ネクソン<3659>のスマートフォン向けアクションゲーム『HIT』が好調だ。昨年12月にリリースした本作だが、累計登録者数が200万人を突破するとともに、App StoreとGoogle Playの売上ランキングでもTOP30に入るなど人気を集めている。人気の背景には、ゲームシステムはもとより、適切なカルチャライズ・ローカライズが大きかったと思われるが、ネクソンと開発元である韓国NAT GAMESではどういった取り組みを行ったのか、その舞台裏に迫った。今回、ネクソン モバイル事業本部 本部長のキム・キハン氏(写真左)、NAT GAMES CEOのパク・ヨンヒョン氏(写真中央)、グローバルスタジオ プロデューサーのホン・スンミョン氏(写真右)が取材に応じた。
『HIT』は、韓国でリリースされたのは、2015年11月だ。日本でのリリースまで実に1年以上の時間を要したことになる。言語などの日本語化のみであれば、それほど時間はかからなかったはずだ。両社では、日本での展開にあたって、「グローバルで成功を収めているタイトルなので絶対に失敗できない」(キム・キハン氏)ため、ストーリーやキャラクター、ゲームシステムなどを日本のユーザーニーズに合わせて変更したという。
両社の役割分担は、ネクソンが日本でのパブリッシング業務全般とともに、ローカライズ・カルチャライズのサポートを行った。また日本版に合わせて、シナリオライターの手配や、キャラクターボイスに関するディレクションも行った。他方、NAT GAMESは、ネクソンからのカルチャライズ・ローカライズの提案に基いて、実際の開発業務全般を担当した。
■フォーカステスト実施、ストーリー中心に変更
両社は日本リリースの準備として、「昨年の2月にユーザーを集めて実施したフォーカスグループテスト」をあげた。日本のユーザーに英語版を実際にプレイしてもらい、フィードバックをもらいつつ、どういったところに戸惑うか、楽しんでもらえているかを先入観をなくして観察することに努め、大きな成果が得られた。戦闘を中心とするアクションゲーム部分への評価は高かったものの、ストーリーや世界観への改善要望が目立ったそうだ。
▲ネクソン モバイル事業本部 本部長のキム・キハン氏
韓国版ではアクションゲームということもあり、ストーリーは大まかなものであったが、日本ユーザーからの要望に応える形でストーリーと世界観を細かく設定することにした。また日本のユーザーの特徴としてキャラへの愛着が強く、キャラとNPCとの関係性を重視する傾向もある。そこで日本のシナリオライターに世界観設定やストーリー、キャラクターの設定を依頼して作り込むことにした。この結果、新たに5人のメインキャラのストーリーが生まれ、シナリオのボリュームは実に4倍に増えた。ここで生まれた設定は、本家に逆輸入するようになった。
キャラクターデザインについても、日本向けに全て描き直すという驚くべき決断も行った。プレイアブルキャラだけでなく、NPCも対象とし、韓国版よりもキャラクター数が50%ほど多くなった。ホン・スンミョン氏は「ネクソンのアートディレクターが事細かくイラストへの指示をくれたのが良かった。日本アニメのテイストを意識したものとし、日本でも実績のあるイラストレーターを起用した」と語った。両社では、ネクソンからの提案に基いて描き、さらにフィードバックを受けて修正するというプロセスを繰り返し、6ヶ月ほどで仕上げたという。
▲アニカの韓国語版(左)と日本語版(右)
■マルチプレイ導入、ライトに遊べる仕様に
ゲームシステムについては、好評だったアクションゲーム要素は維持しつつ、日本のユーザーの好みに合わせて変更を加えていった。その最も大きな要素は、「次元の共闘」と呼ばれるマルチプレイ要素だ。韓国版ではプレイヤー同士が対戦する「PvPコンテンツ」が多く人気を博していたが、日本ではさらに協力してモンスターを討伐する要素が必要と考えたという。「PvPも含めて日本のユーザーに受け入れてもらえている。マルチプレイは、日本での反応が良かったので、韓国でも実装した」(ホン・スンミョン氏)。
▲「次元の共闘」
日本と韓国のスマホゲームユーザーのプレイスタイルの違いも考慮に入れた。「韓国のユーザーは1つのタイトルをとことん遊ぶのに対し、日本は複数のタイトルで遊ぶ。遊ばなくなってもログインだけはして、面白そうなイベントがあれば復帰する傾向がある」(キム・キハン氏)。そこで、手軽に遊べるように全体のプレイ時間を短めになるように調整した。また韓国版ではあまり行わない、ゲーム内イベントにも力を入れている(韓国版は常設コンテンツの方が人気になるそうだ)。
また、課金方式についても、韓国では装備やアイテムの詰め合わせたパッケージ商品へのニーズが強いのに対し、日本では、有料の仮想通貨「ジェム」を購入してもらい、それを使ってガチャを回してもらう方式とした。つまり、日本のスマートフォンゲームで主流の課金手法を取り入れた。韓国版でもガチャは存在しているのだが、日本ほどの人気はないそうである。
▲ホン・スンミョン氏
なお、セミナーなどの場で、海外タイトルで日本で成功した他社事例を聞くと、UI(ユーザーインターフェース)を大きく変更したケースをよくみるが、『HIT』については意外なことに、ほとんど変更しなかったそうだ。フォーカステストでUIへの戸惑いがあまりみられなかったことに加えて、グローバルでコンテンツを追加で投入するにあたって、国ごとにUIを変更するのは開発・運営上、手間がかかりすぎることもあるとのこと。
▲ロビー画面。上が韓国版、下が日本版となる。
■「予想以上に好評」 開発・運営体制整いさらなる飛躍を狙う
このように時間をかけてじっくりと準備してきたことが奏功し、リリース後、売上ランキングで上位に入り、すぐに人気タイトルの一つとなった。キム・キハン氏は「事前登録者数が想定よりも若干低かったので少し心配していたが、リリース後の反応をみて安心した」と振り返った。モバイルゲームで、PCやコンソールゲーム並みのクオリティに仕上がっていることにユーザーから驚きの声が上がったそうだ。ローカライズ、カルチャライズを施した要素も概ね好評だという。
▲パク・ヨンヒョン氏
パク・ヨンヒョン氏も「予想よりも良い状況で、驚くとともに感動した」と感想を述べつつ、運用体制を強化していく考えを示した。韓国版をリリースした時、NAT GAMESは60人体制だったのだが、現在、100人体制まで増員し、世界展開に対応できる体制が整った。今後、新キャラや武器、スキルを追加する大型アップデートとともに、ゲーム内イベントを引き続き積極的に行なう。さらに新しい動きとして、オフラインイベントも開催する予定。日本のユーザーから強い支持を受ける『HIT』だが、運営の強化でさらなる飛躍を狙う。
(編集部 木村英彦)
■『HIT』
© 2016 NEXON Korea Corporation & NAT Games, Inc. All Rights Reserved.
会社情報
- 会社名
- 株式会社ネクソン
- 設立
- 2002年12月
- 代表者
- 代表取締役社長 イ・ジョンホン(李 政憲)/代表取締役CFO 植村 士朗
- 決算期
- 12月
- 直近業績
- 売上収益4233億5600万円、営業利益1347億4500万円、最終利益706億0900万円(2023年12月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 3659