スマートフォン端末の機能を活かした直感的な操作方法、老若男女だれもが楽しめる万国共通のルールなど、ゲームの間口を広げるジャンルとして、スマートフォンアプリ市場において注目されているハイパーカジュアルゲーム。
説明を必要としない明快さと、昨今のトレンドであるマルチプレイの妙を組み合わせた同ジャンルは、世界中で大流行している。
SocialGameInfoでは、各社のハイパーカジュアルゲームにスポットを当てたレビューやインタビューを掲載するコーナー「ハイパーカジュアルゲーム道(ハイカジ道)」を展開する。
第2回は、前回レビュー記事で取り上げたアカツキ<3932>の『Mirror cakes(ミラーケーキ)』開発メンバーへのインタビューを実施。
新入社員研修から生まれ、世界1,000万ダウンロードを突破した本作はどのようにして誕生したのか? 当時、新人研修に参加した池田篤紀氏と皆川佳歩氏、そして研修をサポートした佐藤恵斗氏にお話を伺った。
~Profile~
池田篤紀
2020年の新卒としてアカツキに入社し、クライアントエンジニアとして活動する。研修後はカジュアルゲームスタジオ「Akatsuki Buddy」に正式配属。ハイパーカジュアルゲームの分野で開発を続けている。
皆川佳歩
インターンでアカツキの子会社CRAYONに所属し、ファンアプリの開発に携わる。2020年に新卒入社し、研修で『ミラーケーキ』のリリースに注力。現在は『UNI'S ON AIR(ユニゾンエアー)』チームでプロモーション関係の業務を担当する。
佐藤恵斗
アカツキに新卒入社して5年目を迎える。新卒2期生で同社に入社し、『八月のシンデレラナイン』のプロジェクトリーダーに。その後「Akatsuki Buddy」を立ち上げてリーダーを務める。基本的にゲーム事業に携わりつつ、新卒の企画職の研修設計なども行っている。
■ゲーム作り未経験の新卒コンビが生んだ奇跡…『ミラーケーキ』誕生の裏側
ーー『ミラーケーキ』誕生のキッカケとなった「ものづくり研修」について教えてください。
佐藤恵斗氏(以下、佐藤) ものづくり研修自体は、企画職とエンジニアがペアを組んでゲームを作るなど、毎年何かしらの形で実施しています。
僕の時代はサービスを考えるという事をやっていましたが、年々研修内容はアップデートされています。
2020年の新卒世代は企画職とエンジニアが9名ずついましたので、2人でワンチームという体制のもとハイパーカジュアルゲームを開発し、実際の広告を打ってアメリカでリリースするところまでをワンパッケージにした研修になっています。
チーム分けについては、僕と人事側の研修設計者がメインで話し合って決めています。
ーー研修の期間や開発予算については?
佐藤 研修期間は2週間、各チームの予算は10万円です。その金額の中で、例えばゲームのキャラやUIといったアセットデータを購入するも良し、ゲーム開発を先に終わらせて早い段階で広告を作り出向する費用に使うも良し。
決められた期間と予算の中でハイパーカジュアルゲームを作ってもらいました。
ハイパーカジュアルゲームは、CPIテストという広告を打ったときに一人当たりどれくらいのコストで獲得できるかがビジネスのファーストステップの肝になります。
従って、2週間でCPIテストを突破するというのが各チームに与えられたミッションになります。
ーー研修でハイパーカジュアルゲームを作ろうと提案したのは佐藤さんですか?
佐藤 そうですね。僕自身がAkatsuki Buddyでハイパーカジュアルゲームのビジネス領域に携わっていますし、企画職側の研修のオーナーも担当しています。
ものづくり研修でもハイパーカジュアルゲームを作ってもらおうと、僕が企画して合意を得て進めた、というのが発端です。
提案した理由としては、これまでも簡単なカジュアルゲームを作る研修を行っていましたが、社内だけで「このゲーム、あのチームが良かったね」という評価は主観的ですし、研修に参加したメンバーも納得感がない。
自分たちの実力を推し測る上で、実際に世の中に出してみて市場の結果を知ってもらうほうが良いなと思ったからです。
あとは単純に、僕がハイパーカジュアルゲームを作る仕事をやっているので、新卒に作ってもらって利益が出たらラッキーだなというところで、研修をうまく利用して自分のチームに還元しようかなと(笑)
ーー池田さんと皆川さんはゲーム作りは未経験だったそうですが、チームが決まったときのお互いの第一印象は?
皆川佳歩氏(以下、皆川) 私は同期の中で一番ゲームへの理解が薄くて、ゲームの研修はちょっと辛いかもと言われていました。
企画職とエンジニア職が交わる今回のものづくり研修の前に、エンジニア職は自分でゲームを作る研修をやっていたので、企画職から見ると池田篤紀がどれくらい作れるかはわかっていました。
だから「私、わからない事がたくさんあるから足を引っ張っちゃうな。篤紀ごめんね!」という気持ちでした。
池田篤紀氏(以下、池田) まだお互いの事を知らなかったので「どんな子なんだろうな?」という印象でした。チームが決まった瞬間、皆川佳歩にすごい謝られたのは覚えています(笑)
ーー『ミラーケーキ』のアイデアはどのように生まれたのでしょう?
池田 お互い話をする中で、僕はゲーム開発の経験がなかったし、佳歩ちゃんもそもそもあまりゲームをやっていないということを知って、ゲーム性で勝負しても厳しい戦いになるだろうなと思っていました。
先ほど話にあった、エンジニア職が自分でゲームを作るという研修で、既存のハイパーカジュアルゲームにたくさん触れる機会がありました。
その時に、ゲーム性を意識せずに見た目の気持ち良さだけを追及しているゲームがいくつかあったので、その分野で挑戦してみようと考えました。
皆川 企画職も佐藤さんの研修で、ハイパーカジュアルゲームとは何か? ハイパーカジュアルゲーム企画で大切なことは何か? それを元に企画要件の仮説を立てるという研修がありました。
その時に、ゲームをやらない私でも広告で見たことがあるゲームの共通要素って何だろう、と自分の中で仮設を立てました。
右に向いていたら右に進むというわかりさすさやポップな色使いなど、お互い要件立てたものをマージして、ゲーム性を考えるのは難しいというところで、気持ち良さや見た目の美しさといった直感的な部分をゲームに落とし込もうと考えました。
私は発散タイプの人間で、「これおもしろい」「これ気持ちいい」とアイデアを挙げるのが好きなので、そのアイデアの中から篤紀が技術的にやってみたい、ゲームとして成立しそうという基準を判断してくれました。それが『ミラーケーキ』のアイデアの抜粋の仕方でした。
池田 抜粋したアイデアをもとに実際に作ってみて、先輩方に見せてフィードバックをいただくという形でフィルターをかけていきました。
ーーハイパーカジュアルゲームを作るうえで、やはり気持ち良さ、わかりやすさなどの直感的な要素は必要?
皆川 これは私の中で立てた仮説ですが、ハイパーカジュアルゲームは文字が少なく、説明もない。その中でわかりやすくないゲームが表面的に見えたときに何していいかわからないと思うんです。
コアなゲームユーザーでなく、広告を見てちょっと面白そうだと思ってインストールするライトなゲームユーザーにとっては、わかりやすくないとすぐにアンインストールされてしまう。そういう意味で、わかりやすさは重要だと思っています。
あとは、先ほどCPIテストの話もありましたが、広告で流入させるうえで、広告動画でもわかりさすさを伝える必要があり、『ミラーケーキ』は綺麗なケーキを作るということを瞬時にわかってもらわないといけません。
それは色々な情報量を入れるのではなく、"ケーキを作るゲーム"という一番強調したい要素をパッと見てわかりやすくシンプルに伝えることが大事だと思います。
池田 企画段階では、見ていて気持ち良さそうという部分に一番こだわって、アイデア出しをしました。
ーー技術面でこだわったところは?
池田 液体表現です。これはゲームでは難しい分野で、3次元の液体挙動を計算する際に、ちゃんと動くモバイル端末が少ないんです。そこで『ミラーケーキ』では、見た目は3次元に見えるけど、実際には2次元で液体を表現しています。
この手法は、実はそこまで大変なものではなく、僕が大学時代に専攻していた画像処理の技術を応用して作りました。液体が広がる表現をどう作ろうか考えたときに、3Dの液体挙動の計算よりも、画像処理を使った2次元での液体表現が良いなと思い、自身の知識を企画に落とし込みました。
ーー広告テストはどのような形で実施したのでしょう?
池田 企画をまとめるのに3~4日間、そこから液体の挙動を2~3日で作り、残り1週間で広告テストを開始しました。
皆川 実際にリリースするアメリカのユーザーが、ケーキに液体をかけると気持ちいいという点に価値を感じてくれるかというところが最初の広告テストでしたので、現状の『ミラーケーキ』の形ではなく、本当に液体をかけるだけのゲームを一度篤紀に作ってもらい、"かける"という要素にどれくらいの可能性があるかを、1週間ちょっとでテストしました。
ーー研修期間を振り返ってみでいかがでしたか?
皆川 発散タイプの私がたくさん出すアイデアの中から良いものを篤紀が選んでくれたり、「これは無理だよ」と絶対言わずに一度はトライしてくれたので、チームとして相性が良かったなと思います。
ただ、1対1でエンジニアにお願いする経験があまりなく、共通言語が少なかったところは苦労しました。
共通言語がないと同じことを考えていてもうまく共有できないので、最初はお互いを知らない中で、どうやってお願いすればいいか? 自分の頭の中にあるアイデアが伝わっているか、というところで苦労しました。
池田 チームとしてうまくいったと思っています。最初の方向決めで皆川佳歩が色々な分野の事を知っていたり、発想・着想の幅も広いのでアイデア出しで困ることもなく、アイデア選びで迷う、というひとつ上の位置からスタートできました。
あとは、ゲームをほとんどやったことがない皆川佳歩からどんな発想、アイデアが出るのか個人的に楽しみだったので、企画段階で「これだと開発は難しい」とか「ゲームってこうだよね」ということをなるべく言わなかったことも、結果的に色々なアイデアにつながって成功したと思います。
ーーお二人がチームを組んだからこそ誕生した『ミラーケーキ』は1000万DLを突破(関連記事)しましたが、率直な感想をお聞かせください。
皆川 国内で何百万DLを突破しているゲームって電車で遊んでいる人を見かけますが、『ミラーケーキ』をプレイしている人は社内でしか見たことがないので、本当に1000万人のユーザーがプレイしているのかなというのが率直な感想です(笑)
池田 周りの人に自慢しやすい数字なので素直にうれしいです。ただ、DL数はエンジニアというより企画職側の人たちが広告を出稿したり、仕組みを調べたり色々努力してくれて成し遂げたものだと思っているので、そこは感謝の気持ちでいっぱいです。
エンジニアとして、DLされた後のユーザーの感想を追及しているので、DL数が増えていくことでストアに色々な国のユーザーが『ミラーケーキ』を楽しんでくれているコメントを読んだときのほうがうれしかったです。
ーー企画、開発、リリースまでを手掛けてみて、改めて感じたハイパーカジュアルゲームの魅力は?
皆川 新しいものを作るとき、元々ある要素と要素の掛け算で企画を考えます。
『ミラーケーキ』は模様が広がる要素とかける気持ち良さを掛け合わせました。根本的な価値観、要素が何なのかを考えたり、もっと感覚的な、人間が抗えないような直感的な部分について、日本だけではなく世界中のユーザーがどう感じるのかテストできるところがおもしろいなと思いました。
それと、企画側からするとすぐに作ってもらえるところも魅力的です。私は学生時代に1年くらいかけてサービスを作りましたが、ハイパーカジュアルゲームだと3日くらいで作ってもらえるので、自分が考えたアイデアを数多く打てたり、何度もトライ&エラーできるところも楽しいです。
池田 実際のユーザーデータを見ながらトライ&エラーを大量にできて、「ここはこうじゃないか」という自分の中の仮説を磨く回数が多くあるのは開発側としても魅力に感じました。
また、開発をしていく中で、ユーザーのことを考えるようになりました。新しい機能を追加したいと考えたときに、一番説得するべきは同僚や上司でなくユーザー。機能を追加してユーザー体験が向上し、プレイタイムや継続率が伸びたという結果がないと実装には至らないので、そういう観点を持てるようになったのは良い経験になりました。
ーーそれでは最後にハイパーカジュアルゲームに興味のある読者に向けてメッセージをお願いします。
皆川 自分の感覚や企画が合っているのかテストできるゲーム作りの機会はあまりないので、そういう部分を確認できるのでハイパーカジュアルゲームはオススメです。
ゲームを作ったことがない人でも、チャレンジしてみてもいいと思いますし、ハイパーカジュアルゲーム作りを通じて自分が考えた要素は価値が高かったとか、汎用性があるなという考え方ができるようになるので、気軽にチャレンジしてほしいです。
池田 何度も失敗できて、そこから色々なことを学ぶというパターンを繰り返せる経験ができるのは、ハイパーカジュアルゲームの魅力。自分の成長にもつながるし、何よりゼロから1つのゲームを自分たちの手で作るという体験は、やりがいもあって楽しいので、ぜひ一度挑戦してみてください。
佐藤 このビジネス自体、なかなか稀有な存在だなと思っています。
世の中にハイパーカジュアルゲームはたくさんありますが、その中から流行っているゲーム、流行っていないゲームを含めて膨大な量をインプットし、そこから「こういう要素なら流行るんじゃないか」、「次はこの企画、このトレンドが来るんじゃないか」という自分なりの市場観、仮説を持ってください。
そして、それをクイックに作って検証し、仮説が正しかったどうかを、日本だけでなくグローバルの老若男女の膨大なユーザーデータとともにフィードバックを得ることが重要です。ハイパーカジュアルゲームに興味がある方は、モックくらいならすぐに作れると思うのでやってみてほしいです。
また、ハイパーカジュアルゲーム開発について迷っている人や、ゲームも興味ある・ないに関わらず何かしらものづくりをしてみたい人にとっても、ハイパーカジュアルゲームは一連のプロセス自体ものすごく有益です。何を作るにしても、何かを研究して自分なりの仮説を立てて実際に試してみることが大事だと思います。
例えば、映画監督になりたいという人でも、たくさんの映画を観て、こういう映画の作りかたがいいと研究して実際にやってみる。ものづくりをする人たちにとって、一番ベースとなる頭の使い方だったり、仮説を磨くというところをかなり高濃度でクイックに学べるハイパーカジュアルゲームは、クリエイターにとってすばらしいビジネスじゃないかなと考えています。
ハイパーカジュアルゲームに興味がある人だけに限らず、一度チャレンジしてみることを推奨します。
--ありがとうございました。
▼『ミラーケーキ』のレビュー記事はこちら
・【ハイカジ道】世界1000万DL突破の『ミラーケーキ』…マーブル模様の液体がスポンジに広がる様に思わず見惚れる
■『Mirror cakes(ミラーケーキ)』
©Akatsuki Inc.
会社情報
- 会社名
- 株式会社アカツキ
- 設立
- 2010年6月
- 代表者
- 代表取締役CEO 香田 哲朗
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高239億7200万円、営業利益26億7600万円、経常利益28億3400万円、最終利益12億8800万円(2024年3月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 3932