【連載】安藤・岩野の「これからこうなる!」 - 第33回「ヒットしたければ半径10メートルから飛び出せ!」


【「これからこうなる!」は毎週火曜日12時頃に更新】
『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、数々のスマホゲームアプリをヒットさせた、ゲームプロデューサーの安藤武博氏と岩野弘明氏。そんなふたりが毎週交互に執筆を務める「安藤・岩野の“これからこうなる!”」では、スマホゲーム業界の行く末を読み解く、言わば未来を予言(予想)する連載記事を展開していく。

メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。


今回の担当:安藤武博氏

 

■「ヒットしたければ半径10メートルから飛び出せ!」



積極的にヒットを狙っていくためにプロデューサーはどうしたらよいのか? 今回はそのことを書きたいと思います。プロデューサー以外にも当てはまるかもしれません。
 
まず結論から言いますと「半径10メートル以内で仕事を完結させているプロジェクトチーム」はヒット作に恵まれません。もっと極端に言うと同一フロアや同一部門など、会社の近しいブロックのみでプロジェクトが完結しているとヒットの確率は下がります。なぜか?
 
まず大前提としてプロジェクトは目標に向かって進行する性質を持ちます。つまり「売り上げ1位のゲームをつくることが目標」の場合、1位を獲れる状態から”逆算”してプロジェクトを編成していくことが必須となります。逆算するとなると、必然的に半径10メートルの範囲から飛び出さないと達成は困難です。
 
ヒト・モノ・カネのプロジェクト三大構成要素で考えてみましょう。例えばスマホの両プラットフォームで売り上げナンバーワンのオリジナルRPGをつくる場合。
 
ヒト・・・優秀なクリエイター、最高のチームを編成するためには能動的にそのスタッフを確保しに行かなければなりません。自分の半径10メートル以内、ひいては同じフロア内に偶然そのような人材がいることがあるでしょうか? もしいるならばそれは奇跡的なことであり、運任せにすぎません。

モノ・・・この業界で仕事をしている人であれば、考えるのをやめない限りはナンバーワンを獲れる企画の種は自分ひとりでも思いつくでしょう。ただし、ヒット作になるアイデアは自分が思いもよらないところや、考えもつかなかった組み合わせからやってくることが多いのも事実。つまり他人との出会いや、会話の中から産まれる可能性が高い。これも自分の机にしがみついていてはダメです。書を捨て街に出る必要があります。
 
カネ・・・1位を獲れる企画を実現する予算を獲得するのはパブリッシャーとプレゼン次第。サラリーマンの場合、自分の所属している会社の”ふところ”事情と会社での発言権や説得力など実績によっても左右される。サラリーマンでキャリアが浅いとヒットが出にくいのはこの点でも自明。実績を積み重ねるか、あらゆる手をつかって提供者を説得するしかない。逆算の思想から言うとここも本来は「自分で見つけてくるべき」なのだから。ハリウッドの映画プロデューサーは自分の報酬も含めた予算もすべて自分で確保しますよね。よってこれも半径10メートル、会社の枠を飛び出すことも可能性として考えるべきです。
 
以上の理由から大原則としてヒットを狙うためにはナンバーワンから逆算して考える必要があるというわけです。もちろん自分が希望するスタッフ・予算・企画内容にならないことがほとんどです。しかし、この逆算思想を持っていると1位候補がダメなら2位候補にあたる……など、ベストの状態から制限に立ち向かえるので、プロジェクトのコンセプトが持つ色気やみずみずしさが一気に失われることはありません。
 
ところが多くのプロジェクトはこの逆算をせずに以下のようなパターンになっていることが多い。
 
「前のプロジェクトで組んで良かったから次も一緒にやろう」
「付き合いがある会社なので次回も発注しよう」
「知り合いがいる会社なので声がかけやすいので組もう」
「あの人が好きだから組もう」
「大金をかけるプロジェクトだと提案が通りにくそうだから、安くしよう」

 
などなど……このように半径10メートル以内や自分のテリトリーで話を完結しがちです。ナンバーワンから逆算した結果、身近なスタッフや気心の知れた仲間にたどり着いたのであれば問題はありません。何度も言いますが、そんなこと本来なかなか有りえないことなのです。たいていは、こちらの方が楽だから、どうしてもこのような「積み上げ式」になってしまう

積み上げ式を選んでしまうと、「他の才能と組んだ方が良い選択だった」「もっと予算をかけていれば(あるいは抑えていれば)よかった」「付き合い優先や会社の知名度で組んだら、その会社が苦手な制作ジャンルだった」などのことが起こります。よって自ら半径10メートルを超えてダイナミックにプロジェクトを仕掛けないと失敗する可能性が高い。
 
逆算しているかどうかは別として、多くのヒットプロジェクトは会社の垣根を越えていることが多いのです。ダイナミックに半径10メートルを超えているケースがほとんどです。つまり戦略的に狙いに行っている。2015年11月9日のトップセールスラインキングから見てみましょう。

■モンスターストライク
mixi木村さんと元カプコン/ゲームリパブリックの岡本吉起さんとの組み合わせ

■パズル&ドラゴンズ
ガンホー森下さんとハドソンを退社した山本大介さんの組み合わせ

■LINE:ディズニーツムツム
ディズニー竹野さんとNHN馬場さんの組み合わせ

■Fate/Grand Order
ディライトワークス庄司さんとアニプレックスの組み合わせ

■白猫プロジェクト
コロプラ馬場さんとスティングを退社した浅井さんの組み合わせ

■アイドルマスターシンデレラガールズ
Cygamesとバンダイナムコゲームズの組み合わせ

■ドラゴンボールZドッカンバトル
アカツキとバンダイナムコゲームズの組み合わせ

組み合わせはもっと厳密ですが、おおざっぱにみてもかなり大きな動きがみて取れますね。偶然もあるでしょうが、それぞれのプロジェクトに思い切った「仕掛け」がみて取れます。退社して新天地で活躍するパターンがみられるのも、それ自体が大きな仕掛けであるからに他なりません
 
これからナンバーワンを獲るために逆算していますか? 仕掛けていますか? これを機会に現在の自分のプロジェクト、これから立ち上げる企画を考え直してみると良いと思います。それではまた!
 


■著者 : 安藤武博
ゲームプロデューサー。過去スクウェア・エニックスにて、1998年からコンシューマーゲームやスマートフォンゲーム事業に携わり、スマホ事業ではF2P/売り切り型を問わず『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、複数のヒット作を生み出す。2015年9月にスクエニを退社し独立起業。ゲームプロデュースとメディア事業を手がける株式会社シシララを設立。ゲームDJとしても新たな挑戦をはじめている。

公式ツイッター:https://twitter.com/takehiro_ando
公式Facebook:https://www.facebook.com/andot.official?fref=ts


■安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー

第32回「上司と真逆のプロデューサー論」 (岩野)

第31回「プロデューサーとディレクターの違いについて良く聞かれるので明快に答えてみた」 (安藤)

第30回「新規アイドルゲームに未来はあるのか?」 (岩野)

第29回「続・エニックス創業者福嶋康博さんが教えてくれたエンタメの真髄」 (安藤)

第28回「恋活アプリ体験談」 (岩野)

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第25回「インディーズを軽視するものは敗れ去る」 (安藤)

第24回「サバゲー人気の謎に迫る」 (岩野)

第23回「心が折れそうなときに読む話」 (安藤)

第22回「「がっこうぐらし」のニコ動再生数が異常な件について」 (岩野)

第21回「打ち合わせや会議が増えたときに読む話」 (安藤)

第20回「「ラブライブ!」の魅力ってなんだと思う?」 (岩野)

第19回「良い作品をつくるために必要な三つのこと」 (安藤)

第18回「スマホゲームにおけるプロデューサーの重要性」 (岩野)

第17回「私はなぜスクエニの部長をやめたのか?」 (安藤)

第16回「日本のスマホゲーム業界が危うい」 (岩野)

第15回「サラリーマンクリエイターの働き方はすでに限界を迎えている」 (安藤)

第14回「ゲームを売る上で一番大事な人」 (岩野)

第13回「市場のピンチを知らせるクリエイターからのSOS」 (安藤)

第12回「F2Pゲームにおける最強の商品とは?」 (岩野)

第11回「今後どんなゲームが売れるのか、全力で考えてみた」 (安藤)

第10回「開発初期段階で必ず決めなくてはいけないこと」 (岩野)

第9回「これからはプラットフォームの垣根が無くなると言ってきたけど、どうも違う。という話」 (安藤)

第8回「打席に立つために必要なこと」 (岩野)

第7回「ほとんどのターゲット設定は間違っている」 (安藤)

第6回「売れるゲームには◯◯がある」 (岩野)

第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)

第4回「IPを育てよう」 (岩野)

第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)

第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)

第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)