていて、“アニメアニメ”していないリアルな雰囲気で描き込まれています。そのほかストーリーは完全オリジナルを採用しているため、ゲームを全く知らなくても楽しめるような作品に仕上がっていると思います。
――:制作会社も自分たちで選んだとのことですが、現在のMAPPAさんに決めた理由は。
当時は先ほど話したコンセプトに加えて、せっかくの一社提供のため、あまりほかには縛られず他作品とは異なるチャレンジに付き合ってくれる若い会社さんを探していました。
そんなときに、MAPPAさんが手掛けたアニメ『坂道のアポロン』を見て、等身の高いキャラクターが登場しながらも丁寧な作風に惹かれて、「この会社さんなら面白いものが作れそう」と思いアポイントをとったのがはじまりです。
そこから実際にアニメプロデューサーである大塚さんとお話するなかで、我々が作りたいイメージにも合致して、最終的にMAPPAさんに決めました。
今では『残響のテロル』などの良作を連発しているため、今同じ企画をもっていっても断られてしまうと思います。依頼タイミングとしてはベストだったかもしれませんね。
■スタッフ
【原作】Cygames
【監督/コンセプトデザインワークス】さとうけいいち
【シリーズ構成】長谷川圭一
【キャラクターデザイン/総作画監督】恩田尚之
【音楽】池頼広
【美術監督】中村豪希
【エフェクトアニメーション】橋本敬史
【VFXスーパーバイザー】森川万貴
【撮影監督】吉岡宏夫
【色彩設計】三笠修
【CGIディレクター】須貝真也
【編集】廣瀬清志
【副監督】小林寛
【アニメーション制作】MAPPA
――:なるほど。そこから制作会社と共に監督をはじめスタッフ陣が固まっていくのですね。さとう監督の起用は何か思うところがあったのでしょうか。
当時さとう監督は、秋山ジョージ先生原作の3DCG映画「アシュラ」の制作を終えたばかりでした。なかなか重たいテーマを題材とした作品なのですが、こういった作品を真面目に作る人と仕事がしたいと素直に思いました。そこから音楽の池さんをはじめ、次々と面白い方々が集まって現在のスタッフィングになっています。
――:「類は友を呼ぶ」ではないですが、人が人を呼び現在のスタッフ陣になったのですね。
ええ。みなさんの人脈・人望があってこそではありますが、本当に運良く最高のスタッフが制作初期段階で構成されました。ちなみに関わっているスタッフには、40代以上のベテランと呼ばれる方が多くいます。王道ファンタジーを題材とした昔のアニメ作品の良さを理解しているだけではなく、ほかで言う作画監督クラスのベテランスタッフたちが多く携わっていただけていることもあって、いまのクオリティを維持できているのだと思っています。このメンバーが集まって仕事ができているだけで奇跡を感じています。
――:制作現場に対して、御社側から具体的なキャラクターやシナリオの提案などはされたのですか。
最低限の世界観やキャラクター設定などは提案しました。たとえば、ゲームの舞台となるミスタルシアのことや、バハムートの立ち位置などです。ゲームのキャラクターをどれだけ出すかなどは、あまりこちら側からは詳細に言わず、制作会社側に選んでもらいました。
ゲームにも登場するキャラクターに関しては、この世界での役割や性格などを制作会社側に説明すると共に、既存のゲームユーザーさんが嫌悪感を持たないような監修を施しました。ただ、ことオリジナルキャラクターで言えば、主人公のアフロには驚きましたね(笑)。
――:(笑)。確かにアフロ姿の主人公・ファバロはインパクトありますよね。また、酒と女が大好きなお調子者という設定など、主人公らしからぬキャラクター像にも驚きました。
いや、それでもファバロは格好いいですよ。アフロですが彼はきちんと格好いい男ですので、ぜひ注目してもらえればと思います。
――:ちなみに、ファバロのデザインや設定などはどなたが。
キャラクターデザインは恩田さんですが、アイデアの部分はさとう監督が中心ですね。我々としては、最初キャラクターデザインを見たとき、「本当にこれで大丈夫かな?」と思ったのですが、実際に動く姿を見ると格好いいし、アフロであることに何ら疑問は持たなくなりましたね(笑)。
――:分かりました(笑)。また、そんなキャラクターたちに命を吹き込む声優陣も豪華ですよね。収録現場はいかがでしたか。
「すごい」の一言です。このアニメでは、とにかくお爺ちゃんから若い人や天使まで、出てくる声優さんの幅が広いんですよ。それこそ現場では、これまで数々の名場面を演じてきた主役級の方々が一堂に会することもあって、熟練の技であったり、若さの勢いであったりと、毎回楽しくもすごいものを見せてもらっています。ちなみに細かい演技指導は、さとう監督が音響監督も務めていることもあり、監督自らが声を出して収録現場に臨んでいます。
■キャスト
ファバロ・レオーネ(CV. 吉野裕行)
カイザル・リドファルド(CV. 井上剛)
アーミラ(CV. 清水理沙)
ラヴァレイ(CV. 平田広明)
ジャンヌ・ダルク(CV. 潘めぐみ)
バッカス(CV. 岩崎ひろし)
ハンサ(CV. 森久保祥太郎)
アザゼル(CV. 森田成一)
ケルベロス(CV. 喜多村英梨)
――:そして、特筆するべきは「5.1chサラウンド放送」ですね。TVアニメ放送としては、TOKYO MX、BS11、どちらの局も初の試みとのことですが、こちらの導入経緯は。
当初は導入する予定はありませんでした。ただ、実際に映像を手掛けていくうちに、音楽担当の池さんから「このアニメは5.1chをつけるのに値する」という話をもらいました。物語の舞台がしっかり作りこまれていることもあって、立体感のある音が背景を通して伝わるというのです。そんな池さんの後押しもあって今回は5.1chを導入することに決めました。
――:先行上映会(関連記事)や1~6話の前半戦振り返り上映会など、これまで何度か劇場でも上映されましたが、ここで改めて「5.1chサラウンド」が生きてくるのかなと思います。
そうですね。劇場で見ることに、とても意義があると思っています。音の迫力が違いますし、じつはテレビでは聞こえない低音も体で感じ取ることができるんですよ。池さんが手掛ける音楽もオーケストラ中心のため、劇場では臨場感たっぷりの世界に浸れます。
▲先行上映会では、迫力ある映像はもとより、壮大な音楽に筆者も圧倒された。
■「真面目に良いものを作りたい」
――:個人的に、放送開始からニコニコ動画のコメントやTwitterなどのリアルタイム実況を追っていますが、ユーザーからは非常に高く評価されていると見受けられます。実際にユーザーからの評判はいかがですか。
手前味噌かもしれませんが、見ていただいている方の評価は、ありがたいことに非常に高いと感じています。我々もここまで評判が良くなるとは思っていませんでした。今の時代に王道ダークファンタジーを手掛けることが、ストレートにユーザーさんに響いたのが素直に嬉しいですね。
我々は「まずは自分達が面白いものを作る」という信念のもとに、企画・制作に臨んできましたが、やはり正直のところユーザーさんにどれだけ受け入れられるのかが未知数でした。
しかし、結果的に映像や物語などのクオリティ面で高く評価されたほか、コンセプトでもお話した、考えて欲しいところで“考えてくれる”というこちら側の思いがきちんとユーザーさんにも表れたのが何よりも嬉しかったです。このままクオリティを落とさず走り切ることができれば、見てくれている人に対して最大限の形で応えられるかなと思っています。
――:また、関係者が前回放送を振り返るニコニコ生放送番組「夜のファンタジー」にも密かに話題ですよね(笑)。
いやもう残念な番組ですけど(笑)。前回の放送を解説すると見せかけて、ただ関係者が酒を飲みながらトークするという前代未聞な番組です。でもこれが意外と回を追うごとに視聴者数が増えてきて、リアルタイムで2000人が見に来てくれたこともありました。
正直グダグダしている放送なので、あくまでも“こういう人たちが作っています”という、制作者側とユーザーさんが身近に感じていただけるきっかけになればと思っています。我々としても、その場でユーザーさんの感想や意見などがコメントを通してダイレクトに入ってくるので、ユーザーさんと交流できる良い場なのかもしれません。
■関連サイト
――:ちなみに先行上映会やエンドカードなどでよく叫んでいる「バハリMAX!」ってどこから来たのでしょうか。
あれは監督が言い出したのがはじまりです(笑)。エンドカードに音声を何か入れようという話になったとき、急に監督が「バハリマックス…」といったので、勢い余って入れてしまいました。最初は単発で終わらせるぐらいの気持ちだったのですが、結局「もう全部これでいいや!」ということになりました。
――:勢いありますね。木村さんから見て、さとう監督はどういう方ですか。
パッション(情熱的)ですね。面白くも本当に変わった方で、最後に監督の勢いでグッと作品を引き上げてくれます。人望もある方で、いまの強固なチーム体制も彼のおかげで繋がっていると思います。
――:アニメとしての今後の展開を教えてください。
アニメのキャラクターがゲームに登場することはもちろんですが、アニメ版を題材にしたスピンオフゲームも開発してみたいという構想もあります。そのほか、企業様とのコラボ先を探しています。なにぶん一社提供のためアニメ制作だけでも手一杯で、何か興味がある企業の方はご連絡いただければ幸いです。
――:それでは、最後に「Social Game Info」読者にメッセージをお願いします。
「真面目に良いものを作りたい」という人々が、頑張ってくれているおかげで完成したアニメだと思っています。ソーシャルゲームの原作だからよく分からないという方も含め、ぜひ1話だけでもいいので見てください。見てもらえれば、そのクオリティの高さはもちろん、アニメとしての真っ直ぐな面白さ、そして制作側の熱量が伝わる作品になっていると思います。
――:ありがとうございました。
(取材・文:編集部 原孝則)
■「神撃のバハムート GENESIS」
■『神撃のバハムート』
■関連サイト
(C) Cygames, Inc.