【連載】ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- 第二十五回「思考のスタミナ」


 
株式会社ファリアー 代表取締役 社長の馬場保仁氏が、ゲーム業界の人材・採用に関して語っていく連載記事「ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN-」。同氏は、セガで家庭用ゲームの開発を、DeNAではスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任していた。ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に注力していく。開発現場・採用担当、双方の視点からゲーム業界における“人”に対してスポットをあてた連載記事。 


 

■第二十五回「思考のスタミナ」




 
これまでの活人研でも、ゲームクリエイターとして大切な素養として、
 
【活人研 第一原理】~ゲーム業界に就職するうえで大事な3つのこと~
1、諦めない心 (自身の想いのたけを「伝えきる」信念)
2、素直であること (他者の指摘をいったん受け入れる余裕、客観性)
3、ゲームに対する情熱 (一瞬でもいいので、深く熱くなった経験)

 
をあげてきました。(関連記事
 
座・芸夢やCESAでのインターンシップなどでたくさんの学生さんと接する機会をいただいていますが、その時にこの第一原理に近いものの、やや異なるもので、非常に大切な素養を1つ思い至ったので、今回はそれについて書こうと思います。

 

状況:なぜか、全部捨てる・・・

 
イベントや学校に伺うと数多くの企画や作品を拝見させていただけます。そして、それに関する意見を求められ、指導を求められます。学生のうちからプロの意見を聞けるというのは良いことだと思いますので、わたしごときの意見で申し訳ないのですが、いくつかのレイヤーにわけて質問を徹底することから、自身で考えていただくフェイズに移行できないものか?を思考し実施しています。おそらく、大学・専門学校問わず様々な企業の方々が訪問され、指導をされているとおもいますが、
基本、
 
・答えは言わない
・自分で考えてほしい、成長してほしいから

 
という心づもりでやられていると思います。

で、項目的な指摘をすることもあれば、レイヤーの高い考え方の話をされることもあれば、誤字脱字の指摘をされる方もいることでしょう。ゲームをつくっている(できれば、いた、は避けたい)プロからの意見は、やはり、尊重したほうがいいですが、やや劇薬であることもあります。なので、現場の先生方が横について聞いていて、あとで「何からやればいいのか?」を整理してあげていただきたいです。それくらいに、指導する際には、1dayなので、どうしても、
 
・正論
・あるべき論
・これまでの経験を踏まえた偏った意見

など
 
いろんなことが玉石混交で学生にぶつけられます。これをすべてさばいて有効に活用できる学生は、まずいないと思います。プロでも、時折ふらりとあらわれる、これまでの経緯を知らない上司や、それこそ、2,3ヶ月に一回の報告会議での経営陣からの指摘などを受けて混乱して、さばききれないか、もしくは遅れてでも全部対応しようとする愚行がなされるか?みたいな感じで、やはり、うまくいかないことを嫌というほど見てきました(笑)。

プロですら難しいものを、アマチュアである学生たちの力だけで、さばききれるほど、ゲーム開発は楽でも、甘くもありません。ここは先生方のお力をお借りしたいところです。

さて、そういう中で、気をつけつつ、いいところを見つけて褒めて、且つ、そこを広げにいく話や、3,4個気になる課題をより具体的にPICKアップして、次回までの宿題!とすることが多いです。
で・す・が・・・そうなると、なぜか、次に2週間、1ヶ月後に同じチームのものを拝見すると、
 
全く違う企画になっている!!
 
と、いうことを多くの指導に行かれている方は経験されているのではないでしょうか?
「いいところ」は間違いなくあった、たしかに「修正、改善、考え直さないといけない」ポイントも、いくつかあった。だから、そこが宿題になっていたはず・・・なのに、なぜか、まったくそれらがなくなり、ゼロベースでまた始まっている!?というケースに、ですね・・・なぜ?どうして、あれをやめたの?と聞くと、たいていが
 
「指摘されたところの宿題を考えていたけど、うまい解決案がうかばなかったのでこの企画は、ダメだと思ったんです」
 
という回答が多く、なので、全部やり直した、と言われるわけです。でも、時間は使っちゃってるんですよね。そして、またゼロからプロに見てもらうことになるわけです。大抵の場合は、振り出しに戻っていますし、前回と同じようにまたポテンシャルを評価はされつつも(講師の皆さんも優しいので)、やや厳しい、課題となるところを指摘されて、同様に宿題が出るわけです。

そして、実は、これが繰り返される、と・・・コンテスト用の企画なども、こんな感じで、4ヶ月も開発期間あるのに、みな、運良く企画が早々に思いつかない限りは、立案だけで、時間を浪費してしまっているのではないかと思うのです・・・

なので、肝心の製作期間が短くなり、完成できない、クオリティを高められない、などになってしまっていると思います。
 
たしかに、ものにならないものは、早々に切り上げて、次にいった方がいいときもあります。ですが、この紹介しているケースの場合、「宿題」を課されているわけで、且つ、まだ、没宣告がされたわけでもないのです。だからこそ、学校の先生方には、あと少しだけ「寄り添う」ことをお願いしたいところではあります。

単純に、優しくするとか、褒めるとか、物理的にすごく時間を一緒に過ごす(できたらいいですけどね。そんなに先生方暇ではないですからね)とかではありません。どちらかといえば、仕事の進行、PM的な活動に終始して、いつまでに、なにを、誰に判断してもらうために、つくるのか?考えるのか?などを徹底していただきたいのです。

学生だけではそれが厳しいために、
 
・情報量の過多
・整理する能力の低さ
・意思決定のフローの脆弱さ

など
 
から、「もうやめた」というやや短絡的なGOALに寄ってしまっているのではないか?と思います。学生たちが自分たちでやれることも、まだまだありますが(それはこのあと書きます)、学校としてやれることもまだあると思いますので、頑張ってください!
何を達成するために、何を目標・目的として仕事をするか?を身を持って教えていただきたいと思います。
 
 

課題と解決法: 「思考のスタミナ」をつけよう!

 
企画を立案するときに、息詰まる壁としては・・・
 
①そもそも、アイデアを大量に生み出せない
→なので、結果、たいしたGOALにたどり着けない、自分たちも自信がない
 
②アイデアは出たが、情報や優先度を整理できない
→なので、結果、指摘を受けると「批判、だめだし」と捉え、自信がないので、やめる
 
③自分たちを狂信的に信じて、作り始めたがすぐ行き詰まる
→コンセプトや、軸足となる「このゲームは××が面白い」と少ない言葉で言い切るだけのものを考えきれていないので、コアがないために、ブレる。途中で空中分解しやすい・・・
 
といったようなケースが散見されます。

上述した「先生方のサポートを受ける」ことを前提としても、やはり、この①②③は発生します。なぜなら、先生方も忙しいので決してチームメンバーではありませんし、そもそもは、ある程度は自分たちで考えてから、批評、指摘されてほしいと思っておられるからです。ただ1つ考え違いしてはいけないのは、
 
「自分たちで考える方法を知っているならば、自走させることによって成長は促せる」が、
「考える、うみだす、方法論を1つも教えられていない、はいはいの状態では立ち上がれない」ということです。
 
なので、ここは、学生たちの状況、レベルを先生がしっかりと把握された上で関わらないといけないということになります。なので、審査や指導にこられる講師の皆さんにも、そこはちゃんとことわりとして、事前に情報を共有してから接していただくと良いかと思います。
 
「まだ、1年生なんで、ほどほどで・・・」とかではなく、「1年生のこの時期までに、学校で教えているゲームデザインの手法は、■■だけです。そこを考慮して、更なる方法論を教えていただくか、指導の範囲をご検討下さい」くらいに事前情報を提供されたら、それは、あとはそれを理解して、どうすすめるか?の講師側の能力の問題になると思います(笑)。

プロとしてつくっているから=教えられる という甘いものでもないので、もし、現役のプロが学校に教えに来たり、学校への第二の人生目指しての転職を考えておられる方などは、しっかり勉強されることをおすすめしますし、どうしていいのかわからない、とかであれば、わたくし(株式会社ファリアーの馬場)までご相談ください(笑)。
 
さて、話戻りまして、思考のスタミナとは、なんなのか?それは、
 
諦めずに考え抜く力
 
だと思っています。ただ、考えるだけではありません。
 
・なんらかの方法で、アイデアという因子を、ひたすら生み出す力
→ 薄い中からコアを生み出すのは困難(or運)
・情報、状況を整理する力
→ これがないと、アイデア因子だけ増えても、混乱しかない
・点でなく線で考える力
→ 1つ1つのギミック案で止まっていると、広がらないし、ゲームとしてサイクルしない
・最終的な本質にたどり着く力
→ このゲームのコンセプト(プレイヤーを揺り動かす感情)や、何が面白いのか?
など
 
を踏まえたうえで、それらをクリアしていくプロセスを、ざっくばらんにまとめて言うと「考える」「考え抜く」ということになります。なので、そのためには、「武器」を持たずには、なしえません。ここで言う「武器」とは、「方法論」のことをさします。
 
・アイデアを量産する方法論
→例)中村隆之さん考案の「EMS Framework」の基本構造を活用してのアイデア量産
・情報、状況を整理する方法論
→例)古くは、KJ法A型
・点でなく線で考える力
→例)少し前では、マインドマップや、ゲームに特化すると、
 EMS Framework の 応用構造~手段目的構造化
・最終的な本質にたどり着く力
→ここは、いろいろいま考案されつつあります。
 
などが、挙げられると思います。どれも非常に優れたものですが、逆に教える人は、これを安直に実行するだけでなく、自分がより深く習熟しないと教えることは難しいでしょう。

プロが伝統的に、直感的にやっていることを、より、誰でもやりやすいワークショップ、フレームワークに落としこんでいっていただけている今、というときは非常に恵まれた時だと思います。あとは・・・
 
「考え抜いたあとは、とっととスピードもって作ってみよう!」
 
です。今回の回で言いたいことは、「思考のスタミナ」をつけよう!ですが、その次のステップとして大切なのは、スクラップ&ビルド、トライ&エラーを何度も繰り返すための、作る(手を動かす)スピードをあげること、
 
「つくる勇気、壊す勇気、そしてスピード」
 
について、別の機会に記そうと思います。
今回は、これまで!
 


■著者 : 馬場保仁
株式会社ファリアー 代表取締役社長。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。その後DeNAにてスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任。現在は、ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。



■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー

第二十四回「出て行く勇気」

第二十三回「個人でつくる・集団でつくる」

第二十二回「指摘される勇気、指摘する気遣い」

第二十一回「どこを見るか? どう採るか?」

第二十回「100%の力を発揮するために……」

第十九回「まずは、”伝える”ことから始めよう!」

第十八回「カード少なく勝負に挑まない」

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【後編】(第十七回)

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【前編】(第十七回)

第十六回「新人事始」

第十五回「就職活動にみられる地方格差」

第十四回「【思いやり】の向こう側

第十三回「仕事選び 〜成長・夢・時間〜

第十二回「本当にそれは、ゲームに必要か?」

第十一回「ハッカソンの功罪」

第十回「会社選びと成長(プロ、アマ問わず)」

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【後編】(第九回)

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【前編】(第八回)

第七回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」

第六回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【後編】(第五回)

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【前編】(第四回)

第三回「若手のチャンスとキャリアパス」

第二回「企業×学校×学生」

第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」