【インタビュー】脚光集めるスマホゲームのコミュニティマーケティングとはなにか? Supercell脇氏に聞くグローバル企業の取り組み

木村英彦 編集長
/



近年、モバイルゲーム業界では、コミュニティマーケティングが注目を集めている。広告によるユーザー獲得が年々困難になるなか、SNSなどのユーザーコミュニティとのコミュニケーションを強化することで、既存ユーザーの継続率の引き上げや、休眠ユーザーの復帰などを狙う考え方だ。

しかし、コミュニティマネジメントの定義は曖昧な部分があり、思い浮かべる仕事も人それぞれというのが実情だ。今回、そのイメージを明確にすべく、コミュニティマネジメントに注力する企業にインタビューを行っていく。

今回は、『クラッシュ・ロワイヤル(以下、クラロワ)』や『ブロスタ』、『クラッシュ・オブ・クラン』など人気ゲームを運営するSupercellのコミュニティマネージャーの脇俊済氏にインタビューを行った。

インタビュアーは大手各社のコミュニティを手掛ける株式会社SPIKE(SPIKE)の今川 遥が担当した。なお、コロナ禍のために、インタビューはZOOM上で行った。


取材対象者:Supercell株式会社 脇 俊済
 
大学卒業後、人事系コンサルティング会社を経て、創業直後のAppBankに入社。ライターとしてアプリレビューを行ったほか、広告営業部門を立ち上げ、AppBankが運営するメディアの広告販売、広告ネットワークビジネスのローンチを先導。
2016年3月Supercellに入社以来、モバイルゲーム「クラッシュ・ロワイヤル」「ブロスタ」のコミュニティ・マーケティングを担当。
Youtuberの育成や、Youtuberを起用したマーケティング、SNSを通してのコミュニケーション、コミュニティ向けのイベントやその他プロジェクトの企画・運営を日々行う。


インタビュアー:株式会社SPIKE  代表取締役 今川 遥
 
2010年からKLab株式会社、株式会社スクウェア・エニックスにゲームディレクター・プロデューサーとしての在籍を経て、ゲームのマーケティング業界に転身。
その後、ファンを1人でも増やしコミュニティの形成を目的とした「コミュニティマーケティング」特化の株式会社SPIKEを設立。
YouTube・SNSの運用企画の他、eスポーツの企画運営などユーザーが直に触れる場所を中心とした活動に従事している。



まず、Supercellのご紹介から行いますと、本社がフィンランドのヘルシンキにあり、オフィスは中国・上海、韓国・ソウル、米国・サンフランシスコにあります。コミュニティマネージャーは、各ゲーム開発チームに数名在籍しており、加えて日中韓というローカルな領域を担当するコミュニティマネージャーがいます。ローカルのコミュニティマネージャーは、全世界共通で打ち出したい情報をローカル言語に翻訳しつつ、ローカルの実情に合わせて落とし込んだり、独自のコンテンツを制作したり、リージョンごとにベストな施策を行うことが求められています。
 
一口にコミュニティマネジメントといっても様々な定義がありうるかと思います。私は、ゲーム内のお知らせ・ニュースや公式SNSを通じて、ゲームの情報をプレイヤーに伝えることをコミュニティマネジメントの仕事と考えています。また、コミュニティ「マネジメント」以外にも、コミュニティに関わる仕事は数多くあります。コミュニティマーケティングと呼ばれる領域では、YouTuberさんと協力して企画をしたり、イベントや大会などを行ってゲームを盛り上げます。さらに、eスポーツの運営もコミュニティに関する仕事と考えることもできます。
 
さらには、マーケターもYouTuberの方々と協力してゲームのダウンロード数を増やすような取り組みも行うことがあります。定義によってはこれもこのコミュニティマネジメントの仕事の範疇に入るかと思います。
 
Supercellにおけるコミュニティマネージャーの業務内容は流動的です。いわゆるゲームの公式アカウントの運用も行いますし、YouTuberさんと一緒に企画づくりをすることもあります。ゲームがリリースされたときは、ゲームへの認知を取るためのアクションを取ることもあります。ゲームのライフサイクルで役割が変わってくると言えると思います。



――:仕事の内容は昔と今とで変わっているのでしょうか?

もちろんです。コミュニティを対象とした仕事は、私の親の世代では存在せず、ここ10年ほどで生まれてきた仕事です。生まれたばかりのため、変化が激しく、定義もはっきりしていません。モバイルゲームの業界の変化スピードの速さもその変化の激しさを助長していると思います。


――:マーケティング業界では広告にできることの限界がある、という論調のもと、その課題を解決する意味でもコミュニティマーケティングに注目が集まっていますが、どう思われますか。

コミュニティのお仕事をどう捉えるかによると思いますが、口コミを直接生み出す手段として有効だと思います。かつてはコンテンツメーカーがユーザーに情報を伝える手段は限られており、その手段は広告が中心でした。口コミは昔から存在していましたが、テレビCMや番組、屋外広告などで間接的に生み出すものだったと思います。話題や口コミを直接的に生み出せるようになったのは、SNSの普及・拡大で直接ユーザーに情報を伝えることが可能になってきたためです。話題や口コミの生まれ方がインターネットによって変わってきたと思います。
 



――:Supercellに入るとき、コミュニティマネージャーとして入ったのでしょうか。

以前の職場ではコミュニティに関連する仕事に従事していたこともあり、コミュニティマーケティング担当として5年前に入社しました。コミュニティと手をつないで口コミをいかに広げてもらうかが重要と認識されはじめてきた時期だったと思います。『モンスト』や『パズドラ』が、YouTuberさんと一緒に番組を作るなど、スマホゲーム業界でコミュニティマーケティングが本格的に花開いてきていました。
 
ただ、コミュニティマーケティング担当として入社したと申し上げましたが、Supercellは、スタートアップマインドが強く、コミュニティの仕事が用意されていたというよりは、自分で仕事を探して実行していくという環境でした。



――:リージョンごとにコミュニティマネージャーがいるのでしょうか。

リージョンによります。例えば、アメリカを含む英語圏やヨーロッパ圏についてはヘルシンキにいるゲーム開発チーム内のコミュニティマネージャーが担当しています。一方で、日中韓にはそれぞれ担当がいます。日中韓はSupercellとして重要なリージョンと考えている上に、欧米とゲームコミュニティが大きく異なるため、全世界共通のメッセージをリージョンごとに解釈してアウトプットすることが重要であるためです。


――:普段、どういった仕事をされているのでしょうか。

公式TwitterなどSNSの運用や公式イベントの開催のほか、YouTuberさんやプラットフォーマーの方々と一緒に企画を立案したり、eスポーツの盛り上げ、コミュニティとのコミュニケーションなどを行っています。


――:公式YouTuberとの企画ですが、どのくらいの方とコミュニケーションを取っているのでしょうか。

時期によりますが、平均して十数名です。YouTuberのみなさんは仕事としてされている方だけでなく、学校や仕事の傍らで取り組んでいる方もいますので、忙しい方が多く、価値のある情報を短時間で提供するように心がけています。一方で、YouTuberさんとみんなで集まって質疑応答や意見交換を行う、といったカジュアルな取り組みも行っています。


――:カジュアルな取り組みはどういったきっかけで始まったのでしょうか。

YouTuberさんにカジュアルなミーティングのニーズがあるかヒアリングを行ない、「やってみたい」という意見を多く頂いたので、実施することにしました。カジュアルな意見交換が目的でしたが、サブテーマとして、YouTuber同士の横のつながり、コミュニケーションを促進する機会にもなれば…とも考えています。


――:コミュニティマネージャーの課題として成果指標の設定が難しい部分があると思います。どのようなことを目標に設定されていらっしゃいますでしょうか。

Supercellは、「何年もプレイされ続け、記憶に残り続けるゲームを創ること」をミッションにしていますが、ゲームをリリースしダウンロードしてもらうことができたら、そのまま何年も遊び続けてくれるわけではありません。

日々、数多くの面白いゲームがリリースされていますし、様々なゲームの広告も目にします。そのような中で、『クラロワ』や『クラクラ』、『ブロスタ』などを遊び続けてもらうことが大目標になります。そのため、評価指標を強いてあげるならば、「継続率」です。

ただ、継続率とコミュニティ施策の因果関係の立証は非常に難しいです。コミュニティ施策やeスポーツなどを通じて継続率が上がったかどうかは、なかなかわかりません。ゲームが「記憶に残り続け」ているのかどうかも測定できません。

そこで、大目標に紐づけて評価指標を設定するよりも、ゲームをどのような形で盛り上げたいのかを考え、それに数字目標をつけると良いのではないかと考えています。たとえば、2018年に『クラロワ』のeスポーツリーグ「クラロワリーグ」の世界大会を日本で開催した際、『クラロワ』のプロ選手がプレイヤーたちに熱狂され、世界大会の話題がコミュニティ内で持ちきりになることを目標としました。

この目標に紐付けて、SNSやゲーム内のニュースの閲覧数等について数字目標を立てました。なお、世界大会をコミュニティチームが運営しているわけではありません。そのため、生放送の再生回数ではなく、あくまでSNS等でどれだけ盛り上がったのかを測定する数字目標を立てました。

こういったプロジェクト単位の目標だけでなく、通常のコミュニティ運営の数字目標としてフォロワー数や再生数を追うのも重要ですが、あくまで参考指標と考えています。



――:上記の世界大会の話題が持ちきりになる状況を作るため、具体的にどういったコミュニティ施策を考えたのでしょうか。

施策のひとつとして、出場するプロ選手のファンを増やす取り組みを考えました。選手のファン数が増えることで、世界大会の視聴者数に間接的に影響を及ぼすのが狙いです。選手のファンの数を測る指標として、その選手のYouTubeチャンネルの登録者数と月間再生回数を置きました。
 
例えば、あるプロ選手がクラロワリーグの予選大会で活躍した際は、その活躍をゲーム内のニュースや公式Twitterで発信します。すると、「この選手って、こんなに強いんだ」と興味を持つユーザーも出てきますそのプロ選手のTwitterをフォローしたり、YouTubeの動画を視聴したりすることを通じてファンになっていきます。結果として、「その選手の次の試合を観たい」と思ってもらえるようになります。
 
この中で、プロ選手のYouTubeチャンネルに着目しました。プロ選手は勝つことが仕事であり、必ずしもYouTubeに動画を上げることが仕事ではありません。そのため、安定してYouTubeチャンネルに動画を公開することが難しい事情があります。そこで、プロ選手のYouTubeチャンネルの設立・運用支援を行いました。


 



――:社内リソースだけで目標を達成するのが難しい場合、社外のパートナーに協力を求めることになるかと思うのですが、その場合、どのような基準で選んでいるのでしょうか。

日々変化しているためパートナー選びは難しいのが実情です。例えばテレビCMを検討している場合に相談する広告代理店は思い浮かびますが、コミュニティの領域の仕事は、そのような定番の相談先がないのが現状です。ゲームタイトルによってもニーズが異なる点も難しさに拍車をかけています。
 
その中で基準を挙げるならば、コミュニティマネジメントは短期ではなく長期間にわたって行うものですので、長期戦略を考えられることが重要です。長い運営に耐えられるのか、色々なアイディアで飽きさせない工夫があるかどうかなども重視します。そして何より担当者自身が自分が担当するゲームのことが好きで遊び続けていることが大事だと思っています。

一方で、YouTubeなどの配信プラットフォームで生放送を企画し運営する場合など、専門スキルが必要なパートナー様と個別に契約を結ぶケースもあります。



――:業界を見ていると、各社、コミュニティマネジメントに問題意識を感じており、色々な会社に任せたり協業したりしているのが実情です。

当社の場合は、社員が少ないことが一つの要因ですが、一つ一つの案件でコンペしてパートナーを選定するのではなく、少数のパートナー様と一緒に成功や失敗を繰り返することで経験やノウハウを共に蓄積し、長くお付き合いしたいと思っています。


――:脇さん自身がコミュニティマーケティングに深い理解があるので、いろんな各社にお願いしても方向性やマインドセットがぶれないというのは大きそうですね。普通はコミュニティマーケティングという職種がない会社が多いのでマーケティング部署の主にデジタルマーケティング経験者がコミュニティマーケティングもやっていて、やり方が分からず数字しか頼れない、しかし数字がそもそも追えないから困ってしまうことが多そうです。そういった担当窓口の方がコミュニティマーケティングの外部会社にお願いしたとしても、うまく機能しないかと思います。どの会社を選ぶかも大事ですが、発注する会社自身もコミュニティの考えを固めることが大事だと思いますよね。

先ほど『クラロワ』世界大会での目標設定と取り組みのお話がありましたが、それ以外にお話できるコミュニティ施策はありますか。

2021年初頭に盛り上げ施策として実施した「クラロワ紅白戦」です。2020年に
コミュニティで話題になったプレイヤーやプロ選手、YouTuberさんらにご出演いただき、紅白に分かれて対戦する企画でした。
『クラロワ』ユーザーにこの番組は絶対に見逃せない!と感じてもらうことを目標に、
数人のYouTuberさんと一緒に番組を作り上げていき、同時接続数は最大で約1万7000人に昇りました。
 
台本も一緒に制作するなど、本当の意味で一緒に番組を作りました。配信チャンネルも、クラロワ公式チャンネルではなく、YouTuberさんのチャンネルにて行いました。
 
出演される方々に"自分ごと化"して企画に携わってもらうことでより良い番組ができ、コミュニティが盛り上がり、再生数が伸びると、『クラロワ』のYouTuberさんもより本気で取り組めますし、ひいてはSupercellにもメリットがでてくると考えています。
 
またイベント終了後には反省会を行なったのですが、一緒に企画していただいたYouTuberさんからは「学びが多かった」という感想をいただけたのが印象的でした。
 
また、『ブロスタ』がリリースされたとき、YouTuberさんをヘルシンキに100人以上招待してリリースイベントを2日間にわたって行ったこともありました。その時のハイライトは「リリースのボタン」をYouTuberさんに押してもらったことです。いくつかの国・地域に分けてリリースしましたので、それぞれの国・地域のYouTuberさんにリリースボタンを押してもらうイベントは大変盛り上がりました。
 
世界中からYouTuberさんを招待してイベントを開催することは、費用も労力もかかります。プロ選手やYouTuberさんをここまで尊重する会社は多くはないと思います。コミュニティを盛り上げるための取り組みが実施できているのは、会社としてコミュニティの重要性を理解して重視しているからです。全てのユーザーの声に応えられるわけでないですが、真摯に向き合うという姿勢が重要だと感じます。



▲コミュニティの雰囲気がわかる写真。コロナ禍前の2019年12月に開催され、脇氏も参加した『ブロスタ』ファンイベント


――:最後にコミュニティマネージャーを目指す方へのメッセージをお願いいたします。

コミュニティに関わる仕事は多種多様で、関わり方も同じく様々です。プロデューサーが直接関わることもあれば、開発チーム内にいるコミュニティの担当者が行うこともあります。また私のように、ローカルマーケットの担当者が行うケースもあります。ユーザーから要望を受けても立場によって実施できることが変わってきます。自分の置かれている環境でできることから始めていくことが大事と考えています。
 
また、コミュニティマネージャーは、コミュニティから信頼を勝ち取ることが重要ですので、ユーザーの気持ちに共感して寄り添うことや、コミュニティ内でよく話をされていることを把握しておくことがポイントだと思います。
 
と、上記でアドバイスはさせてもらったものの、僕もコミュニティマネージャーとしてまだまだ成長過程であり、現段階では決して「コミュニティマネジメントを理解できた」なんて言える立場ではありません。
 
もしSupercellの取り組みに興味がある方がいらっしゃいましたら、ご連絡いただければお互いの情報交換や事例の共有等をすることで業界を一緒に盛り上げていきたいと思っています。ぜひご一報ください!
 

 

(記事制作:編集部 木村英彦)