【インタビュー】事前登録からの転換率は50%以上…プロデューサー&マーケッターにきく『ミトラスフィア』を成功に導いた長期間プロモーションの舞台裏
バンク・オブ・イノベーションが8月7日に配信をスタートした『ミトラスフィア』が好調な推移を見せている。配信前の段階で事前登録者数が80万人(公式発表は70万人まで)を突破、その勢いを受けて9月には300万ダウンロードを突破した。
同社が得意とする2Dアニメーションを活かしたグラフィック、アバターやボイスを駆使したなりきりシステムなど魅力は多数あるが、本作を盛り上げた要因のひとつとして、長期間に渡るプロモーション戦略も忘れてはならない。短期間で集中的に打ち出す既存のスマートフォンアプリと違い、『ミトラスフィア』は約8ヶ月という時間をかけてじっくりとアピールしてきたのだ。
今回、本作のプロデューサーを務める清水啓之氏と、マーケティング統括室室長の五十嵐規裕氏にインタビューを行い、長期間プロモーションを行った理由と利点、スマートフォンアプリにおけるプロモーションの在り方を聞いた。
マーケティング統括室 室長
五十嵐規裕氏(写真左)
――本日はよろしくお願いします。まずはお二人の担当している業務から教えてもらえますか。
清水氏(以下、清水):『ミトラスフィア』プロデューサーの清水と申します。私は開発から運営まで総合的に見て、『ミトラスフィア』をお客様に楽しんでもらえるように日々がんばっているところです。
五十嵐氏(以下、五十嵐):僕はマーケティング統括室の室長として、バンク・オブ・イノベーションがリリースするソーシャルゲームのマーケティングの企画、実務を行っています。
――『ミトラスフィア』は事前登録80万人と、オリジナルタイトルでは好評を得ているかと思いますが、事前プロモーションで行ったことをお聞かせください。
五十嵐:前提として、そんなに特別なことはやっていません。お客様がなにを望んでいて、どんな情報を求めているかをしっかり考えて、情報提供を行っていきました。また『ミトラスフィア』を遊んだときに、どうしたら楽しんでもらえるかを考えながら企画していきました。確かに事前登録80万人というのはとても好調な数字で、たくさんの人にどんな策を講じたのか聞かれるんですけどね(笑)。
実際にやったことと言えば、他社さんでもやっている企画ばかりです。事前登録者数に応じてゲーム内アイテムを配布したり、事前登録者の中から抽選で50名に100万円分の賞品をプレゼントしたり。あとはSNSで諸条件をクリアすると報酬が手に入るというキャンペーンもあります。これらに関してはそんなに珍しいことではありません。その一方で他社さんと明らかに違ったのは、リリースの8ヶ月前から長期的なプロモーション展開を行ったことです。
▲事前登録では各SNSでの展開や多様な商品のプレゼントなどを実施。
マルチ展開をしながらも世界観をしっかり伝えるという丁寧な取り組みと言える。
――ほかのアプリですと、長くても2、3ヶ月ですもんね。
五十嵐:そうですね。基本的には1ヶ月前あたりから動き始める作品が多いです。またお客様に対する情報提供を積極的に行ったことも違うところかと思います。この8ヶ月間で発表したプレスリリースを振り返ると16本、月に2本のペースで発信していたんです。『ミトラスフィア』の情報に触れる機会を増やしたことも功を奏したのでしょう。
――長い期間をかけてプロモーションを行うことは、当初から決まっていたのですか?
清水:当初予定していたよりも3ヶ月ほど長くなりましたね。もともと、お客様に早く情報を届けていくべきだと考えていて、ゲームのコンセプトが見えてきたタイミングで随時発表する予定でした。プロモーションも同じ考えではあったものの、それでも半年前からの計画でした。
五十嵐:これはマーケッターによっても考え方が変わるポイントですね。リリースの1ヶ月前から広告やキャンペーンを打ち出して一気にアピールするやり方もあり、そちらのほうが効果を発揮するケースもあると思います。
それでも長期間に渡るプロモーションに挑戦したのは、お客様が求める情報を随時公開しようと決めたからです。『ミトラスフィア』を発表した当初はゲームシステムに関する質問が多く寄せられました。そこでゲームシステムや世界観に関するスクリーンショットや進捗状況を随時報告できるようにしたいなと。これによってお客様は、作品に対する安心感を抱いてくれたのかなと思います。
▲事前登録開始初期で公開されたスクリーンショット
――コンシューマゲームに近い情報の見せ方ですよね。
五十嵐:確かに、コンシューマと似た手法ですね。コンシューマはキービジュアルができた段階から早め早めに情報を公開していきます。以前であれば強いIPのみ効果を発揮する手法だと思われていましたが、最近ではメーカーのファンも多く存在します。そういったコアなファンの方々に向けたアプローチを重要視したのです。
――長期間のプロモーションとなると、開発とマーケッターの連携も重要になってくると思います。
清水:仰る通りです。会社が同じであっても開発とマーケッターでは考え方が微妙に異なる場合があります。その中で実現できる良い落とし所を見つけられたことが、事前登録を上手く進められた理由のひとつかと思います。
――早い段階からプレスリリースを発信するのも怖さがあったと思います。開発の遅れといった問題はどうしてもつきまといますから。
清水:実際、『ミトラスフィア』でも春から夏へと1度延期させていただいています。しかし、そういった情報も含めてしっかり公開していこうという考えがベースにあり、結果、定期的に新しい情報をお伝えすることができたと思います。
五十嵐:お客様と真摯に向き合って、コミュニケーションを重ねていこうと考えていました。クローズドβを行った際もお客様からの意見を数字とコメントの両方で伝えるようにしました。不満点も含めてしっかり公開したことで、信頼感を得られたのだと思います。
――事前登録以外では、どのようなプロモーションに注力したのでしょう。
五十嵐:「ゴー☆ジャス動画」とコラボして、ゴー☆ジャス動画メンバーに『ミトラスフィア』の中に登場してもらいました。そしてその内容を動画内で紹介してもらう企画もありました。定期的に情報を発表しようと思っても、ネタの数には限界があります。だからこそ、お客様に届けられるものをマーケッターサイドからも企画して、お客様とコミュニケーションをとることは意識していました。
清水:「ゴー☆ジャス動画」とのコラボもただのプロモーションでは終わらず、アプリのリリース後も形として残るようにしたのは意図してのことです。
五十嵐:SHOWROOMでは、「UNIDOL」に参加してもらうイベントも開催しましたね。これは「UNIDOL」の女子大生がWebCMに出演する権利をかけて映像をライブ配信するという企画で、SHOWROOMの視聴者と『ミトラスフィア』に期待するファンのコミュニケーションが生まれ、クローズドβの成功にもつながりました。
▲女子大生アイドルの大会「UNIDOL」とコラボしたオーディション。
リリース前からの動画企画にてもコミュニケーションを図っていた。
――ユーザーの求めるものをキャッチするとは言いますが、オリジナルタイトルとなると難しい部分もあったと思います。
五十嵐:ゲームのプロモーションを考えるときは、まず企画書を見て、作品の強みを探るところから始めます。『ミトラスフィア』の場合は世界観とそれを表現するイラストが一番にあって、メディアの方からの評判も良かったです。これがベースにあったおかげで、マーケティングの軸も早いタイミングで決まりましたね。実際公式サイトが世に出たときも、世界観の良さ、キャラクターのかわいさが圧倒的に支持されていました。
――世界観やイラストはもちろん、『ミトラスフィア』にはさまざまな魅力があると思います。その中でどれを出していくかは、どうやって決めていったのですか?
五十嵐:『ミトラスフィア』は世界観以外にもバトルシステムやなりきり要素もありますからね。清水は本作のことを“Re:アクションなりきりRPG”と名付けていて、私もこの言葉に魅力が集約されていると思うんです。“Re:アクションなりきりRPG”を分解すると、ファンタジーの世界でアバターを操作し、仲間とともに旅をする作品と言えます。そこの良さを伝えられる戦術を考えていきました。
▲リリース直前の発表会にても掲げていたゲームコンセプト。(関連記事)
マーケティング方針においてもこのコンセプトが徹底された。
清水:それに加えて、バンク・オブ・イノベーションは2Dアニメーションに力を入れた作品が多く、『ミトラスフィア』もその流れを汲んでいます。お客様にとっても目に飛び込んでくるビジュアルはとても重要ですから、積極的にアピールしていこうと考えていました。プロモーションに使うだけでなく公式サイトなど、お客様が触れる可能性のある場所にはイラストを配置していますし、開発メンバーも監修しているところです。
――クローズドβも行っていましたが、そもそも実施した経緯についても教えてもらえますか。
五十嵐:負荷テストとゲームバランスの調整が大きな目的でした。さらにバンク・オブ・イノベーションとしては、プロモーションという観点でも大きな存在でしたね。クローズドβの期間から生放送を行ってゴー☆ジャス動画メンバーや声優の高野麻里佳さんやスタッフ陣と一緒に遊べる機会を作って、クローズドβでありながら、参加できなかった人に対してもゲームの魅力を伝えるように心がけました。結果としてクローズドという状況でありながら「面白そう」と思ってくれる方が増えた印象はありましたね。
もうひとつ、クローズドβでのプレイを動画に撮って、SNSで公開してもらえるように促したのも本作独自の試みです。参加者の中にはYouTuberの方も何人かいて、盛り上がりの様子を自然な形で伝えてくれたのです。
――リリース前に行ってきたすべての取り組みがプロモーションにつながっていたんですね。
五十嵐:クローズドβを中心に据えつつ、動画配信やリツイートキャンペーンなどを行い、マルチに情報が発信していくようにしました。ひとつひとつを見ると特別なことはしていないのですが、すべてとなると真似しにくいかもしれませんね。
――プロモーションの企画をいろいろ教えてもらいましたが、これらはすべて最初から決まっていたのですか?
五十嵐:リリースまでの時系列の中で、盛り上げられるポイントがいくつあるかは最初から見極めていました。それが事前登録サイト公開、クローズドβ、リリース直前の3つで、少なくともこの3箇所ではなにか展開を見せようと決まっていました。
――一連のプロモーションを通して、ユーザーからの反響の変遷はいかがでしたか?
五十嵐:リリース後も引き続き世界観やキャラクターに対する評価は高いです。それだけでなくアバターの人気も高まっている印象です。広告配信を行っていても、アバターを押し出したものがクリックされやすい傾向にあります。本当に思っていた以上の反響で、こちらとしても驚いています。
事前登録からの転換率も50%以上と高いのも特徴的です。お客様が長い期間楽しみに待ってくださったこと、情報を高頻度で提供することでモチベーションを維持できたことが大きな要因だと見ています。またリリース直前に前夜祭と題した生放送を行ったり、野沢雅子さんのなりきりボイスを発表したりと、一気に盛り上がりのポイントを作ったんです。これは登録したまま忘れている人にも届くようにと考えての企画でした。
清水:一般的には期間が長くなれば転換率も低くなる傾向があると思います。ほかにも新作ゲームはたくさん出ますので、忘れられてしまうのは致し方ない面もありますが、ポイントごとに盛り上がりを作ったのが良かったんだと思います。
――『ミトラスフィア』の事前プロモーションを経験した上で、モバイルゲームの事前プロモーション、事前登録はどうあるべきだと考えますか?
五十嵐:より長期的な事前プロモーションは珍しいものではなくなっていくと思います。キャンペーンではお客様参加型、つまり一緒に盛り上がるタイプが流行ってくるのではと予想しています。お客様の数は限られているので、接点を少しでも多くして、たくさんの方の目につくことが大切です。また、興味を持ってくれた方に情報を発信することで、熱量を高めることもできます。
――一方的なプロモーションから、インタラクティブなものへ変化していくと。
五十嵐:ソーシャルゲームはお客様と共に作っていく側面が強く、マーケティングもインタラクティブであるべきです。『ミトラスフィア』では「ウパくらげ」というキャラクターのデザインコンテストをやりまして、SNSでも盛り上がりを見せました。
――清水さんは、プロデューサーという立場からなにか考えることはありますか?
清水:お客様を見ると、ひとつのゲームでさまざまな遊び方をしている印象があります。自分でプレイすることもあれば、動画で楽しむ方もいます。また五十嵐が話した、お客様参加型の企画を楽しむ方法もありますよね。ゲームを遊んでもらいたい気持ちはもちろんありますが、『ミトラスフィア』に触れていただく機会を増やすことも、今後は考えなければいけないと感じます。
――分かりました。では、『ミトラスフィア』を含めたお二人の今後の展望をお聞かせください。
五十嵐:今のお客様に引き続き喜んでもらえることを第一に、イベント運営やマーケティングを行っていきたいです。お客様からはアニメ化やコミック化といったクロスメディア展開に期待する声も届いています。そういった展開もできるよう、盛り上げていきたいですね。
清水:遊び方の幅を広げていって、お客様がもっと夢中になれるタイトルにしていきたいです。リリース当初にメンテナンスなどでご迷惑をおかけしたことも事実ですが、そういった反省も踏まえて、安定した運営ができるよう努力していきます。お客様が安心して遊べることを第一に考えていきます。
――最後に、読者に向けて一言お願いします。
五十嵐:バンク・オブ・イノベーションはお客様の満足度を高めることであれば、新しいことにもチャレンジしていきます。一緒にチャレンジしてくれる仲間も絶賛募集中ですのでよろしくお願いします。また『ミトラスフィア』の世界観に共感してくれるメーカーさんや作品があれば、積極的にコラボレーションを行っていきたいので、そちらも合わせてよろしくお願いします。
――ありがとうございました。
■『ミトラスフィア -MITRASPHERE-』
© Bank of Innovation, Inc. All rights reserved.
同社が得意とする2Dアニメーションを活かしたグラフィック、アバターやボイスを駆使したなりきりシステムなど魅力は多数あるが、本作を盛り上げた要因のひとつとして、長期間に渡るプロモーション戦略も忘れてはならない。短期間で集中的に打ち出す既存のスマートフォンアプリと違い、『ミトラスフィア』は約8ヶ月という時間をかけてじっくりとアピールしてきたのだ。
今回、本作のプロデューサーを務める清水啓之氏と、マーケティング統括室室長の五十嵐規裕氏にインタビューを行い、長期間プロモーションを行った理由と利点、スマートフォンアプリにおけるプロモーションの在り方を聞いた。
■『ミトラスフィア』はコアなファンに向けたアプローチを重要視
株式会社バンク・オブ・イノベーション
『ミトラスフィア』プロデューサー
清水啓之氏(写真右)『ミトラスフィア』プロデューサー
マーケティング統括室 室長
五十嵐規裕氏(写真左)
――本日はよろしくお願いします。まずはお二人の担当している業務から教えてもらえますか。
清水氏(以下、清水):『ミトラスフィア』プロデューサーの清水と申します。私は開発から運営まで総合的に見て、『ミトラスフィア』をお客様に楽しんでもらえるように日々がんばっているところです。
五十嵐氏(以下、五十嵐):僕はマーケティング統括室の室長として、バンク・オブ・イノベーションがリリースするソーシャルゲームのマーケティングの企画、実務を行っています。
――『ミトラスフィア』は事前登録80万人と、オリジナルタイトルでは好評を得ているかと思いますが、事前プロモーションで行ったことをお聞かせください。
五十嵐:前提として、そんなに特別なことはやっていません。お客様がなにを望んでいて、どんな情報を求めているかをしっかり考えて、情報提供を行っていきました。また『ミトラスフィア』を遊んだときに、どうしたら楽しんでもらえるかを考えながら企画していきました。確かに事前登録80万人というのはとても好調な数字で、たくさんの人にどんな策を講じたのか聞かれるんですけどね(笑)。
実際にやったことと言えば、他社さんでもやっている企画ばかりです。事前登録者数に応じてゲーム内アイテムを配布したり、事前登録者の中から抽選で50名に100万円分の賞品をプレゼントしたり。あとはSNSで諸条件をクリアすると報酬が手に入るというキャンペーンもあります。これらに関してはそんなに珍しいことではありません。その一方で他社さんと明らかに違ったのは、リリースの8ヶ月前から長期的なプロモーション展開を行ったことです。
▲事前登録では各SNSでの展開や多様な商品のプレゼントなどを実施。
マルチ展開をしながらも世界観をしっかり伝えるという丁寧な取り組みと言える。
――ほかのアプリですと、長くても2、3ヶ月ですもんね。
五十嵐:そうですね。基本的には1ヶ月前あたりから動き始める作品が多いです。またお客様に対する情報提供を積極的に行ったことも違うところかと思います。この8ヶ月間で発表したプレスリリースを振り返ると16本、月に2本のペースで発信していたんです。『ミトラスフィア』の情報に触れる機会を増やしたことも功を奏したのでしょう。
――長い期間をかけてプロモーションを行うことは、当初から決まっていたのですか?
清水:当初予定していたよりも3ヶ月ほど長くなりましたね。もともと、お客様に早く情報を届けていくべきだと考えていて、ゲームのコンセプトが見えてきたタイミングで随時発表する予定でした。プロモーションも同じ考えではあったものの、それでも半年前からの計画でした。
五十嵐:これはマーケッターによっても考え方が変わるポイントですね。リリースの1ヶ月前から広告やキャンペーンを打ち出して一気にアピールするやり方もあり、そちらのほうが効果を発揮するケースもあると思います。
それでも長期間に渡るプロモーションに挑戦したのは、お客様が求める情報を随時公開しようと決めたからです。『ミトラスフィア』を発表した当初はゲームシステムに関する質問が多く寄せられました。そこでゲームシステムや世界観に関するスクリーンショットや進捗状況を随時報告できるようにしたいなと。これによってお客様は、作品に対する安心感を抱いてくれたのかなと思います。
▲事前登録開始初期で公開されたスクリーンショット
――コンシューマゲームに近い情報の見せ方ですよね。
五十嵐:確かに、コンシューマと似た手法ですね。コンシューマはキービジュアルができた段階から早め早めに情報を公開していきます。以前であれば強いIPのみ効果を発揮する手法だと思われていましたが、最近ではメーカーのファンも多く存在します。そういったコアなファンの方々に向けたアプローチを重要視したのです。
――長期間のプロモーションとなると、開発とマーケッターの連携も重要になってくると思います。
清水:仰る通りです。会社が同じであっても開発とマーケッターでは考え方が微妙に異なる場合があります。その中で実現できる良い落とし所を見つけられたことが、事前登録を上手く進められた理由のひとつかと思います。
――早い段階からプレスリリースを発信するのも怖さがあったと思います。開発の遅れといった問題はどうしてもつきまといますから。
清水:実際、『ミトラスフィア』でも春から夏へと1度延期させていただいています。しかし、そういった情報も含めてしっかり公開していこうという考えがベースにあり、結果、定期的に新しい情報をお伝えすることができたと思います。
五十嵐:お客様と真摯に向き合って、コミュニケーションを重ねていこうと考えていました。クローズドβを行った際もお客様からの意見を数字とコメントの両方で伝えるようにしました。不満点も含めてしっかり公開したことで、信頼感を得られたのだと思います。
――事前登録以外では、どのようなプロモーションに注力したのでしょう。
五十嵐:「ゴー☆ジャス動画」とコラボして、ゴー☆ジャス動画メンバーに『ミトラスフィア』の中に登場してもらいました。そしてその内容を動画内で紹介してもらう企画もありました。定期的に情報を発表しようと思っても、ネタの数には限界があります。だからこそ、お客様に届けられるものをマーケッターサイドからも企画して、お客様とコミュニケーションをとることは意識していました。
清水:「ゴー☆ジャス動画」とのコラボもただのプロモーションでは終わらず、アプリのリリース後も形として残るようにしたのは意図してのことです。
五十嵐:SHOWROOMでは、「UNIDOL」に参加してもらうイベントも開催しましたね。これは「UNIDOL」の女子大生がWebCMに出演する権利をかけて映像をライブ配信するという企画で、SHOWROOMの視聴者と『ミトラスフィア』に期待するファンのコミュニケーションが生まれ、クローズドβの成功にもつながりました。
▲女子大生アイドルの大会「UNIDOL」とコラボしたオーディション。
リリース前からの動画企画にてもコミュニケーションを図っていた。
――ユーザーの求めるものをキャッチするとは言いますが、オリジナルタイトルとなると難しい部分もあったと思います。
五十嵐:ゲームのプロモーションを考えるときは、まず企画書を見て、作品の強みを探るところから始めます。『ミトラスフィア』の場合は世界観とそれを表現するイラストが一番にあって、メディアの方からの評判も良かったです。これがベースにあったおかげで、マーケティングの軸も早いタイミングで決まりましたね。実際公式サイトが世に出たときも、世界観の良さ、キャラクターのかわいさが圧倒的に支持されていました。
――世界観やイラストはもちろん、『ミトラスフィア』にはさまざまな魅力があると思います。その中でどれを出していくかは、どうやって決めていったのですか?
五十嵐:『ミトラスフィア』は世界観以外にもバトルシステムやなりきり要素もありますからね。清水は本作のことを“Re:アクションなりきりRPG”と名付けていて、私もこの言葉に魅力が集約されていると思うんです。“Re:アクションなりきりRPG”を分解すると、ファンタジーの世界でアバターを操作し、仲間とともに旅をする作品と言えます。そこの良さを伝えられる戦術を考えていきました。
▲リリース直前の発表会にても掲げていたゲームコンセプト。(関連記事)
マーケティング方針においてもこのコンセプトが徹底された。
清水:それに加えて、バンク・オブ・イノベーションは2Dアニメーションに力を入れた作品が多く、『ミトラスフィア』もその流れを汲んでいます。お客様にとっても目に飛び込んでくるビジュアルはとても重要ですから、積極的にアピールしていこうと考えていました。プロモーションに使うだけでなく公式サイトなど、お客様が触れる可能性のある場所にはイラストを配置していますし、開発メンバーも監修しているところです。
■マーケティングもインタラクティブであるべき
――クローズドβも行っていましたが、そもそも実施した経緯についても教えてもらえますか。
五十嵐:負荷テストとゲームバランスの調整が大きな目的でした。さらにバンク・オブ・イノベーションとしては、プロモーションという観点でも大きな存在でしたね。クローズドβの期間から生放送を行ってゴー☆ジャス動画メンバーや声優の高野麻里佳さんやスタッフ陣と一緒に遊べる機会を作って、クローズドβでありながら、参加できなかった人に対してもゲームの魅力を伝えるように心がけました。結果としてクローズドという状況でありながら「面白そう」と思ってくれる方が増えた印象はありましたね。
もうひとつ、クローズドβでのプレイを動画に撮って、SNSで公開してもらえるように促したのも本作独自の試みです。参加者の中にはYouTuberの方も何人かいて、盛り上がりの様子を自然な形で伝えてくれたのです。
――リリース前に行ってきたすべての取り組みがプロモーションにつながっていたんですね。
五十嵐:クローズドβを中心に据えつつ、動画配信やリツイートキャンペーンなどを行い、マルチに情報が発信していくようにしました。ひとつひとつを見ると特別なことはしていないのですが、すべてとなると真似しにくいかもしれませんね。
――プロモーションの企画をいろいろ教えてもらいましたが、これらはすべて最初から決まっていたのですか?
五十嵐:リリースまでの時系列の中で、盛り上げられるポイントがいくつあるかは最初から見極めていました。それが事前登録サイト公開、クローズドβ、リリース直前の3つで、少なくともこの3箇所ではなにか展開を見せようと決まっていました。
――一連のプロモーションを通して、ユーザーからの反響の変遷はいかがでしたか?
五十嵐:リリース後も引き続き世界観やキャラクターに対する評価は高いです。それだけでなくアバターの人気も高まっている印象です。広告配信を行っていても、アバターを押し出したものがクリックされやすい傾向にあります。本当に思っていた以上の反響で、こちらとしても驚いています。
事前登録からの転換率も50%以上と高いのも特徴的です。お客様が長い期間楽しみに待ってくださったこと、情報を高頻度で提供することでモチベーションを維持できたことが大きな要因だと見ています。またリリース直前に前夜祭と題した生放送を行ったり、野沢雅子さんのなりきりボイスを発表したりと、一気に盛り上がりのポイントを作ったんです。これは登録したまま忘れている人にも届くようにと考えての企画でした。
清水:一般的には期間が長くなれば転換率も低くなる傾向があると思います。ほかにも新作ゲームはたくさん出ますので、忘れられてしまうのは致し方ない面もありますが、ポイントごとに盛り上がりを作ったのが良かったんだと思います。
――『ミトラスフィア』の事前プロモーションを経験した上で、モバイルゲームの事前プロモーション、事前登録はどうあるべきだと考えますか?
五十嵐:より長期的な事前プロモーションは珍しいものではなくなっていくと思います。キャンペーンではお客様参加型、つまり一緒に盛り上がるタイプが流行ってくるのではと予想しています。お客様の数は限られているので、接点を少しでも多くして、たくさんの方の目につくことが大切です。また、興味を持ってくれた方に情報を発信することで、熱量を高めることもできます。
――一方的なプロモーションから、インタラクティブなものへ変化していくと。
五十嵐:ソーシャルゲームはお客様と共に作っていく側面が強く、マーケティングもインタラクティブであるべきです。『ミトラスフィア』では「ウパくらげ」というキャラクターのデザインコンテストをやりまして、SNSでも盛り上がりを見せました。
――清水さんは、プロデューサーという立場からなにか考えることはありますか?
清水:お客様を見ると、ひとつのゲームでさまざまな遊び方をしている印象があります。自分でプレイすることもあれば、動画で楽しむ方もいます。また五十嵐が話した、お客様参加型の企画を楽しむ方法もありますよね。ゲームを遊んでもらいたい気持ちはもちろんありますが、『ミトラスフィア』に触れていただく機会を増やすことも、今後は考えなければいけないと感じます。
――分かりました。では、『ミトラスフィア』を含めたお二人の今後の展望をお聞かせください。
五十嵐:今のお客様に引き続き喜んでもらえることを第一に、イベント運営やマーケティングを行っていきたいです。お客様からはアニメ化やコミック化といったクロスメディア展開に期待する声も届いています。そういった展開もできるよう、盛り上げていきたいですね。
清水:遊び方の幅を広げていって、お客様がもっと夢中になれるタイトルにしていきたいです。リリース当初にメンテナンスなどでご迷惑をおかけしたことも事実ですが、そういった反省も踏まえて、安定した運営ができるよう努力していきます。お客様が安心して遊べることを第一に考えていきます。
――最後に、読者に向けて一言お願いします。
五十嵐:バンク・オブ・イノベーションはお客様の満足度を高めることであれば、新しいことにもチャレンジしていきます。一緒にチャレンジしてくれる仲間も絶賛募集中ですのでよろしくお願いします。また『ミトラスフィア』の世界観に共感してくれるメーカーさんや作品があれば、積極的にコラボレーションを行っていきたいので、そちらも合わせてよろしくお願いします。
――ありがとうございました。
■『ミトラスフィア -MITRASPHERE-』
© Bank of Innovation, Inc. All rights reserved.
会社情報
- 会社名
- 株式会社バンク・オブ・イノベーション(BOI)
- 設立
- 2006年1月
- 代表者
- 代表取締役社長 樋口 智裕
- 決算期
- 9月
- 直近業績
- 売上高213億3300万円、営業利益49億円、経常利益49億2000万円、最終利益32億9300万円(2023年9月期)
- 上場区分
- 東証グロース
- 証券コード
- 4393