【「これからこうなる!」は毎週火曜日12時頃に更新】
メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。
今回の担当:岩野弘明氏
■第16回「日本のスマホゲーム業界が危うい」
先日『乖離性ミリオンアーサー』の中国展開の発表のため中国に出張してきました。そこで、改めて痛感させられたことがあります。
「中国のオンラインゲームを作る技術は日本の数段上をいってる」
PCオンライン文化をベースに発展している国だけにそりゃそうではあるんですが、PCのみならずスマホについても既に大きな溝をあけられています。
そもそも中国のスマホゲームがどのくらいすごいことをしているのかというと、
・ほとんどのプレイヤーが3G回線という環境の中
・数十~数百万“同時接続”を可能にし(App Storeセールスランキングの「夢幻西遊」は同時接続200万を超えます)
・ロードもサクサク
・堅牢なチート対策
・一つのゲームに様々な対戦モードがパッケージングされている
というとんでもなさ。
同じくMMOや対戦モノの文化の韓国と比べても、3Gの環境や人口の多さという背景がある中でスムーズに遊べるゲームを作り上げている中国の技術力はすごい。日本では、数千数万の同時接続を実現するだけでも苦労しているケースもあるくらいなので、完全に置いていかれています。
▲夢幻西遊
もちろん、3Gや膨大な同時接続を可能にするために素材のクオリティを犠牲にしていたりもしますが、そういった見極めができるということ自体オンラインゲーム開発に慣れていますし、やはりそういった部分も含め先をいっていると言わざるを得ません。
ちなみに、中国のゲームと言えばパクリゲーがほとんど、という印象を持たれる方もいると思います。確かにそういったゲームもまだありますし、著名タイトルの影響を受けていたりもするものの、いまや世界観もひっくるめて、しっかり自分たちで作っています。
一方日本はというと、カードソシャゲ時代からやることはあまり変わらず、見せ方で興味を引くやり方のゲームがまだまだ多いです。
日本独自のゲーム文化にあわせてゲーム性を高めているゲームもちらほら出てきて、そういったゲームが売れ始めているものの、そこまでのチャレンジをできる会社は少なく、まだまだこれからといった感じです。
既に欧米産のゲームがセールスランキングの常連に数タイトル出てきていますが、周りを巻き込んでの遊び、e-sportrsなどのオフラインイベントの重要性が今後益々高まっていく中、今後中国産のゲームがランキング上位に進出してきてもおかしくありません。
このままでは日本のゲーム会社はいよいよジリ貧です。
…というわけで、そういった時代に突入するにあたってどう立ち向かっていくかを考えてみました。
■本格的な黒船到来に立ち向かう方法とは
①海外産のゲームを輸入
かつてのPCMMO全盛時代がまさにこの方法で展開していたのですが、「日本で作れなければ輸入すればいいじゃない」、という話。
一部のゲームを除き、世界観やマネタイズ、細かなゲーム性の調整といった部分にはカルチャライズが必要で、それはその文化で育った日本人にしかできません。なので、一時期のPCゲーム運営会社のように、海外のゲームを日本向けに運営するように特化した部署、会社として生きていくというのも一つの手です。
また、ゲームを輸出する立場になって改めて思ったのですが、いくら条件がよくても現地で運営を任せる会社や人に実績や信頼がないと任せる気になりません。だから、スマホ市場で実績を積んだ会社からすると、この方法はありだと思うのです。
実際、先日Aimingが中国Perfect Worldの『神魔大陸3D』を日本で展開する旨の発表がありましたが、PCオンラインゲームの売り方を熟知されているAimingらしい流石の展開の早さだなと思いました。
【関連記事】
■Aiming、中国Perfect World社の大人気スマホ向けMMORPG『神魔大陸3D』の日本における独占ライセンス契約を締結
おそらくこういったアプローチをしていく会社は今後増えていくでしょう。
②日本らしさを強めていく
中国の市場を見て改めて思ったことはもう一つあります。それは「日本のアニメテイストのウケがすごくいい」ということです。
中国App Storeのセールスランキングを見るとアプリアイコンに「東京喰種」「スラムダンク」「ワンピース」「ガンダム」「NARUTO」といった作品のキャラそっくり…というかまんまなキャラが載っているアプリがありますし、日本のアニメ・漫画・ゲームのテイストを意識されたという『崩壊学園』もTop50の常連だったりします。
【関連記事】
■中国miHoYo、話題の横スクロールアクションゲーム『崩壊学園』を配信開始! 出演声優に釘宮理恵、沢城みゆき、阿澄佳奈
一方で中国で日本テイストを自分たちで作って成功しているのは『崩壊学園』くらいしかない、とも言えます。それは至極当然で、私たちが欧米でウケるようなマッチョテイストの戦争ものを作ったところで全然違うものにしかならないのと同じで、その文化に合うものを作れるのはその文化で育った人間じゃないと無理だからです。
▲『崩壊学園』
他と同じものを作ったところで本家に勝つのは難しいですし、本家に勝つために頑張るのも手ではあれども血反吐をはきながら挑むことになります。であれば、日本らしさをとことん突き詰めるというのは優位性を保つ意味でとても有効だと思うわけです。
また、日本市場は頭打ちの状況だけに、今後は海外展開を視野に入れなくてはならないのですが、海外と同じものを目指したところで二番煎じにすらならない。でも海外で作れない日本独自のコンテンツを輸出することには可能性があります。
オンラインゲームを作る技術では負けていると言わざるを得ませんが、日本独自の文化は他国では生み出せないので、この点こそ突き詰めていきたいと個人的には思います。ただし、それも技術の発展がないと行く行くは置いて行かれるので、やはり海外、とくに中国の技術は勉強していくべきだと思います。
③中国のゲーム会社と協業
これは単純な話で、技術の強みを持っている会社と、世界観・ビジュアルの強みを持っている会社が一緒に作ればそれぞれの強みを生かしたゲームを作れないだろうか、という話です。
実際、日本のアニメテイストのMMOやらMOBAやらが出たら個人的には超やってみたいのですが、事はそう簡単には運びません。
こういった話はPCオンラインゲーム全盛の時代からよくあったのですが、ことごとく失敗してきました。主な理由としては以下のような感じです。
・育ったゲームの違いによる意見の食い違い
・言語や文化の違いによるコミュニケーションロス
・物理的に距離が離れているためコミュニケーションを取りづらい
・協業条件の折り合いがつかない
などなど他にもいろいろあると思いますが、大体こんな感じです。多数の人間が参加するゲーム作りはコミュニケーションが一番大事なので、そのコミュニケーションの質を高めづらいというのは一番のネックです。
じゃあ協業という線は全然なしか…というとそうではないと思います。一つやってみる価値はあるかな、と思っているのは「お互いの担当以外は全部任せる」という方法。
これは私が海外にゲームを輸出する際に取っている方法なのですが、基本的に全部現地の運営会社に任せてこちらはほとんど何もしません。もちろん、質問が来るのでそれに返答したり、諸々の事務的な細かい調整などをする担当者はいますが、ゲームを開発・運営するにあたって、こちらから注文することはほとんどありません。
ちなみにこれは、既に形が出来上がっているコンテンツを取り扱うからこそ可能な方法ですが、だったら限りなく形が出来上がっているものを組み立てるという形の開発なら成功確率は高まるのでは、とも思います。例えば、既にヒットしているタイトルを世界観だけごっそり側変えしてみる、とか。
もちろん、ゲーム部分には多少のアレンジはあると思いますが、そこもお任せ。ただし、マネタイズに文化の違いはありますから、そこはそれぞれの国で調整する。そういうことができる条件での協業なら、アリなのかなと思います。
そういう試みで成功しているコンテンツは見たことがないので、実現可能かはわかりませんが、個人的には試してみたいですね。
今回かなり「中国の技術がすごい!」という内容になりましたが、私としてはこのままでは日本のスマホゲーム業界はまずいという危機感を強く持っているので、今後の苦難を乗り切り「世界に通用するコンテンツを生み出していこうよ!」という思いをお伝えしたかったからです。
だってこのままだと悔しいじゃないですか。日本のゲームが世界で一番面白い! といってもらえるように日々精進していきたいものです。ではでは今日はこの辺で!
P.S.
もうすぐ新アニメが始まる季節ですね。皆さん各々期待の作品があると思いますが、私としては俄然「干物妹!うまるちゃん」に注目しています。
漫画の方も当然全巻読んでいるのですが、ヒロインであるうまるちゃんの「外では優等生、家ではすぼら」のギャップが素晴らしいです。かつ、優等生モードを高い等身の美少女、すぼらモードを2等身のデフォルメで描き分けられていることで、ずぼら=見苦しいではなく、ずぼら=子供っぽくてかわいいという雰囲気になり、母性(父性?)をくすぐられる新感覚を覚えてしまいます。
▲デフォルメされた「うまる」ちゃんは、ビジュアルだけで既に惹かれるものがある!(公式サイト)
また、日頃ゲームやアニメばかりしている私からすると「それあるー!」的なあるある感を随所に感じ、作品自体に親近感を覚えてしまうという、とっても素晴らしい作品! 放送開始が待ちきれないですね!
■著者 : 岩野弘明
スクウェア・エニックス第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部) プロデューサー。『乖離性ミリオンアーサー』を筆頭に、同シリーズ全体のプロデュースを担う。
■スクウェア・エニックス
企業サイト
■スクエニ 安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー
■第15回「サラリーマンクリエイターの働き方はすでに限界を迎えている」 (安藤)
■第14回「ゲームを売る上で一番大事な人」 (岩野)
■第13回「市場のピンチを知らせるクリエイターからのSOS」 (安藤)
■第12回「F2Pゲームにおける最強の商品とは?」 (岩野)
■第11回「今後どんなゲームが売れるのか、全力で考えてみた」 (安藤)
■第10回「開発初期段階で必ず決めなくてはいけないこと」 (岩野)
■第9回「これからはプラットフォームの垣根が無くなると言ってきたけど、どうも違う。という話」 (安藤)
■第8回「打席に立つために必要なこと」 (岩野)
■第7回「ほとんどのターゲット設定は間違っている」 (安藤)
■第6回「売れるゲームには◯◯がある」 (岩野)
■第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)
■第4回「IPを育てよう」 (岩野)
■第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)
■第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)
■第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)
©サンカクヘッド/集英社
©2015 サンカクヘッド/集英社
「干物妹!うまるちゃん」製作委員会
会社情報
- 会社名
- 株式会社スクウェア・エニックス
- 設立
- 2008年10月
- 代表者
- 代表取締役社長 桐生 隆司
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)