【連載】「これからこうなる!」特別編…スクエニ・岩野氏×DeNA執行役員・渡部氏による対談企画…前編『ミリオンアーサー』の誕生秘話とは
【「これからこうなる!」は毎週火曜日12時頃に更新】
今回は特別編として、ディー・エヌ・エー(DeNA)<2432>の執行役員・渡部辰城氏と岩野氏による対談記事をお届け。もともとふたりは、渡部氏がスクウェア・エニックス在籍時に上司と部下の関係で、今でもプライベートでも親交があるという。
対談では、岩野氏が聞き手となり「“DeNA”のこれからこうなる」を根掘り葉掘り訊いていく……かと思いきや、昔話に花が咲き、岩野氏個人のルーツや『拡散性ミリオンアーサー』の誕生秘話など様々な話題に発展。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして現在どのような未来を予想して、そして歩んでいるのか。
■スクウェア・エニックスでは元上司と部下の間柄
執行役員 Japan リージョンゲーム事業本部 事業本部長
渡部辰城 氏(写真右)
株式会社スクウェア・エニックス
第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部)プロデューサー
岩野弘明 氏 (@Iwano_Hiroaki)(写真左)
岩野:今日はよろしくお願いします。まずは僕と渡部さんの出会いから話したほうがいいですよね。
渡部:そうだね。岩野と最初に会ったときのことはよく覚えているよ。
岩野:あ、そうだったんですね(苦笑)。
渡部:まだ岩野が入社して間もないときに、別の部署から「麻雀ができる子が入ってきたので打ちませんか」と誘いがあって、一緒に麻雀をしたんだよ。そしたら、最初の局でトン1の1打目にドラを切ったのがすごい印象的だった。「いらないの?」って聞いたら「あ、いらないんで」……パッと見大人しそうだけど、すげー乱暴なやつだなと(笑)。
岩野:鮮明に覚えています。もう周りには大先輩ばっかりでしたので、超緊張していました。だから余計に素が出たんでしょうね…「もういいや」と吹っ切れる感じで(笑)。
渡部:俺は麻雀の打ち方で仕事のやり方も見るんだけど、何か内側に“暴”の力を秘めているのではないか…というのが第一印象だった。ただ、それ以降は知れば知るほど“我が強い”ことが分かって、手掛けてきているゲームを見てもそれは如実に表れていると思うよ。リメイクとか担当したことあるっけ?
岩野:『FFT』(iOSアプリ『ファイナルファンタジータクティクス 獅子戦争』)くらいですね。
渡部:俺も『ドラゴンクエスト』シリーズのリメイクを担当したことあるけど、個人的にプロデューサーって色んなタイプがいて、その人が手掛けるときちんと“その人っぽく”なるものだよ。岩野のゲームも岩野らしいと思うので、そこは本当に良いプロデューサーだと……いや、あんま褒めたくないな(笑)。
岩野:(笑)
■『拡散性ミリオンアーサー』が生まれた企画会議
岩野:僕も渡部さんが上司になったときのことをすごく覚えています。それが毎週の企画会議です。
渡部:あー、『ミリオンアーサー』を生み出した会議だね。
岩野:『拡散性ミリオンアーサー』はひたすら一人でこつこつプロデュースしていたプロジェクトではありますが、作るきっかけになったのは渡部さんが開かれていたテーマ会議でした。
本当に『ミリオンアーサー』が生まれたのは、あの企画会議がきっかけといっても過言ではないです。この毎週定例で行う企画会議では、ここ最近で何か“面白いと思ったテーマ”を各自ドキュメントでまとめて発表するのですが、そのとき僕は「アーサー王伝説」をテーマにして発表したんです。「今これが面白いです」…と。
渡部:そう、ただ俺も大学のときに「アーサー王伝説」の授業を取っていて詳しかったのよね(笑)。「アーサー王伝説」はあまり文献が残っていなくて、どうとでも解釈できる内容なので、じつはエクスカリバーの剣はボロボロで意味がなく、鞘(さや)に魔法の力が秘められているという説があるなど、かなり話も盛り上がって。
岩野:ええ。エクスカリバーもそうですし、円卓の騎士に出てくるランスロットやガウェインといった名前も本当に多くのゲームや漫画などに使われたことがあるので、みんな一度は目にしたり耳にしたりする要素が詰まっている作品なんです。それじゃあ今だからこそゲームに落とし込んだら面白いんじゃないか、という話から立ち上げたのが『拡散性ミリオンアーサー』でした。それと同時期くらいに、渡部さんから「一年間の目標を立てなさい」と言われましたね。
渡部:本来なら「ゲームを○○万本売ります」や「スケジュール通りに動きます」などが普通だけど、たしか岩野には「本を読みなさい」と言ったら、「じゃあ年間で50冊読みます」と目標を作ったのよ。
岩野:ただ僕、本を全然読まない人間だったので、挿絵が入っているほうがいいなと思い、そこで初めてライトノベルを読み始めたのです。そしたらドハマりしてしまい、50冊どころか100冊以上も読むことができました。なかでも鎌池和馬先生の「とある」シリーズでがすごく面白くて、しかも設定がゲームっぽいので、これを「アーサー王伝説」と組み合わせたら面白くなるのではないかと思い、電撃文庫にお願いしに行ったところ、ふたつ返事で快諾をいただきました。
渡部:よくあんな大人気の作家さんをアサインしていただけたよね。
岩野:まだ当時はそういう取り組みも無かったこともあり、先生自身にも興味を持っていただけたのかもしれませんね。ところが、そこから難航しました。
渡部:(笑)
岩野:そもそも、まだ当時はプロデューサーとしてゲームを作ったことがありませんでした。自分でも何かやらなきゃと思っていた時期でしたが、完全なぺーぺーでしたので、どういうゲームに落とし込んでいいのかみたいなことを、あまり理解していなかったのです。周囲の意見を参考にして取り入れていくと、今度は次第に風呂敷が広がっていき、本当に企画自体が断ち切れそうになるところまで行きました。
渡部:企画を立ち上げてから実際の開発に着手するまで1年くらい、もともとの企画もスマホじゃなかったよね。
岩野:はい。開発着手以前はPCの横スクロールのアクションRPGで構想していましたが、当時PCブラウザで流行っていたようなシミュレーションゲームの方向に舵を切りPJ発足。その後プリプロ(プリプロダクション – テスト版)の段階で「何か違うぞ…」となってしまい、結果、鎌池先生のところに「すみません、スマホのカードバトルゲームにさせてください」と渡部さんと一緒に謝りに行きました。
渡部:覚えている(笑)。
岩野:これはさすがに怒られるかなと思いました。でも鎌池さんがやりたかったことは、自分の考えた世界観やキャラクターを、より多くの方たちに読んでもらいたいとのことでしたので、その世界観やキャラクターを打ち出す機会が豊富なゲームのほうが良いとのことでスマホのカードバトルゲームとして開発することを快諾していただけました。
渡部:むしろ好都合だったんだね。
■ゲームを開発するときの“最初のきっかけ”とは
岩野:たしか渡部さんは、『拡散性ミリオンアーサー』の開発が始まった直後くらいに、スクエニをやめられましたね。改めてなのですが、理由を聞いてもよろしいですか。
渡部:DeNAに転職したときは35歳のとき。スクエニでは、部署を統括するポジションにいて、開発現場にも入ることがなく、余計に自分のなかでモヤっとするものがあり、とにかく何か発したくなってきたんだよ。もうそれが行き過ぎて、土日でラノベを書いて「電撃ラノベ大賞」に応募し、最終選考まで残ったり(笑)。
岩野:行き過ぎていますね(笑)。
渡部:ちょうど当時はソーシャルゲームバブルで、スクエニでも何本か出したけど鳴かず飛ばず。現場では、それこそソーシャルゲームを遊んでいるユーザーを調査するために、安藤さん(安藤武博氏)たちに渋谷のマックで一日張り付いて調査してもらったりもしたね。他社さんのゲームには多くのユーザーもいて、ヒットもしているけど、自社のタイトルと表面上に差があるとも思えなかった。
岩野:はい。
渡部:プロデューサーが“ユーザー動向”を理解するのは当たり前。だから、これから先もゲームプロデューサーという名刺を持って仕事することを考えたときに、いまのユーザー層を知らないままではプロデューサーとは名乗れないと思って、もう本流でやろうとDeNAに転職したのよ。だから、DeNAにはペーペーで入社。
岩野:あ、役職もなかったのですね。
渡部:転職した当時は、新卒の人から指示を受けて仕様書作ったり、ゲーム内イベントの数値設計をしたりしていた。そこから2ヵ月ほどでマネージャーになって、自分のチームから『Blood Brothers』というゲームをリリース(アメリカのGoogle Play売上ランキングで首位を獲得 - 関連記事)。
その後は、開発全体の統括や大阪支社の立ち上げを経て、ネイティブゲームアプリの開発ラインの組織作りを担い、現在に至るという感じ。ただ、結局いまマネージャーみたいなことやっているんだけどね(笑)。とはいえ、もう一度0から始めることができたのは、本当に価値がある経験だったよ。
岩野:ちなみに、いま渡部さんは開発にどれほど介入しているんですか。
渡部:もうガッツリ入っているよ。直近では『パズル戦隊デナレンジャー』のシナリオを全部ひとりで書いてる。なので開発メンバーからは締切も設定されていて、「追加シナリオはこの日までにあげてください」と指示されることも(笑)。
渡部:そうそう。恐らくアーケード以外のほとんどのプラットフォームにマスターを入れたことあるので。
岩野:実際にDeNA社内で開発する際は、やはり企画会議から始めるんですか。
渡部:うん。たとえば、「今日からゲームを作ります」というときに、はじめに何の話をするかが重要だよね。ゲームシステムやキャラクター、世界観など色々あると思うけど、いま振り返ると一番“世間話”が多い。「最近何している」「最近何はまっている」「最近困っていることは」……本当そういうところから始まる。
岩野:スクエニの企画会議でも「最近面白かったもの」という身近なものでした。
渡部:たとえば、スクエニ時代にiPodのゲーム『ソングサマナー』を開発するときも、企画会議のときに安藤さんがiPod持ってきて「俺、このカチカチと鳴る音がめっちゃ好きやねん。ゲーム動かへんのかな」という雑談をきっかけに、Appleさんに聞きに行ったのがはじまり。結局、そういう世間話や雑談をきっかけにするのが一番いいのかもしれないね。
※後編では、岩野氏や渡部氏の今後、そして「DeNAのこれからこうなる」に関する話へ。
(9月15日掲載予定)
(聞き手:スクウェア・エニックス 岩野弘明/文・構成:編集部 原孝則)
■著者 : 岩野弘明
スクウェア・エニックス第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部) プロデューサー。『乖離性ミリオンアーサー』を筆頭に、同シリーズ全体のプロデュースを担う。
岩野氏のツイッター:https://twitter.com/Iwano_Hiroaki
■スクウェア・エニックス
企業サイト
■スクエニ 安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー
■第25回「インディーズを軽視するものは敗れ去る」 (安藤)
■第24回「サバゲー人気の謎に迫る」 (岩野)
■第23回「心が折れそうなときに読む話」 (安藤)
■第22回「「がっこうぐらし」のニコ動再生数が異常な件について」 (岩野)
■第21回「打ち合わせや会議が増えたときに読む話」 (安藤)
■第20回「「ラブライブ!」の魅力ってなんだと思う?」 (岩野)
■第19回「良い作品をつくるために必要な三つのこと」 (安藤)
■第18回「スマホゲームにおけるプロデューサーの重要性」 (岩野)
■第17回「私はなぜスクエニの部長をやめたのか?」 (安藤)
■第16回「日本のスマホゲーム業界が危うい」 (岩野)
■第15回「サラリーマンクリエイターの働き方はすでに限界を迎えている」 (安藤)
■第14回「ゲームを売る上で一番大事な人」 (岩野)
■第13回「市場のピンチを知らせるクリエイターからのSOS」 (安藤)
■第12回「F2Pゲームにおける最強の商品とは?」 (岩野)
■第11回「今後どんなゲームが売れるのか、全力で考えてみた」 (安藤)
■第10回「開発初期段階で必ず決めなくてはいけないこと」 (岩野)
■第9回「これからはプラットフォームの垣根が無くなると言ってきたけど、どうも違う。という話」 (安藤)
■第8回「打席に立つために必要なこと」 (岩野)
■第7回「ほとんどのターゲット設定は間違っている」 (安藤)
■第6回「売れるゲームには◯◯がある」 (岩野)
■第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)
■第4回「IPを育てよう」 (岩野)
■第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)
■第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)
■第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)
企業サイト
■スクエニ 安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー
■第25回「インディーズを軽視するものは敗れ去る」 (安藤)
■第24回「サバゲー人気の謎に迫る」 (岩野)
■第23回「心が折れそうなときに読む話」 (安藤)
■第22回「「がっこうぐらし」のニコ動再生数が異常な件について」 (岩野)
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■第20回「「ラブライブ!」の魅力ってなんだと思う?」 (岩野)
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■第18回「スマホゲームにおけるプロデューサーの重要性」 (岩野)
■第17回「私はなぜスクエニの部長をやめたのか?」 (安藤)
■第16回「日本のスマホゲーム業界が危うい」 (岩野)
■第15回「サラリーマンクリエイターの働き方はすでに限界を迎えている」 (安藤)
■第14回「ゲームを売る上で一番大事な人」 (岩野)
■第13回「市場のピンチを知らせるクリエイターからのSOS」 (安藤)
■第12回「F2Pゲームにおける最強の商品とは?」 (岩野)
■第11回「今後どんなゲームが売れるのか、全力で考えてみた」 (安藤)
■第10回「開発初期段階で必ず決めなくてはいけないこと」 (岩野)
■第9回「これからはプラットフォームの垣根が無くなると言ってきたけど、どうも違う。という話」 (安藤)
■第8回「打席に立つために必要なこと」 (岩野)
■第7回「ほとんどのターゲット設定は間違っている」 (安藤)
■第6回「売れるゲームには◯◯がある」 (岩野)
■第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)
■第4回「IPを育てよう」 (岩野)
■第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)
■第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)
■第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)
会社情報
- 会社名
- 株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
- 設立
- 1999年3月
- 代表者
- 代表取締役会長 南場 智子/代表取締役社長兼CEO 岡村 信悟
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上収益1367億3300万円、営業損益282億7000万円の赤字、税引前損益281億3000万円の赤字、最終損益286億8200万円の赤字(2024年3月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 2432
会社情報
- 会社名
- 株式会社スクウェア・エニックス
- 設立
- 2008年10月
- 代表者
- 代表取締役社長 桐生 隆司
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)