【インタビュー】エイチームエンターテインメントが挑む“再チャレンジ”──グローバルで挑戦し続けたゲーム事業のこれからと今

スマートフォンゲーム黎明期から『ダークサマナー』『ユニゾンリーグ』などグローバルでもヒットした作品を世に送り出してきたエイチームエンターテインメント。
エイチームホールディングス<3662>では、去る3月、2025年7月期 第2四半期(2024年11月~2025年1月)の決算を発表した。エンターテインメント事業のセグメント利益が前年同期比479%増の1億9700万円と大幅増益だったことを明らかにしている。3四半期連続の黒字達成となる。
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近年は大きな変革期を迎えているゲーム市場にて、協業案件の獲得や海外売上の伸長をみるに、開発体制や海外展開の知見が今まさに評価されていると言えよう。
その要因として、黎明期からグローバルにて様々なジャンルに挑戦してきた経験があってこその今だと話すのはエイチームエンターテインメントの中内氏。現在は新たな“再チャレンジ”のフェーズに突入していると語る。
そこで本稿では、エイチームエンターテインメントの代表である中内氏とキーマンである生守氏と近藤氏にインタビューを実施。
これまでの同社におけるゲーム事業の取り組みやグローバル展開を前提に据えた開発体制、そして新しいフェーズを見据えたエイチームエンターテインメントの“今”に迫る。
【目次】

株式会社エイチームエンターテインメント
代表取締役社長
中内 之公氏
プロデューサーとしてゲームやオンラインサービスなど幅広くデジタルコンテンツを手掛ける。一方で複数社のコンテンツ企業の経営を経験。2009年株式会社エイチーム(現 株式会社エイチームホールディングス)に入社後は、エンターテインメント事業の責任者として、フィーチャーフォン中心の事業をスマートデバイス向けにいち早く転換させ、グローバル展開を推進。

株式会社エイチームエンターテインメント
グラフィックデザイン部 グラフィックスーパーバイザー
生守 一行氏
エイチームエンターテインメントにおいて、主にグラフィックや演出まわりを担当。ファミコンやスーパーファミコン時代から、ハイエンド機まで長らくゲーム開発に従事。映像制作の分野や海外でのプロジェクトも数多く手がける。

株式会社エイチームエンターテインメント
グラフィックデザイン部 マネージャー
近藤 沙智氏
エイチームエンターテインメントのグラフィックデザイン部に所属。グループ制の職能組織のマネージャーを務め、メンバーのマネジメントや育成に従事。
常にグローバルで挑戦し続けてきたエイチームエンターテインメント
―― :本日はよろしくお願いします。中内氏として、ここまでの歩みを振り返ってみて、どのように感じていらっしゃいますか?
中内氏:当社としては、これまで常に何らかの挑戦を続けてきました。たとえば、リアルタイムでの通信対戦に対応した携帯電話(フィーチャーフォン)向けMMORPGを、日本でいち早く開発・リリースしたのは私たちです。『エターナルゾーン』という作品では、国内初の携帯電話向けMMORPGとしてサービスを開始させていただきました。
スマートフォンが登場した初期には、まだスマートフォンでは配信されていないジャンルや、既存ジャンルでもクオリティが追いついていない領域に挑戦し、より良いものを届けようと努力してきました。
また、グローバル展開にも早期から力を入れてきました。スマートフォンアプリは、1つのストアで世界中に配信できるのが大きな魅力です。最初に成功したのは『ダークサマナー』で、日本とアメリカの両市場でヒットを記録しました。その後のタイトルでも、グローバルでの展開を意識するのは当然のこととなっています。
―― :グローバル展開を当たり前の前提として捉えているのですね。
中内氏:その通りです。もちろん配信地域は戦略的に判断しますが、そもそもグローバル展開自体は“チャレンジ”とは捉えていません。「出すのは当然、その上でどうヒットさせるかがチャレンジである」という考え方です。
また、これまでの海外展開により、多くのファンが世界中にいらっしゃるため、新作のローンチ時にも一定数のユーザーに届けやすい土壌が形成されたと感じています。

―― : 実際、海外での売上比率もかなり高いと伺っています。
中内氏:そうですね、タイトルによって異なりますが、好調な時は全体売上の約4割近くを海外が占めるケースもあります。これを維持・拡大していくためには、当然ながらビジュアルや技術面でも“世界基準”を意識しなければなりません。
特に近年は、海外メーカーの技術力も非常に高く、放置系やカジュアルゲームといった分野でも驚くほど洗練されたタイトルが増えています。その中で勝負するには、クオリティの高さに加えて、ユーザーの感情をどう揺さぶるかという設計力も求められます。
幸い、当社では、グローバル展開を支える技術的な基盤がかなり以前から整っています。
これが可能だったのは、十数年にわたって蓄積してきたネットワーク技術と運用経験があるからです。
この技術やリアルタイム型グローバルタイトルの運営実績は、近年、業界内やパートナー企業様からもご評価いただいており、サーバー負荷の最適化や多言語対応なども含めた“総合的なグローバル対応力”が、他社との差別化ポイントになっているのだなと実感しています。
もちろん、オリジナルIPで戦う気概も失ってはいません。むしろ、そこにこそゲーム企業としての価値があると考えていますし、今評価されているのもその姿勢あってこそだと思います。
―― :開発体制について伺います。先ほど、ユーザーの感情をどう揺さぶるかという設計力も求められると中内氏からありましたが、グラフィック部門ではどのようなチーム構成で進められているのでしょうか?
近藤氏:当社のグラフィックデザイン部は、職能別のグループ制を採っています。その中で、私がマネージャーとして人材育成やチーム編成を行い、生守がスーパーバイザーとしてグラフィック品質の全体統括を担っています。
メンバーは複数のプロジェクトにまたがって参加することも多く、グラフィックに限らず演出やエフェクトなど、専門性の高い分野も横断的に支援しています。
生守氏:他の職種の人はプロジェクト単位で集まっていますが、グラフィックはタイトルごとに求められる演出やテイストが違うため、誰がどこで活躍できるかを柔軟に見極めるのが重要です。得意領域を活かす配置を意識していて、各タイトルのユーザーに対してどう感情を動かしてもらえるかといったことも注力できるようにしています。
―― :いわゆる、横軸の横断型組織の体制なのですね。
近藤氏:はい。ですので、若手や中途入社のメンバーがどんどん挑戦していける環境づくりを強く意識しています。明確な職責がある一方で、タイトルやフェーズによって柔軟に役割を変えられる体制なので、やる気のある方には多くのチャンスがあります。

中内氏:私たちは、一人の人がずっと同じことをやるのではなく、成長と変化を前提としたキャリアパスを設計しています。
生守氏:開発体制ですと、これまでゲーム業界ではプロジェクト単位が良いのか、職能ごとの横断型が良いのかという議論は昔から行われています。
どちらが良いというものはなく、そのタイトルや会社のフェーズで変わってくると思いますが、今の当社の体制はハイブリッドともいえる体制で、私たちはこれがバランスの良い体制と考えていますね。
中内氏:未来を見据えた新しいことに挑戦し続けるにあたって、この開発体制が最適な形としてエイチームエンターテインメントでは採用しています。
エイチームエンターテインメントからみたグローバルゲーム事情とは
―― :グローバル展開を前提とした開発において特に意識されていることはありますか?
中内氏:やはりグローバル対応というのは、もはや当たり前の前提として設計しています。たとえば社内には言語対応を担うグローバルチームがあり、SNS運用やDiscordの管理、CS(カスタマーサポート)対応まで一貫して自社で行っているのです。こうした一気通貫した体制があるからこそ、海外展開においても迷わずに戦えるという自負があります。
先ほどお伝えしたとおり、チャレンジなのは“海外でヒットさせること”であって、“出すこと”は当然の流れとして捉えています。設計段階からグローバルチームと連携し、どんなUI・表現が受け入れられるかを常に相談しながら進めています。
生守氏:今でこそグローバル展開を前提としていますが、昔は“現地文化へのローカライズ”が重視される傾向にありました。ところが今は逆に、日本のコンテンツ文化自体がグローバルで受け入れられ、トレンドになっているという感覚もあります。
そういった意味では、無理に“海外向け”を意識しすぎず、“日本的な強み”として自信を持って表現することも、一つの技術戦略だと考えています。
中内氏:生守の言うとおり、昔は現地仕様にカルチャライズすることが求められていましたが、今は“そのまま出してくれ”という空気感が強まっています。特にJRPGスタイルは明確に好まれており、海外のユーザーも「本物のJRPGが遊びたい」と明言するようになりました。むしろ下手にアメリカナイズすると反発されることもあるくらいです。現在は日本のゲーム文化が海外でも認知され、「日本のゲームなら、ちゃんと日本の文脈で出してほしい」と言われるケースも多くなってきました。
―― :日本らしさをそのまま出す方が、受け入れられやすくなっているのですね。
中内氏:はい。ですので、“グローバルに向けて寄せる”というよりは、“日本発の強みを自信を持って出していく”という感覚で取り組んでいます。結果として、自然体のままで海外展開できるという意味で、私たちにとってはとても良い時代になってきていると感じています。
―― :そういった背景もあり、協業案件も含めプロジェクトの数も増えていると。
中内氏:はい。現在は複数の新規プロジェクトが進行中で、それぞれが異なるコンセプトや市場を狙っています。特に、これまでにない“新しい体験”を提供することを重視しており、「誰も触れたことがない遊び」を盛り込みたいと考えています。
どのプロジェクトも、単なる焼き直しではなく、技術・ビジュアル・ゲーム性のすべてにおいて、何かしら新しい挑戦が含まれています。こうした挑戦ができるのも、これまで地道に積み上げてきた運営と技術の基盤があるからこそだと思います。

“グローバルヒットを本気で狙える”人たちが集まり、
「再チャレンジのフェーズ」を迎えるエイチームエンターテインメント
―― :今後のエイチームエンターテインメントをどのような会社にしていきたいとお考えでしょうか?
中内氏:シンプルに言うと、当社をグローバルでヒットタイトルを複数保有する会社にしていきたいと考えています。
これまでは、1タイトルごとに様子を見ながら進めてきた部分があったが、現在は全く異なるコンセプトのプロジェクトを同時に進行させており、それぞれがグローバルヒットを狙えるように動いています。
まさに今は「会社として生まれ変わる」タイミングであり、過去の経験を最大限に活かして次のステージへ進む“勝負の時”だと捉えています。
―― :新しい挑戦であり、勝負の時も迎えていると。
中内氏:そうですね、具体的な情報はまだ公開できる状態にないのですが、1本の看板タイトルというよりは、「複数の柱を並列で立てていく」という構えで動いています。
タイトルが公開されたときには、多くの方に「これがエイチームエンターテインメントか」と驚いていただけるように準備を進めていきます。
――:新規タイトルが進行している中で、採用も強化していると伺っています。貴社で活躍している方に共通する特徴や、求める人物像についてお聞きしてもよろしいでしょうか。
中内氏:やはり“チャレンジし続けられる人”であることが第一です。私たちが目指しているのは、グローバルで通用するゲームを創り続けていくことです。そこには当然、苦労も困難も伴います。だからこそ、その挑戦に対して真正面から向き合い、前に進む気概を持った方と一緒に仕事がしたいと考えています。
近藤氏:私も同意見です。スペックが高く、技術的に優れている方は多くいらっしゃいますが、私たちが求めているのは、常に「次に進む意志」を持ち続けられる方です。たとえば、コンシューマーゲームからスマートフォンへと転向される方も増えていますが、「以前のやり方」にこだわるのではなく、新しい領域に挑戦し続けられる柔軟性を重視しています。
――:職能によって求めるものに違いはあるのでしょうか?
生守氏:基本的には、2D・3Dなどの分野を問わず、すべての職能に共通しています。大切なのは「職種に線を引かずに越境する意識」です。トップレベルのコンセプトアーティストたちは、2Dと3Dを併用して、スカルプトモデルまで自分で扱うようになってきています。

「私は2Dだけ」「これは3Dの領域だから」という意識で自分の職能を固定してしまうと、技術進化についていけなくなってしまいます。ツールや手段は日々進化しています。その中で「目的の表現を実現するために、手段を選ばず対応できる」方が、今後ますます求められるのだと感じています。
目指している表現の為には、一つのやり方やツールに固執せず、変わる。自分のなかで職種の壁を設けてしまうと、それが技術的な停滞につながるリスクがあります。私たちは、こういった“変化を楽しみ、変化に適応しながら、自分の表現を追求していける”人でありたいと思います。
――:チャレンジを続ける姿勢が、組織のなかでも活かされる環境なのでしょうか。
近藤氏:はい。環境としても、そういった姿勢を持っている方が動きやすいように、体制づくりを意識しています。役職や経験年数に関係なく、「やりたい」と手を挙げた人が動けるような文化がありますし、経営層やマネジメント層もそれを後押しする意識を持っていますね。
生守氏:新しい技術に対する感度が高く、自分なりのこだわりを持っている方は、しっかりとその意志が伝わるようなコミュニケーションをしています。私自身もそういった方に対しては、なるべく早く裁量を持ってもらえるようにしています。

近藤氏:実際、映像業界やアニメ業界出身の方など、多様なバックグラウンドを持った方が在籍しています。
大切なのはスキルとチャレンジする意志であり、業界経験の有無は必須ではありません。実際、異業種出身でも即戦力として活躍しているメンバーは多くいます。
生守氏:むしろ、その多様性が新しい発想を生み出していると感じています。自分の表現を実現するための技術や方法にこだわりがある方、目的に対して手段を問わず向き合える方にとっては、非常に相性の良い環境だと思いますね。
――:それでは、読者に向けて最後にメッセージをお願いします。
中内氏:現時点ではお伝えできないプロジェクトが多いですが、一つだけお伝えしたいのは、「グローバルヒットを狙って、一緒に挑戦しましょう」ということ。面白いことを本気でやっている、という自信がある。興味を持っていただけたら、ぜひ声をかけてほしい。
近藤氏:私たちは、ただ作業としてゲームを作っているのではなく、ユーザーに価値ある体験を届けたいという想いで取り組んでいます。新しい挑戦を恐れず、一緒に未来を形にしていける仲間と出会えることを楽しみにしています。
生守氏:新規開発だけでなく、長期的に運用するプロジェクトにも携われる環境がある。一本のタイトルに閉じるのではなく、複数のプロジェクトで自身の力を発揮したい方にとって、今のエイチームエンターテインメントは最適な場所だと思います。共に新しい挑戦ができる方の参加を心より歓迎していますのでぜひお会いしましょう。
中内氏:現在のエイチームエンターテインメントは、「再チャレンジのフェーズ」として非常に面白いフェーズです。既に社内には“グローバルヒットを本気で狙える”人が多く集まっており、私自身、そうしたチームと一緒に働けているのは大きな魅力だと思っています。
この記事をみて、当社でのゲーム作りが気になった方はぜひご連絡いただきたいですし、これまでのタイトルを親しんでくれた方や、まだこれからの方も、新しいプロジェクトには楽しみにしていただきたいです。

――:ありがとうございました。
なお、エイチームエンターテインメントでは現在、新規開発プロジェクト立ち上げに伴い、以下職種を中心にメンバーを積極採用中だ。日本国内での在宅勤務も可能であり、多様なバックグラウンドを持った方が同社では活躍しているので、気になる人はチェックしてみてほしい。
・3DCGデザイナー(キャラクターモデリング)
・アートディレクター
・ゲームディレクター・ゲームプロデューサー
・クライアントサイドエンジニア
会社情報
- 会社名
- 株式会社エイチームホールディングス
- 設立
- 2000年2月
- 代表者
- 代表取締役社長 林 高生
- 決算期
- 7月
- 直近業績
- 売上高239億1700万円、営業利益8億4500万円、経常利益15億8500万円、最終利益10億3600万円(2025年7月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 3662