【連載】中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」第54回 「なろう」好き29歳内視鏡医師が初執筆ライトノベルでメジャーデビューの末、夢だった新日本プロレスの異世界転生モノを書いた件

中山淳雄 エンタメ社会学者&Re entertainment社長
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今回は「新日本プロレスの異世界ラノベ」を上梓した「医師」で「ラノベ作家」というツッコミどころしかない現象を解説すべく、津田さんにインタビューを行った。29歳まで執筆経験はなかったという著者が、「小説家になろう(通称:なろう)」を通じてどのようにラノベ作家になるのか、陸上少年がどうしてラノベの道に進んだのかをお聞きした。そのヒストリーはまさに2010年代のラノベ史を代表しており、現在の異世界系や異世界大喜利系がどのように生まれたのかを解き明かす壮大なインタビューとなった。

   

 

■ブシロードとプロレスの異世界転生ラノベ、好きなことだけを詰め込んだ作品

――:自己紹介からお願いいたします。

津田彷徨(つだ ほうこう)と申します。1983年生まれで兵庫県出身、医師をしながらラノベ作家をしております。作品としては『やる気なし英雄譚』(2014~)や『高度に発達した医学は魔法と区別がつかない』(2022~)などを書いてきました。

――:今回は『プロレス棚橋弘至と!ビジネス木谷高明の!!異世界タッグ無双!!!』(星海社、2022)の出版記念ということでインタビューさせていただきました。まさかのタイトルですね笑

いやー、その節は中山さんに大変お世話になりました。鷹鳥屋明さんに仲介いただいて、星海社社長の太田克史さんとブシロード時代の中山さんにご相談に伺ったのがはじまりでした。

――:1年半前くらいですかね。正直驚きました笑。ブシロード創業者の木谷高明社長と新日本プロレスの棚橋弘至選手で異世界転生する話を描きたい、と突然ラノベ作家が訪れるという。しかも医者だという笑。

プロレスは小学生の時からちょっとずつ見始めていたんですが、大学生になって中邑真輔選手がデビューしたあたりで大好きになって、それ以来しょっちゅう試合にもいっていたんですよ。今回東京出張したのも、実は明日(2/21)の武藤敬司選手の東京ドームでの引退試合に参加するためで・・・笑。私は「売れているものは何か」から逆算して書くタイプなんですが、今回だけは  本当に「自分が好きなものを存分に書いた」という感じで、大満足なんです。

 

▲異世界に迷い込んだ木谷高明オーナーと棚橋弘至選手、異世界でタッグを組んで活躍

――:「好き」のパワーって素晴らしいですよね。この表紙ってあの有名な漫画家  の、、、?

『終末のワルキューレ』のアジチカさんです。チームの中にプロレスの大ファンの方がいらっしゃる  ということで、このラノベはプロレス大好きっ子たちの思いの丈が詰まりまくった作品になっています。

――:そうですよね、それでいてなぜか異世界転生という。中山の早稲田大学での新日本プロレス研究論文なども多用していただいて、まさかラノベ設定に使われるとはと読んでいてわらけてきました。

あれ、めちゃくちゃ使わせていただきました。ブシロードや木谷さんはもちろん一ファンとして追わせていただいていたのですが、今回異世界に飛んだ2人が棚橋さんはレスラーとして怪物退治に、知性派の木谷オーナーは異世界のエルフの国の経営再建をする話を書き  たかったので「経営者としての木谷オーナー」としての側面を色々調べる必要があったんです。中山さんから頂いた資料系や木谷さんの著書『煽動者』は穴があくほど読みました。

――:異世界なのに新日本プロレス再建の話やトレーディングカードの垂直立ち上げの話も出てきて、果てはシンガポールで飲食店をやっていたネタまで出てきましたね笑。それらの経験をもとにエルフの王女をアイドルユニットとして異世界でデビューまでさせてしまうという。モンスター退治は棚橋選手、異世界王国の経営再建は木谷オーナー、という2人の珍道中的なお話でした。ちなみに医者でラノベ作家になったというのは、津田さんが日本初ですか?

知っている限りは、WEB小説出身では僕が初だと思います。医者で作家になったというのは、森鴎外(1862~1922、『舞姫』)だったり、知念実希人さん(1978~、『「天久鷹央の推理カルテ」シリーズ』等)だったり、けっこういるんですけど。ただ僕のデビュー後、何人か医師のラノベ作家がでてきた感じはあります。佐竹アキノリさん(1992~、『最強騎士団長の世直し旅 』)ですとか。

 

 

■エヴァ・赤木リツコに影響されて医者を目指した高校生。夜勤宿直で読み始めた、なろう小説

――:そもそも津田さんがラノベを書き始めたのって何歳ごろからなんですか?

医学部の後期研修医時代だったので、29歳ですかね。それまでは特に何かを書いてきたというわけでもないんですよ。

――:学生時代はどんなことをされてきたんですか?

ずっとサッカーや陸上をやってきました。ただミステリーが好きで、よく小説は読んでましたね。京極夏彦さん(『姑獲鳥の夏』1994)とか森博嗣さん(『すべてがFになる』1996)とか。その一環で『銀河英雄伝説』なども小説で読んで、アニメに入っていきました。時間の制約で普段アニメ自体はそこまで見ないほうなんですけれど。

――:こうしてお話きいていると、「ずっと書くことに拘ってきた」みたいな感じじゃないですよね。運動部ですし、社交性も高いですし笑、ちょっと“作家"のイメージと違います。医者は昔からなりたかったんですか?

いえ、医者も別にずっとなりたかったわけじゃないんです。家も医者家系というわけじゃないですしね。兵庫の田舎出身で、学年全員で11人みたいな過疎な町だったので、小学校・中学校ともに今は廃校になっちゃっているようなところに育ちました。ただ多少勉強ができたので、進学校として愛媛県の愛光学園に進学するんです。

――:高校から親元離れてるんですね。ご両親はどんな方なんですか?

親は実は陸上競技の選手だったんですよ。愛光学園の受験するのも、このまま普通に地元の高校に進学してしまうと一生陸上させられるんじゃないか!と思って、あせって勉強頑張って、進学校にいくことにしたんです。東大寺学園や鹿児島ラサールも受けて、最終的に合格した愛光学園に行きました。寮暮らしのスタートです。

――:じゃあ高校まで普通に勉強も頑張る運動部少年、という感じだったんですね。大学で医学部に進学するきっかけは?

『エヴァンゲリオン』なんです・・・実は笑。赤城リツコ、いるじゃないですか。彼女を見たときに、超絶エリートだな!と。それでなぜか、あのくらいのパラメーターの人間にならないと日本社会の英雄譚というか、面白い場所には入れない。だったら自分自身が医者になって、赤城リツコのようなポジションにになるんだ、と。

――:なるほど、高校がなんか色々バグりはじめた時期なんですね笑。「日本の英雄譚に入る」が目標で、なぜかそれが医者だと思っちゃったわけですね!

『エヴァ』がなかったら、あのアニメを観ることがなかったら、医者にはならなかったですね笑。

――:そして大学は地方国立  大学の医学部に進学します。

大学での6年間は最高でした。この時代は当初エンタメとはそれほど距離が近かったわけじゃなくて、サッカー部に入っていました。

ただこの時期に影響を受けたのが、講談社で太田克史さん達がやっていた文芸雑誌『メフィスト』(1994年創刊のミステリを中心とした雑誌)と『ファウスト』(2003年創刊のミステリを中心とした雑誌)なんです。メフィスト賞を受賞された  西尾維新さんの『クビキリサイクル』(「戯言シリーズ」2002~)に衝撃を受けて、エンタメに引き戻されました。そしていつかこの太田さんという編集者と一緒に仕事してみたい!と思っていたんです。

――:なんと、太田さんが大学時代からの憧れの人だったとは。そこから約20年を経て夢が実現するわけですね。

太田さんは当時から僕にとっては憧れで、京極夏彦さんや清涼院流水さん、あとは西尾維新さん(1981~、『〈物語〉シリーズ』)やType-Moonの那須きのこさん(1973~、『月姫』、大ヒットスマホゲーム『Fate/Grand Order』のメインシナリオライターでも有名)など  担当されていました。2003年に講談社史上最年少(当時30歳)の編集長になり、2006年にレーベル「講談社BOX」を立ち上げられます。

――:太田さんはその後2010年に星海社を立ち上げられたんですね。津田さんのデビューは講談社じゃなかったですよね?

はい、太田さんとの出会いはデビューした後からですね。デビューはMFブックス(メディアファクトリー)で、KADOKAWAさんからになります。『やる気なし英雄譚』(2014、MFブックス)です。「小説家になろう」にアクセスしはじめたのは、  後期研修医時代に夜勤で時間があったからなんです。2002年医学部進学のあとは6年間の勉強、そして2年の前期研修と3年の後期研修を経て、最終的に内視鏡医  になります。僕の場合、その後期研修時代に地元に戻って神戸の病院勤務をしていたころに「小説家になろう」を読み始めたんです。

――:『ブラックジャックによろしく』でそのあたりの勤務体系はマンガで学びました。日当がでるからバイト感覚で研修医が近隣の病院などで宿直(深夜勤務)するんですよね。

最初3年くらいは月残業が100~200時間くらい。ただ4年目くらいになると、軽微な診療案件は若手が担当するので緊急なものや大きなものがない限りは自由時間が増えてくるんですよ。その月100時間残業以下になってくるあたりで、当時電子書籍がそこまで充実してなかったこともあって、深夜に読むものがなくなってきてので、Webで「なろう」を読み始めたんですよ。2012年ごろですかね。

■小説投稿サイトをアルゴリズムハックして書きあげたマーケットイン作品。1か月でサイト1位、2カ月目に書籍化デビュー

――:「小説家になろう(通称:なろう)」は2004年にはじまる小説投稿サイトですが、運営が2010年に株式会社化。2012年は、そうはいってもまだ黎明期といえる時期ですかね。

『魔法科高校の劣等生』(佐島勤、連載2008~13)がちょうどなろうから削除された時期でした。当時はまだ書籍化とWebがあまり併存してなかった時代なので、メジャーデビューで書籍化された段階で、「なろう」に掲載されていた作品は削除されたものもあったんですよね。『この素晴らしい世界に祝福を!』(暁なつめ、連載2012~13)なども様々な事情であの時期に削除されてます。

 

▲投稿作家・作品数のピークは2017年ごろ。2,023年2月現在累積登録230万人、うち10~15%が投稿者と考えると作家は30万人程度。毎年約10万件の作品を3万人ほどの作家が書きあげ、約20年での累計100万作品のなかで小説化・コミカライズ化・アニメ化した作品は200程度。月20億PVは日本のサイトランキングではトップ20に入り、最もエンゲージ率(定着率)の高い日本最大の小説投稿サイトである

 

――:動画配信に流れてると映画館に行かない・DVDが売れない、電子マンガで読めると本が買われない、とか言われていたのと同じ文脈ですよね。

初期の「なろう」の書籍化だと購入者全体の10~20%がなろうの読者でしたが、大半の新規購入者に目を向けると  別になろうで読めなくてもそれでよいと編集の方は考えられたのかもしれません。ただ最近だとこの数字が5%くらいのものもあり、「なろう」読者の購入者比率は減少していますが、作品をサイトに残すことが作品の続きが存在する安心感になっているかもしれません。

――:でも読んでいるのと実際書こうというのは全然違いますよね?よくそこから自分で書いてみようと思いましたね。

ランキングみていると色々統計的に面白かったんですよね。何作品か読んでみると、こういう作品が求められているんだろうなと感覚的にもつかめるところがあって、WEB小説なら書き始めて1か月でプロデビューできるという話もあるし、試しに一度書いてみるか、と。もしデビューできなかったらこの1作でやめる、くらいの気持ちではじめてます。

――:ちょうどなろう登録ユーザーが20万⇒30万(現在は)と急増している時期に開始されたわけですね。最初の作品投稿が2013年2月16日、これはどのくらいの期間で書いたんですか?

2日で書きました。

――:2日!?めちゃくちゃ早いですね??いきなり書くと、たぶん読者からもいろいろコメントきますよね?

まさに。最初の5000文字はPVでいうと10とか20くらいしかこない状態なんですけど、読者から「なんか論文みたいだな」というコメントも頂きました。当時感嘆符もまともにつかってなかったので、コメントをもらないがら全部感嘆符いれて書き直したりし、タイトルなどもトレンドにあわせてブラッシュアップしていきました。

「なろう」では数字が常に見れます。月次でも日次でも時間単位までどのくらいPVがあってコメントがどうついているか、ジャンプのアンケートが著者側で常に分析できるようなものなんです。

この作品、タイトルも4回変えてるんですよ。「クラリス戦記」⇒「Clarith Knights」⇒「やる気なし英雄伝説」⇒「やる気なし英雄譚」と。

――:え、それはなぜ変えたんですか?

僕は統計ソフトをつかって「なろう」を分析していたので、アルゴリズムトップ作品のキーワードもこんな感じ(秘匿プレゼン資料をみせつつ)で分析していったんですよ。トップランキングにあがる作品のタイトルを「t値」検定をかけたりして、どのワードをいれるのがふさわしいのか。内容からではなく、市場から逆算してタイトルを決めました。
※t値:統計的出現率から、そのキーワードと成功に有意性があるかどうかを検定する。

――:これは凄い!なんともSEO的ですね。その時に流行っているキーワードにあわせて、目立ちやすいようにタイトルや書き方を変えていくんですね。

個人的には最初、異世界転生では勝負したくなかったんですよね。すでに多くの方が書かれていて後発となるので。ただ「異世界」的なキーワードを出さないと、レコメンドから外れやすくなる。じゃあ「異世界」的なワードは入れつつ、差別化できるキーワードは探そうと。

あとはデビュー直前の2週間くらいで、ネガティブワードがどんどんトップになるトレンドが生まれてたんですよ。「昼寝がしたい」とか「やる気なし」とか。それで最終的には「やる気なし英雄譚」にしました。

――:アルゴリズムハックですね。そんな短い頻度のトレンドにもキャッチアップされるんですね・・・毎日どのくらい書くんですか?

当時は1日5000字くらいをノルマにして書いてましたね。最近のWEB小説だと1話2000~3000字じゃないと読まれないので、もっと短尺にしていかないといけないですが。

深夜勤務の午前0時~3時あたりがゴールデンタイムでしたね。過去のヒット作の傾向も踏まえ  、最初10話まで出さないと順位があがりにくいこともわかっていたので淡々と書き進めてました。ただそれでもなかなか上がらないので先ほどのようにあせって分析してタイトル4つめに落ち着かせた形です。

そして2013年3月7日、第二章に突入したところでランキング1位になりました。開始して3週間くらい、その頃にPVも10~20万ついていて、ちょうど1万倍くらいになりました。

――:アルゴリズムハック、本当に有効なんですね!ここから書籍化というのはどのように始まるんですか?

ランキング1位になると出版社側から声がかかりやすいんです。僕の場合も3月で1位になったところからこれはどこかでデビューできるなというのがあり、実際に4月にはKADOKAWAさんから声がかかりました。

 


――:『やる気なし英雄譚』は第一巻が2014年7月に出てますが、このストーリーはなろうでもずっと書き続けているんですよね?

はい、2013年2月から開始して、2019年1月で一度完結させてます。文庫にすると12~13冊分になりますが、現時点ではそのうち6冊分が刊行されてます。商業本が前日譚で、なろうで掲載されているものが本編、という位置づけですね。今はコミカライズが開始されたので、再び続編小説を書いています。

 

■もはや異世界はオワコン!?異世界大喜利の結果生まれた「悪役令嬢」ブーム

――:「なろう系」=異世界とも言われます。ジャンルの変遷なども分析されてましたよね。

はい、ただ  「小説家になろう  」自体は異世界系作品を代表するサイトとは言いづらい状況になりつつあります。  現在アニメ化されて人気になってきた『この素晴らしい世界に祝福を!』(連載2012~13、アニメ化2016~)、『Re:ゼロから始める異世界生活』(連載2012~、アニメ化2016~)、『異世界はスマートフォンとともに。』(連載2013~、アニメ化2017~)、『転生したらスライムだった件』(連載2014~、アニメ化2018~)、『盾の勇者の成り上がり』(連載2012~、アニメ化2019~)など、すべて僕と同じ時期に書いていた方たち  の作品で  「なろう系」=異世界を象徴していたかもしれません。ただこれらは2010年代前半にできた作品で、最近だと異世界系作家は「なろう」をメインとして書かなくなっている方も増えています  。

――:これは意外でした。たしかに2012~14年あたりで「なろう」が盛り上がったタイミングの作品が5年ほどしてからアニメ化・ゲーム化で有名になったのが今なのですね。なぜ「なろう」はもはや異世界を代表していないのでしょうか?

「なろう」のランキングシステムが変わったんですよ。2016年に。「異世界系」だけ増えすぎたのもあったのかもしれませんが、ランキングとして別枠にもっていったので通常ランキングに上がりにくくなりました。2023年現在では「異世界系」をメインで書く人は  KADOKAWAの「カクヨム」さんなどにだいぶ流入している印象です。皆プラットフォームのランキングに誘導されるので、アルゴリズムが変わってしまうとジャンルの流行はあっという間に移り変わります。

――:その後はどういうトレンドになるのですか?

なろう系≒異世界系の世界を広げるように、今度は異世界で大喜利のようなことを始めた方がいらっしゃいました。剣とか自動販売機とか電車とかに転生するような物語も2014?2016年頃から増えてきましたね。

ただ継続してジャンルを席巻しているのは悪役令嬢系(『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…(通称:はめふら)』山口悟、2014~2015連載、2020アニメ化)ですよね。

――:悪役令嬢、もはや一大ジャンルですよね!Webtoonですと、悪役令嬢系がトップを寡占しています。

ランキングシステムとの相性などもあるかもしれません。女性向けの異世界恋愛モノを短編として作成し、それを長編化するというのがパターンも増えたりと、いろんな方がいろんなアプローチをされています。ただアルゴリズムがハマりすぎると、プラットフォームとしてはリスクもあるでしょうし、難しいところですね。あと悪役令嬢でなく女性向けとしては、『薬屋のひとりごと』(日向夏、連載2012~、アニメ化2023)などがやはり素敵な作品と思いますね。

――:薬屋はいい作品ですよね~。ラノベ⇒コミカライズ⇒アニメ化ときれいな昇格ステップを辿っています。津田さん、こうした方々集めてよくラノベコミュニティを作っているというお話を聞きました。

 コミュニティというわけではないですが、同世代で一緒に頑張ってきた仲間と同人誌を作ったりはしています。カルロ・ゼン (『幼女戦記』)、 蝉川夏哉(『異世界居酒屋「のぶ」』、 暁なつめ (『このすば』)、長月達平(『リゼロ』)、 日向夏(『薬屋のひとりごと』)、理不尽な孫の手(『無職転生』) 、みかみてれん(『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!』)といったなろう時代の友人と、柴田勝家(『アメリカン・ブッダ』)、円居挽(『丸太町ルヴォワール』)などデビュー後に商業で出会った友人を集めて、皆で一緒に同人誌を出し、それを商業書籍として『作家逃亡飯』(星海社、2020:編集者から逃避して食べる飯のうまさを説く食レポ)でまとめて頂きました  。

――:なんと豪華なメンバー!!なろうの歴史を津田さん周辺で総括できそうですね。

僕はむしろ自身を傍流だと思っていますので総括はできない気がしますが、デビュー前に色々な出版社・編集者から声がかかるのですが、その際に最初はアマチュア同士で情報共有する友人たちが居たことは救いになってきました。

――:なろうやラノベの歴史を分析して勉強会をしているとお聞きしました。

はい、太田さんともラノベの歴史教えてほしいというので講義したのが最初のご縁でした。中山さんの本に出てくる巨匠(『エンタの巨匠』)にも講義したことあります、実は笑。

――:なろう系の歴史を概観するとどんな感じになるのでしょうか?

僕がなろう流行期に分析していた時期に限りますが、ざっくり3世代で認識していました。

第一世代(2004~2012年前半):00年代にWEB小説  黎明期を切り拓いた最初のメジャー作品を生み出した世代(『魔法科高校の劣等生』『オーバーロード』等)
第二世代(2012年後半~14年前半):小説家になろうの書籍化が増えてきて、現在メディアミックス中の多くのクリエイターを生み出した世代(『無職転生』『Re:ゼロからはじめる』『このすば』『幼女戦記』等)
第三世代(2014年半ば~2016年):異世界を拡張していった世代。「なろう」ランキングシステムの変更でジャンルが流動化していった。  

――:ラノベ作家が普通にデビューしていくと、どのくらい売れるものなんですか?

僕のはそこまでは胸を張って売れているとは言いづらいですよね~笑。重版かからなかったものも色々とありますし。現在漫画原作として連載中の『高度に発達した医学は魔法と区別がつかない』(2022~)はありがたいことに10万部を超えてホッとしています。

――:みなさん専業なんでしょうか?どんなお仕事されてた方が多いんですか?

さっき挙げた『作家逃亡飯』などを一緒に書いた仲間は、ほとんど専業ですね。僕がたぶん一番売れていない気がするのでご飯をおごってもらわないと笑。前職はホントバラバラですよ。長月達平(『リゼロ』)さんは肉屋で、手の感覚だけでグラム数あてられるとか笑

――:表に出ていない人も多いですよね。

顔出ししたくない人も多いです。名前もデビュー時に変える方もいますし。長月達平さんはもともと「鼠色猫」でしたし、暁なつめさん (『このすば』)は「自宅警備兵」でしたし。

 

 

■WEB小説は衰退産業!?胃癌を切りながら医療ミステリーを書いていきたい異色のラノベ作家

――:ラノベは現在「衰退産業」とも言われます。市場シェアの半分を占めるKADOKAWAであっても採算に苦労しており、読者も30~40代が中心となって高齢化しているとも言われます。

ラノベはわかりませんが、WEB小説はスキマ時間の奪い合いに苦労している、と思ってます。2010年代前半は良かった印象があります。  ただ2010年代後半からネット回線が高速化し、動画全盛時代になって映像や音声が倍速消費されるなかで、WEB小説を読む時間も奪われていきます。以前はWEB小説  は1話あたり5~8千字で読み切られていたものが、もう1~3千字で終わっておかないと途中で離脱されるようになってきた。WEB小説って倍速視聴ができないので、そのあたりもどうアプローチするか問われるようになる気はします。  

――:コミカライズという路線はよさそうですね。この数年、マンガという観点では市場は活性化しています。

そこは親和性があります。「なろう」小説も、もはやコミカライズ・Webtoon化の原作としての位置づけのほうが強くなっていく可能性があるかもしれません。『シャングリラ・フロンティア?クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす?』( 硬梨菜、連載2017~)など、ノベル化をはさまず「なろう」から直接コミカライズされる作品も出てきました。

ゲームシナリオだったり、縦読みWebtoonの原作依頼を頂くことも増えました。だからそうした「原作の創り手」としての役割を、僕たちWEB小説家が担うことが今後増えていくかもしれません。  

――:中国・韓国のように原作者がチームを組んで、組織でやるという方向もあるのでしょうか?

Tencentなどは自社小説プラットフォームから  ゲーム原作をピックアップ  してますよね。1000万人もの作家がいる、とかちょっと次元が違いすぎますが、、、集団でパート分割で原作つくっていくとPVをターゲットとした量産体制になり質にムラができるリスクはあるかもしれません。ただその分、映像化・コミカライズ化はしやすい作品になっていったり、集団として作る良さもあります。僕ももう少し時間が取れたら集団でWEB小説原作つくるチーム作りを考えていたかもしれません。

――:チーム化すると違う才能も呼び込めますもんね。

例えばData Scientistが原作チームに入る、というのはよいと思います。僕がこのWEB小説の資料で分析したように、統計ソフトで分析していると色々なアイデアも見えてくることがあります。統計学とか理系に通じた人材がもっとこの業界に入ってきてくれると良いなとも思います。

――:ラノベ作家自身のタレント化というのはどうでしょうか?

ラノベはキャラクターと世界観にファンが付きやすい印象があり、作家自身も顔出ししていない方の方が多い印象です。その意味では他の小説媒体よりキャラクターを作る、という専門性は強い印象です。僕も『ジョジョの奇妙な冒険』の荒木飛呂彦さんが新書(『荒木飛呂彦の漫画術』集英社新書2015)で解説している「キャラシート」を使わせてもらいながら、キャラ設定つくったりしています。

――:津田さん自身はラノベという道を選択した時に、「医者としてのキャリア」というのはどうなっていったのでしょうか?

2014年のデビューの時、もちろん公立病院に勤める医者でしたので上司の承諾をもらった上でデビューしてます。ただ当時、医師としても仕事が面白くなりはじめた時期で、将来的に博士号をとっておくべきか迷い、大学院にいくかどうかの分岐点ではあったんですよね。その意味では赤木リツコ的な研究の道を諦めて小説を取りました笑。

――:やっぱり医者×作家というのは結構無理はしている感じですよね。

そうですね、本質的には時間の問題で兼業作家を続けるのには向いていない職業ですよね。昨日も緊急  内視鏡が入ってしまって、予定が狂ったので寝台列車で寝ながら東京にくる羽目になりました。

――:これだけ作家としての活動も精力的にされてる中でも、医者の仕事も情熱もってやれるものなのでしょうか?

病院は病院の仕事ですよね。僕は早期胃癌が専門なのですが、胃癌を内視鏡で切るのはやりがいある仕事です。それはそれでずっと続けたいです。

――:今後はどういう作品を考えているのですか?

医療モノは禁じ手にしてたんですよ。小説書いているときまで仕事のこと考えたくない!と思っていたんですが、結果的に『FGO』の医療ミステリーで太田さんに背を押して頂き書き始めることができ、『高度に発達した医学は魔法と区別がつかない』が僕の代表作  になりつつあります。『ブラックジャック』や『医龍』、ドラマの『コード・ブルー』など医療って結構強いジャンルなんですよね。プロレスも書いたし、戦国も書いたし、いままで詳しいけどちゃんと取り組んでこなかったのが医療なので、、、。

書き手としてはラノベとミステリーの中間にあるような作品を作っていきたいんです。やはりミステリー好きというのが僕の原点ですから。医療ミステリーが、今考えている「今後書いていきたいジャンル」ですね。

 

会社情報

会社名
Re entertainment
設立
2021年7月
代表者
中山淳雄
直近業績
エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
上場区分
未上場
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