【「これからこうなる!」は毎週火曜日12時頃に更新】
メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。
今回の担当:岩野弘明氏
■第18回「スマホゲームにおけるプロデューサーの重要性」
最近とても痛感することがあります。
「今後のスマホゲームはプロデュースがちゃんとできないと売れない」
当たり前のことを言っていますが、実はここ数年のソシャゲ時代からF2Pのスマホゲーム(以降、F2Pのスマホゲームのことをスマホゲームと呼ぶことにします)黎明期にかけてはプロデュースをしっかりとできているタイトルは少なかったし、今もまだまだ少ないです。もちろん私自身もまだまだ反省することが多い今日この頃です。
ただ、成熟してしまったスマホ市場であるからこそ、他のタイトルに埋もれないためにしっかりプロデュースを行う必要があります。
「今後のスマホゲームはプロデュースがちゃんとできないと売れない」
当たり前のことを言っていますが、実はここ数年のソシャゲ時代からF2Pのスマホゲーム(以降、F2Pのスマホゲームのことをスマホゲームと呼ぶことにします)黎明期にかけてはプロデュースをしっかりとできているタイトルは少なかったし、今もまだまだ少ないです。もちろん私自身もまだまだ反省することが多い今日この頃です。
ただ、成熟してしまったスマホ市場であるからこそ、他のタイトルに埋もれないためにしっかりプロデュースを行う必要があります。
■スマホゲームのプロデューサーって実は…
世に出ているスマホゲームのタイトル数に比べて、スマホゲームのプロデューサーは圧倒的に数が少ないです。
スマホゲームは儲かるぞ! ⇒ 急いで作れ―! たくさん作れ―! ⇒ でも今後の市場がどうなるかを想像して利益を出すことを考えられるプロデューサーは業界全体を見ても少ない ⇒ まだ経験が浅くてもできるっしょ! 開発費もそんなに高くないし作れ作れ!
…すごく乱暴な表現ですが、こんな感じに見えてしまうタイトルの粗製濫造がスマホゲーム黎明期から現在においてもなお目立ちます。おそらく世に出る前に終わりを迎えたプロジェクトも多いでしょう。今や開発費もコンシューマタイトル並にかかるようになってきたので、上記のようなノリでスマホゲームを作ろうとすると完全に死亡します。
今では老舗のゲーム会社も多く参入していますが、スマホゲーム黎明期のタイトルの多くはソシャゲを作ってきたその延長でネイティブシフトをしてつくる会社が多く、まったくの新規でチャレンジする会社も結構ありました。
ただ、ソシャゲはそもそもゲームではなくwebサービス。ゲーム性ではなく課金の仕組みをカスタムしていくことで売上を上げていました。そのため、プロデューサーという人間がいなくてもエンジニアだけで成り立っていました。課金のさせ方が多様化してきたソシャゲ後期でも、その仕組みを専門に考える部隊がいたくらい。厳密にゲームプロデューサーの役割をこなしていた人はほぼいなかったと思います。
一方、コンシューマやモバイルの売り切りのゲームにはプロデューサーがいます。既に市場が成熟しているので、その中でいかに売っていくか、というのはプロデューサーじゃないと考えるのは難しいし、まさに腕の見せ所なわけです。
ただ、課金の方法はプラットフォームに依存し、ある程度固定化されているため、課金の仕組みそのものを考えるという作業はあまりありません。
しかしスマホゲームはというと、ゲームのおもしろさと課金の仕組みの両面を考えた上でどう売っていくかを提案していかないといけません。
私は売り切りゲームもプロデュースしていた経験もあるので痛感するのですが、スマホゲームはプロデューサーの役割をこなしつつディレクター的なこともしないといけないです。理由は、売るためには課金の仕組みを考えなくてはいけませんが、その課金の仕組みを考えるにはゲームの仕組みを理解し調整しないといけないからです。
売り切りゲームは課金の仕組みがある程度固定化されているので、売り方をプロデューサーが、ゲームのおもしろさをディレクターが面倒を見る、といった感じで分担できるのですが、スマホゲームだとそれができません。
プロデューサーはゲームの仕様に深く首を突っ込んでいかないといけません。
そうしないと課金の仕組み、ひいてはどうやって売っていくのかを提案できません。
おそらく開発スタッフの中にはプロデューサーがそこまで口出すな、と思われる方がいらっしゃると思います。でも、それは逆です。プロデューサーはゲームの中身に口を出さないといけない。ただし、口を出すからには作っているゲームを深く理解した上で、的確な意見を出さなくてはいけない。それができないなら口を出さない方がマシではありますが、売れる確率は低くなるでしょう。
ゲームと言えど売って利益をだすことが至上命題ですから、当然「利益を出す」といった視点から売り方を提案していかないとダメです。そうしないと売れないし、それができるのはプロデューサーだけです。あるいはプロデューサーを名乗ってなくても、そういったことを提案していれば、その人がプロデューサーです。
■商品と売り方の違いを自覚する
「ソシャゲ」「売り切りゲーム」「スマホゲーム」はそもそも全然違って同じゲームとしてひとくくりにはできません。それぞれ、そばとラーメンとパスタくらい作ってるものが違います。同じ麺類でも材料や調理方法は違うし、すごくおいしいそばを作る人が同じくらいおいしいラーメンを作れるとは限らないのと同じで、ある商品でうまくいってももう一方の商品でうまくいくとは限りません。
でも、それを理解している人は少ないです。ソシャゲや売り切りでヒットさせたもののスマホゲームではうまくいかない会社や人が多いのはそれが大きな理由だと思っています。
もちろん技術や資金の問題もあるけれど、それを踏まえて制限のある中でいかに売っていくかを考えたり、そもそも作るものが違うから挑戦しないといった判断をくだすことが重要です。
ただしこれはプロデューサーというよりも、プロデューサーを育成したり雇う、あるいはプロデューサーを用意できなければ勝負はしないといった経営サイドの判断の方が重要かもしれません。
■プロデューサーを育成するには
ただ、ゲームへの理解やゲーム作りのノウハウ、商売の感などを押さえていれば、実はどんなフィールドでもプロデューサーとして成果を出せます。うちの会社にもそういう人は少ないけどいます。例えば柴プロデューサー。売り切りもアーケードもスマホもPCもあらゆる市場で、かつオリジナル・IP問わず大きな利益をだしているスーパープロデューサーです。
実は柴は私の元上司で、独自の世界観を持ちプロデューサーの中でもゲームの仕様に至るまで結構口を出す方で、そして数字に超厳しい。それで私も何度も怒られましたが、そういったところは見習うようにしています。
私は安藤や柴だけでなく、『Nier』『ドラクエX』の齊藤やスクエニを辞めてDeNAの執行役員をされている渡部さん、ボードゲームショップ「ドロッセルマイヤーズ」を立ち上げられた渡辺さんなど、凄腕のプロデューサーの下で修業してきて、彼らの仕事を見てきたのでそれがすごくいい経験になりました。
こういったコラムを書いていてなんですが、座学はそんなに意味がなく、とにかく経験することが大事。お手本になる人と一緒に仕事をしたり、その人の仕事ぶりを後ろについて勉強するのが成長の一番の近道だと思います。周りにそういう人がいないなら、探しに行くところから始めた方がいいと思います。
情報戦であるこのご時世、周りの情報などよりも、まず自身の戦力という一番大事な情報をちゃんと把握しないと勝てないということをまず一番に知っておく必要があるんじゃないかと思うのでした。 ではでは今日はこの辺で!
P.S.
なんというか、メタ的表現というか、それ直接言っちゃうんだ! という感じというか、とにかく衝撃を受けました。
そんな感じなので、やはりまとめ記事にも取り上げられ多くの方の目に触れることになり、売り文句だけでここまでプロモーション効果を引き出せるのかと感服しました。
だって「そのすべては続編のために-」って普通思ってても言わないですよ! まさに逆転の発想というか、素直にメッセージを伝えるというか、すごいなぁと思って今でも覚えています。
そんな『ブレイブリーデフォルト フォーザ・シークウェル』の浅野プロデューサーが放つ続編『ブレイブリーセカンド エンドレイヤー』が好評発売中ですので、ご興味ある方は是非!
■著者 : 岩野弘明
スクウェア・エニックス第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部) プロデューサー。『乖離性ミリオンアーサー』を筆頭に、同シリーズ全体のプロデュースを担う。
■スクウェア・エニックス
企業サイト
■スクエニ 安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー
■第17回「私はなぜスクエニの部長をやめたのか?」 (安藤)
■第16回「日本のスマホゲーム業界が危うい」 (岩野)
■第15回「サラリーマンクリエイターの働き方はすでに限界を迎えている」 (安藤)
■第14回「ゲームを売る上で一番大事な人」 (岩野)
■第13回「市場のピンチを知らせるクリエイターからのSOS」 (安藤)
■第12回「F2Pゲームにおける最強の商品とは?」 (岩野)
■第11回「今後どんなゲームが売れるのか、全力で考えてみた」 (安藤)
■第10回「開発初期段階で必ず決めなくてはいけないこと」 (岩野)
■第9回「これからはプラットフォームの垣根が無くなると言ってきたけど、どうも違う。という話」 (安藤)
■第8回「打席に立つために必要なこと」 (岩野)
■第7回「ほとんどのターゲット設定は間違っている」 (安藤)
■第6回「売れるゲームには◯◯がある」 (岩野)
■第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)
■第4回「IPを育てよう」 (岩野)
■第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)
■第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)
■第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)
会社情報
- 会社名
- 株式会社スクウェア・エニックス
- 設立
- 2008年10月
- 代表者
- 代表取締役社長 桐生 隆司
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)