【インタビュー】野球ファンに捧ぐ! 『プロ野球ロワイヤル』に盛り込まれた3つのポイントとは!? 開発の裏側まで直撃リポート(前編)

 
3月31日より配信を開始した、ディー・エヌ・エー(DeNA)<2432>のスマートフォン向け球団経営プロ野球シミュレーションゲーム『プロ野球ロワイヤル』。
 
本作は、プロ野球チームのGM(ゼネラルマネージャー)となり、人事、育成を駆使して試合での勝利を目指し、そのうえ、街づくりも行える「地域密着」型の「球団経営」シミュレーションゲーム。ゲーム内では、ドラフトでの選手獲得や街の活性化などが、地域に密着したチームの強化に繋がっていく。また、1シーズン143試合が1日で全試合行われるため、毎日、日本一への熱い戦いが楽しめる。
 
今回は、そんな『プロ野球ロワイヤル』のプロデューサーである馬場保仁氏と、ディレクターの異儀田諭氏にインタビューを実施。その内容を前後編の2回に分けてお伝えしていく。前編では、企画の発端から本格派野球ゲームとして実現したプロ野球ファンだからこそ嬉しいポイントをお届けする。
 

■プロ野球ファンによるプロ野球ファンのための"本格派"プロ野球ゲームが始動



『プロ野球ロワイヤル』プロデューサー 兼 野球ゲーム伝道師
馬場保仁氏(写真左)
 
『プロ野球ロワイヤル』ディレクター
異儀田諭氏(写真右)
 

――:まず始めに、『プロ野球ロワイヤル』企画の発端をお聞かせください。
 
馬場保仁氏(以下、馬場):スマホアプリの市場を見ても特徴ある野球ゲームをつくりたい! という想いがあり、そんな中で、チーム運用を意識した野球ゲームを作れればな……と考え企画を立案したのが始まりですね。これまでのキャリアで我々(馬場異儀田)は、コンシューマー向けの野球ゲームを長く作ってきていました。DeNAからは、2013年8月に『栄冠へのキセキ』という高校野球を題材にしたゲームをMobageでリリースさせていただいたんです(関連記事)。その頃から、いつかスマホでプロ野球ゲームを作りたいとは思っていたんですよ。パラメータやスコアなど、数字だけで結果を見せられるものではなく、個人にフューチャーして成績を残せるような実際の野球らしい野球ゲーム。弊社はプロ野球球団の横浜DeNAベイスターズ(以下、ベイスターズ)ともグループ会社ですし、その利点を活かした本格的なプロ野球ゲームが実現できるのではないかなと。
 
――:実際に動きがあったのはいつ頃からでしょうか?
 
異儀田諭氏(以下、異儀田):2年前の夏頃ですね。馬場から企画書を渡されて「これをやってくれ」と頼まれたんです。そこには「本格的な野球ゲームです」とだけ書かれていました(笑)。そこで、「本格的な野球ゲーム」とは何なのかということを考え、馬場とディスカッションを重ねて今の形に落ち着くまでにはかなりの時間を要しました。
 


馬場
:野球と聞くと試合のイメージが強いですが、「本格的な野球ゲーム」を何で担保するか? が最大のテーマでした。野球ファンが望み、今までの野球ゲームと差別化を図れるものはなんだろう? と考え、球団にフォーカスして運営するゲームを作りたいなと思いました。そうすると、まず球団が実際に行っているフロー、採用プランや育成計画を立て、試合に勝つまでの流れをサイクルにしてゲームを作るのがいいんじゃないかな? と。立ち位置は、監督? オーナー? いや、DeNAであるからこそ、ゼネラルマネジャー職(以下、GM)に(ベイスターズには高田繁さんという素晴らしいGMがいらっしゃいますし)フォーカスしてゲームを開発しよう! となりました。あとは、これら様々な要素をどういった形でゲームに入れ込むか? ゲームならではのデフォルメ表現で再現するかというとろで紆余曲折がありまして……。たくさん出されたアイデアをすべて採用するとボリュームが大きくなりすぎてしまうので、軸となる案を選んでスマホゲームのスタイルに最適化していくところに時間がかかりました。


――:その結果、どういった部分が「本格的な野球ゲーム」に繋がりましたか。
 
異儀田:私が考える"本格感"は2つあります。ひとつは、先ほども言った通り、プロ野球球団と繋がっているからこそできる、調査→研究→実現できる本物感。あとは、本物の試合日程や、本物のドラフト、日本シリーズや侍ジャパンなど、野球ファンが求めているであろうものを取り入れて実際の野球に近付けていくというところですね。この2つに関しては企画の初期段階からありました。

 
▲試合日程や日本シリーズを本物さながらに再現している。
 
馬場:とはいえ、私たちは精密なシミュレーターを作りたいわけではない、繰り返しますが、あくまでもゲームとして楽しめる! というころに落とし込んでいかなくてはいけないわけです。それに関しては、プロ野球だからこそ起きうること、プロ野球あるある的な状況を再現したいという部分がありました。本作では、ユーザーさん同士をマッチングさせ、そこにCOMが数球団混ざってリーグが形成されてシーズンが進んでいくのですが、例えば、残り何試合かになった際に自分のチームの選手が首位打者争いをしていたら、実際のプロ野球でもたまに見られる、タイトルを取らせるためにオーダーから敢えて外して率調整をするという方が出てくるかもしれません。自分のチームの選手に愛着を持って、タイトルを取らせるためにわざわざオーダーから外すというような行為はコンピュータ相手だと、そもそもその感情がうまれにくいですよね? こういった、ユーザーさん同士だからこそ生まれる感情、そこからくる読み合いや駆け引きをやってみたいと思っていました。そして、タイトルを獲ったのであれば、何かプラスとなる要素が欲しいというところでスキルを獲得できるようになっています。少し強すぎるかなという気もしますが、タイトルを獲る経験というのはそれほど凄いことなのだと。

異儀田:実際、野球ってタイトルを獲ることへの熱量が凄く高いですよね。選手はもちろん、ファンも自分の応援しているチームの選手がタイトルを獲得すれば単純に嬉しい。この体験をショートスパンでユーザーの方々に与えていきたいということで、1日で1シーズンが経過する仕様となりました。毎日、タイトルを獲る喜びやドラフトで選手が獲れなかったときの悔しさなど、一喜一憂する「感情」が生まれるようなゲームを作りたかったんです。
 


▲2時間で1ヵ月が経過するため、開幕からオフシーズンまでを毎日楽しめる。

馬場:最初は、1シーズンが終わるまで3日や1週間かけた方がいいんじゃないかという意見もありましたが、短いスパンで目標を達成していこうということ、試合以外の部分も楽しんでいただきたいとの想いから1日に凝縮しました。特に、ユーザーさん同士で行うドラフトが面白いということは過去に作っていたゲームでも感じていたところだったんです。ただ、そのときは今ほど世間にネットが普及しておらず、近くにいる人との通信プレイでしか実装できませんでした。格好良く言うと、世の中が、技術が、僕らの発想に追いついたんです(笑)。ちょっと格好つけすぎですね(苦笑)。この遊びは、遡ると、私たちが居酒屋で箸袋の裏に選手名を書き合ってドラフト遊びをしていたことが発端となっているのですが、本来はリアルタイムに不特定多数の人たちとドラフトをやりたいよねという話は当時からしていたんです。プロ野球ファンって、「俺が監督になったらこうしたい」というイメージは皆さんを持っておられると思いますので、ユーザーさん同士が駆け引きし合うところを再現したくて。そうすると、短いスパンで繰り返して回していくことが大事だと思ったんです。うまく獲得できたら満足でしょうけど、有力選手は当然かぶる……。そして、くじ引き! 負けることも、ままあると思うんです。「くそー! 来シーズンこそは!」という悔しさの感情をすぐに次のACITIONと結果につなげさせてあげるためにも、1日という単位で、「勝てば嬉しい、負けても、もういっちょ!」の感情が生まれやすいシステムにしたかったんですね。プラスの感情を生み出す仕組みをつくりたいということです。あとは、せっかくドラフトで良い選手が獲れても次の日から別のリーグになってしまうと喜びも半減してしまうじゃないですか? 大谷翔平選手(北海道日本ハムファイターズ)を5球団の競合でくじ引きで獲得! したのに、1日でリーグが変わってしまうと、「あれ? あいつのところにも、こいつのところにも、大谷くんいるぞ……orz」みたいな残念な感情を持ってしまうと思うのです。3日間、同じユーザーさんでリーグ戦を行っていることには理由があって、「あのチーム、ドラフトで有望な選手を引いたからやっぱり強いな……!」という状況をきっちりと表現したかったんです。要素の取捨選択をする際に、どういう感情をユーザーさんに与えたいか考えて、『プロ野球ロワイヤル』のコンセプトや一番大事な部分を振り返った結果、現状の仕様に落ち着いているところがありますね。

 

▲6時~22時の期間に「野球pt」を使って選手を調査することが可能で、調査に使用した野球ptの数や、他球団の調査具合によって選手の獲得確率が変動する。結果は22時以降に発表。
 
異儀田:球団経営目線になると、一番楽しいところって実はオフシーズンだったりするんですよ。来季の構想や引退する選手の穴埋めを考えるのが楽しくて。高田GMにお聞きした際も、「オフシーズンが一番忙しい!」と仰っていましたしね。1シーズンを3日にすると、ドラフトで欲しい選手が出現しても3日経たないと獲れないので熱量が下がっちゃいますよね。技術的なところも含めて乗り越えてシーズンを短く回すというところは、自分たちの中でも優先度が一番高かったところです。シーズンを回すからこそ、面白い! それが『プロ野球ロワイヤル』の面白さの大事なポイントであろう、と。

 
馬場:自分たちのマインドがしっかりあるからこそ、私たちがつくりたいのはGMのゲームだというところに立ち返れるんです。球団を運営し、獲って、育てて、チームを強くしていく。なので、戦術より戦略を如何に構築していくかという部分が肝になる。GMとなって本格的な球団経営をしながら、あなたなりの球団で戦っていこうというところが大事なところなので。
 
 

■現場の声から生まれる"本物感"




――:「プロ野球球団と繋がっているからこその本物感」というお話もありましたが、実際、その利点が活かされたポイントをお聞かせください。
 
馬場:まず、高田GMやスカウトの方、地元密着でマーケティングやイベント企画されている方々など、現場の方々にヒアリングをさせていただきました。聞いた話をそのままゲームに反映することはできないですが、デフォルメして基礎機能に入れることもあれば、今後、運営を続けていく際に「あの要素を活かしてイベントや新機能を作りたいね」という話もあります。
 
異儀田:そこは絶賛アップデート予定ですね(笑)。

 
――:今後の楽しみにということですね。実際にお話を聞いてみて、どのような印象を持たれましたか?
 
異儀田:スカウトの方には、選手の見極め方やコミュニケーションの取り方。球団内でも、GMに認めてもらわない限り、自分が目をかけてきた選手がドラフト会議の候補にも挙がらないという苦労や、それを乗り越えるための方法を聞かせていただきました。そういったリアルな現場の方の苦しみや喜びって、他ではオフのTV番組くらいでしか知りえないと思うんです。それらをゲームに盛り込んでいくことでプロ野球の面白さを伝えることも私たちの使命でもあり、こだわって作ってきたポイントでもありますので、早いタイミングのアップデートで実現させたいと考えています。
 
馬場:今、ゲームではドラフトのリストを2時間に1回更新しているのですが、リアルな現場ではさらに細かい頻度や密度でデータが更新されているんです。限られた人数のスカウトで、全国の高校野球、大学野球、社会人野球をチェックしなければいけないので、どの試合を優先して見に行くか決めるのも大変だという話でした。自分が良いと思った選手がいたらレポートを提出してGMに認めてもらわなければいけないので、スカウト間でGMの時間の奪い合いが始まるんですよ。「明日は、自分の推す選手を見に来てください!」とね。もちろん映像で資料は集めておられますが、やはり最後は、「直接見て!」となるようです。なので、年単位でのスカウトの方の頑張りも、結果につなげるためには……ということです。


▲ドラフトの候補に挙がる選手の情報は更新される。
 
――:なるほど、ドラフト前から球団の中では争いが始まっているわけですね。
 
馬場:私は今、DeNAで新卒採用の人事も兼任していますが、どの世界でも、ご縁と出会いとタイミングが大事なんだなと強く感じました。
 
異儀田:スカウトの方に話を聞かせていただいた結果、ひとりの選手にフォーカスを当てて愛していくという部分は、まだゲームの中では実現できていないと思っています。ドラフトにしても、今は知っている選手の名前が並んでいるのですが、ドラフトってそういうものではない気がしていて。能力やレアリティが高ければ良いという考えは分かる反面、そうでない感情が生まれるようなゲームにしたいと考えています。例えば、今は足りない部分があったとしても、ポテンシャルがあって、球団が数年育成すれば開花するんじゃないか? とか。先を見越しての投資、チャレンジをするということですね。チームの構成だけでなく、ひとりひとりの選手に対してもそういった感情が持てるよう、ドラフトや選手育成を行い、引退までの期間の過ごし方によって愛着を湧かせられるような仕組みを入れたいと考えています。そうすることで、我々らしいゲームになると思っています。

 
――:具体的には、どういったシステムをイメージされていますか?
 
異儀田:例えば、高校野球で優勝した投手がプロで活躍する保証はないですよね? ただ、今のうちのゲームのドラフトでは実在する選手の名前がリストアップされているので活躍するであろうことが推測しやすい。そこを、自分たちなりに活躍のさせ方をカスタマイズすることはできないかな? と思うんです。現実では長打力があってホームランを量産している選手を、自分ならこういう風に育てていきたいとか。例えば、今、★3以上の選手は引退してもスキルやアイテムを継承できるのですが、そういった点を活かして自分の球団なりの4番像を紡いでいく。チーム的な育成ができる仕組みを入れたいと思っています。
 

▲引退した選手が街に現れることも。

――:守り勝てる、打ち勝てるというようにチームカラーを出せるイメージでしょうか。
 
異儀田:チームカラーというものを今はまだ、システムでは実現できていないですが、プレイ年数を経て、引退する選手が出るからこそ、チームに根付いていくカラーがあるというのは、やれますからね。あとは、いろいろなタイプのチームが活躍できるよう、唯一解になってしまわない試合エンジンを今後の調整できっちりやっていかなければいけないと思っています。そこは先ほども馬場が言ったように、パラメータや数字だけで競うというロジックではない部分で私たちが挑戦しているところでもあります。変化球は切れるが、球の遅いピッチャー、昔であれば、星野伸之さん(阪急・オリックス~阪神。現オリックス一軍投手コーチ/通算176勝の大投手)のようなピッチャーにしっかり勝って活躍していただけるようなゲームにならない限り本物には見えない。これは、開発メンバー全員がそう思っています。
 
馬場:パラメータだけでは調整が不可能なので、スキルで補う部分もあると思います。野球選手は、たったこれだけのパラメータで表現できるほど甘くないに決まっています。ただ、数が多くなると今度はユーザーさんがわかりづらくなってしまう。だからこそ、スキルというラベルが必要になるわけです。スキルは曖昧な要素でありながらも選手に特徴を付けることができる。パラメータは低いのに、これほど結果が出るのは、このスキルがあるからだという選手を実現することができるでしょう。それこそ、先ほど異儀田が例にあげた軟投派のピッチャーの実現が良い例ですよね。理屈で見えてくる部分はあっても、実際にゲームでどうやって表現するか? 野球はある意味、データスポーツなので、理想的な順位に並ぶようにすることは凄く大事です。
 

▲☆3以上の選手は固有スキルを持っているほか、タイトル獲得やスキル継承によってパラメータを伸ばすことができる。

異儀田:まずは、成績がもっと野球らしい結果が安定して出るように、不具合を修正したうえで、チームのポリシーに対して試合で望ましい成果が得られるようなチューニングを続けていきます。
記事の後編では、開発時の苦労やこだわりについてのエピソードをお届けしていく。こちらは後日掲載。
 
(取材・文:編集部 山岡広樹)

 
 
■『プロ野球ロワイヤル』
 
一般社団法人日本野球機構承認, ©DeNA Co., Ltd.
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
https://dena.com/jp/

会社情報

会社名
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
設立
1999年3月
代表者
代表取締役会長 南場 智子/代表取締役社長兼CEO 岡村 信悟
決算期
3月
直近業績
売上収益1367億3300万円、営業損益282億7000万円の赤字、税引前損益281億3000万円の赤字、最終損益286億8200万円の赤字(2024年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
2432
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