【連載】安藤・岩野の「これからこうなる!」 - 第37回「ヒット作に必ず入ってくる“三つの条件”」

 
『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、数々のスマホゲームアプリをヒットさせた、ゲームプロデューサーの安藤武博氏と岩野弘明氏。そんなふたりが毎週交互に執筆を務める「安藤・岩野の“これからこうなる!”」では、スマホゲーム業界の行く末を読み解く、言わば未来を予言(予想)する連載記事を展開していく。

メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。


今回の担当:安藤武博氏

 

■第37回「ヒット作に必ず入ってくる“三つの条件”」

 
今回は私がスクエニの部長時代に「部門訓」としていた、ヒットを狙うための三つの条件についてお話ししたいと思います。

ヒット作にはこれから書く三つの条件が少なくとも一つ入っている。

「FAST」
「ONLY ONE」
「MOST」


これはもともと、40年近く続く開発会社の社長さんから教えていただいた話です。それを私なりに再解釈して部門のモットーとしていました。それぞれ解説していきましょう。
 


■FAST…「誰よりもはやく」つくれ

スピードこそがヒットを呼び寄せます。このパターンでのヒット例として一番わかりやすいのがローンチタイトルです。ハードと同じ日に発売されるソフトは少ないので目立ちます。従ってお客様の選択肢に入りやすい。

ローンチタイトルにならなくても「誰よりもはやくテーマを提示する」でも構いません。私が2010年にプロデュースして日米のApp Storeで売り上げNo1になった『ケイオスリングス』。これは「誰よりもはやく」「本格的なRPGを」「iPhoneで出した」から売れました。たとえばこんな仕掛けでも「FAST」は実践できます。

Apple WatchやVRなど新しいガジェットが発表されると私が注目するのはこれを狙ってのことです。また、意外と(スマホでも)まだ誰もやっていないことに目をつけている人がいますが、これも同じです。

ただ、「FAST」に拘るあまり、はやすぎてお客様が望んでいない、お客様が置いてきぼりにならないよう気をつける必要があります。「10年早いは10年遅いと同じ」ということを肝に銘じておきましょう。


■ONLY ONE…「誰もがつくっていないものを」つくれ

要するに「人の真似をするな」ということです。エンターテインメントはお客様から飽きられたら終わり。そんな状況下で誰かと同じものを出してもまったく目立ちません。全知全能を使い果たして新しいものを生み出し、お客様にワクワクを感じてもらえるようにしなければなりません。

前述の「FAST」が達成されている場合、結果として「ONLY ONE」もついてくることが多いです。誰よりもはやくやり遂げた場合、他に比べるものが存在しない。したがって唯一無二となるからです。こうなると後発が追いついてくるまでは先行者利益を得ることができます。そのまま長期的に覇権を握る確率も高い。つまりこれは「ライバル不在」の状態をつくりだせと言い換えることもできます。

たまに二番煎じのテーマのものが売れる場合があります。これは「誰よりもはやく そのテーマを真似た」ためです。ですので「FAST」ですね。このやり方は二番目まではうまくいきますが、これ以降は通用しません。また二番煎じのものが、真似た元の作品を超えることは、まずありません。

また、「ONLY ONE」を追求するあまり「とにかく奇抜なだけ」にならないよう気をつける必要があります


■MOST…「誰よりもたくさん」つくれ

最後は少し特殊な事例ですが、たくさんリリースされれば、ヒットの確率もあがるということです。この法則を教えてくださった方は、同一のゲームをPCからゲーム機、携帯電話まで実に100プラットフォーム以上展開されていました。(1995年にwindowsが主流OSになるまでは、日本にはたくさんパソコンの種類があったのです)。そのうちいくつかのプラットフォームで大ヒットをおこし、残りの赤字を埋めて余りある。ということがあったそうです。

初代プレイステーションのころにD3パブリッシャーが「SIMPLE1500」という、ソフト一本の価格が1500円という廉価シリーズを展開していたことがありますが、これも「MOST」です。内容は通常のゲームよりもシンプルだが価格は最初から安い。テーマもたくさんある。実に104作品がリリースされてました。この中で「THE麻雀」が100万本以上の売り上げを記録しています。ソフトの内容に応じて制作費も安価に抑えていましたから十分にビジネスになっていました

実は「MOST」の最たる例は「プラットフォーマー」になることかもしれません。どこの誰が何をつくってもApp Storeで販売する限りAppleには売り上げの30%が入る。GooglePlayも同じ。

GREEとmobageは2010年、ある日突然「我々はプラットフォーマーである」と宣言し、結果本当にそうなってしまった。この仕掛けが今日の二社の飛躍につながったのは明白です。特に大きな実績がなくても人が集まってしまうことがあり、こういった戦略が有効なタイミングがあるというのがこの商売のおもしろいところ。ValveによるSteamの展開もそうですね。

過去にもNAMCOが家庭用ゲーム機の開発を画策したりと、狙いは全てプラットフォーマーが覇権を握ることをよくわかっているからです。これまで述べたように「MOST」は戦略が大掛かりになる傾向にあります。よって少し特殊と書きました。

市場が定まらず混沌としており「何をつくったら当たるかわからないとき」は「とにかくなんでもつくってみる」のが良い時期もあります。ただし、いろいろなものをつくって狙いが散漫になる恐れがあるので気をつけるべきです。「なんでもできるは なんにもできない」ということを覚えておきましょう。

私が部門長になった2012年当時、スマホ市場はまだまだ見通し不明でした。「MOST」の名の下大量のプロジェクトを推進しましたが、やはり散漫になってそのほとんどはヒットしませんでした。よって2014年には「MOST」を「FOCUS」…選択集中してつくるに方針変更しました。

以上がヒット作に一つは必ず入ってる三つの条件です。

これを踏まえて世のヒットタイトルを見直してみると本当に一つは入っていると思います。圧倒的なタイトルは二つ入っています。こういった角度から自分のプロジェクトをよりヒットに近づけてみる。参考にしてみてはいかがでしょうか? それではまた!
 


■著者 : 安藤武博
ゲームプロデューサー。過去スクウェア・エニックスにて、1998年からコンシューマーゲームやスマートフォンゲーム事業に携わり、スマホ事業ではF2P/売り切り型を問わず『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、複数のヒット作を生み出す。2015年9月にスクエニを退社し独立起業。ゲームプロデュースとメディア事業を手がける株式会社シシララを設立。ゲームDJとしても新たな挑戦をはじめている。

公式ツイッター:https://twitter.com/takehiro_ando
公式Facebook:https://www.facebook.com/andot.official?fref=ts
 
■安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー

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第9回「これからはプラットフォームの垣根が無くなると言ってきたけど、どうも違う。という話」 (安藤)

第8回「打席に立つために必要なこと」 (岩野)

第7回「ほとんどのターゲット設定は間違っている」 (安藤)

第6回「売れるゲームには◯◯がある」 (岩野)

第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)

第4回「IPを育てよう」 (岩野)

第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)

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第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)


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