【「これからこうなる!」は毎週火曜日12時頃に更新】
メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。
今回の担当:安藤武博氏
■第23回「心が折れそうなときに読む話」
この連載では「これまでこうやってきた、今こうだから、今後こうなる。」という話を予言するというコンセプトです。これまでいろいろ書いてきましたが、過去現在未来をつないでたくさんのお客様に楽しんでいただくゲームをつくるためには、長くゲーム制作を「続ける」ことこそが大事です。よって継続したい気持ちを途中で邪魔する「心」の問題に今回は触れたいと思います。
この仕事を長年していると精神面で辛いことが多々あります。ひどい場合は休職や退職などの原因になることが普通に起こる。辛いのはどの仕事でもそうかもしれませんが、ゲーム制作の場合は主に下記のような理由で、精神的にしんどくなる人が多い気がします。
(1)努力と報酬が比例しないからしんどい
頑張れば頑張れるほど、その分ゲームが売れる確約はありません。ゲームは一夜漬けが効かない制作の構造を持っています。少しでもサボるとそもそも完成しませんから楽をしている人なんていない。考え抜いて、行動して、血のにじむ努力をしている。にも関わらず、それに見合う売り上げがあがらない。報われない。が当たり前に起こるのです。頑張れば頑張っただけ儲かる仕事もあるわけですから、暗闇に向かってジャンプをし続けるような理不尽さがつらい場合。
(2)才能と報酬が比例しないからしんどい
ほとんどのゲームがチーム戦です。一人がすごくてもどうにもなりません。また、全員がすごいメンバーを集めたからと言って必ずその作品が売れるわけではないのは(1)と同様です。チームワークやこの回(関連記事)で岩野さんが書いていたようにプロデューサーの仕切りかたでも大きく結果は変わりますが、だからといってプロデューサーが有能であればあるほど、売れるわけでもない。
(3)とにかくうまくいかないからしんどい
そのほか、理由はともかく、うまくいかない。逃げたり甘えたりしている場合はお話になりませんが、とにかくエンターテインメント業界は誰にでも絶対に浮き沈みがあります。つまり、今売れている人は売れなくなるし、したがって今売れていない人がこれから売れます。別に才能や努力とは比例せずにそうなります。「エンタメはそういうもの」だと気楽に考えていた方がいいです。売れたゲームしかつくったことがない人なんてまずいません。
努力や才能も大事だけど、それは絶対的ではなくて、運にも思いきり左右される。ある種見えざる力のようなものがゲームの当たり外れに実は深くかかわっているのです。であれば一番確実に当てる方法は当たるまでつくり続ける以外にない。よっていかなる理由でも途中であきらめないことこそが大事です。
■「仲間がこのような状況に陥っていた場合」…
ですが、企業の給与報酬体系のほとんどが成果に対して支払われ、見直されていることもまた事実であり、続けていることと、評価がそこまで紐づいていない場合が多い。特に真面目な人ほど自分の報酬評価が低いイコール自分がイケていないと思い込むケースが多くみられます。これは才能と努力の限りを尽くしても必ずしも売れないというエンタメの真実と、売れる・売れないで給料を決めざるを得ない企業のシステムの折り合いの問題だけであって、評価が低いから即お前はイケてないということでは無い場合が実は多いのです。
それでも心が折れてリタイアしたり、本来の能力を発揮できずにもがいている人がいるのは心苦しいことです。できる限りそうならないようにするため、このように考えてみるとシンプルです。
「クリエイターにとっての報酬はつくること」
売れる・売れないは神のみぞ知る世界なわけです。であればつくっていること自体を報酬として感じる、その結果売れたら、たまたま金銭も報酬としてもらえるだけ。売れない場合、給料はあがりませんが、まあそんな時期もあると考えるわけです。
お客様に向かって商品をつくることを一番のご褒美として感じる。これができればその人は一生つくりつづけることができるでしょうし、ヒット作も自分の予期せぬタイミングで出すことができるでしょう。逆にそれを報酬と感じられない場合は、ゲームをずっとつくっていていいのか? という不安からつねに(特に売れない時期に)逃れることはできないでしょう。
この考え方は家庭や生活がかかっていたり、忙しかったりと、とにかく「余裕がない」とできないものです。部下や仲間がこのような状況に陥っていた場合、私は下記の三つのアドバイスをしています。
(a)静かな時間をつくれ ・・・ 心の正体がわかる
(b)暇であれ ・・・ 心の機敏がわかる
(c)あっさり味のものを食え ・・・ 心の真実がわかる
これらは洪自誠が著した「菜根譚」にある一説です。余裕がないのは自分自身の心の動きが把握できていないということ。寝る寸前までスマホをみて日々がせわしなかったり、スケジュールがぎっちり詰まっていて毎日忙しかったり、素材の味がわからないくらいに激辛や濃厚な味のものばかりを食べていると、自分が今どういう状態にあるのか、したいことはなにか、現状に対してどう感じているのかが誤魔化されているのです。結果、どうしたらいいかわからなくなって心が折れてしまう。
一瞬スパークして燃え尽きるよりも、ゆっくりでも続けることが大事です。とくにバリバリ仕事をしている才能がある人こそ、ゆっくり考えてみください。もし心が折れてしまった人がいたら、今の状態はいったん休憩しているくらいに思うこと。そして必ずゲーム制作の現場にもどってきてくださいね。
あなたが途中でリタイアすることの方が、最終的にはお客様にとって大きな損失なのですから。
あなたが途中でリタイアすることの方が、最終的にはお客様にとって大きな損失なのですから。
■著者 : 安藤武博
スクウェア・エニックス プロデューサー。同社ではスマートフォンゲーム事業に携わり、F2P/売り切り型を問わず『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、複数のヒット作を生み出す。
公式ツイッター:https://twitter.com/takehiro_ando
公式Facebook:https://www.facebook.com/andot.official?fref=ts
■スクウェア・エニックス
企業サイト
■スクエニ 安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー
■第22回「「がっこうぐらし」のニコ動再生数が異常な件について」 (岩野)
■第21回「打ち合わせや会議が増えたときに読む話」 (安藤)
■第20回「「ラブライブ!」の魅力ってなんだと思う?」 (岩野)
■第19回「良い作品をつくるために必要な三つのこと」 (安藤)
■第18回「スマホゲームにおけるプロデューサーの重要性」 (岩野)
■第17回「私はなぜスクエニの部長をやめたのか?」 (安藤)
■第16回「日本のスマホゲーム業界が危うい」 (岩野)
■第15回「サラリーマンクリエイターの働き方はすでに限界を迎えている」 (安藤)
■第14回「ゲームを売る上で一番大事な人」 (岩野)
■第13回「市場のピンチを知らせるクリエイターからのSOS」 (安藤)
■第12回「F2Pゲームにおける最強の商品とは?」 (岩野)
■第11回「今後どんなゲームが売れるのか、全力で考えてみた」 (安藤)
■第10回「開発初期段階で必ず決めなくてはいけないこと」 (岩野)
■第9回「これからはプラットフォームの垣根が無くなると言ってきたけど、どうも違う。という話」 (安藤)
■第8回「打席に立つために必要なこと」 (岩野)
■第7回「ほとんどのターゲット設定は間違っている」 (安藤)
■第6回「売れるゲームには◯◯がある」 (岩野)
■第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)
■第4回「IPを育てよう」 (岩野)
■第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)
■第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)
■第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)
企業サイト
■スクエニ 安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー
■第22回「「がっこうぐらし」のニコ動再生数が異常な件について」 (岩野)
■第21回「打ち合わせや会議が増えたときに読む話」 (安藤)
■第20回「「ラブライブ!」の魅力ってなんだと思う?」 (岩野)
■第19回「良い作品をつくるために必要な三つのこと」 (安藤)
■第18回「スマホゲームにおけるプロデューサーの重要性」 (岩野)
■第17回「私はなぜスクエニの部長をやめたのか?」 (安藤)
■第16回「日本のスマホゲーム業界が危うい」 (岩野)
■第15回「サラリーマンクリエイターの働き方はすでに限界を迎えている」 (安藤)
■第14回「ゲームを売る上で一番大事な人」 (岩野)
■第13回「市場のピンチを知らせるクリエイターからのSOS」 (安藤)
■第12回「F2Pゲームにおける最強の商品とは?」 (岩野)
■第11回「今後どんなゲームが売れるのか、全力で考えてみた」 (安藤)
■第10回「開発初期段階で必ず決めなくてはいけないこと」 (岩野)
■第9回「これからはプラットフォームの垣根が無くなると言ってきたけど、どうも違う。という話」 (安藤)
■第8回「打席に立つために必要なこと」 (岩野)
■第7回「ほとんどのターゲット設定は間違っている」 (安藤)
■第6回「売れるゲームには◯◯がある」 (岩野)
■第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)
■第4回「IPを育てよう」 (岩野)
■第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)
■第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)
■第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)
会社情報
- 会社名
- 株式会社スクウェア・エニックス
- 設立
- 2008年10月
- 代表者
- 代表取締役社長 桐生 隆司
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)