【連載】安藤・岩野の「これからこうなる!」 - 第35回「起業してわかった、おいしいサラリーマンの仕事の仕方」
【「これからこうなる!」は毎週火曜日12時頃に更新】
メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。
今回の担当:安藤武博氏
■第35回「起業してわかった、おいしいサラリーマンの仕事の仕方」
今回はあまり書きやすくはない「お金」のお話も、あえて書きたいと思います。特に連載中にサラリーマンクリエイターが、長年勤めた会社を退職して起業するなんてことも、なかなか起こらないですよね。せっかくなんで、そういった視点も織り交ぜたいと思います。
去年とあるトークイベントでAimingの椎葉社長とご一緒させていただいた折に、参加者からこのような質問が飛びました。「起業したいと思っている若者に何かアドバイスをいただけますか?」椎葉さんの答えは気持ちの良いくらい明解なものでした。
「無理ゲーだから、やめておけ。」
その後、私はまんまと起業してしまったわけですが(笑)。その言葉が身に知る毎日を格闘しております。まさに無理ゲー。人、モノ、お金に関する乗り越えないといけない課題はさっそく山積みで、サラリーマン時代の比ではありませんね。みなに迷惑をかけながらなんとか……これら課題の攻略を楽しみながらやっております(笑)。
無理ゲーになる原因は私の場合、一人で未体験の仕事に取り組んでいるからです。それにしても大きな会社というのは、現場が気持ち良く仕事に集中できるように、色々なことをサポートしてくれていたんだということを痛感します。
具体的にはこれまでゲームのプロデュースだけに打ち込んでいた時間に、税金を収めにいったり、事業計画書やバランスシートをつくったり、社労士や税理士や銀行の人たちとあって話す時間に費やしています。オフィスの椅子や机を買ったり、借りるオフィスの契約をしたり、コピー用紙、ゴミ袋、コーヒー、水、トイレットペーパーを買ったり(笑)。いままで誰かがやってくれた細かいことって一杯あるんだな〜と思いながら、いちど全部自分でやってみています。そこにプラスしてゲームプロデュースと動画配信の生放送を最低週二回やる日々を送っております。
こうなることはある程度想像はしていましたが、それにしても想像以上でした。会社員クリエイターの人は、ものづくりに打ち込める環境が用意されています。まずはこのシチュエーションを最大限活かすべきだと思います。実は気づきにくいサラリーマンのおいしいところです。
また、あたり前のお話ですが、起業すると報酬が固定費から変動費に変わります。分かりやすく言うと毎月の給料の振込みがバタッと止まる。わかってはいますけど、9月に会社をやめて、10月に給料の振込みがないのを確認したときにはシビれましたね(笑)。
つまり自分で常に何とかしないと生きていけません。誤解を恐れずに書けばサラリーマンは、ある程度「無駄なこと」をしていても毎月お給料が振り込まれる環境にいます。これを是非、新しいヒット作をつくるための「余裕」として考えるべきです。
競争が激しすぎるスマゲ市場で次にナンバーワンを獲るためには人と同じことをしていてはダメです。人から見て荒唐無稽と思われるくらいの独自行動をとった人が勝ちます。(詳細はここで話していますので是非読んでみてください http://gamebiz.jp/?p=148374 )
つまり一見無駄と思われるようなことに投資した者が勝つのです。そういった行動をとるときに固定給が必ず支払われている環境というのは強い武器になると考えてください。積極的にそういったことに業務の可処分時間を割くべきです。これがしやすいのが会社員のある種特権だと起業した今、強く思います。これもサラリーマンのおいしいところなんです。起業するとこの余裕を獲得するためだけに、戦略を練る時間と行動が必要になります。
起業して経営をはじめると、自分の報酬が増えて余裕ができるくらいなら、その余裕の分を良い人材を雇用したり会社の未来に投資しようというマインドになってきます。自分より会社、自分より社員。の考え方が強くなります。スクエニ時代もっとも経営という言葉と縁遠かった私がこんなことを書くわけですから、今書いていて自分で自分にウケています。でも、会社を成長させていきたい経営者の多くはそのように考えているはずです。
その点においても自分のためにお金が使える、未来のための無駄に投資ができる環境にある「サラリーマンのおいしいところ」をどんどんしゃぶり尽くしてほしい。これからはそういう考え方の人がヒットを飛ばす時代だと思います。
言われたことばかりしている、人のまねばかりしている、一般的な会社のルールに縛られている……。このようになっていませんか? それだとこれからは厳しいです。一度見直してみると良いですよ。それではまた!
■著者 : 安藤武博
ゲームプロデューサー。過去スクウェア・エニックスにて、1998年からコンシューマーゲームやスマートフォンゲーム事業に携わり、スマホ事業ではF2P/売り切り型を問わず『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、複数のヒット作を生み出す。2015年9月にスクエニを退社し独立起業。ゲームプロデュースとメディア事業を手がける株式会社シシララを設立。ゲームDJとしても新たな挑戦をはじめている。
公式ツイッター:https://twitter.com/takehiro_ando
公式Facebook:https://www.facebook.com/andot.official?fref=ts
■安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー
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