【連載】安藤・岩野の「これからこうなる!」 - 第29回「続・エニックス創業者福嶋康博さんが教えてくれたエンタメの真髄」
【「これからこうなる!」は毎週火曜日12時頃に更新】
メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。
今回の担当:安藤武博氏
■第29回「続・エニックス創業者福嶋康博さんが教えてくれたエンタメの真髄」
【前回記事】
■第27回「エニックス創業者の福嶋康博さんが教えてくれたエンタメの神髄」
前回に引き続き株式会社エニックスを起業された福嶋さんに教えて貰った話を書きます。エンタメ業界でナンバーワンを獲るために必要な思想は今回も独特のものです。
市場がすでに飽和状態になっており、なかなかヒットが出にくい状況はよく起こることです。まさに現在のスマートフォン市場もそうですね。いわゆるレッドオーシャンになっている場合に一位を狙うためにどうしたらよいのか? 福嶋さんはこう語ってくれました。
■ライバルが多い場合、自分で市場をつくってそこで一位を獲れ
みんなと同じことをせずに、市場は小さくても良いので「新たなマーケット」をつくりだし、そこで「新しいもの」「当たると大きいもの」をつくってナンバーワンの地位を獲れということです。市場は自分でつくる「磁場」と言い換えてもいいです。まずはじめは小さくてもその後その市場が「拡大」した場合、先行者がそのままポジションを保つ可能性が高いと言うのです。
私個人の経験で行くとiPod専用ゲームのプロデュースがまさにそれでした。2008年当時にiPod向けゲームの市場はごく小さいものでしたが、そこで唯一無二の専用RPG『ソングサマナー』を製作してナンバーワンの磁場をつくりました。唯一とは福嶋イズムで言うところの「新しいもの」になります。この作品は30万本ほど売れましたが、もっと売れたiPodゲームもあったはずです。しかし多くは他のプラットフォームでも遊べるものでした。『ソングサマナー』は似たようなものがない時点でライバル不在、そういった意味でナンバーワンなのです。最初はこれでもいいのです。
結果iPodに電話の機能がつきiPhoneとなり市場が一気呵成に「拡大」しました。このときiPodのゲームをつくっていたポジションが大いに活き『ケイオスリングス』が日米の売り上げランキングで同時に一位になりました。このボールが岩野プロデューサーまで繋がり、彼が『ミリオンアーサー』シリーズを仕上げて今日に至っています。
またスクエニは相当後発で漫画事業に参入して成功させています。この成功は出版業界の奇跡と呼ばれる程で、とにかく強力なライバルばかりの市場でした。1991年に月刊少年ガンガンを創刊した当時、小学館・講談社・集英社や秋田書店などの漫画雑誌とそれに紐づく有名作品の数は、まさにレッドオーシャン。そこに「ドラクエ原作の四コマ・ストーリー漫画」や「ドラゴンクエストの最新情報」を軸にあたらしい磁場をつくりあげた。
そこからじっくりと新人作家を発掘育成しオリジナルコンテンツをプロデュース。(個人的には女性漫画家の積極登用もガンガンが新規で行った特徴だと思います)ついには累計発行部数6100万部の大ヒット漫画『鋼の錬金術師』を生み出すに至っています。これも福嶋イズムのひとつだと考えています。
新しい市場と磁場を作り出すというのは、その後成功した時に奇跡と呼ばれるくらいのことです。頭がおかしいと思われることもある。他人からみて荒唐無稽な新規チャレンジは拡大して成功するまで周囲に理解されないことを意味します。当の本人にとっては孤独でつらい戦いが続きますが、福嶋さんはその状態こそが健全であると言われていると理解しています。それを裏付ける話として、彼はこのようなことも言っています。
私個人の経験で行くとiPod専用ゲームのプロデュースがまさにそれでした。2008年当時にiPod向けゲームの市場はごく小さいものでしたが、そこで唯一無二の専用RPG『ソングサマナー』を製作してナンバーワンの磁場をつくりました。唯一とは福嶋イズムで言うところの「新しいもの」になります。この作品は30万本ほど売れましたが、もっと売れたiPodゲームもあったはずです。しかし多くは他のプラットフォームでも遊べるものでした。『ソングサマナー』は似たようなものがない時点でライバル不在、そういった意味でナンバーワンなのです。最初はこれでもいいのです。
結果iPodに電話の機能がつきiPhoneとなり市場が一気呵成に「拡大」しました。このときiPodのゲームをつくっていたポジションが大いに活き『ケイオスリングス』が日米の売り上げランキングで同時に一位になりました。このボールが岩野プロデューサーまで繋がり、彼が『ミリオンアーサー』シリーズを仕上げて今日に至っています。
またスクエニは相当後発で漫画事業に参入して成功させています。この成功は出版業界の奇跡と呼ばれる程で、とにかく強力なライバルばかりの市場でした。1991年に月刊少年ガンガンを創刊した当時、小学館・講談社・集英社や秋田書店などの漫画雑誌とそれに紐づく有名作品の数は、まさにレッドオーシャン。そこに「ドラクエ原作の四コマ・ストーリー漫画」や「ドラゴンクエストの最新情報」を軸にあたらしい磁場をつくりあげた。
そこからじっくりと新人作家を発掘育成しオリジナルコンテンツをプロデュース。(個人的には女性漫画家の積極登用もガンガンが新規で行った特徴だと思います)ついには累計発行部数6100万部の大ヒット漫画『鋼の錬金術師』を生み出すに至っています。これも福嶋イズムのひとつだと考えています。
新しい市場と磁場を作り出すというのは、その後成功した時に奇跡と呼ばれるくらいのことです。頭がおかしいと思われることもある。他人からみて荒唐無稽な新規チャレンジは拡大して成功するまで周囲に理解されないことを意味します。当の本人にとっては孤独でつらい戦いが続きますが、福嶋さんはその状態こそが健全であると言われていると理解しています。それを裏付ける話として、彼はこのようなことも言っています。
■会議で全員が積極的に賛成したプロジェクトは疑え(やめたほうがいい)
転じて、強烈な反対者がいる。
理解をなかなか得難い内容である。しかし、当たると大きい。こういうプロジェクトは推進しろということでもあります。会社組織においての議決執行者としてもっとも偉かった人がこう言っている。きっと福嶋さん自身、絶対当たらないと思っていたものが大当たりしたり、会議メンバー全員が「これはいける」と考えたものが大外れした経験をお持ちなんだと思います。実際エンターテインメント業界はそういうものです。
そんなイズムが継承された会社で私も長年思い切りチャレンジをさせてもらいました。ゲームプロデュース自体がよくわかっていなかった20代は、ただただ孤独を感じていましたが、実はそういった挑戦をさせてもらっていること自体が、手厚いサポートだったのです。会社を辞めたタイミングで振り返ると、よく理解できます。
新しい磁場をつくろうとして孤独に戦っているみなさん、それは「これから」ヒット作を生み出すプロセスの中で実に健全な状態です。へこたれずに続けていきましょうね。それでは!
■著者 : 安藤武博
ゲームプロデューサー。過去スクウェア・エニックスにて、1998年からコンシューマーゲームやスマートフォンゲーム事業に携わり、スマホ事業ではF2P/売り切り型を問わず『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、複数のヒット作を生み出す。2015年9月にスクエニを退社し独立起業。ゲームプロデュースとメディア事業を手がける株式会社シシララを設立。ゲームDJとしても新たな挑戦をはじめている。
公式ツイッター:https://twitter.com/takehiro_ando
公式Facebook:https://www.facebook.com/andot.official?fref=ts
■スクエニ 安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー
■第28回「恋活アプリ体験談」 (岩野)
■第27回「エニックス創業者の福嶋康博さんが教えてくれたエンタメの真髄」 (安藤)
■DeNA執行役員・渡部氏による対談企画…後編「DeNAが目指す次のステップ」 (岩野)
■第26回「スクエニで最もプレゼンがうまいと言われたおれが極意を教えよう」 (安藤)
■DeNA執行役員・渡部氏による対談企画…前編『ミリオンアーサー』の誕生秘話とは (岩野)
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■第22回「「がっこうぐらし」のニコ動再生数が異常な件について」 (岩野)
■第21回「打ち合わせや会議が増えたときに読む話」 (安藤)
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■第19回「良い作品をつくるために必要な三つのこと」 (安藤)
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■第17回「私はなぜスクエニの部長をやめたのか?」 (安藤)
■第16回「日本のスマホゲーム業界が危うい」 (岩野)
■第15回「サラリーマンクリエイターの働き方はすでに限界を迎えている」 (安藤)
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■第13回「市場のピンチを知らせるクリエイターからのSOS」 (安藤)
■第12回「F2Pゲームにおける最強の商品とは?」 (岩野)
■第11回「今後どんなゲームが売れるのか、全力で考えてみた」 (安藤)
■第10回「開発初期段階で必ず決めなくてはいけないこと」 (岩野)
■第9回「これからはプラットフォームの垣根が無くなると言ってきたけど、どうも違う。という話」 (安藤)
■第8回「打席に立つために必要なこと」 (岩野)
■第7回「ほとんどのターゲット設定は間違っている」 (安藤)
■第6回「売れるゲームには◯◯がある」 (岩野)
■第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)
■第4回「IPを育てよう」 (岩野)
■第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)
■第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)
■第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)