【特集】『推しエコノミー』中山淳雄氏インタビュー クリエイターを雑音に晒しすぎない週刊マンガ誌のプロダクトアウト術

エンタメ領域のプロデューサーとして、そしてエンタメ社会学者として活躍する中山淳雄氏が先月上梓した『推しエコノミー 「仮想一等地」が変えるエンタメの未来』が好評だ。アマゾンベストセラー1位を記録し、早くも増刷が決定した。当サイトでも「推しもオタクもグローバル」を連載している中山氏だが、出版記念特集として、著者インタビューとともに新型コロナで変質したエンタメ業界の現状と展望を語ってもらった。今回は、中国や米国のコンテンツ企業が台頭する中、日本企業としてどうやって生き残っていくべきかをテーマに話を聞いた。


――:本を読ませていただきましたが、中国やアメリカがコンテンツ業界で大きな存在感を示す中、日本がどうやっていくべきなのか、とても示唆的だと思いました。

私自身もここ数年はそのことばかりを考えていました。日本企業は、今後どういう存在を目指していくべきか、中国や米国とどう違うのか、どういった意味で違う存在になるべきなのか、といったことです。ゲームに限らず、経済や政治の本を中心に年間200~300冊は読みますが、本書でも取り上げた他業種の事例は大変参考になりました。シマノやLVMHの事例が本書を書くきっかけになりました。

意外と知られていないんですが、アパレル業界では、欧州系のブランド企業がアメリカ型企業と差別化して存在感を示している事例が多くあります。そして、自転車産業の構造転換とシマノの復活も取り上げました。コンテンツ業界とは全く違う業界ですが、日本のコンテンツ業界にとっても大いに参考になるケースだと感じました。アメリカ企業と常に戦ってきた欧州企業をモデルにすべきではないかと考えるようになりました。


――:欧州企業はアメリカとは違いますね。ブランドファッションでアメリカ企業が少ないという指摘は「なるほど」と思いました。

アメリカは、マスプロダクションの世界に持っていく国ですので、それはそれで良い点が非常に多くあります。サバイバル空間で作ってきた国ですので、日本や欧州と異なり、1000年、2000年という連綿とした歴史の中にいまを位置づけることができません。過去を捨ててきた開拓者が作り上げてきた国です。

中国も長い歴史を持っていますが、200年単位で政治体制が変わっていき、そのたびに支配民族が変わって、ある意味、リセットされます。アジアの中で中国はもっともアメリカ的な国だという印象を持っています。これらの国の企業と日本は根本的ともいえるほど違っているので、日本がお手本とすべきはむしろ欧州企業ではないかと思うに至りました。


――:学生時代に「第二の産業分水嶺」という本を読んだことがありまして、内容は殆ど忘れてしまったのですが、中小企業が強いイタリアの繊維工業に関する記述を思い出しました。

欧州企業の多くは、東欧に向上などを移転してしまったのですが、そのなかで、イタリアの場合は上流工程、いわゆる企画やマーケティングについては自国で保持しつづけています。これは中野区におけるアニメ産業に近いものがありますよね。近い場所に会社が集積して触発しあっています。

私もイタリアのアパレル上流メーカーを研究した本を読んでことがありますが、確かに中小企業ばかりなんです。人材を融通し合うことで、高めあっていました。国の賃金が高くなることは良いことばかりではなく、他に市場や仕事が奪われやすくなることも意味します。繊維工業でも一部のレイヤーが中国やバングラデシュに出ていってしまい、国を弱くする部分もありました。何を自国に残すのかが大事です。

欧州企業は100年、200年にわたって米国企業と戦ってきました。国内で言えば、トヨタは、工程でも一定割合をあえて国内に残しています。コストは高いんですが、ものづくりをなくしてしまった瞬間、何か環境が激変したときにアウトソースできなくなるし、コアコンピタンスが失われてしまいます。


――:日本の強みをどう生かしていくか本書で、職人技で徹底的に作り込まれた、ニッチで高品質なコンテンツが重要と指摘されていますね。

はい。ニッチトップの高品質というのは、日本はダントツでトップだと考えています。私はシンガポールやカナダなど20カ国の人とこれまで働いてきましたが、ここまで組織的に詰めてきっちり作りこんでいく文化があるのは日本くらいだと思います。私の経験では、海外のコンテンツの進捗会議では、アジェンダやタスクの割当や進捗報告などがありますが、日本と異なり、大抵の人は自分以外のタスクには関心がありませんし、持つことを好ましいとは考えません。

日本の場合は、とにかく全部情報を詰め込みます。7~8人の会議体なのですが、メンバーそれぞれの動きを詳細に報告して、各人のタスクの連携など段取りも含めて驚くほど詳細に話し合っていきます。このために、ミーティングの時間がとにかく長くなりがちで、途中で疲れてしまいます。会議でここまで詰めて練り上げて高品質なプロダクトを作っていくプロセスを海外では見たことがありません。こういう部分はAppleがお手本にしたと言われていますよね。


――:国内市場が限られている以上、日本企業も世界市場を目指していく、ということにならざるを得ません。そのなかでも職人気質のクリエイターを重視していったほうが良いと。

そうですね。あまり世界を見ていない奇妙奇天烈なクリエイターを活かすほうが良いような気がしますね。この業界では、世界をみているのはつくり手ではない人の方が多いんですね。

アメリカは、プロデューサーでものを作る文化があると思いました。ある意味、クリエイターは兵隊のように動くことがカルチャーとしてあります。自分は脚本だけやる、デザインだけやる、など徹底的に分業化して、プロダクトを自分のものではなく、仕事として割り切って接することができる文化があります。仕組みとして、企画を考えてお金を出したプロデューサーが成果を持っていきます。

日本の場合は、編集者もプロデューサーも作るところにはあまり関与していないことが多いです。マーケティングを見ますが、作るところを全然やってない人が多いんです。クリエイターがプロダクトを自分自身だと思って作る魂の入れ物のようになっています。そういう作り方が言語を超えて人を感動させるものですし、海外の職人にはないものだと思います。よく海外を意識して作れとよく言われれますが、そういうのってどういう人が作れるんでしょうかね。

そういえば、スタジオジブリって英語のサイトがないのをご存知ですか?


――:え? そうなんですか?

ジブリ美術館は海外のお客さんが来ることを前提にしていますので用意していますが、そもそも作品だけ見てくれればいいというスタンスのように見えます。本でも紹介しましたが、ジブリ作品は、中国でも大変人気なので、中国語も作るべきなんでしょうけど、職人ファーストの会社ってこういう会社だと思うんです。


――:そういう部分に力を入れるなら作品作りにリソース注げということなんでしょうか。

そうですね。だから、日本で商社が力を持っているということでもあります。メーカーもものづくりにこだわりすぎており、海外がわからない、売り方がわからないというのは、それはそれで劣位でもあります。

職人とマーケターが分業するのが日本のやり方ですし、それしかできないともいえます。マーケティングを考えて統合的にプロダクトを作っていくアメリカとの違いといえますね。マーケットインするアメリカと、プロダクトアウトでいく日本の違いですね。


――:どこまでがマーケットインで、どこまでがプロダクトアウトか、具体的な線引きは難しいところですが、日本でヒットするアニメもゲームもプロダクトアウト型が多いような気はしますね。

プロダクトアウト型が多いといっても、日本のクリエイターたちは、日本を含めて世界中のユーザーや市場動向を無視しているわけでは決してありません。フィードバックを受けて反省したり、改善したりするものはしっかりとやっています。ですが、自由にユーザーの意見を裸で浴びるのは、Twitterなどをみていると必ずしも良くないなと思います。

漫画雑誌の連載のフィードバックは良い仕組みだなと思いますね。適度に編集が間に入って、クリエイターである漫画家にTwitterのようなむき出しの“意見”が集中しないようになっているし、(それが悪く作用することもありますが)建設的なコンテンツに活かせる意見をきちんと透過させていく。民主的だ、自由だ、オープンだということとは違うレベルの話で、建設的な意見を入れながら、雑音のない環境をつくっています。日本的なクリエイター環境の整備は独自かもしれないですね。

――:そういえば、昔のゲームなどでもパッケージに同封されていたハガキが送られてきて、フィードバックを受けていたという話を聞きますね。ありがとうございました。

 

■中山淳雄氏略歴
エンタメ社会学者&早稲田MBA経営学講師。リクルートスタッフィング、DeNA、デロイト、バンダイナムコスタジオ、ブシロードを経てRe entertainmentを創業。エンタメ社会学者として研究する傍ら、メディアミックスIPプロジェクトのプロデュース・コンサルティングに従事している。東大社会学修士、McGill大経営学修士。新著『推しエコノミー 「仮想一等地」が変えるエンタメの未来』を10月14日に上梓し、アマゾンベストセラー1位を記録し、早くも増刷も決定した。

 

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