【インタビュー】「コージー」な日常が「狂気」に変わる――カダスが『Under Mythos』で目指す新しい「JRPG」と海外展開【後編】

木村英彦 編集長
/

『LUNAR』シリーズや『グランディア』シリーズを手掛けた宮路洋一氏が先日、ゲームプロデュース企業「KADATH (カダス)」を設立したことを明らかにした。オリジナルゲーム、オリジナルIP(知的財産権)を生み出し、海外市場に挑戦することを目指している。

前編では、カダスを設立した背景と、「JRPGとは何なのか」という考えを聞いたが、後編では、現在開発中の『Under Mythos』に込めた「癒し」と「狂気」のギャップ、そして海外インディー市場への挑戦、ユーザーとともにゲームを作るという新たな取り組みについて聞いた。今回もカダスの協力会社であるマトリックスの大堀康祐氏も参加している。

 

■「コージー」な温泉宿が、少しずつおかしくなっていく

『Under Mythos』では、温泉宿を拠点にしながらダンジョンを探索する。宿で働き、食材や資源を集め、宿を発展させていく一方、ダンジョンの奥へ進むほど、世界の真実に近づいていく。

宮路氏がこのゲームでやりたいのは、単純な「怖いゲーム」ではない。「ゲーム的には最初の部分ってコージー的な日常をやっているんだけど、よくよく考えてみると、やっていることって残酷なことをやっているよね、という気づくような」

その象徴となるのが「変異」だ。温泉に入った客がミューテーションを起こす。プレイヤーにとっては温泉宿の日常の一部に見えるが、見方を変えれば、そこでは別のことが起きている。

「例えば同僚を温泉に入れる、これはコージーな感じだけど、そいつがミューテートするということは『生贄にしている』ということだから(笑)。それ気付くと怖いよね、『俺のやっていること』というのをやりたいんですよ」

ゲームを進めるにつれて、プレイヤー自身の行動の意味が変わって見えてくる。

「どんどんやっていることがエグいことをやっていくわけです。でも慣れていくから、ゲームで機械的にやっているわけですね。そうするとコージーな現実がどんどん変なことになっていく、崩壊していくみたいなところをやったら面白いかなと思って」

その一方で、必ずしも深部へ進まなければならないわけではない。

「そういうことをやりたくなければ、ずっとコージーな世界で遊んでいれば良いと思っています」。温泉宿で働き、猫たちと仲良くし、そこで過ごすこと自体を楽しむこともできる。戦闘を避けるという選択肢も用意するそうだ。

「コージーでいれば、戦いたくなかったら戦わなくて良いわけだから。ここらへんは『Undertale』はちゃんと良くできているなと思っています」

ただし、本気で物語を進めようとすると、プレイヤーはより深いところへ引き込まれていく。「ゲームを本気でクリアしようと思ったら、もうクレイジーな世界に引っ張られるゲームにしたいんですよ」

 

■ダンジョンの先にあるのは「死」ではなく「狂気」

そのため、ダンジョン探索の位置付けも一般的なRPGとは少し異なる。宮路氏は、ダンジョンが「死と隣り合わ

せ」というより、正確には「狂気」と隣り合わせだと説明する。

「ダンジョンに潜れば潜るほど深淵が、真実が見えてくる。そこにはもう『狂気』しかないんですね、シナリオ的にね」

クトゥルフ神話では、知識を得ることそのものが恐怖につながる。『Under Mythos』でも、探索を進めるほど世界の真実に近づき、それによってプレイヤーの認識が変わっていく。

そこには、単純な勧善懲悪の構図もない。宮路氏が例として挙げるのが、ショゴスと「古きもの(オールド・ワン)」を巡る物語だ。

オールド・ワンが奴隷として作った人工生命体であるショゴスに知識を与えたところ、知識を得たショゴスによってオールド・ワンが滅ぼされる――そうしたクトゥルフ神話の設定を物語の入口に置き、プレイヤーに「どちらを助けるのか」という判断を迫る。

「これ、正解なんかないんですよ、実は。ショゴスを助けても良いし、こっちを助けても良いわけでしょ」

つまり、プレイヤーの判断によって状況そのものが変化する。

「結局正義とかそういう話じゃないんだよね。もう自分の判断によってその状況が変わっていく、ということをやりたいんですよ」

こうした構造によって、温泉宿での穏やかな日常と、ダンジョンの奥にある狂気が同居する。

母親を探すという主人公の目的に沿って進めば、深淵へと近づいていく。一方、宿で働き、仲間たちと仲良くすることを選べば、物語を大きく進めずに遊び続けることもできる。

「一生懸命働いているのを見たりとか、彼らと仲良くするのが楽しいという。これはコージー(笑)」

 

■「かわいいけれど、エグい」――日本と海外で異なるゲームの受け止め方

他方、大堀氏は、自身が手掛けたゲームの経験からも、こうした「個性の強いゲーム」には可能性があると考えている。

かつてマトリックスが手掛けたアクションRPGでは、ゲーム中に村人が次々と死んでいく展開があった。日本では「シナリオが暗い」と評価された一方、海外では受け入れられたという。

海外では、難易度が高く、シナリオもダークだったことがむしろ評価された。

「日本と海外の評価が全く違うんですよね。日本だと大体ハッピーエンドで終わるじゃないですか」。

大堀氏は、ゲームには「個性があって良い」と考える。

「日本ってどちらかというとどんどん標準化されていっちゃうじゃないですか。なので今宮路さんのお話にあったような、クトゥルフも含めてそうなんですけど、せっかく遊ぶならやっぱりちょっと違った遊びを提案するというのは全然アリかなと思っていて」

その例として挙げたのが『Cult of the Lamb』だ。かわいらしい羊を前面に出しながら、実際にはかなりエグい内容を扱っている。

「そういう方がずっとインディーっぽいなと思っています」

宮路氏も、ゲームにおいては「こんな体験をしたことがない」という感覚を作りたいと話す。「ゲームって体験なので。『こんな体験したことない』というのをやりたいんですよ」

大堀氏もこれに同意し、従来の勧善懲悪のゲームが好きな人がいる一方で、新しい体験を求めるユーザーに向けたゲームがあってもいいと話す。

「逆に新しい遊びを僕らが作るからこそ『こんな違った体験ができたり、え、こんなだったの? びっくり』みたいなのがあっても良いじゃないですか。せっかくゲームを作るんですからね」

 

■海外インディー市場は「安く作ればいい」ではなくなった

一方で、インディー市場そのものも変化しているという。宮路氏は「インディーはこの1~2年で全然変わってきている」と指摘した。

個人開発者は依然として多いものの、海外のパブリッシャーから見ると、現在では「普通の開発」でも100万ドル規模、あるいはそれ以上の予算が必要になってきているという。年間2万本ものゲームがリリースされる中で、一定の規模がなければ目を向けてもらうこと自体が難しくなっているからだ。

ただし、極めて小規模な開発でヒットする作品もある。その例として宮路氏が挙げたのが、2人が3カ月で開発した『めっちゃカメレオン』だ。

「『めっちゃカメレオン』はすごかったですよね。3ヶ月で2人で作ったこともすごいんですが、彼らはその前にRobloxやFortniteでずっと作っていたでしょう。あれがあるから今があるんだと思うんですよね」

大堀氏も「日本人であそこまでやったからね」と振り返る。個人や小規模なチームが大きなヒットを生み出すことは、ゲーム業界にとっても大きな意味があるという。

「特に個人で作られたもので大ヒットはなかったですよね。やっぱりゲーム業界って昔はヒットして一旗揚げる…というところがあったんですけど、最近はそういうのが少なくなっています。ああいうちょっと宝くじを当てたようなのが出てくると同じ業界に生きる人間としては嬉しいですよね、『ああいう形もあるんだ』というのがあって、やっぱり『何かうち等もあんなことできないかな』というような励みにもなりますし」

もっとも、宮路氏はこうしたアイデア型のゲームには別の難しさもあると指摘する。同じようなアイデアで次の作品を作れるとは限らないからだ。

「あの手のゲームで一番問題になる、課題になるのは、次作も同じようなアイデアが出てくるかになってくるんですよ。これはね、また難しい問題で、アイデア系のゲームでなかなか出ないんですよね」

だからこそ、カダスが目指すのは、一発のアイデアだけに依存するゲームではない。

「ナラティブのゲームというのは、ナラティブって実は色々作れるんで、一発アイデアではないじゃないですか、むしろ。で、それが得意技だからそっちの方をやろうと」

一方で、ナラティブを軸にしっかり作り込もうとすれば、極端に小さな予算では難しい。宮路氏は「どう考えたって1ミリオン(※予算1億円強)くらいは最低無いと作れない」と話す。

つまり現在のインディー市場では、「小さく作ればいい」という単純な話ではない。『めっちゃカメレオン』のように極めて小規模な開発から大きなヒットを生み出す可能性がある一方、一定の規模をかけて物語や世界観を作り込むゲームも存在する。カダスはその後者に近い領域で、自分たちの得意とするJRPG、そしてナラティブを武器に勝負しようとしている。

 

■「JRPGなら、JRPGが得意なパブリッシャーと組む」

海外市場で重要になるのが、パブリッシャーとの関係だ。宮路氏によれば、海外のパブリッシャーには「何でも扱う」のではなく、得意ジャンルを明確にしている会社が多い。ローグライトならローグライト、カードゲームならカードゲームというように、特定ジャンルに特化することで、そのジャンルのユーザーをすでに抱えている。

その背景には、Steamでウィッシュリストを獲得する難しさがある。「自分が受けた作品のユーザーにはリーチできるから、その同系統のヤツを出しているんだと思う」。そのため、JRPGを売るのであれば、JRPGに強いパブリッシャーと組む方が効果的だという。

「JRPGやるならココとココとココ」といった形で、パブリッシャーごとの得意分野も明確になってきている。「JRPG、例えばホラーで売るんだったら、単独で売るよりはホラーが得意なところに扱ってもらった方が遙かに売れるわけでう。同じものでも10倍違う、多分」

ここにも、カダスがプロデュース会社として海外パブリッシャーとの接点を作ろうとする理由がある。

 

■「作ってから売る」から、ユーザーと対話しながら作るへ

そして今回のプロジェクトで宮路氏が特に重視しているのが、開発初期からユーザーとコミュニケーションを取ることだ。

『Under Mythos』は、完成したゲームを発表するのではなく、まだ開発の初期段階で発表した。

その理由の一つは、ユーザーの反応を開発に反映させるためだ。実際、主人公の姿などについて反応があれば、それをきっかけにゲームの導入部分を変更する可能性もあるという。

「ゲームで一番大切なのは最初の導入のところでの没入だから、没入できないゲームっていけないじゃない?」

また、「ローグライトに見える」といった外部からの受け止め方についても、早い段階で修正できる。

こうした取り組みは、単なる開発上のメリットだけではない。ウィッシュリストの積み上がりなどを通じて、ユーザーの熱量をある程度把握できれば、販売規模を想定しながら開発を調整できる。

宮路氏が問題視しているのは、「100万本売れるはずだ」と想定して大規模な投資を行い、結果として大きな損失を出してしまうケースだ。

「100万本売れるはずだとか言って突っ込んでいって爆死するヤツが多いでしょう、最近。あれね、他人が爆死するのは良いんだけど、業界全体からするとやっぱりその分、バジェットが落ちるはずなんですよ」

ゲーム業界全体にとっても、投資した資金が次の作品へ回ることが重要だという考えだ。だからこそ、ユーザーと対話しながらゲームを作り、需要を見ながら開発を調整していく。

「どうにかビジネスモデルを変えたいんですよ、ユーザーと対話しながら」

 

■海外ファンとの距離が近づいた

海外市場を狙ううえでは、ゲームを販売するだけでなく、ユーザーとの距離を縮めることも重要になる。宮路氏は、近年のVTuberの台頭についても、ユーザーとコンテンツの距離を縮めたことが大きいと考えている。

そしてゲームに関しては、特にRedditの存在感を指摘する。「特にVTuberの方々って、みんなゲームじゃないですか、話しているの。だからゲームとユーザーの間が空きすぎていたので、VTuberが生まれたと僕は思っているんですよね」

そのうえで、クリエイターやメーカー自身がユーザーに近づいていくことが必要だとする。海外のユーザーと直接会話する機会も増えている。翻訳技術の進歩によって、以前よりも国境を越えたコミュニケーションが容易になった。

大堀氏も、海外のゲームファンから過去作について熱い反応を受けた経験を語る。ゲームを通じて人生に影響を与えられたというファンと直接つながることは、クリエイター側にとっても大きな意味を持つ。

「それが開発のメンバーもみんな共有できてくると、なんか普通にお金をもらって作るという形から、ファンと一緒に作っているという、この感覚をやっぱり残したいよね」

大堀氏も、作業としてゲームを作るのではなく、ユーザーやファンから背中を押してもらうことが、作り手のパッションにもつながると話す。

「身近なところにいて背中を押してくれるなり、コミュニケーション取れるというのはすごくでかいなと思っていて。嬉しいですよね、作り手も変わりますよね」

 

■「青春の1ページ」と言われるゲームを

最後に、宮路氏に今回のゲームを通じて実現したいことを聞いた。宮路氏は、『ルナ』や『グランディア』について海外のファンと交流する中で、今でも「青春の1ページだった」「人生を変えた」と言われることがあるという。

だからこそ、今回も単に消費されて終わるゲームではなく、長く心に残る作品を作りたい。

「そういうゲームにしたいなとは思いますよ」

宮路氏が理想として挙げるのは、一度遊んで終わる作品ではなく、時間を置いてもう一度触れたときに違うものが見えてくる作品だ。

「単なる作品というよりは何かこう……消費するストーリーと『反芻するもの』があるんですよ」

『MOTHER』のように、何度も触れることで違った見え方が生まれる作品。そして、すべてを説明するのではなく、あえて余白を残すことも重要だという。

「削るとね、さっき言った余白・空白ができるじゃないですか。この空白が、実は色んな人たちが色んなことを考える余地になるので。それで実は良い作品って考察ができるわけ。そういう作品は絶対強い」

ゲーム開発では、不安から要素を足していきがちだ。しかし、宮路氏は「削る」ことにも同じくらい意味があると考えている。

「今ね、どちらかというとゲームって『足し算』で行こうとするの、不安だから。足そう、足そう、足そうでしょう。実は削るという作業がすごく重要」

『Under Mythos』で目指すのも、説明し尽くされた世界ではない。

かわいい猫たちが働く温泉宿。その先に広がる異世界。そして、探索を進めるほど見えてくる狂気。プレイヤー自身が「これは何なのか」と考える余白を残しながら、何度も振り返りたくなる物語を作ろうとしている。

「そういう作品を作りたいわけ、今回。だから『魔王がどうのこうの』という話はしない(笑)。全く。そういうものにはしないということです」

カダスが目指す「JRPG」は、過去の名作をそのまま再現することではない。日本のゲームが培ってきた物語性やキャラクター、ゲームシステムを受け継ぎながら、インディーならではの規模と自由度で、これまでにない体験を作る。そして、それを日本だけでなく世界のユーザーに届けていく。

『Under Mythos』は、その挑戦の第一歩となる。

 

■関連サイト

▼公式サイト
https://www.kadath.co.jp/

▼公式X
https://x.com/UnderMythos

▼Steamストアページ
https://store.steampowered.com/app/5155220/

 

© 2026 KADATH Co., Ltd.

 

【PR】あなたに合ったゲーム業界の仕事を探してみませんか?

株式会社KADATH(カダス)

会社情報

会社名
株式会社KADATH(カダス)
企業データを見る