【「これからこうなる!」は毎週火曜日12時頃に更新】
メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。
今回の担当:岩野弘明氏
■第34回「「物語シリーズ」に見る魅力的なキャラの作り方」
「終物語」第7話を見ていて改めて思ったのですが、やはりこの作品は濃いキャラが多く、そのキャラの魅力が作品全体の魅力となっていますね。
この作品は二次元コンテンツの中でも屈指のキャラの魅力を持っていると思っているのですが、対してゲーム、特にモバイルゲームというメディアのコンテンツの多くは、アニメや漫画、ラノベといった他メディアのコンテンツ群と比べ、キャラの魅力が薄いように思います。
それは、ゲームならばインタラクティブなゲーム体験、アニメや漫画なら物語性といったように、そのメディアの主となる楽しみ方に違いがある上に、特にモバイルゲームの場合短時間で遊びの面白ポイントに触れてもらわなくてはならない性質上、キャラの魅力を底上げするための物語性が薄くなりがち(※)だからということが一因だと思います。
(※)なお、キャラの魅力を見せることが一番の面白ポイントになるゲームもありますので、そういったものは例外だと思います。
とはいえ、ゲームはゲームで魅力的なキャラが増えた方がよりゲームを楽しむことができると思いますので、キャラそのものの魅力を高めるべく、今回は「物語シリーズ」を参考に魅力的なキャラ作りの方法を考えていきたいと思います。特に今は、ただゲームを作るだけでは埋もれてしまう市場ですから、キャラの魅力を高め、その魅力を元に広がりを見せていく、ということを狙うくらいでないと勝てないです。
■キャラの魅力の構成要素
個人的に、キャラの魅力は「外見」「内面」「名前」そしてそれらが合わさった時の「セット効果」で表現されると思っているのですが、「物語シリーズ」のキャラはどのキャラもそれが非常に効果的に設定されています。
というわけで、物語シリーズの中でも指折りの良キャラで私も大好きな「忍野忍」というキャラを例にこのキャラがどんな魅力的な作りになっているのかを見ていきたいと思います。
<外見>
ワンピースを着た金髪少女。それだけなら他にもいそうなものですが、このキャラのすごいところは2つあります。
1つは、ロングの毛先が大きく外はねしているという点。ただのロングだと埋もれてしまいがちですが、この外はねがあることでとても気になる髪型になります。また、初登場時こそおとなしいものの、話が進むにつれ愉快な性格が露わになっていき、その性格とのマッチ具合も秀逸。あと実はこのキャラ吸血鬼なのですが、髪型の外はねが吸血鬼の牙とか翼みたいなトゲトゲしたイメージに合っていますし、すごく特徴的なので、デフォルメ絵にした際も特徴を出しやすく描きやすいです。
2つ目は、ゴーグル付きのメットを被っていること。ワンピースにメットというあまりに不釣り合いなこの出で立ちに違和感というか不思議な感じを覚えるのですが、怪奇モノである作品の空気や無表情で物静かななんとも怪しげなこのキャラの雰囲気と相まって、えもいわれぬ魅力となっています。
また一方で、子供が興味本位でメットを被ってみた感じや、あるいはその逆に大人に被らされている感が、どちらも子供っぽさを強調していて、キャラそのものの不思議な雰囲気と、子供っぽく見える衣装とのちぐはぐさによるギャップ効果ですごく魅力的に見えます。
<内面>
外見は少女ですが、中身は数百年を生きる吸血鬼で、しゃべり方も古風です。つまり「ロリババア」です。ロリババアとは、外見は少女なのに、実年齢は大人だったりしゃべり方が古風なキャラのことで、そのギャップが魅力のキャラ属性です。ロリではないかもしれませんが、「狼と香辛料」のホロなんかも見た目は若いのにしゃべり方が古風でとても人気がありましたね。あと、「幽遊白書」の玄海婆さんが若返った時にはあまりの衝撃に思わずときめいてしまいました。
また、そんな実年齢が高いにもかかわらずドーナツが大好きでドーナツを前にするとテンションが上がってしまったり、現代の流行りのしゃべり方を取り入れようとするも元の古風なしゃべり方と合わさって変な感じになったりするのもこのキャラの魅力です。
<名前>
前から読んでも後ろから読んでも忍野忍の忍ちゃんですが、実はこの名前は仮の名前で、本当の名前は「キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード」と言います。
はじめて小説でこの名前を見た時は、もう厨二かっこよすぎて卒倒しそうなくらいの衝撃を受けたのですが、実は「ハートアンダーブレード」の部分が、「刃の下に心あり」ということで忍の名前にかかっているんですね。キャラの性質がそのまま名前に現れていて納得感がある。この辺の言葉遊び文字遊びの素晴らしさは流石は西尾維新大先生といったところですね!
<セット効果>
先述の通り、ロリババアが大きな魅力であるこの忍ちゃんですが、ワンピース少女にメット、ババアなのにドーナツでテンションMAX、ババアなのに厨二ネーム、などなど数々のギャップ要素で身を固めているギャップ効果の権化です。
外見・内面・名前といったそれぞれのキャラ構成要素を組み合わせて、グッとくるギャップ効果を出していくことで、ひとつひとつのキャラの魅力が掛け算となってさらに高い魅力を醸し出していくのがセット効果の本質。
■さらに押さえておきたいキャラの魅力の出し方
さらにキャラの魅力を引き立てるのが「シチュエーション」です。「◯◯なシチュエーションで、このキャラはどんな反応をする?」ということを見せることで、そのキャラのもつ意外な魅力が引き出されていきます。
忍ちゃんを例に出すと、「Q.ドーナツ屋さんに連れて行った時どんな反応をする?」 「A.テンションが上がりすぎてショーケースに張り付き「ぱないのぅ!」という言葉を発してしまう」みたいなことです。それまで「殺すぞ」とか平気で言ってたキャラがマタタビを与えた猫のように豹変する。そんな意外な一面を見せられるのがシチュエーション効果。
このシチュエーション効果をうまいこと使ってキャラの魅力を高めているコンテンツはゲームにもありまして、それが「ラブライブ!」や「デレステ」といったアイドルゲームです。いかに3D全盛の時代となろうとも、ブロマイド写真のように様々なシチュエーションの一幕を切り取ってキャラの魅力を伝えられるキャライラストというのは、ことアイドルゲームにおいては必須要素なのかもしれません。
■魅力的なキャラがIPを作る
このように、キャラが魅力的であればそれが心に残って長くそのコンテンツを愛してくれます。IP化というのは得てしてこうやって出来上がっていくもので、長く愛されているIPには必ず魅力的なキャラが存在します。
いよいよスマホ市場においてもIPの波が押し寄せており、今年のヒットゲームの多くもIPものが占めているかと思います。IPというのは固定のファンが存在するので、オリジナルものよりも圧倒的に有利です。しかし、IPを借りると利幅も狭いですし、何より監修などの調整が大変。なので、自分たちでIPを作るくらいの意気込みでやっていった方が有意義だと私は思います。もちろんそれだけやっていては危険すぎて立ち行かないと思いますが、会社や部署におけるミッションのひとつとして必ずやるべきだと思います。
IP化のために必要なのが魅力的なキャラクター。だからこそキャラの魅力を極力高めるための努力をしていきたいものです。 ではでは今日はこの辺で!
P.S.
シチュエーションイラストといえば、私は「モバマス」の、スカイダイビングをさせられ涙目になっている輿水幸子のイラストが大好きです。
■著者 : 岩野弘明
スクウェア・エニックス第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部) プロデューサー。『乖離性ミリオンアーサー』を筆頭に、同シリーズ全体のプロデュースを担う。
岩野氏のツイッター:https://twitter.com/Iwano_Hiroaki
■安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー
■第33回「ヒットしたければ半径10メートルから飛び出せ!」 (安藤)
■第32回「上司と真逆のプロデューサー論」 (岩野)
■第31回「プロデューサーとディレクターの違いについて良く聞かれるので明快に答えてみた」 (安藤)
■第30回「新規アイドルゲームに未来はあるのか?」 (岩野)
■第29回「続・エニックス創業者福嶋康博さんが教えてくれたエンタメの真髄」 (安藤)
■第28回「恋活アプリ体験談」 (岩野)
■第27回「エニックス創業者の福嶋康博さんが教えてくれたエンタメの神髄」 (安藤)
■DeNA執行役員・渡部氏による対談企画…後編「DeNAが目指す次のステップ」 (岩野)
■第26回「スクエニで最もプレゼンがうまいと言われたおれが極意を教えよう」 (安藤)
■DeNA執行役員・渡部氏による対談企画…前編『ミリオンアーサー』の誕生秘話とは (岩野)
■第25回「インディーズを軽視するものは敗れ去る」 (安藤)
■第24回「サバゲー人気の謎に迫る」 (岩野)
■第23回「心が折れそうなときに読む話」 (安藤)
■第22回「「がっこうぐらし」のニコ動再生数が異常な件について」 (岩野)
■第21回「打ち合わせや会議が増えたときに読む話」 (安藤)
■第20回「「ラブライブ!」の魅力ってなんだと思う?」 (岩野)
■第19回「良い作品をつくるために必要な三つのこと」 (安藤)
■第18回「スマホゲームにおけるプロデューサーの重要性」 (岩野)
■第17回「私はなぜスクエニの部長をやめたのか?」 (安藤)
■第16回「日本のスマホゲーム業界が危うい」 (岩野)
■第15回「サラリーマンクリエイターの働き方はすでに限界を迎えている」 (安藤)
■第14回「ゲームを売る上で一番大事な人」 (岩野)
■第13回「市場のピンチを知らせるクリエイターからのSOS」 (安藤)
■第12回「F2Pゲームにおける最強の商品とは?」 (岩野)
■第11回「今後どんなゲームが売れるのか、全力で考えてみた」 (安藤)
■第10回「開発初期段階で必ず決めなくてはいけないこと」 (岩野)
■第9回「これからはプラットフォームの垣根が無くなると言ってきたけど、どうも違う。という話」 (安藤)
■第8回「打席に立つために必要なこと」 (岩野)
■第7回「ほとんどのターゲット設定は間違っている」 (安藤)
■第6回「売れるゲームには◯◯がある」 (岩野)
■第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)
■第4回「IPを育てよう」 (岩野)
■第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)
■第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)
■第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)
©西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト
会社情報
- 会社名
- 株式会社スクウェア・エニックス
- 設立
- 2008年10月
- 代表者
- 代表取締役社長 桐生 隆司
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)