​【CEDEC 2020】ディライトワークスが推進するリモートワークによる現代の「働き方デザイン」が今年はさらに進化!


コンピュータエンターテインメント協会(CESA)は、9月2日~4日の期間、国内最大のゲーム開発者向けカンファレンス「コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス 2020」(CEDEC 2020)をオンラインで開催している。

本稿では、9月3日に行われた講演「多様性を許容するリモートワーク環境のつくり方と働き方デザイン」についてのレポートをお届けしていく。

本講演には、ディライトワークスより、今井仁氏、直良有祐氏、對馬正氏、長坂千嘉夫氏、石田臣氏の5名が登壇。リモートワークの導入事例として、役職、役割、人生のフェーズの違う5名の視点でそれぞれに、リモートワークを通して働き方や生活にどのような影響があったかを紹介した。


今井仁氏
ディライトワークス株式会社/DELiGHT Arts Studio/副ジェネラルマネージャー


直良有祐氏
ディライトワークス株式会社/DELiGHT Arts Studio/ジェネラルマネージャー


對馬正氏
ディライトワークス株式会社/研究開発室/ジェネラルマネージャー


長坂千嘉夫氏
ディライトワークス株式会社/研究開発室/マネージャー


石田臣氏
ディライトワークス株式会社/研究開発室/リサーチエンジニア


ディライトワークスは、昨年のCEDEC 2019でも「デザイン部署から始める働き方デザイン」というタイトルでリモートワーク導入に関する講演を実施している。本セッションはこのときの振り返りから始まったが、SGIでも講演レポートを掲載しているので、まだご覧になられていない方は、是非この機会にご一読いただきたい。

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改めて振り返ると、今年、新型コロナウイルス感染症の影響もあり大きな話題になっている社内のフリーアドレス化やリモートセッションについても、当時から既に行っていたことが分かる。

さらに、ここからは昨年の講演後、2020年の取り組みを今井氏が振り返っていった。

ディライトワークスでは、現在も働き方デザインを継続している。3月以降は社員の多くがリモートワークに移行し、約7割がリモートワーク中となる。


▲フェーズとしては現在、人間関係や時間管理など、リモートワークに関する課題を抽出し、改善を試みているところ。そのために社内で実施したアンケート結果も以下で公開した。


▲上司に関しては1on1などを重点的に行うことで良い結果が表れている。後述するが、他部署や部署内でのコミュニケーションに関しては改善を試みているとのこと。


▲時間管理に関しては、「しやすくなった」という側の意見が多く、変わらないを含めると約8割以上という結果となった。



▲労働時間や生産性に関しては「変わらない」が最も多いという結果に。残りの割合を比べると、労働時間は減った側が、生産性は上がった側が少し多いということから良い結果は得られているようだ。


▲リモートワークに向いているという人が大半を占めたものの、職種によっては「まったく向いていない」と答えた人もいる。


▲「リモートワークによって増えたもの」という少し変わった質問も。1番多く挙げられたのは「家族・友人との時間」だったが、これは通勤時間が減ったことで時間が取りやすくなったのではないかと今井氏は推察した。



▲「したくない」や「ごくたまにしたい(月1~2回程度)」が9%を占めるというのは、今井氏からすると多いと感じたとのこと。満足度の結果からも分かるように、多くの人は納得しているものの、全員が満足するまでには至っていないとの話だった。

こうしたアンケートの結果から、続いてディライトワークスが改善に取り組んでいる事例を紹介。

まずは、他部署や部署内に関する社内コミュニケーションが難しくなったことについて。これに対しては、社内報「COMPASS」のライブ配信や、新卒がMCを担当してライブ配信を行う「COMPASS Live Fresh」という取り組みを実施したという。ここでは、同社の代表や社員に話を聞いたり、一緒にゲームをして過ごすという時間が設けられた。


▲ライブ配信に関するアンケートは「毎日配信を希望する」という方は2%だったものの、いざ始まってみると最高に面白いコンテンツとなり、社内コミュニケーションの活性化にも繋がったと述べた。さらに、新卒の配属前に配信を行っていたことで、配属先で新人のことを知らないという人はいない状態となったことをメリットとして挙げた。

次に、「リモートワークになって増えたものは?」という問いに対して「肉体的負担(51%)」と答えた人への改善策を実施。これに対しては、下記の通り手当系で金銭的に社員をサポートしている。「リモートワーク手当」や「ワークデザイン一時金」という名目で支給を行っている。また、リモートワークを選択した人に関しては交通費の制度を都度精算という形に変更している。


 

■5名それぞれの働き方デザイン


ここからは役職、役割、人生のフェーズの違う5名がそれぞれの視点で働き方デザインを行った結果を公開。まずは、研究開発室 マネージャーの長坂氏が取り組んでいる多様性が許容された働き方を発表した。

●長坂氏の場合:家庭特有の問題への対処について


▲長坂家の家族構成やそれぞれの事情を紹介。ディライトワークスでは、先述した通り、役職を基準として基本的にリモート型と出社型を選択できる制度を取り入れている。

上記の構成や事情から分かる通り、長坂家特有の事情として、母も薬剤師として働いているため、次女は待機児童(一時保育)を活用しているが、これも週2回までしか預けられないという制限がある。長男・長女は先日まで夏休みのため家にいたが、学校が始まってからは14~16時に帰宅する流れとなっている。

こうした事情から、母は週2回の勤務となっているほか、長女が自立してきているとはいえ、まだ長男の面倒を見られるほどではないため、親が家にいないと心配もあると長坂氏は語る。特に小2の長男が家に1人でいる状況が週2日間あることが問題となっている。そこで、母が仕事で出社する2日間は長坂氏がリモートワークを行うことで対応を試みた。



これにより、今まで問題になっていたことが解消できたという。例えば、親が家にいることで長男が家にひとりきりという状況がなくなる。また、インフルエンザや迷子になるなど、子供に不測の事態に陥った際も、今までは休みを取って対応していたが、今は昼休みを利用して対応したり、家で常に目を配ることができるため休みを取らずに対応ができるようになったと話した。


▲左のグラフは、2004年のハーバードビジネスレビューで発表された研究成果。多様性があるチームの方がより高いイノベーションを起こせるという結果が得られたレポートを紹介した。働き方においても多様性を取り入れることでその人特有の問題を解消することができ、仕事の効率やモチベ―ジョンが向上するという結果が得られたと長坂氏は述べた。

最後に長坂氏は、特有の事情に合わせた働き方ができることはとても心強く、豊かなワークライフバランスを実現できるので、自分に合わせた働き方ができることを選択肢に設けることはとても有効だと考えていると話して締めとした。

次に、研究開発室 リサーチエンジニアの石田氏が健康問題に言及しつつリモートワークの導入事例を語ってくれた。

●石田氏の場合:健康問題について


リモートワークを行うにあたってよく聞かれる悩みのひとつが、健康上の悩みである。現在は、新型コロナウイルス感染症の拡大もあり外に出られないことから運動不足となり、不健康になるというネガティブな連鎖がこれに該当する。しかし、本当にその通りなのか?と石田氏は問いかける。石田氏は、家に引きこもりながら健康になれるのかを検証していったという。

そのため、普段から研究開発室で行っているアプローチで真相を確かめてみることに。問題を分解し、数値化・比較、考察を行った結果を発表した。


▲いくつかの問題要素の中から今回はカロリー消費に焦点を当てて比較をしてみる。

カロリー消費に関しては、やはり"運動"がキーワードになると考えた石田氏は、ここで運動についての定義を、何らかの目的で身体を動かせば運動であると解釈できると説明する。これであれば、家の中で行う掃除や洗濯も運動と呼べそうだが、実際にそう捉えられることは少ない。運動量が少ないという理由なのであれば確かめてみようということで、次の実験に取り組んだ。



▲一日の歩く量は減ったものの、家事や体操の導入、また余分な摂取カロリーの削減をすることでカロリーバランスに変化がなかったため、体重にも変わりは見られなかったという。

上記の計算自体はざっくりしたものだが、ここで重要なのは、何百倍も差があるというわけでないことが分かることで、炭酸飲料1本分程度でひっくり返ってしまう程度の差ということであると解説した。

最後にこういった研究によってどういった効果が得られたのかを考察していく。

まず、心理的な安定という副次効果があったと石田氏は話す。確かに外で運動をすると健康になるのかもしれないが、かといって外で運動しなけば健康になれないわけではないと分かったことで、漠然とした不安や思い込みを解消できた。こうして事実に着目したことで心理的なストレス軽減を期待できるという。

ふたつ目は空間的な優位性だ。家の中であれば、どんな格好で、どんな奇妙な動きをしようと咎められることはない。むしろ、普段は使わない筋肉や脳を刺激することで活性化に繋がるのではないかと話した。

また、効果的なタイミングについては仕事の合間に挟むのが良いという考察を行った。



こうして最初の問題に立ち返ると、分解して考えることで意外な解決策に気付けるのではないかとまとめた。




3人目は働き方デザインの名付け親でもある直良氏が聴講者の質問に答える形で話を展開した。

●直良氏の場合:自身で提唱する働き方デザインとは


そもそも、「働き方デザイン」という呼び名は直良氏の発案によるものなのだが、ここで注意したいのは、世間でよく耳にする「働き方改革」とは主旨が異なるということ。直良氏によると、この名称にした理由は2つあるという。

まず、働き方改革というのは政府が提唱するもので、法に則ったうえで効率化などの努力が企業に求められる。これに対して自分たちでもきちんとアプローチをしていくべきであると考えたことがひとつ。

ふたつ目は、自身がそもそもデザイナーなので、絵をデザインするだけでなく、自分の仕事の仕方や働き方もデザインしていけるのではないかと考えたということだった。例えば、出雲大社の近くの蕎麦屋に夫婦でランチに出かけ、その帰りにロケハンをして写真を撮って帰ってくることでより時間を自由に使えると直良氏は考えたという。各個人の事情があったうえで、ポジティブに働けるようにするためにも自分たちでデザインしていかなければならないと考えたことが出発点になっているとの話だった。

次に、苦労や工夫をしている点を紹介。昨年の講演でも紹介されていた通り、最初は東京と出雲で1/2ずつ移動して勤務をするやり方を実施しており、その際に自分が離れていることがハンデにならないようリモート前提の運用は心掛けていたという。加えて、最も大きかったのは、副GMとして今井氏のように理解をしてくれる人や、最悪を想定してバックアップをしてくれる人がいることを確保できたことだと直良氏は話す。現在は東京を今井氏、出雲は直良氏の弟がバックオフィスを見ていることで、常に信頼できる環境を得られたことが大きかったと述べた。

また、今井氏が驚いたこととして、直良氏がチャットツールを使ってしっかりとコミュニケーションを図っている点と、ハイスペックPCではなく手軽なiPad Proでデザインを行っていることを挙げた。これに対して直良氏は実現できている理由として、スマホでのアウトプットが増えてきたからであると答えた。そもそも、PCのセッティングが苦手ということもあり、iPadの方が楽であるということや、場所に縛られずにどこでも絵が描けることも大きな魅力となっているようだ。

家で絵を描いていることに家族からの非難はないかという質問に対しては、家族も理解を示してくれているため、傍から見てスマホを触っているだけのように見えても仕事をしていると認識してくれているのは非常にありがたいことだと答えた。

そのほか、新卒の教育で新たに取り入れたことについては、基礎画力を上げたり、デザインの考え方をベースにアップしていくなど、マニュアル化や課題化しやすい部分は早々にマニュアル化することが重要であると述べた。

最後に、東京に行かなくなったことで発生したデメリットについては2つあるという。

ひとつは人の顔を見て会話ができないこと。まず直良氏自身の考え方として、雑な時間も必要であると考えているという。これがなくなったことにより、今までおもんぱかってくれていたところが徐々に減ってくると考えられるため、現在はコミュニケーション貯金の切り崩しをしている状態であるという表現をした。これが具体的な弊害になっているわけではないが、その分コミュニケーションコストが過剰にかかってしまっているとのこと。

ふたつ目は東京にも事務所を借りているため家賃がもったいないことになっていると答える。このオフィスを今後どうするか、軽くしようかという検討もしているという。

4人目に登場した對馬氏は、ワーケーションを実施するべく、まさにこの講演を福島県の五色沼からボートを漕ぎながら中継するという新たな形を披露した。

●對馬氏の場合:ワーケーションについて考える


そもそもワーケーションとは、国内外のリゾート地や帰省先など、休暇中の旅先で仕事をするテレワークのことで、今世間でも多数の企業が注目を集めている。由来はワーク(仕事)とバケーション(休暇)から来ており、長期滞在先でパソコンなどを使って仕事をすることを指すと説明した。

ここで当然、疑問として挙がってくるのは、本当に仕事と休暇を両立できるのかということ。「勤務先にワーケーション制度がない」「仕事の連絡が入るとゆっくり休めなさそう」「自分しかできない仕事があるから長期休暇が取れない」といった数々の問題が出てくる。こうした疑問に対して、実際にワーケーションを行っている對馬氏がソリューションを発表した。



▲プッシュ通知をオフにすることで業務が滞るのではないかという不安はあるかもしれないが、勇気をもってオフにすることで快適に休暇を満喫できたという。ただし、最低1日1回のチャットやメール確認を欠かさないようにするというルールを課していたという。


▲自分にしかできない仕事というのは、裏を返せば何らかの事情でその人がいなくなってしまうと業務が滞ってしまうことから会社にとってはむしろリスクであると對馬氏は話す。

以上の3点をまとめ、是非みなさんにも新しいことを行ってフィードバックをしてみてほしいと述べて締めとした。



●今井氏の場合:介護について


最後は今井氏が介護の側面からリモートワークについての考えや導入事例を発表した。

まず今井氏は、昨年より課題として挙がっていた点が現在どのように推移しているかを公開した。



こうした結果も含め、あしかけ2年のリモートワーク準備は個人的に成功といえると今井氏は述べる。しかし、備えなければならないこともあると続けた。それは母親のことで、今すぐにという話ではないが、今後は介護も考え得る年齢になってくるという。



▲この辺りは長坂氏が発表した個人特有の事情への対応と重なる部分もあるかもしれない。

リモートワークが許されているディライトワークスであれば、地元を拠点に仕事をすることも可能かもしれないが、普通に実施すると管理職としての生産性が下がる可能性が高いと今井氏は考えている。何故そのように考えたのかというと、一日中、母を中心とした生活になると仲間との業務時間が噛み合わなくなってしまうからだ。そこで、よい方法がないかを模索してみたという。

今回のコロナ禍で物理的な距離を越えたリモートワーク業務は実現できた。では、次にやるのは時間を越えた「非同期ワーク」が考えられるのではないかと今井氏は話す。



ここで今井氏は、可能かもしれないが、まだ介護の必要がないという事情からも、大変そうなので一旦忘れたくなるものの、その考えは管理職としてどうなのかという心の葛藤があると正直な感想を述べ、まとめとして以下のように発表した。



そして、本講演全体のまとめとして働き方デザインでやるべきことは次の3点であると続けた。

【働き方デザインでやるべきこと】
・キャリアに向き合う
・人生に向き合う
・キャリアと人生を両立させる


これを全て実現できるよう今後も業務を続けていきたいとのこと。


▲今回の講演をまとめると、まずは直良氏がビジョンを示して自身で実践。その結果から得られたリモートワークの精度を上げるために長坂氏や石田氏がいろいろなパターンを検証。さらに、今井氏や對馬氏が新たな挑戦を行うことでまた直良氏にビジョンを戻していくというサイクルで活動している。

上記のような活動の一環として、Delight Remote Worksという取り組みを行っていると紹介して講演の締めとした。



▲ディライトワークスの研究開発の目的は、2年以上先の未来を見据えた新技術を発掘・創造すること。Delight Remote Worksの目的は、2年以上先の未来を見据えた働き方デザインを発掘・創造すること、といえるかもしれないという。


▲また、ここだけの話、働き方デザインを実施したことで先に紹介された手当系の新設・変更により49.9%、水道・光熱費が45.2%のコストダウンに成功しているという情報も明かされた。

 
(取材・文 編集部:山岡広樹)
 

CEDEC 2020

 
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ディライトワークス株式会社
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会社名
ディライトワークス株式会社
設立
2014年1月
代表者
代表取締役 庄司 顕仁
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