【連載】安藤・岩野の「これからこうなる!」 - 第31回「プロデューサーとディレクターの違いについて良く聞かれるので明快に答えてみた」
【「これからこうなる!」は毎週火曜日12時頃に更新】
メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。
今回の担当:安藤武博氏
■プロデューサーとディレクター、その違いについて
DeNA馬場さんの連載記事(関連記事)に載っている下の図にもあるように、プロデューサーとは通常、いち見習いプランナーからスタートした場合のクリエイターのキャリアにおいて「最終到達点のひとつ」でもあります。
ディレクターがゴールになる場合もありますね。このため、とにかくチームにおいて偉い人がプロデューサーであると思っている方が多い。実際の職掌はディレクターだけれどもプロデューサーと名乗っているケースもよくあって、なんだかややこしい。では、この二つの職業の違いとはなにか? はっきりと答えられる人は以外と少ないと思います。私も最初よくわかりませんでしたが、いろいろな経験を得た今、それぞれの職業の内容を次のように考えています。
■ディレクター・・・「おもしろさに関しての最高責任者」
■プロデューサー・・・「売り上げに関しての最高責任者」
噛み砕くと、ゲームが”つまらなかった場合”はディレクターの責任。ゲームが”売れなかった場合”はプロデューサーの責任。…となります。最高責任者とは最終的なケツを持つひとですね。
したがって必ずしも偉い人である必要はない。実際エニックスは新卒の学生をプロデューサーとして採用するという事を90年代の初頭から15年ほどやっていました。私もその期間に採用された一人です。大学卒業直後で業界経験が浅い頃からからプロデューサーと名乗っていた。
ただし指揮系統の構造からいって偉い人の方が、まとまらない話もまとめやすい。これもまた事実です。若いときはプロデューサーの肩書きだけあって、役職的には平社員だったため、指示を受ける人から、この人はどれくらい執行権限があるのか? が曖昧になることがたまにあり、それによって現場が混乱することがありました。
ちなみに”面白かった場合””売れた場合”は「みんなの手柄」です。チーム戦で戦うゲーム制作において、手柄を独り占めすると、その後良いことはありませんので覚えておいておくださいね。
プロデューサーは売り上げを達成するために
「ヒト」・・・(クリエイター)
「モノ」・・・(ゲーム)
「カネ」・・・(予算・スケジュール)
をコントロールしてチームを編成します。
ディレクターは
「カネ」「ヒト」・・・(制作上の制限)
を頭にいれながらこの制作上の“制限”をアイデアによって”可能性”に変えて最高の「モノ」を仕上げるのです。さらに私の考えですが、プロデューサーとディレクター。「両者の責任権限は不可侵である」と考えています。わかりやすく言うと、どういうことか?
・プロデューサーはディレクターに「これはつまらない」とは言ってはいけない。
・ディレクターはプロデューサーに「これは売れない」と言ってはいけない。
転じて
・プロデューサーはディレクターに「俺の考えの方がおもしろい」と言ってはいけない。
・ディレクターはプロデューサーに「俺の考えの方が売れる」と言ってはいけない。
なぜか?
プロデューサーが「つまらない」と批判したディレクターを連れてきたのは、そのプロデューサーにほかならないからです。つまり、ディレクターにつまらないと言ったプロデューサーは自ら「自分の目利きが悪い」と宣言しているのと同じなのです。
ディレクターもこの人であれば売ってくれると見込んで組んだわけですから、プロデューサーに対して「それだと売れない」というのは同じく自分の目利きが悪いのを公言していることになります(実務経験上こちらのパターンは少ないですね)。
ただし「これは売れる!」「これはおもしろい!」と思ったら互いへの賞賛は惜しまないようにすべきです。
■プロデューサーとディレクターの兼務は可能なのか
とはいえ作ったものを途中で改善しなければならないタイミングは必ずやってきます。そういった場合どうしたらよいのか? 私はこう言います。
「こうしてもらえればもっと売れます」
「このままだと売りにくいです」
あくまでプロデューサーは売り上げの責任者であるという目線をブらしてはいけないのです。
よって、ゲームを売るためにお客様に「伝えやすいか?」「買いやすいか?」を基準にディレクターにオーダーを出す。「おもしろいかどうか」は議論しません。ディレクターがおもしろいものをつくるというのは、その人にオファーした時点で決まり。信頼する以外ないのです。
呼んできた後に「つまんないからもっとおもしろくしてくれ」というと「なんで俺を呼んだ」「じゃあ、お前がやれよ」となりますからね。
自分でスタッフをキャスティングしておらず、いつの間にかディレクターが決まっていた場合はどうか? 論外です。偶然に任せる以外にそのゲームがおもしろく、売れる確証はありません。それは配牌が良くてたまたま役満を上がるようなものです。
とかく結果の出ないうち、若いうち、経験の浅いうちは「俺が人の分もやったる」など、「自分が自分が〜」になりがちです。またソシャゲバブルの頃は少数でゲームが完成できました。一人が複数パートを兼務する事も多く、それでもプロジェクトを着地できる制作規模でした。
現在のようにほとんどコンシューマーゲームと変わらないプロダクションのスケールになった場合、原則としてプロデューサーとディレクターの兼務は無理です。
「売れるかどうか?」という”ビジネス論“と「おもしろいかどうか?」という”クリエティブ論”。二つの相反するイデオロギーを同一人格に収めて、かつ矛盾を起こさない人は、よほどのスーパーマンです。
そういう優れた人もたまにいますけれども、人生を犠牲にして二人分働き、可処分時間のほとんど会社にいて寝ずに仕事することになります。これはキツイ。スーパーマンであっても仕方なくそうなっただけで、本当は分けた方が良いと思っているはずです。
むしろ、そのくらい仕事ができるディレクターが優秀なプロデューサーと組んでそれぞれの職掌に専念できたときに、真のヒット作が生まれる可能性が高まります。きちんと分担がされていないと思った方は一度チームメンバーのロールプレイを見直して、編成し直すと良いです。
また一方でゲーム業界には本物のプロデューサーが少ないのも事実です。さらっと見直してみろと書きましたがスーパーディレクターとスーパープロデューサーが組む確率はかなりレアケースです。
なぜならゲームはディレクションがイケているだけで売れてしまうことが多分にあるからです。
ゲームがおもしろいこと自体が最強のセールスポイントになり、そのままそれがプロデュースワークになってしまう場合がある。かなり多くのパターンでこれが起こるので、自ら仕掛けることができるプロデューサーがまだまだ少ない。「ヒト」「カネ」「モノ」どこかで配牌に身を委ねるかたち……「受け身」になってしまっています。
サラリーマンである場合は、「カネ」を完全にコントロールするのは難しい。本物のプロデューサーはサラリーを会社からの月給ではなく、自分でかき集めたプロジェクトの費用から獲る人です。私はこれをやりたくて起業したという側面もあります。これは日本のゲーム業界においてはまだまだ未知数。私もチャレンジ中です。
ですが「ヒト」を積極的にプロデュースして最高の「モノ」を狙いに行くことはできます。そのためにプロデューサーは何を心がけるべきか? 次回に書きますね。ディレクターの心がけはいずれその道のプロフェッショナルに聞きましょう。
それではまた!
■著者 : 安藤武博
ゲームプロデューサー。過去スクウェア・エニックスにて、1998年からコンシューマーゲームやスマートフォンゲーム事業に携わり、スマホ事業ではF2P/売り切り型を問わず『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、複数のヒット作を生み出す。2015年9月にスクエニを退社し独立起業。ゲームプロデュースとメディア事業を手がける株式会社シシララを設立。ゲームDJとしても新たな挑戦をはじめている。
公式ツイッター:https://twitter.com/takehiro_ando
公式Facebook:https://www.facebook.com/andot.official?fref=ts
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