【年始企画】ミクシィXFLAG スタジオ総監督の木村弘毅氏インタビュー 2016年はアプリで完結した遊びから「アプリを超えたエンターテインメントに進化した年」に
スマートフォンアプリ業界に身を置く方々に話を伺い、2016年の市場動向と2017年のトレンドを読み解く年始恒例企画「ゲームアプリ市場のキーマンに訊く2016-2017」。今回は、株式会社ミクシィ<2121>XFLAG スタジオ総監督の木村弘毅氏(写真)にインタビューを行い、2016年のゲームアプリ市場とともに、XFLAG PARK 2016やモンスト物産展の開催、劇場版アニメ「モンスターストライクTHE MOVIE はじまりの場所へ」の公開も記憶に新しいXFLAGの2016年の取り組みを振り返ってもらいつつ、2017年の展望について語ってもらった。
――:本日はよろしくお願いいたします。2016年を振り返ってみて全体としての感想はいかがですか。
2016年のスマホアプリ市場は閉塞感が見られた中にも、いろいろなアプローチがあった年だと思います。例えば、『ポケモンGO』のリリースがあり、新しい遊び方のゲームアプリも生まれてきました。
――:『ポケモンGO』のリリースは2016年を象徴する出来事だったと思います。御社のゲームへの影響はあったのでしょうか。
『ポケモンGO』のリリースは我々にとってもすごく大きかったと思います。もちろん自分たちでがんばっている部分もあると思いますが、『モンスターストライク(以下、モンスト)』のアクティブユーザーのベースが一気にあがりました。これは今までスマートフォンゲームに興味を抱かなかった人が『ポケモンGO』や『スーパーマリオ』のようなIPがスマホゲームででるということで、特に年齢が上の方などにスマートフォンゲーム自体を見直した人が多かったのではないかと思っています。
――:最近のスマホゲームはグラフィックもすごく綺麗になっていますし、驚いた人も多かったかもしれません。
我々の立場からすれば、競合といえば競合にあたるのでもろ手を挙げて歓迎というわけにもいかず、弊社ももっとがんばらなければいけないと感じさせられました。現在幸いにも『モンスト』は国内のアプリ市場でトップシェアの立場をとらせていただいていますが、市場自体が大きく伸びることは自分たちのユーザも増えることにも繋がります。市場自体がさらに成長していくほうが圧倒的に優先されるべきことだと思うので、そういう意味では『ポケモンGO』のリリースは業界全体にとっても良かったと思っています。
――:市場に閉塞感が見られたということでしたが、市場は成長しているのでしょうか。
市場規模については、間違いなく成長していると思います。スマートフォンのスペックも徐々にあがっていますし、ゲームのジャンルも少しずつ増えています。少しずつは成長していると思いますが、一方でまだまだこんなものではないとも思っています。エンターテインメント産業としてみると、もっと大きなバジェットが動くものだと思っています。
スマホゲーム市場はまだ1兆円くらいの規模だと思いますが、スポーツなど他のエンターテインメント産業は何兆円もの規模があります。僕らも含め新たなチャレンジをすることで、もっと違うスケールの大きな市場になっていくと思っています。そういう意味では物足りない成長だったと思いますが、拡大の兆しは十分感じられた一年だったと言えます。
――:2016年はIPタイトルが強かったですが、初動は良くてその後に勢いが落ちるタイトルも多かったと思います。その要因はどのようなものが考えられるのでしょうか?
スマートフォンのゲームは、遊んでいる人が多いほどコンテンツとして成長もしていくし、やめにくくなります。これは弊社がSNS「mixi」を運営し始めたときから痛感していることです。すでにスマートフォンゲームはLINEやInstagram、Twitterなどのインターネットコミュニティやメディアの一種になってきています。例えば、別の進化系統ですが、魚類とイルカの姿が似てきたようなものかもしれません。
これまで、コンシューマーゲームでは、ドラクエをやった人がFFもやっていました。似たようなゲーム性で出してもある程度はヒットが見込めるのがコンシューマーゲームの市場でした。一方でスマートフォンゲームの市場は、ずっと運営するコミュニティのような市場になっているのでやめにくくなっています。
また、インターネットサービスでは、現状AmazonやUBERなどそのカテゴリーではひとつしか生き残らない、独り勝ちの市場になっている印象は否めません。ここには、エリアマーケティングは成立しないのではないかと。アプリを出せば世界中に配信されるので、その特徴は如実に出ています。新しいIPのゲームをちょっと遊んでみたけど、やっぱり今まで遊んでいたゲームに戻ってしまうというものがメカニズムとして強烈にあることを再認識した1年でした。
さらに、後発のサービスにスイッチさせるためのスイッチングコストはとても大きくなっています。例えば『モンスト』と似たゲームシステムを出しても、最終的にはそれなら『モンスト』で良いよね、となります。新作でヒットを狙う場合、今までとは全く違うエンターテインメントを創出していく必要があると思います。
――:XFLAG スタジオとして2016年を振り返ってみての感想はいかがですか。
XFLAG スタジオについて言うと、ゲームの中だけにはとどまらない体験型の遊びに経済圏が派生していった一年でした。今まではアプリの中だけで閉じていた遊びが、アプリの中だけにとどまらずにイベントなどリアルなエンターテインメントに進化したことは、2016年を大きく象徴するのではないでしょうか。例えば、以前から取り組みをしていたYouTubeのアニメが2016年の8月時点で世界累計再生回数で約1億回を突破したこともあり、本当の意味で「YouTubeアニメ元年」ともいえるくらいに市民権を得た年でした。
――:YouTubeアニメとゲームアプリとの関係はどのような形になっているとお考えですか。
切っても切り離せない存在になっていると思います。スマートフォンゲームは容量などスペックの限界もあるので、キャラクターの背景や、物語として伝えなければならない友情、みんなで遊ぶ楽しさなどは十分に伝えきれていません。そこを補完する意味で、アニメの役割はとても大きかったと思います。
ビジネスモデルという視点でも、我々はいろいろなコラボをやっていますが、アニメで公開したキャラクターは他のコラボのキャラクターと比較しても、ゲーム内でも非常に人気があります。我々は自分たちでアニメやメディアを作っていますが、そこで生まれたキャラクターがゲームのなかでも受け入れられるようなビジネスモデルも成立するということに手応えを得た一年でした。
劇場版アニメ「モンスターストライクTHE MOVIE はじまりの場所へ」の映画も公開初日と翌日の初動で動員数1位をいただいていますが、映画によってゲームのアクティブユーザーも伸びています。ゲームの中だけに閉じていないコンテンツやビジネスモデルがつくれたことは、我々が2016年に得た大きな成果だと思っています。
――:この成果は初めから意図していたものなのでしょうか?
構想としてはありましたが、予想以上でした。アニメを作る、YouTubeで流す、多くの方に見ていただける、キャラクターやストーリーに愛着をもってもらう、そしてそのキャラクターがゲーム内に登場して受け入れられる、コマースでキャラクターグッズを販売するという新たなビジネスモデルが確立できました。インターネットを使ったIPビジネスの夜明けが2016年だったともいえるかもしれません。
コマースでいうとアニメで登場したキャラクターのグッズは品切れになることも多かったです。例えばアニメに登場する「オラゴン」はゲーム内ではそれほど強いキャラでもなく、ほぼアニメでしか訴求していませんでしたが、認知も高くローソンのからあげクンとのコラボはとても好評でした。テレビではなくインターネットの動画でのみ公開しているキャラクターでも認知がとても高いことがわかり、そういう意味でもアニメの影響力を思い知りました。
――:最初にアニメと聞いた時はテレビアニメかと思っていました。
いまのお子様は、私たちの世代ほどテレビをみないのかなと思います。テレビのタレントよりもYouTuberが好きだったり、テレビよりもインターネットの動画を見たりすることが当たり前です。もちろんテレビにはメジャー感がでて箔が付くなどのメリットもありますが、より多くの子どもたちにアニメを見てもらわないと意味がありません。
――:今年はXFLAG PARK 2016というかなり大規模なイベントも実施されましたね。かなり冒険的なイベントのように見えました。
そうですね。XFLAG PARK 2016は新たな試みでした。大道芸やサーカス、ロックバンドのライブやオーケストラなどはほとんど直接ゲームに関係するコンテンツではありませんが、XFLAG PARK 2016の評価は上々だったと思っています。
実は新しいXFLAGのロゴには「B.B.Q」と文字が入っています。これは単純にゲームやアニメを作るスタジオということではなく、屋外で楽しむバーベキューのように友達や家族と集まってわいわいと熱く盛り上がれる空間や場所を創ることを目指しています。ゲーム好きしか楽しめないイベントだと友達を誘いにくいかなと思い、『モンスト』をご存知のない方にも楽しんでもらえるコンテンツ作りを目指しました。
XFLAG PARK 2016にはかなり手ごたえも感じていて、同様のショウビジネスにも2017年は力を入れていきます。例えば、公演の回数を増やすだけでなく、地方などの幕張以外の場所で開催することも考えています。
――:私も実際にそれぞれのアトラクションを会場で見てとてもクオリティが高いと感じました。
いわゆるゲームのファンイベントというよりはフェスやサーカスの講演のような、まさにXFLAG PARK 2016はエンターテインメント空間を目指しました。
スマートフォンのゲームは表現力に限界があるのでIP化しにくいですし、ただ単にスマートフォンゲームのIPを使ってショウを行っただけでは、いらした方が感情移入できないでしょう。しかし、スマートフォンゲームだけではなく、アニメなどできちんと物語を補完して、感情移入してもらえれば、コンシューマーゲームや少年漫画誌からアニメ化したものでなくても、愛されるコンテンツがきちんとつくれることがわかりました。
――:2016年はモンスト物産展を各地で開催して大盛況でしたね。
来場者にお母さんと小さな子どもの親子連れの姿が見られたことが、特に興味深く、印象的でした。YouTubeのアニメを見ていただいている子ども向けに、オラゴンのグッズを買いに来ていただいたかたも多かったです。
▲3月に開催された「モンスト物産展」。
例えば僕の高校生の友だちの小学生の子どもが『モンスト』のファンだというのでグッズをプレゼントしたら動画を送ってきてくれてとても喜んでいました。YouTubeのアニメや映画のメインターゲットは中学生くらいに設定していたのですが、もっと下の層のファンが増えたのは想定外でとても嬉しい誤算でした。物産展に親子でいらして、オラゴンのグッズを購入いただくのもそのひとつだと思います。
インターネットでキャラクターを宣伝して、玩具やグッズを買ってもらうようなモデルもできたと思います。テレビアニメから玩具やグッズを買ってもらうモデルはもともとあったと思いますが、これがインターネットでも可能だということが見えてきました。
――:2016年はe-Sportsへの取り組みも強められたと思いますが、印象はいかがですか?
ある一定の手ごたえは感じていますが、海外ほどはできていないとも思っています。もう少し視聴者を巻き込むような仕掛けが必要です。ゲームのファンは内容を理解できるけど、ゲームの中身を知らない人は全く理解できないという課題がまだあります。その課題を解決するようなコンテンツや映像作りが求められてくるのではないかと考えています。
――:そう考えてみると、スマートフォンゲームの展開や可能性が拡大した一年だったともいえそうですね。
はい。今ではスマートフォンは多くの人のポケットやカバンの中に入っています。スマートフォンの普及や起動する人々のボリュームで考えると、既存のテレビや雑誌などのメディアをはるかに凌駕しています。それは赤く燃え滾る炭のように、少し風を吹き込めば大きく燃え上がる可能性をみんな感じています。XFLAG PARK 2016のような大きな盛り上がりも見て、改めてスマートフォンやインターネットのパワーの凄さを感じました。
――:他社ですが、「ゲームは飽きるけど友達とのコミュニケーションは飽きない」「キャラクターや世界観は触れれば触れるほど愛着が深まる」という話をよく聞きます。御社はその両方の良いところの相乗効果も出ているのかなと思いました。
私どもはバーベキューと言っているくらいなので、友達と一緒に「よっしゃ!」と熱量やテンションがたぎるようなものを提供したいと考えています。その意味でも、友達と共通で語ることができる材料となるためにも、キャラクターなどよりくっきりと描くことは重要なことだと思っています。あのキャラクターはものすごく強い、格好良いなどの話で盛り上がってもらえるように注力しています。
――:2017年に向けてどのようなことを考えているのでしょうか?
どのようなエンターテインメントショーになっていくのかという視点で考えて、新作も準備しています。
私たちが信じて疑わないのはインターネットの市場はこんなものではないことです。スマートフォンゲームの中でパイを取り合っても仕方ないと思っていますので、新たな価値を吹き込んでいくことに注力して取り組んでいきます。
――:最後に2017年の意気込みをお願いします。
そろそろ市場が拡大するような新しいものが出てくるのではないかと思っています。それが僕らのものであってほしいと切に願っていて、そのために頑張っています。
弊社は、垂直統合型のビジネスモデルで展開しています。ゲームを作るだけでなく、コマースや動画編集スタジオ、動画に出る演者やアニメスタジオの内部化、イベント運営などです。今まではスマートフォンエンターテインメントのバリューチェーンのなかで、ゲーム会社がゲームを作る、版権を貸してアニメ会社がアニメ化する、それを玩具化するような形が多かったと思いますが、僕らはそれを一気通貫してエンターテインメント体験を提供しています。
弊社がこれから出すエンターテインメントサービスは、ゲームだけで完結するのではなく、いろいろなものをミックスした新たな体験としてのエンターテインメントとして提供します。そのような意味でも新しい市場を築けるようなサービスを提供していきたいですし、しなければいけません。言うはやすしですが、僕らが思うのとは違うように物事は進んでいくものだとも思うので、臆せずにチャレンジして進んでいくのみです。
――:ありがとうございました。
会社情報
- 会社名
- 株式会社MIXI
- 設立
- 1997年11月
- 代表者
- 代表取締役社長 木村 弘毅
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高1468億6800万円、営業利益:191億7700万円、経常利益156億6900万円、最終利益70億8200万円(2024年3月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 2121